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ゲートの向こうにある世界  作者: nit
第1世界・キルト
20/32

20.正体

1話を長くまとめました


今回からは、カイル視点に戻ります(^ ^)


「なぜだ?」


 このジョイルの質問は、「なぜ既に兵士の準備ができているのか?」という意味である。


「はい。実は……」


 その兵士は概要を語り始めた。



時間を少しさかのぼ


 アレシアがカイルから本を受け取り、それをジョイルの元へ運んでいる時。彼女は不注意により、その本にはさまれていた紙を落としてしまっていたのだった。

 それを通りがかった兵士が発見し、隊長に見せたところ、内容が非常に深刻なものであったため、兵士たちに、すぐに出兵の準備と近衛兵への連絡をおこなうよう指示したのだ。


「ということです」


 さきの内容を話し終えた兵士が廊下の窓のカーテンを開ける。そこから優しい光が差し込む。

 ここで、その者を除いた4人はいつの間にか朝になっていたことに気づいた。

 兵士が窓から外へ目線を向ける。その行動に続いて、彼らも同じようにした。

 まだ薄暗い中、ざっと200人ほどが隊列を組んでいる。


「今、王都は一種のパニック状態におちいっているため、民を不安にさせないよう少数精鋭しょうすうせいえいにしろとの指示でしたが……」

「ああ、十分だ」


 ジョイルは、隊長たちの中にも使える者がいることを純粋に嬉しく思った。


「よし、では早速出発するぞ!」



同時刻 キルト北東部の密林


 カイルは道無き道を馬にまたがり、走っていた。と言っても、無闇むやみに進んでいるのではない。

 彼は草木が踏みしめられた獣道を目印にしているのだ。そのあとは、定期的に何かがそこを通っていることを証明していた。

 カイルには、それの原因が何、いや、誰であるか分かっている。


 木々の隙間から差す朝日に照らされながら、カイルは森の奥へ奥へと進み続けた。

 しばらくすると、彼の目線の先に岩場が見られた。しかし、それらの岩は自然に生成されたものにしては奇妙な形姿をしている。

 不自然に積み上げられたものや明らかに切りそろえられたものが見られた。


 カイルは馬を降り、そこに近づく。

 岩場の中心の地面には、奇怪な模様がられ、それはまるで魔法陣のごとき形をしていた。

 カイルは、それがゲートであると知っている。しかし、ゲートを見るのは初めてであるのに、彼はなぜか、それをなつかしく感じた。

 カイルは、その感情の原因をライラスから聞いていた話の内容によるものだと解釈した。


 彼は視線を魔法陣の中央に向けた。そこには1人の男が横たわっている。


「だ、大丈夫ーー」

「おっと。そこまでだ」


 カイルがその男の安否を確認するため、近づこうとした瞬間、横から鈍重どんじゅうな声が聞こえてきた。


「お主は……?」


 彼が振り向いた先に立っていたのは、キルトにいる者なら誰でも知っている人間であった。

 カイルは自身の目を疑った。現在の状況で、もっともありるはずがない事態が起こっていたからだ。



 立っていたのは、メニア王だった。

 そう、ヤクトではなく、メニア王だったのだ。



 カイルの時が止まった。呼吸が苦しくなり、彼は天地がひっくり返ったような感覚に襲われる。


「どこかで会ったか?」


 彼の中では、今回の失踪しっそう事件の黒幕はヤクトで間違いないはずだった。しかし今、目の前にいるのはメニア王。

 頭をハンマーで殴られたような激しい衝撃を受けながらも、カイルは倒れている男の顔を見る。



 ヤクトであった。



「いや、会ったことはないな。私は物覚えが良い方だから忘れることはないし」


 目の前に立っている男の声は、カイルの耳には届いてはいても、最早もはや、彼はその意味を理解可能な状態ではなかった。


「まあ、いい。どうせ皆死ぬことであるしな」


 動けないままのカイルの後頭部に、メニア王の無慈悲むじひな手刀が落とされ、彼の視界は、急激にblackブラック outアウトした。


ーーーーーーーーーー


 1人は平和な世界を守りたかった。


 1人は平和な国を守りたかった。


 1人は愛する者を守りたかった。


 そして……、1人は……。


ーーーーーーーーーー


 意識が覚醒する。

 カイルは痛みにより目を覚ました。


いつっ!」


 首元を無意識に手で押さえようとしたが、体が動かない。


「何だ?」


 自身の目で体を見ると、木に背中を預け、腰元の後ろで、両手を縄でしばられていた。立ち上がったとしても、手が引っかかり、自由に移動できない状態である。


「くそっ!」

「目が覚めたか」


 反射的に出た苛立ちの声に誰かが返す。

 カイルはとっさにその声のした方へと振り返った。


「ご機嫌はいかがかな?」


 重く苦しい声がカイルの耳を通る。


「なぜ……なんですか?」


 声の主であるメニア王は、白髪がところ々赤く、右手に血だらけのヤクトの頭をぶら下げていた。その色はすでに黒っぽく変色している。死亡して大分時間がっているのだろう。


「なぜ? とはどういうことかな?」

「あなたは誰なんですか!」


 カイルのこの質問は、これまでの事件の全てを明かす上で、重要なキーであった。


「私の問いにも答えて欲しいところだが、まあいいだろう。

 私の名前は……」


 カイルは身震みぶるいをこらえる。


「……ハノイ」

「ハノ、イ?」

「ああ、そうだ。ハノイだ」

「ハノイってここ周辺にあった村の名前と同じ……」

「ん? お主、いや、もう堅苦しい言葉は使わなくていいな。

 君はもしかしてあの本を読んだのか?」


 あの本と言われれば、カイルには「あの本」のことしか思いつかなかった。


「ああ、読んだ」


 メニア王ではないことを知り、カイルの口振りがくだける。


「なるほど。なら、びっくりしただろ?」


 目の前の老人は、年不相応としふそうおうの笑顔を見せる。言葉使いも年寄りのそれには思えない。


「どういうことなんだ!? あの本は何だ!?」


 訳の分からない状況でカイルにできたことは、ただ問うことだけだった。たとえ、それに対する答えがなかったとしても。


「あれはカモフラージュだよ」


 しかし、意外にも答えはあっさりと返ってきた。


「カモ、フラージュ?」

「そう。カモフラージュ」


 カイルはハノイの言葉を待った。


「僕が死んだと思わせるための、ね。

 んー。……ここまで来た君には、全てを話してあげるよ」


 そうしてハノイは語り出した。


「僕はね、かつてここにあった村で生まれたんだ。ちなみに村の名前は『ハノイ』じゃない。『カラナ』だ」


 そう言ったハノイの表情は、様々な感情を含んでいるように見える。カイルは、それを1つ1つみ取っていった。


「僕には親がいなかったんだ。……ようは捨てられたんだよ」


 薄幸はっこう


「子供ながらに悪事を働いたこともあった。具体的には盗みや詐欺とかだね。まあ、それで作った金も他の悪い奴らに取られちゃったんだけど」


 懺悔ざんげ


「上手くやってたんだ。でも、1度捕まっちゃってね。その捕まえられた相手に拾われたんだ」


 幸福。


「その人の名前は『タヤ』。彼女は見るからにおばさんでね。当時、とがってた僕は、いつも『ババア』って呼んでいたよ。それと、自身の呼び名も『俺』だったしね」


 あきれ。

 そして、ここからは喜びの感情が続いた。ハノイの顔は明るい。


「一緒に暮らしていくにつれて、僕はタヤさんの人となりや人間性を見て、改心していったんだ」

「タヤさんは僕の恩人だ。くさっていた僕を救ってくれた。本当に感謝しているよ」

「だから恩返ししようと思ったんだ」

「それからの僕は村でも必死に働いた。どんなにつらい仕事でも、タヤさんのためなら頑張れたんだ」

「そして、もっとかせぎたいと思ったから、王都まで仕事をしにいったよ。このことは、本にも書いていたと思うけど」

「おかげで僕らは裕福になっていった。タヤさんは『お金なんかいらない』って言ってたよ。でも、僕はタヤさんに楽をして欲しいと思っていた。王都と村を行き来するから、一緒にいられる時間は少なかったけれど」

「全てが順調だった。生まれて初めて、本当に幸せだったよ」


 しかし、その顔に暗い影が落ちる。感情が一気に反転した。


「でも、……それは長く続かなかった。……何があったか分かるかい?」


 カイルは、それに対する答えなど持ち合わせているはずもない。よって、彼はそれまで通り沈黙を通した。


嫉妬しっとだよ」


 カイルの心情を読み取ったのか。ハノイはみずから答えを言う。


「カラナの村人たちは、貧乏だった僕たちが金持ちになっていくことが気に入らなかったんだ。だから……」


 ハノイが唇をむ。その表情には、悔しさがにじみ出ていた。


「……だから、僕たちを売ったんだ」


 カイルには、ハノイの言っていることの意味が理解できなかった。売ったとはどういうことだろうか、と。


「僕たちが盗みをおこなったと王都で言いふらしたんだよ」


 ハノイの口にしたことは、非常に恐ろしく、むごたらしいことであった。


「もちろん、僕たちは無実だ。僕もタヤさんに出会ってからは1度もやってない」


 彼の言葉には必死さが表れている。そのことによって、カイルは彼の証言を信じることにした。


「結局は、証拠不十分でおとがめはなかったけれど。それから、村人たちの嫌がらせが始まった」

「僕自身は全くにならなかった。でも、タヤさんはそうはいかない」

「それが原因でタヤさんは流行はややまいにかかってしまった。そして、そのまま……」


 ハノイの瞳には光るものがあった。余程心苦しかったのだろう。


「だから僕は復讐を誓った。そして、村人たち全員をーー」


 しかし、すでに彼の瞳には、別のものが宿やどっている。


「ーー殺すと決めた。……ここからが全ての始まりだ」


 それは、恐ろしくも美しい狂気の感情である。


「それからは本に書いてある通り、ヤクトによってメニア王が殺された。そこから後の本の内容は、事実と大きく異なっているよ」

「まず、気絶したのは僕じゃない。ヤクトの方だ」

「彼の計画は、僕が望んでいた通りのものだったけれど、復讐は、僕自身の手で成しげるつもりだった」

「彼は僕へ攻撃してきた。だが、僕もタヤさんが亡くなってから、体術をみがいていたからね」

「ヤクトは自分の力を過信し、油断していたからだとは思うけれど、簡単に倒せたよ」


 軽くほくそ笑んだ彼は、次に無表情になり、たん々と言葉を続ける。


「そして、ゲートから奴らを呼び出した。その姿は……そうだな。一言ひとことで言うなら『悪魔』のように見えたよ。けど、僕にとっては『天使』だった」

「そいつらを使って、村人たちを皆殺しにさせた。それから、ヤクトと僕の顔を入れ替え、彼を洗脳して僕に仕立て上げた」

「あの本を書いた著者は、近衛兵となった僕だよ」

「こうして、『ハノイ』という僕は死に、『ヤクト』という僕が生まれたんだ」


 この時カイルは、1度に衝撃の真実を多く聞きすぎて、一種の錯乱さくらん状態になっていた。

 しかし、彼の中の「彼」は、ハノイという人間の底すらない残酷さを感じ、恐怖とは全く違う感情を覚えた。


 「彼」がいだいたのは、「尊敬」。


 本人すら、どうしてそのように感じたのかは分からない。しかし、彼の心に植え付けられた本来の「彼」は、ハノイの残忍な心にあこがれていた。



 「彼」があの時、ハノイのように冷酷であったならば……。

 「彼」がその時、ハノイのように無慈悲であったならば……。


 しかし、「彼」は逃げたのだ。

 都合の悪いことは聞きたくないと、子供のように両の手で耳をふさぎ、「彼」は深い深い眠りについたのだ。


 たが、誰も「彼」も責めることはできまい。

 なぜなら、「彼」の選択が正しかったのか、それとも間違っていたのか。それを判断することのできる者など、すでに誰1人として、残ってはいないのだから。

この話を読んで、皆さんに「え?」と思っていただけたのなら嬉しいです(^ ^)

「なんだよ。予想通りの展開かよ」と思われた方には、「恐れ入りました」の一言ですm(_ _)m

実際どうなんですかね?

ビックリでしたか? 予想通りでしたか?


次回「21.終焉」

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