78話
カリが侵入した建物は、家が数件は入りそうな広い立地に、四階建てで作られたもの。
その建物に上空から入ったこともあり、カリが入った場所は最上階の四階の空き部屋だった。
全ての調度品に布がかけられている部屋の扉を開けて廊下に出る。
すると広い通路の左右に、いくつもの扉が並んでいた。
「一つずつ開けて確認するしかないかな?」
カリは出てきた部屋の隣へ移動すると、その部屋の扉を開けた。
こちらの部屋の調度品には布がかけられてなく、人が使用した痕跡がある。しかし部屋の中には誰もいなかった。
「僕を迎撃しに出てきていた貴族が使っていた部屋かな?」
部屋をでて、周囲の部屋を片っ端から開けていく。
しかし、どの部屋も住人は存在していなかった。
「王の家族なら、最上階に住んでいるじゃないのかな?」
さらに次の扉を開けたものの、やはり住人はいない。
この段階に至り、カリは決断した。
「危険だけど、魔央の圧縮を止めて範囲を広げて、魔央を通しての感覚で何処に人がいるかを確認するしかない」
カリは部屋の扉を閉めて取り敢えずの安全を確保すると、魔央の圧縮を解いて魔央の展開範囲を広げる。すぐに、この建物全体を覆う形で、カリの魔央が再展開された。
範囲を広げた魔央から伝わってくる感覚から、カリは人がいる場所を把握していく。
魔央の圧縮を止めた状態のカリは、貴族の魔法が易々と通じてしまう。
そのため、手早く確認を済ませていく。
「四階にいた人は、一塊になって階段を下りていく。全員が貴族っぽいけど、王の家族はその中にいるのかまではわからないな。中へと外にいた貴族が入ってきているけど、なぜか一階に集まっていて二階に上がってこようとしていない。重要な人物は一階にいるのかな?」
確認は十分だと圧縮を再開しようとして、この場に不似合いな存在を感知した。
「一階に集まっている貴族たちの場所に、魔央を展開していない人がいる。しかも一人だけ」
不可解な存在に、カリは首を傾げる。
しかしすぐに、後で確認すればいいと思い直し、カリは魔央の再圧縮を行った。
危険な時間を安全に過ごせたことに安堵しながら、カリは部屋を出て一階を目指すことにした。
ルートは二つ。
部屋から外に出て、外から一階に入り直す。
部屋から廊下に出て、階段で四階から一階へと向かう。
外から入り直す方は、大勢の貴族たちがいる場所へ行くため、全ての貴族と戦う激しい攻防が予想できる。
階段を使う方は、貴族たちが建物の保全を考えているのなら、強い魔法を使ってこないはず。
「一気に済ませるのなら外から、時間をかけても順調に進むのなら階段って感じかな」
カリが選んだのは、階段を使って進む方だった。
四階から階段を下りつつ、一階へと向かう。
使う階段は、先ほど感知した魔央を展開していないように感じた存在がいる、その場所の近くへ通じるもの。
階段を下りていくと、カリの足音を聞きつけたのか、階下から上ってくる足音がやってきた。
カリが剣を抜きながら下りていくと、武器を手にした貴族たちが階段でやってきた。
「見つけた! 殺すのだ!」
「一番槍はいただく!」
槍を装備した貴族が、穂先をカリに向けながら駆けあがってくる。魔法で脚力を強化しているようで、近づいてくる速さはもの凄い。
カリは剣を構えると、近づいてくる貴族を待った。
「覚悟!」
と叫びながら、貴族が槍を突き出してきた。その槍の先端には雷光が巻き付いていて、当たれば違いなく感電することだろう。
カリは二歩階段を上って槍の突きを避けると、手にしていた剣を持ち替え、その先端を相手に向けながら投げた。無論、魔法で腕力を強化して。
目に留まらぬ速さで空中を駆け抜けた剣は、槍持ち貴族の額から頭の奥へと入って命を刈り取った。
武器を手放したカリを見て、貴族の一人が大声を上げる。
「敵は武器を失った! いまが好機!」
「「「うおおおおおお!」」」
階下の貴族たちが武器を振り上げながら、勢いに乗って駆け上がってくる。
圧力の強い光景だが、カリには取るに足りないものでしかない。
「接近戦なら、望むところだ」
カリは両手を手刀の形にすると、その両手に魔力の刃を出現させた。その状態で、自分から貴族たちへと飛び掛かった。
まさか無手の相手から近づいてくるとは思ってなかったのか、貴族たちは面食らった様子で対応が遅れる。
カリは相手が対応できていない隙に、左右の手で一人ずつ貴族の頭を斬り飛ばした。
素手の斬撃で二名死亡したことで、さらに貴族たちの間に混乱が広がる。
その混乱に差し込む形で、カリは貫手を放って更に一人の頭を貫いて殺した。
しかし、貴族たちが打つ後手は、ここまでだった。
「武器を突き出せ! 当たれば傷つくはずだ!」
その号令に従い、貴族たちは自身が持つ武器を突き出してきた。
立っている位置と武器の長さが合っておらず、武器の大半はカリには届かない。
しかし剥き身の刃が乱立する姿は、流石のカリの目にも脅威に映り、攻撃を手控えるしかなかった。
「もう、面倒くさいなあ!」
カリは苛立った言葉を放ちながら、手を伸ばして届く範囲の武器を手で叩き折って使用不能にする。
役に立たなくなった武器があった場所が、乱立する刃の穴となったので、カリはそこに身を入れて貴族へ攻撃を仕掛けた。
一人が倒れれば、その穴が広がる。穴が広がれば、カリが動ける範囲が広がり、さらに貴族を殺すことができる。貴族が死ねば穴がさらに広がり、カリは更に動きやすくなる。
その繰り返しで、カリは徐々に加速度的に貴族を次々と手早く殺していく。
余りに一方的に殺されることに恐怖を覚えたのか、貴族の一人が周囲の巻き添えなど考えない様子で火の魔法を放とうとする。
「これでもくら――ごぼふっ」
「ここで大規模な魔法を使ってはならんのは、我らの不文律だろうが」
魔法を使おうとした貴族が、別の貴族の剣で腹を抉られ、使おうとしていた魔法が霧散する。
不可思議な光景だが、カリは『建物内で破壊力が強い魔法を使うのは拙いらしい』と理解した。
「なら、一人ずつ倒すしかない」
カリは手で貴族を殺すことを続けながら、階下を目指して進んでいく。




