57話
カリは旅をしながら、同じ休憩場所で出くわした旅人が声をかけてきたことをきっかけに、ときどき行商人や他の旅人と交流することにした。
そうした人との交流で最初に分かったことは、カリが魔法使いであることを、普通の人は見抜けないという点だった。
「――ということがあったんですよ」
「それは大変だったね」
カリは雑談の相打ちを行いながら、ふと思いついたことを話題にしてみることにした。
「ところで皆は、貴族を見かけたことある? 僕は地方の村出身で、徴税官以外の貴族を見たことがないんだけど」
カリが話を向けると、会話をしていた面々が記憶を思い出すために目を上向かせる。
「町で商売していると、貴族と関わることがないね。税の取り立てだって、徴税官ではなく配下が来るしね」
「馬車に乗っている姿をお見かけしたことはあるわ」
「オレの故郷でも、貴族といえば徴税官だったな。旅暮らしをするようになって、民に優しい領主貴族が顔見世をする場に立ち会ったことはあるな」
口々に語られる体験を聞いてから、カリは新たに質問を投げかける。
「見たことある人に聞くけど、貴族と僕たちって、見た目で違いを判断できたりする?」
「見ただけで貴族と分かるかってことか?」
カリが質問返しに頷きで肯定すると、一同は困った顔になる。
「服装は立派なものを着ていたが、普通の格好をされて分かるかというとなぁ」
「でもほら、貴族特有の威圧感があるじゃないか」
「それは、こちらが勝手に畏怖の感情を抱いているだけじゃないか?」
「言い知れぬ不安感みたいなのを感じることはあるって」
意見が一致しないのは、個々人の感受性の違いからか、それともそれぞれが知る貴族が違うからか。
カリは興味深く感じながら、試しにと自身の魔央を段々と圧縮してみることにした。もしかしたら、魔力の圧縮濃度によって、普通の人たちが威圧感や不安感を抱くのではないかという予想を立てたからだ。
徐々に圧縮度合いを上げていき、やがて貴族が展開していたのと同じ魔央濃度へ。
丁度その段階に至ったところで、貴族から威圧感を感じたという人が、こっそりとカリに目を向けてきた。その目は、カリの感情を窺うものだった。
もう少し圧縮してみると、新たに二人がカリに目を向けてくる。
ここでカリは、魔央の圧縮を解きながら、目を向けられている意味が分からないという表情を作った。
「どうして、僕を見ているんです?」
「いや、なんか急に怖さを感じてな」
「君が怒っているように感じたのだけど、勘違いだったようね」
誤魔化し笑いをしてから、カリを見てきた旅人たちは雑談に戻っていった。
カリは、事情が分かっていないという顔を保ちながら、人が貴族か否かを判別できるのは個人差があると理解した。
感受性が強い人は、貴族や魔法使いの魔央に入り込んだ瞬間に察知できる。
逆に感受性が弱い人は、もしかしたらカリが最大限まで圧縮した魔央に触れても何も感じないかもしれない。
そんな魔央を感じ取れるかという実験の後は、普通の雑談を続けた。
その雑談の中で、カリは休憩場所で旅人が寝泊りする際には、ちょっとした決まり事があると知った。
「基本的に、それぞれバラバラの位置で寝ることが鉄則になっているんだ。寝ころんで休む際は場所に気を付けろよ」
「それは、どうしてそうなっているんです?」
「旅人や行商人なんて、素性が知れねえんだ。寝ている間に盗みを働く者だっているかもしれねえ。その用心のためさ」
「寝場所を離しておけば、盗もうと近づく足音で起きることができるかもしれないだろ」
逆に盗人側は、足音を聞きとがめられる可能性があるため、安易に盗みを働けなくなる。
だからこそ、見も知らない人とは距離を離して寝ることが推奨されているようだ。
「いまは、こうして座り合って話しているのに?」
「起きている相手に盗みを働くのは難しい。それに他の人の目もある。考えなしに盗み働きをしたところで、取り押さえられるのがオチだぞ」
「こうやって会話をしているのだって、会話を通して人となりを知るためって目的もあるの。変に威圧的な物言いをしたり、話が噛み合わない人は、警戒対象になるわ」
そうなんだと、カリは納得しながら、新たな疑問が浮かんだ。
「じゃあ、もし会話に参加しない人が居たとしたら、どんな対応が正解なんです?」
「そんな奴からは、なるべく距離を空けるのさ。分からない奴ってのは、一番怖いからな」
「行動をそれとなく監視するべきだ。もしかしたら盗賊と繋がっている人物かもしれない」
「あまり褒められた方法じゃないけど、安眠できるお茶を渡して飲ませることもあるわ。そのお茶すら拒否したら、それはもう要注意人物に認定よ」
対処法を聞きながら、カリにはある考えが浮かんだ。
休憩場所で他の人と関わりたくない場合は、黙り続けて人の輪から離れた場所で寝ればいいんじゃないかなと。
そんな新たな知見を続々と得られたことから、カリは見知らぬ人と関わることの大切さを学んだ。




