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6話

 税を誤魔化した村人が徴税官によって殺され、その家族が小作人の身分に落された。

 この事実は、開拓村に影響を及ぼした。

 村長は、戦士を囲い込んで戦力を確保すると、村人たちが再び馬鹿な真似をしないよう監視を強める決断をした。

 畑持ちの農家は今まで以上に畑を世話するようになり、そして自分たちと小作人は違うのだという意識を持つようになった。

 小作人たちは、他の村人たちの心情変化を察し、自分たちが無害な存在であると態度で示すようになった。

 そうした村の空気の変化を、子供たちは察知し、子供たち同士の関係性に取り込んだ。

 つまり子供たちは、小作人の子を下に見て、虐げるようになった。

 神殿で学ぶ魔術の練習の際にも、その関係性は適応される。


「おい。魔術を使ってみろよ」


 農家の子供が、とある小作人の子供に対して命令した。

 小作人の子供は愛想笑いを浮かべながら、命令された通りに魔術の呪文を口にする。


「『水の神よ。その御体に纏う水衣を、お貸しください』」


 一口分の水を得る魔術。

 正しい発音と正しい言葉によって発動したそれは、小作人の子供の合わせた手に水を生じて溜める結果をもたらした。

 魔術が成功したことで、小作人の子供はほっとした顔をする。

 しかしその背中を、魔術を使うよう命令してきた子供に蹴られてしまう。

 前に蹴り倒された拍子に、手に溜まっていた水が地面に撒いてしまい、その上に倒れ込む。水を吸った土によって、服に泥汚れがついた。


「な、なんで!?」


 魔術が成功したのに、どうして蹴られたのか。それが分からないという顔を、小作人の子供が浮かべる。

 その顔を見て、蹴った子供は不機嫌そうに言い放つ。


「小作人のクセに、魔術を成功させるなんて生意気なんだよ」


 理不尽な理由に、小作人の子供は驚き顔の後に怒り顔になる。

 しかし、その怒った表情を見て、蹴った子供だけでなく周囲の子供たちも口々に詰り始める。


「おい。睨んで良いと思ってんのかよ、小作人のクセに」

「立場ってのが、分かってないんじゃないか」

「いいのかなー。俺、父ちゃんに言っちゃおうかな。お前に睨まれたってさー」


 それらの言葉を受けて、小作人の子供は口惜しそうに唇を引き結んでから、へらりと愛想笑いを浮かべた。

 そんな媚びて許しを請う表情を見て、詰っていた子供たちは万足そうな顔になる。

 この小作人の子供は、魔術を成功させたから、こんな扱いを受けることになった。

 では失敗していた場合は、どうなったのか。

 その実例が、別の場所で行われていた。


「ぎゃははははっ、こいつ魔術の発動に失敗したぞ」

「やっぱり小作人って、無能なのね」

「ほらほら、もう一度やってみろよ」


 囃し立てられて、先ほどとは別の小作人の子供が呪文を唱える。

 しかし、元々呪文の詠唱が得意ではないのと、周りから言葉の圧力をかけられたこともあって、再び失敗する。

 すると、先ほどよりも大きな声で嘲笑されてしまう。

 言葉で散々に馬鹿にされて、その小作人の子供は目に涙を浮かべて黙ってしまう。

 残酷に映る光景に、カリは思わず神官に近寄って尋ねる。


「あんな真似、止めないんですか?」


 カリの問いかけに、神官は微笑み顔のまま首を横に振る。


「今は魔術の練習を行う時間です。真面目に練習する子には手助けを惜しみませんが、練習を疎かにする子を助けることはありません」

「でも、練習の邪魔をしているじゃないですか。それを止めるぐらいは」

「練習をすると決めているのならば、どんな邪魔が入ろうと実行するべきなのです。どんな状況でも魔術を使えるようにという訓練になりますからね」


 神官は、村の中でも特別な立場の人物だ。

 村長は村人の処遇を自由に決定できるものの、神官には一切の命令が通用しない。お願いし、聞き届けてもらうことしかできない。

 そんな村長とは別軸の権力者なら、神官は小作人とその子供の味方をしてくれるのではないか。

 カリが抱いていたそんな淡い希望は、神官の言葉によって否定されてしまった。

 落胆するカリの肩に、神官は励ますように手を置いた。


「カリ君には魔術の才能があります。その歳で既に全ての生活用魔術を修め、一つ攻撃用の魔術を習得しているのが証拠です。全ての属性の攻撃魔術を一つずつ修めれば、君がなりたいと望んでいた戦士になれます。他の事に煩わされず、その目標を目指して頑張りなさい」

「……はい、そうします」


 カリは納得できない気分を抱えながら、魔術の練習に戻ることにした。

 カリは石槍の攻撃魔術を前に修めた。なので、次は水の攻撃魔術を練習することにした。

 水の攻撃魔術は、多量の水で敵を押し流すものが多く、殺傷力は低い。

 それなのに、どうしてカリはその魔術を選んだのか。

 この選択もまた、村の空気感が小作人に厳しいものに変わったことが影響していた。

 村の畑に撒く水は、村の中にある溜め池の水が主に使われる。

 その溜め池の水は、水の魔術を使える人によって溜められる。

 そんな畑の収穫に直結する大事な水を生み出す人は、他の村人より一段上に扱われる。

 そして、水の攻撃魔術ともなると、大量の水を一度に生み出すことができる。

 つまりカリが水の攻撃魔術を修めることができれば、小作人の子供であろうと下に置かれない立場を手に入れることができる。

 そしてそれは、子供だけの社会でも適応されるだろう。村人たちの小作人への扱いを、いままさに子供たちが真似しているようにだ。

 カリは、同じ身分の子たちが虐めを受けている現状に心を痛めながら、神官に言われたからという免罪符を胸に、水の攻撃魔術の呪文を口にし始めた。

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― 新着の感想 ―
カリに魔術の才能が無ければ今虐めを受けていたのはカリだったんだろうなあ
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