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男のロマン?

あの有名人に話しかけられた後、俺はベイルの勧めですぐに外に出た。全く……いきなり注目の的にされてそのまま放置とかどういうこっちゃだよ。あれか? 俺に話しかけられて光栄だろ? 的なやつか? 一般人に対しての考慮とかそういう常識がかけてんじゃねぇのかホントに。というかなんで俺に声かけたよ。周りにキャーキャーしてる女子がいるんだからそっちに声かけてやれよ!! おかげで何、あの人? みたいな視線まで受けてんだぞ!


「ったく、余計なことせずさっさと帰るんだった」


今後は人だかりができていてもなるべく近づかないようにしよう。もしまたこんなことがあったらたまったもんじゃないからな。

そう密かに誓って再び家に向かって歩き出す。色々悶々とした気持ちが止まらないが、いつまでも言ってたって仕方ない。さっさと忘れて別のことを考えよう。そう思考の切り替えに移ろうとした時だった、ふと目の前に俺の知った顔の人物が歩いていることに気がついた。


「あれ? カルラちゃん、何してんの?」


「あ、荒崎さん……」


声をかけるとなんだか元気のなさそうな様子でこちらを見上げてきた。え? なんでそんな気力のなさそうな感じになってんの? しかもどことなく顔色も悪く見えるし……体調でも悪いのか?


「どうしたよ。何か元気ないな」


「いえ……そんなことないですよ……。それより荒崎さん、姉さんを見かけませんでしたか?」


「ベイルなら今ヒルグラウンドの中にいるけど……何か用があるのか?」


「はい、姉さん忘れ物をしていてそれを届けに来たんです」


あぁ忘れ物か。それをわざわざここまで届けに来たと。流石カルラちゃん。何だかんだで姉思いないい子だな。俺の妹だったら絶対にそんなことしないっていうか寧ろ気づいてもそのまま放置安定ですよ。


「それじゃあ早速姉さんにこれを渡してきますので」


そう言って俺にペコリと頭を下げ歩き出すカルラちゃん。渡してくるのは別にいいんだけど、どうも足元がおぼつかないな。見てるこっちが心配になるぞあれ。そんな状態の彼女を俺は果たして放っておいていいんだろうか? 否! そんなことは決して許されません! それくらいの男気は俺にだってありますともええ。


「カルラちゃん、ちょっとそれ貸して」


「え? なんでですか?」


「なんでもなにもそんなフラフラ状態で歩かれたら心配にもなるわ! いいから貸して!」


俺は彼女から持っていた麻袋を取るとそのままヒルグラウンドへと向かう。正直あの空間に入るのは嫌だけど可愛い妹さんのためだ。さっと渡してさっと出よう。

俺は扉をくぐり目標であるベイルの姿を素早く見つけると、そのまま早足で近づく。


「ベイル、カルラちゃんが忘れ物だってさ」


「ん? 荒崎?」


いきなり俺が現れたからかキョトンとしているベイルに袋を握らせ、そのまま脱兎のごとく瞬足で建物から脱出する。後ろで呼び止める声が聞こえていたが、一秒でも早く外に出たい俺は振り返りもせず完全無視を決行した。


「ふぅー……ミッションコンプリート」


無駄のない無駄な動きとはまさにこのことよ。目立たないように動く術を身につけていた俺に死角は無かった!! ……うん、役に立ったんだからいいよね。


「それよりカルラちゃん」


先程いた場所に視線を向けると壁に寄りかかりだるそうにしている姿が見えた。うわー……もう完全に調子悪いよねこれ。よくそれで届け物なんかしようとしたな。これが実の妹だったら俺血の涙を流して感激するよ。


「カルラちゃん大丈夫?」


「あ……すいません荒崎さん。変な手間をおかけしてしまって」


「いやそれはいいんだけど。どうしようかな……あと少し歩けそう?」


ここで回復魔法を使っちゃうと大衆の面前で見せることになるからあんまり良くないと思うんだよな。どこか人気のない路地とかでサッと使えれば問題ないと思うんだけど。


「はい……大丈夫です」


そうは言うものの俺が支えてなければ今にも倒れてしまいそうだ。肩を掴んでゆっくりと歩いていく。少し先に裏路地みたいなところがあるからそこなら大丈夫だろ。そこまで誘導しつつ大通りから丁度影になりそうな場所を見つけ、ゆっくりと地面に座らせる。


「よし、じゃあ早速」


俺は右手に意識を集中させカルラちゃんに向けて腕をかざす。そして青白く光りだしたのを確信に呪文を唱えた。


「レイズ!」


その瞬時に彼女の体が黄色く光り、吸い込まれるように消えていく。なんだかこの光景久しぶりに見た気がするな。


「カルラちゃん? どう?」


「……はい。もう大丈夫みたいです」


先程よりも声に元気が戻り、顔色もだいぶ良くなっていた。そういやこれも魔力とやらを使ってるんだろうけどコントロールってやつはできてんのかな? 失敗したことないしそういうの関係ないのか? なんせ女神から貰った力だし。


「よかった。でも、ベイルのためとはいえ調子が悪い時にそこまでしなくても良かったんじゃないか?」


カルラちゃんをの手を引き起こしながらそう言うと、何故か彼女は俯いてしまった。なんだろうか。さっきからどうも様子がおかしい気がするんだよな。そもそもよく考えてみれば彼女はこんな無茶をするような子なんだろうか。自分に無理だと分かれば例えベイルが忘れ物をしていても自業自得だと判断して大人しくしてるんじゃないか? 


「ねぇカルラちゃん。もしかして何かあったのか?」


そう聞くと体がビクッと微かにはねた。なるほど、どうやらその通りらしい。あんな状態であそこにいた理由はきちんと聞いておいた方がいいよなきっと。


「何も言わないからさ。教えてくれないかな?」


なるだけ優しい声でそう聞くと彼女は顔を上げ、意を決したように事情を話し始めた。










「……と言うわけです」


カルラちゃんは全部話し終えると一つ大きな深呼吸をして気持ちを落ち着けた。なるほど、事情は分かった。分かったけど、なんとも妙な話というかなんというか。女の子とぶつかって倒れた後、起こしてくれようとして差し出された手に触れたらあんな状態になってしまったと……。しかもその子はそのままどこかに行ってしまった。ってことはこの街のどこかにその子はまだいる可能性があるってことだよな。普通に考えたら何者なんだとかそういうの以前に危険人物だろこれ。


「カルラちゃん、もう一度確認するけどその女の子は今まで街の中で一度も見かけたことないんだよね?」


「はい。もしかしたら私がまだ治る前にこの街にいたのかもしれませんけど

……」


この街にいたか……いや、それはどうだろうな。そんな人に触れるだけで影響を及ぼすような子がいたならば少なからず噂や話題にはなっているはずだろう。しかも悪影響となればなおさらだ。だとすると可能性としては最近この国にやってきたとかの方がしっくりはくるよな。イホームの話では国外入国者の検査を厳重にしたと言っていたが……。


「うーん……」


まさか、まさかとは思うけどその子がイホームの言ってた呪いを持つ人物とかだったりするのか? いくら警戒をしていたとしても侵入されない安全性は100%ではないだろう。見た目も普通の人間とは変わらないって言ってたし……。


「あの? 荒崎さん? どうかしたんですか?」


色々な考えを巡らせているとカルラちゃんが心配そうな表情でこちらを見ていた。おっと、こんなところで考えててもしょうがないか。とりあえず今は彼女を家まで送って、家に帰ってからゆっくりと考えることにしよう。


「あぁごめんね。にしても災難だったな。そんな目に遭うなんてさ。後でベイルが帰ってきたらたっぷり説教するといいよ」


「はい、ネチネチと責めてやるです」


「責めてやるって……あ、あんまりやりすぎないようにね」


ベイル、今日は帰ったら覚悟したほうが良さそうだぞ。












その後、カルラちゃんを無事家まで送り届けた俺は今度こそ自宅へ帰ってきた。今日だけでやることがたくさん出来ちまったな。フラウやセルツ達に今日聞いたことを話してから、イホームにもさっきのことを伝えて、それからこの銃もどうするか考えないとな。


「銃に死神に謎の危険少女ねぇ……。どれもこれも不吉なワードばっかだな」


特に死神、お前はいらねぇ! そう思いながら玄関を開け中に入る。


「ただいまー」


そう言いながらスタスタとリビングまで歩いていく。部屋の中には丁度三人共集合してるな。話すのは……もう少し後でいいか。


「おかえり主よ。朝からご苦労だな」


「何かお話されてきたのですか?」


「あぁちょっとな。それについては後で皆に話があるから覚えといてくれ」


「ぴぃいいいい?」


擦り寄ってきたピィタの頭を撫でながらそう言うと二人はすぐに了解してくれた。とりあえず何からするか。イホームに連絡……する前にちょっとこの銃をもう一度よく見ておきたいんだよな。ほんのちょっとだけいじってからでもいいか。うん、そうしよう。


「少し部屋にいるから、なにかあったら呼んでくれ」


俺はそう告げてリビングから自室へと移動した。ピィタはそのまま頭に乗っかっていたがまぁ大丈夫だろう。


「さーて、じゃあ開けてみますか」


さほど大きくない四角のテーブルにあの黒い箱を置き、両側についているロックを外す。おぉ……なんだかかっこいいなこういうの。洋画とかでよくマフィアがこんな風にして中から交渉金とかをだすんだよな。

蓋を開くと綺麗にしまわれた黒光りの銃と四つの色がついた石。さっきの試し撃ちの時にこれも使ってみればよかったな。


「ぴぃいいいい!」


「お、なんだピィタ。こういうの好きなのか?」


なんでか頭の上で翼をバサバサと広げ興奮気味のピィタ。こういう男のロマン的なものがコイツも理解できるんだろうか。

俺は銃を手に取り試しに構えのポーズをとってみる。もちろん引き金には指をかけてはいない。そのまま横に大きく振ると銃槍のシリンダーが小気味のいい音をたてて飛び出すように出てきた。


「おぉ~!! いいねぇ!」


もう一度逆方向に振ると銃槍が再び装填される。ガンマンや。俺は今ガンマンになってるんや!!


「ぴぃいい!! ぴぃいいいい!」


「ピィタ、これ楽しいぞ! 何かテンション上がるぞ!!」


今度はくるくると銃を回してみたり、無駄に出したりしまったりしてポーズを決めてみたりする。これうまく撃てるようになったらかなり様になるな。


「ぴぃいいいいい!!」


「ホールドアップ!! ホールドアップ!!」


はたから見たら部屋の中で銃を構えて騒ぐ男とミニドラゴン。……うん、不気味にも程があるな。


「……何をしているのだ主よ」


「ほぁあああああああ!!」


いつの間にかセルツが部屋の扉を開けてこちらをのぞき見ていた。あれだけ騒げば気になるのも当然だろうけど、せめてノックくらいはしてくれよ。


「いや、これは……なんだ。そう、男のロマンってやつなんだ!」


「ロマン?」


「ぴぃいいいいい!!」


「そうそう! ほら、ピィタも一緒に理解してくれて……」


「理解してくれてって……主よ、ピィタの性別は女だぞ」


「…………」


あれ? そうでしたっけ? 


「ぴぃいいい?」


「…………」


俺は静かに銃を箱の中に戻し、大人しくリビングに戻った。


次回予告


なんか色々頑張ります!!

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