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生きる権利

突如現れた全く予想もしない光景に俺とベンダーさんは驚きの色を隠せなかった。同じ容姿の人間が二人? 一体どうなってるんだ。


「お前、何者だ」


ベンダーさんは警戒しているのか少し強めの口調でそう質問した。しかし、そんな態度を気に止める様子もなく、彼女はニコニコと笑いながらその問いに答えた。


「何者だって……ひどいなお兄ちゃん。愛する妹の名前を忘れちゃったの? 私はララだよ」


そう当たり前のように返す彼女は今度はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。それに対してベンダーさんは眉をひそめ、明らかな嫌悪感を見せている。


「ララはそんな喋り方をしない。それにそんな黒い髪もしていない」


ベンダーさんがそう言ったのを聞いて俺もハッと気がついた。そういやそうだった。あの子は黒髪じゃなくて白髪のロングヘアーだった。あまりに見た目が似てるから一瞬どっちだったか分からなくなってた。


「それにお前がララだというなら、今この台座の上で横たわった俺の知っているはずのララはなんだと言うんだ」


まぁそうだよな。もし仮にこの黒髪の子が本物のララちゃんだとするならばもう一人の方は何なんだって気になるよな。


「……あ~あ、随分と細かいことを気にするんだね。そういう男はモテないって言われてなかったっけ」


やれやれと肩をすくめながら彼女はそう言った。っていうか全然細かくねぇよ!! むしろ一番まともな質問だったろ今のは。そこではぐらかすんじゃないよ!


「まぁいいや。あなたがなんと言おうと私はこの子の半身みたいなものな訳だし。この子の名を語っても何らおかしくないもんね」


「半身?」


「それってどういうことだよ」


さっきから俺達をまるでからかうような態度でさらっとすごいことを言ってくるなこの子は。もしかして、動揺する俺達を見て楽しんでじゃないのか?


「あれ? あれれれれれ? もしかして知らないでこんなところまで来ちゃったの? だとしたら二人共お馬鹿だねぇ~。わざわざ呪いに取り込まれるなんてさ」


そう言いながら彼女は俺達を指差しクスクスと笑っていた。何というかいちいち仕草がイラッとくるな。まぁそれに反応したら彼女の思う通りだから態度には出さないようにするけど。


「呪いに取り込まれるって、じゃあやっぱりここはララちゃんの力に関係ある場所なのか?」


「うん、そうだよ。だってここはこの子の意識の中だからね」


意識の中? それはまた随分と大層な場所に連れてこられたもんだ。でも、それなら今までのことにも少し納得がいく。ベンダーさんが言ってたララちゃんの記憶と関係している場所が出てくるのもきっとそのせいなんだろう。


「意識の中、ということはララ自身の意識はまだ残っているんだな」


「まぁね。じゃなかったらこの世界は存在していないわけだし。残念だけどしぶとく生き残ってくれてるんだよね」


残念? 今あいつは残念って言ったか? 半身なんて言ってるくせにララちゃんが生きていることに不満があるのは随分と違和感があるな。


「そんなこと言ってるけど、ララちゃんが死んだら君だってその存在が消えてしまうんじゃないのかよ」


そう聞いた俺に彼女は突然真顔になったかと思うとこう返してきた。


「いや、私は消えないよ。だってこの子の体から解放されるんだから」


「か、解放?」


いやいや何だよ解放って。あれか? 幽体離脱的なやつでもすんのか? あ、でもそれだと戻る体がないとだめか。


「私はねこの子の体にとりついて今までずっと力を蓄えてきたの。だからそろそろ外に放出しないといけないんだけど……なんだか邪魔が入ってるみたいでうまくいかないのよね」


邪魔というのは恐らくイホーム達が貼ってくれていた結界魔法のことだろう。うまくいかないということはまだなんとか呪いの力を防ぐことができてはいるみたいだな。


「先程からの貴様の発言から察するに、お前はララに呪いの力を与えた張本人ということなんだな」


「ん~~張本人というか……呪いそのものみたいな?」


彼女は笑いながらそう言うと突然右手に黒いもやのようなものを出現させてみせた。それを見たベンダーさんは彼女との距離を広げるため後ろに飛び去り、あの大鎌を装備した。俺も念のためいつでも銃を取り出せるようにしておく。


「この小娘がこの世に生まれる時、我はこやつに力を貸してやった。‘生きたいという願い’が並の人間以上に強かったがために私を呼び寄せたのだ」


「一体なんの話をしている!!」


「おや、お前は知らぬのか。この小娘と同時にこの世に生を受けた時、本来であれば生きながらえたのは貴様一人だけだったのだぞ」


ベンダーさんはその言葉に目を見開いていた。そしてそのまま表情を一気に強ばらせていく。そしてその発言は彼だけではなく俺にも衝撃的なものだった。同時に生を受けたって……まさかこの二人って双子だったのか?


「お前たちの産み親が先に生んだほうが生き残り、後から生まれる子は死にゆく。そうなるはずだったのだ。そして、その結果先に生まれたのは貴様で後から生まれたのはこの小娘だった。しかし、こやつは生まれてきた瞬間から生への執着を見せ始め本能ながらに強く願ったのだ‘生きたい’とな。だから我はこの小娘を一時的に救い、自分のために利用しようと考えたのだ」


もはや先程までの彼女とは一変し、冷徹で感情のないような声で淡々とそう話した。その姿は既に黒い霧に覆われ全身が見えなくなるほどになっていた。


「そ、そんな……ララが本当は死んでいた?」


「そうだ。貴様が先に生まれてしまったおかげでな。この愛する妹とやらは生きたいと願ったのにそれが叶わない状態になってしまったんだ。つまりはお前のせいだ。お前が生まれるのが後になっていればこんなことにはならなかったのだ」


「俺の……せい……」


ベンダーさんは声を震わせながらそう呟いていた。彼女に言われた真実に完全に打ちのめされる直前にきている。そのせいか先程まで構えていた大鎌も力なく垂れ下がり始めていた。


「まぁ気に病むことはない。そのおかげで我はこの小娘の体を利用することができたのだ。それに短いながらも我のために生きながらえることが出来てさぞ嬉しかっただろう。だが、この器もそろそろ限界が近い。収まりきらねば新しい器を求めるまでだ」


そう淡々とした声で黒い霧となった彼女はベンダーさんに話した。そして雲のような塊となり更に膨張していく。ベンダーさんはもはやそれを何も言えずに只々見上げることしかしていなかった。


だが、俺は違った。今の話にただイライラとしていた。なんだか勝手に話が進んでいるのを見せられているようで納得ができなかった。


「おい、ちょっと待ってくれよ。え? なにもうこれでおしまいみたいな空気になってんの? 俺はまだお前の言うことに納得してないからな?」


俺がそう言うと霧の塊は膨張を止め、こちらに振り返るように向きを変えた。とりあえずいいや。俺の言いたいことを言ってやろうかね。


「まずさぁ我のために生かしてやったって何? 別にララちゃんはお前のために生きてきたなんて自覚ないんですけど。というか何様だよ。可哀想だから助けてあげたけどもう使えなくなったからいらない、とか人の命なんだと思ってんの? ララちゃんはお前のために生まれてきたんじゃなくてこの世界で生きたいから生まれてきたわけ。分かる? それを私が救ったんだから後はどうこうしてもいいよね? とか都合がよすぎるんだよ。助けてやったんなら助けてやったで最後まで責任を持てや。人の命はなそんな簡単に使い捨てていいもんじゃねぇんだよ」


その言葉通り俺は、昔から人を使えるとか使えないとか駒にするとかといった類の言葉が大嫌いなのだ。ほんとなんなの? 何で他人の人生をお前が評価したり勝手に自分のいいようにしようとしてんの? 別にお前のために俺生きてねぇから。俺の人生俺のもんだから、とそう思ってしまうからだ。


「ふん、そんなもの。我が小娘を助けなければどちらにせよこやつは今ここで生きてはおらぬのだぞ? それでもそんなことが言えるのか?」


「だからそれが勝手だって言ってんだよ。確かにララちゃんは生きたいと願っていたかもしれない。でも助けてくれなんてことは一言も言ってなかったはずだぜ。彼女はお前が助けてくれなくても必死に生きようとしてたんだ。生きて生きて生き抜こうとしてたんだよ。それをお前が一人で勘違いして勝手に手をさし伸ばして、生きてもいいけど自分のために生きてね。とかそんなの納得できると思うか? 仮に納得できる奴がいたとしても俺は納得できないね!」


俺はそこまで言い終えて、昔ばあちゃんがまだ生きていた頃に言われたことを思い出していた。人間っていうのは例えそいつがどんな奴であろうと生きたいという願いがあるのならば、その瞬間から等しく‘生きる権利’が与えられるのだと。そしてその権利だけはいついかなる時でも他人が決してけなしてはいけないのだと。その時だけはいつもより真面目な声で話していただけあってかいつまでも覚えている唯一の言葉だった。


「納得できない。だったらどうするというのだ? もはや我の力を止めることは叶わぬ夢だ。お前達がなんと言おうとこの小娘は我が喰らい尽くす!」


そう言った瞬間、霧の中からちぎれるように何かが勢いよく飛び出してきた。そしてそれはゆらゆらと立ち上がるように形を変えていくと、人型となり俺達の前に立ちはだかった。

うわー……なんか出てきちゃったよ。あんだけ大口叩いといてなんだけど、ぶっちゃけこういうのはまだ慣れてないんだよなぁ。ベンダーさんもさっきよりは立ち直ってくれたみたいだけど、全員を相手にできるかは分からないし自分の身くらいは守らないといけないよな。

でもまぁ、気にくわないもんは気にくはないんだし向こうがやると言うならばこちらも何とかするしかないでしょ。


「一つだけいいこと教えてやる。夢ってのは叶わないものじゃなくて、叶えるからこそ夢って言うんだぜ」


そう気合を入れるため小っ恥ずかしいセリフを言って自分を奮い立たせる。でも、やべー!! 背中が……自分で言っといて背中が痒いいいいいいい!!


「非力な弱者が! その身をもって地獄を味わうといい!!」


それを合図に人形の霧は、こちらに向かって一斉に襲いかかってきた。


 



次回予告

襲い来る霧を撃退しつつララの救出を目指す荒崎たち。苦戦しつつも最後にたどり着く結末は果たして……。


次回はサクっと火曜日更新を目指します。

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