魔法ってホント便利
今更ですがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。あと皆様のおかげで5000000pv達成しました。ありがとうございます。
「うにゅうぅぅ~……」
「…………」
さて、帰ってくるなりとんでもない目に遭ってしまったわけだが、コイツは全く悪びれた様子もなく俺のお腹に顔をうずめている。あの時、思い切り打った額はすぐに治したから何ともないが……破壊されたドアは直すことができないのでとりあえず壁に立てかけてある。もう……これどうすればいいの……。扉開けっ放しとか地味に気になるタイプなのに、開けっ放しどころか閉めるドアがないとかもう、もうね。ホント、ため息しか出ないよ。
「主人が帰ってくるなり目を覚ましたところを見ると、私の魔法の効果がだんだん効きにくくなっているかもしれないな」
「本当、突然起き上がりましたもんね。ご主人様の気配に敏感になっているのではないでしょうか?」
「うっそ何それ、そんなレーダー搭載し始めたのこの子は。俺逃げ道ないじゃん」
いや、そもそも逃げられるのかも怪しいけどな。必死に逃げる俺の後ろに目をギラつかせながら追いかけてくるドラゴンとか、もう完全にホラーじゃないですか。こっち完全に捕食者じゃないですか。そんなんなったら色んな意味で追い詰められるわ!!
「なぁ思うんだが、ちび助と主人はあまり離れて行動するべきではないのではないか? これからも主人がどこかに行くたびに私が魔法で眠らせていたとしてもいつかは耐性がついてしまうだろうし、そうなった時にチビ助がだす被害の大きさはもしかしたら今日の比じゃ済まなくなるかもしれないぞ?」
「うーん……確かになぁ」
俺が外にいるときに家を飛び出して何かしでかす可能性は無いことはないだろう。扉ぶち破ってくるくらいだもんなぁ。そう考えると、一番安全なのは常に身近に置いて一緒にいることなんだけど……そんなことしたらまたまた目立つよなぁ。いやでも、既にフラウやら彼女がいる時点でもう目立ちまくってるんだし今更気にするのも遅いか? あ、逆にこうなったらオープンにして街のアイドル的な存在にするとかどうだ? こう、すれ違うたび子供達が駆け寄ってくる的な? 奥様方に今日も仲良しねーとか言われる的な? そういうのを目指してみるとか。そうすればコイツのことを気にする人はいなくなるのかもしれない、うん。まぁ、問題はコイツにそんな社交性があるのかどうかということだが……。
「ぴぃい?」
想像してみよう。はい、まず街に出ました。大通りを歩きました。子供達が気づきました、寄ってきました、可愛いと手を伸ばしてきました、触ろうとしました、その手をチビ助が口を開けてまさかのぱくり……静まり返る通り。徐々に曇り始める子供の表情。そして、口から離されたその手は真っ赤に……
「あかーーーーーーーーん!!」
「うお!? いきなりどうした!」
ぱくり、じゃねぇよ! アイドル目指してんのに血の惨劇起こしてどうすんだよ!! 最早ペッしなさいペッ、とかそんなレベルじゃねぇよ! 俺の目指すものと百八十度違う方向に目立っちゃうよ!!
「いや、やっぱりチビ助を外に連れて行くのは危ないよなと思って。何が起こるか分かんないし」
仮に今の考えが、ただ俺が心配しすぎなだけならいいんだけど……そうならない保証がどこにもない限りは安心することはできない。だからといって、離れすぎてても被害が出る可能性があるわけだし、うーーん……何かいい方法は無いものか。このままじゃ、落ち着いてピレアムアに行くこともできないぞ。
「あの、お聞きしてもよろしいですか? ご主人様は何故この子を外に連れて行くのを嫌がっているのですか?」
「ん~嫌がってるっていうか、コイツに注目が集まると何か起きそうな気がするっていうか、ほら仮にも希少な種族らしいからさ。よからぬことを考えそうな輩とかいるかもしれないじゃん? それにチビ助が何しでかすかも分かったもんじゃないし」
「なるほど、確かにそうだな。ということはちび助に周りからの注目が集まらないようにすればいいのではないか?」
うんまぁそうなんだけどさ、その方法がいまいち思いつかないわけですよ。結構でかい体格してるから服の中に隠すとかは無理だし、カモフラージュするにもそれ相応の準備が必要になるし。
「ではないか? って何かいい方法でもあるのか?」
「あぁ、あるぞ。私がちび助の姿を消してやればいい」
…………え? 姿を消す? 何そのイリュージョン。レベル高いわぁ。ハンドパワーでも駆使するのか?
「簡単なことだ、私の魔法を駆使すればちび助の姿を見えなくする事などすぐにできるぞ」
「…………」
ま、マジですか……。そんなこともできるんですか、魔法って。というかよく考えれば魔法にその方法があるかもしれない可能性を何で思いつかなかったのだろうか。あ、やばい。冷静になったらすげぇ恥ずかしくなってきた。あかーんとか叫んじゃったよ俺。何があかーんだよ。俺の思考があかーんだよ。
「ご主人様? 顔が赤いようですがどうかされましたか?」
「ぴぃいいい?」
「ううん、大丈夫。ちょっと頭がアレだったなって思っただけだから」
心配してくれるその優しさが沁みる!! 沁みるぜこんちくしょう!!
「という訳で、実際にその魔法をかけてみた訳ですが…………どう? 見えてる?」
「いえ、全くどこにいるのかわかりませんね」
「今はただかけているだけの状態だからな。私が魔法の範囲解除をすれば主人とフラウは見えるようになるぞ」
わぁー、便利ー。魔法って本当に便利ー。ってかまぁそうしないと訳が分からなくなちゃうんだけどね。それに姿は見えないけど感触はあるから、抱きつかれてると物凄い気持ち悪い。漫画で見たことあるけど、透明人間にいたずらされるってこんな感じなんだろうか。まぁ、俺の場合は人間じゃなくてドラゴンなんですけどね。
「じゃあ、解除するぞ。ほいっと」
そう言って彼女が軽く指を振る。すると、徐々にちび助の鳴き声が耳に届くようになってきた。
「ぴぃぃぃぃ……ぴいいいいいい!!」
「おお! 見えるようになった!」
お腹に抱きつくちび助の姿がはっきりと目の前に映し出されるようになった。この状態で俺達にはコイツの姿が見えるようになっているが他の人たちには認識できないようになっているってことか。
「ご主人様には見えるようになったんですね」
「え? フラウはまだ見えてないのかよ」
「あぁ、一応その効果を確認してもらうためにフラウだけは未だに見えない状態にしてる。二人の反応を見るにどうやら成功しているようだな」
なるほど、確かめるためにわざとそういう状態にしてるんだな。フラウは本当に見えてないみたいだし、これなら何とかなるかもしれない。
「とりあえずこれで外に出ることはできるようになったな」
「良かったですねご主人様!」
「うむ、これで我々も主人についていくことができるな」
「そうだな、これで皆も……ん?」
我々もってどういうことだ? というかどこについてくるつもりなんだ?
「えっとそれはつまり?」
「ん? 主人はピレアムアという場所まで向かうことになったのだろう? 今かけている魔法の効果はずっと続いている訳ではないからな、私が傍にいなければいつかは解けてしまうことになるぞ」
な、なんですとおおおおお!! そんな十二時になったら魔法が解けるシンデレラみたいな現象が起こるんですか!! はぁ~……便利なものほど有限ってことか。
「マジかよ……じゃあ、結局全員でピレアムアまで行くことになるわけか?」
「そういうことだな」
「あ、あのご主人様。私もついて行ってよろしいのでしょうか?」
フラウはどこか不安そうな目でそう言った。いや、確かにフラウは連れて行かなくてもいいのかもしれないけど、何か一人で留守番してろっていうのも可愛そうかなと思ったり思わなかったりしたわけで……それに、あんな事があった後にフラウを孤立させておくのは俺も不安というか……。まぁとにかくだ、俺がそうした方がいいと勝手に判断したのだ。
「無理に来いとは言わないけど、できれば一緒に来て欲しいな。フラウがいてくれた方が俺も色々心強いし」
「っ!! はい!! 是非お供させてください!!」
フラウの尻尾がブンブンと揺れる。どうやら俺の考えは間違ってはいなかったようだ。何か色々流されている気もしなくはないが、なんとかなるだろうきっと。
その後、俺はイホームに念のため明日の出発要員が増えることを伝えるため疎通石で連絡をとっていた。事情を話したところ、少し悩まれたが致し方ないということでオーケーをもらうことができた。向こうでも色々と調整してくれるそうだ。迷惑をかけてしまったがありがたいことである。
「よし、じゃあ明日は朝早くから出発するから皆、今日は早めに就寝するようにな。あ、それとちび助とドラゴンは……」
そこで俺はふと思い出した。そういえば、こいつらに名前を付けるとかどうとかって話がでてたんだっけか。
「どうした? 私とちび助がどうかしたか?」
「ぴぃい?」
「そういや、ついてくるんだとしたら向こうで名前呼ぶときにドラゴンとかちび助とかはいかがなものかと思って」
っていうかドラゴンだってバレたら面倒なことになるかもしれないのに、それしか呼び方がないのも問題だよな。下手な混乱招きかねないし今のうちに決めてしまったほうがいいだろう。
「名前か……我々は別に気にしないけどな、そういうのは」
「んーまぁそうだろうけど、色々とまずいこともあるかもしれないからさ念の為に呼び名くらいはつけておきたいんだよね」
そう言うとドラゴンは何やら考え込んでしまった。彼女達の世界ではそういうものがないのだろうから、あまりピンときてないのかもな。にしても、彼女はともかく俺がちび助の名前をつけなければいけないのか。そう、ちび助を見つめたまま考え込む。
「ぴぃいいい!! ぴいいいぃ!!」
フラウの時は見た目の特徴で決めたんだよな俺。例えば、体が赤いから‘レッド’とか? いや、安直すぎるな。というかそれ見たまんまだし。こいつにも見た目の特徴はたくさんあるんだけど、名前に繋げるとなると結構難しいな。うーん…………だめだ、いくら考えてもいいのが思いつかない。どうやら今回はその手は使えないようだ。じゃあ、もっと他の場所から考えてみようか。コイツの印象的なところといえば…………やっぱりあの鳴き声とかか? いつもぴぃぴぃ鳴き声上げまくってるもんな。ぴぃぴぃぴぃぴぃ…………ぴぃ、ねぇ。ちょっとそこに日本っぽい感じを入れてみようか。ぴぃ助? いやいやいやいや、それじゃあちび助とあまり変わらないじゃねぇか。もうちょっと違う感じに……そうだな…………ぴぃ太、とかどうだ? ちょっとこれをカタカナっぽくして‘ピィタ’なんてどうだろうか? うん、結構それぽいっ感じになってるんじゃないか? よし、試しに一回呼んでみよう。
「ピィタ」
「? ぴいいいぃ?」
おぉ、多分よくは分かっていないだろうけど反応はしたな。そこまで違和感も感じなかったし、なかなかいいんじゃないかな。
「なぁ、どうかな? コイツの名前は‘ピィタ’ってことで」
「いいんじゃないでしょうか。何だか可愛らしい名前で」
フラウもそう言ってくれてるし、じゃあこれでいいかな。逆にこだわりすぎるといつまでたっても決まらなくなりそうだし、女性からのお墨付きならこいつもきっと満足だろう。
「よーし! じゃあ今日からコイツの名前は‘ピィタ’ってことで!」
「ぴぃいい!! ぴいいい!」
うおお、喜んでるのかなんなのかは分からないがピィタは翼を広げてバサバサと縦に振りはじめた。いや、広げるのはいいけど振るのはやめて! 当たる、俺に当たるから!!
「うーーーーむ…………はっ!! そうだ、やっと思い出した!!」
「え? 何? 何を思い出したって?」
こっちがてんやわんやしてる間に彼女は何かを思い出したらしい。一体何を考え込んでんのかと思ったら、何かを思い出そうとしてたんだな。
「前に話しただろう、昔私にいろいろ教えてくれた魔術師がいたと。実はその時に私も何か呼び名をつけられていたことを思い出したんだ。だが、肝心の私が何と呼ばれていたかが思い出せなかったんだが……今それを思い出すことができたぞ!」
「え、じゃあお前はもう既に名前があるってことか?」
それは何とも嬉しいお知らせだ。もしそうだとしたら、俺がまた頭をひねる必要がなくなる。え? ひねるも何もそれほど頭使ってないだろうって? これでも俺は使ってる方なんですよ! 脳みそ小さくて悪かったですね!!
「あぁ、確か私はそいつに‘セルツ’と呼ばれていたんだ。どこかの国の言葉で‘希少’を意味するって言ってたかな?」
「希少……」
うわぁ、何とも洒落た名前の付け方だこと。それを聞いたらピィタに若干だが罪悪感が生まれてきそうだ。いやでも、悪くはないでしょ? 可愛らしいでしょ? お願いだからそう言ってください。
「それでは、今度からは‘セルツ’さんに‘ピィタ’ちゃんとお呼びすればいいんですね?」
「そうだな、とりあえず今はそういうことで。そんじゃあ、改めて宜しくな。‘ピィタ’‘セルツ’」
「あぁ、こちらこそ」
「ぴぃいいい!!」
そんなこんなで出発前の問題はとりあえず片付いた。後は、何事もなく今回のこの依頼を終えられることを願うばかりだな。はてさて、いったいどうなるのやら。
「はぁー……とりあえず今日は早く寝よう」
その日、俺はこっちに来てから今までで一番早く眠りにつくことになった。
翌朝、ぼーっとした頭を抱えつつ俺達は集合場所の王宮前へと向かっていた。空はまだ薄暗い。陽も昇っていないためか気温も少し肌寒いくらいだった。
「ふあああぁああ……眠い」
「みゅー……みゅー……」
「この時間帯は流石に他の人間はほとんどいないな」
「そうですね、まだ朝早いですからね」
フラウとセルツはしっかりと起きているが、ピィタは未だ俺の背中の上で寝息をたてている。そして俺もまだ完全に目が覚めてはいなかった。こんなに早くに起きるのが久しぶりすぎて、頭がまだちょっと眠ってるな。ピレアムアに着くまでに時間はかかるみたいだし、その時に少しまた眠っちゃおうかな。そんなことを考えながら、いつもと違って静かな街並みに新鮮な気分を覚えつつどんどん歩いていく。あ、ちなみに今ピィタにはあの見えなくなる魔法がかけられている。必要ないとも思ったのだが、少ないとはいえ人とすれ違う可能性があるかもしれないので念の為にしておいた。もちろん俺達にはピィタの姿は見えている。
「お、やっと着いた」
しばらくして、俺達は王宮前の門に辿りついた。すると、そこには既に数台の馬車と護衛の兵士たちと思われる人達が待機していた。その横には見慣れた白いローブを着たイホームの姿も見えた。
「あ、お兄ちゃんおはよう」
「おぉ、おはよう。もしかしてだけど、少し遅かったか?」
「ううん、まだ大丈夫だよ。少し早めに用意をさせてただけだから」
「そうか、じゃあこれから少しの間よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いするね。蒼三日月の魔術師様」
イホームはニヤニヤ笑って俺にそう言った。魔術師様ねぇ……俺は少し恥ずかしくなり頭をポリポリと掻いた。
その後、馬車に乗り込んだ俺達はモートリアムを出て、ピレアムアへと向け出発を開始した。
次回予告
ピレアムアへと向けて出発した荒崎達。道中、何事もなく無事にたどり着けると思っていたが……。




