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4話

 カリは、自分の立場が変わったことを真に理解した。

 そしてそれから、神殿での授業に一層の力を入れ始めた。

 村の中で褒めてくれる大人は、神殿の神官だけであること。

 そして魔術を熟達すれば、小作人から脱却できることを知っていたからだ。

 魔術は、効力や威力を上げるにしたがって、呪文は長く複雑になっていく。

 竈に火を入れる、一口分の水を出す、一握りの砂を生み出す、そよ風を発生させる、ぐらいの魔術は村人の誰でも使える。

 畑に水をまく、畑の作物を刈るための石の刃を手に生む、脱穀した穀物と殻を分ける風を発生させる、ほどの攻撃にも使える強めの魔術は村人の半分ほどしか使えない。

 さらに、村にやってくる野生動物や魔物を殺せるような、真の意味での攻撃魔術を使えるような人は、ほんの一握りしか存在しない。

 そんな攻撃魔術を使えるようになった人は、どこの生まれであっても、村を守る戦士として扱われて尊敬の対象になる。

 だからカリは、その戦士になるべく、神殿での授業で攻撃魔法を成功させようと躍起に学ぶようになった。


「ふぅ。『土の神よ。その御手に、握りし、石の槍を、お貸し、ください。その御目に、我が敵の姿を、御映し、ください。その威光で、その敵を、貫き給え』」


 カリは、石槍を投射する攻撃魔術の呪文を唱えた。

 しかし石槍の魔術は発生しなかった。

 カリは何度も呪文を唱えるが、しかしそれでも発生しない。

 そこで一度訓練を止めると、カリは神官に近寄った。


「神官さま。もう一度、魔術の呪文の確認をお願いします」


 カリが呪文を唱えて聞かせると、神官はにこやかな顔で呪文を訂正する。


「発音が違う部分が一つ。言葉が違っていたり足りない点が三つありますね。よく聞いて覚えてくださいね」


 神官は、カリが間違えて覚えていた部分の単語を、丁寧かつ綺麗な発音で教えてくれた。

 カリは呪文を確りと耳で把握し、自分の勘違いを修正した。

 神官に一礼してから、カリは再び攻撃魔術の訓練に戻った。


「『土の神よ。その御手に、握りし、石の槍を、お貸し、ください。その御目にて、我が敵の姿を、御映し、ください。その威光でもって、彼の敵を、貫き給え』」


 正しい発音と、正しい単語。

 それらが揃った呪文がカリの口から出た瞬間、カリの体内にある魔力が消費されて、掲げていた手の先に腕の長さほどの石槍が発生した。その石槍は即座に発射され、手を向けていた的代わりの大岩へ。

 投射された石槍と大岩が衝突し、大きな音が出た。

 すると、神官が拍手でもって、カリを称えてくれた。


「カリ君は、たしか六歳でしたね。その年で攻撃魔術を成功させるなんて、優秀です。この調子でいけば、十歳になる頃には、一通りの攻撃魔魔術が使えるようになり、戦士の仲間入りを果たせることでしょう」

「本当、です、か」


 嬉しい評価に、カリは大喜びしたいところだったが、しかし体が許してくれなかった。

 先ほど石槍の攻撃魔術を放ったことで、カリの体内にあった魔力が空っぽになったことで、体力切れに似た体調悪化が起こっていたからだ。

 カリが辛そうにしていると、神官が近寄ってきて背を撫でてくれた。


「魔力が枯渇して苦しいようですね、カリ君。でも、そうして魔力が空になってからが本番ですよ。さあ世界にある魔力を体内に取り込むよう、意識して呼吸してみましょう。それと太陽の光から、魔力を吸収するのだという意識を持ちましょう」


 カリは神官に言われたように、深呼吸をする。それと同時に、太陽からの光を全身に浴びているという意識も持つ。

 呼吸を通して、空気中にある魔力が肺から取り込まれる。体内の魔力が空っぽだからか、その取り込まれる勢いは、日常の比ではないほどに早い。

 体に浴びている太陽の光。その光に含まれる魔力も、肌を通して体内へと取り込まれる。こちらも体内魔力が空っぽだからか、日常で感知できない光の魔力を吸収する感覚が、明確に感じられた。


「人が持つ魔力溜まり――魔央の大きさに大差はありません。どんな戦士であっても、対象を殺せるほどの攻撃魔術を一発二発放てば魔力は枯渇してしまいます。では、優秀な戦士とはなにか。それは枯渇した状態から素早く魔力を集められる者を指します。その優秀な戦士になるには、枯渇と回復を繰り返すことでしか至れません」


 カリを教材にした、神官の説明。

 それに対する子供たちの反応は、さまざま。

 カリと同じく戦士を目指している子供は、更に熱心に練習をやり始める。ある程度の魔術で良いと考えている子は、そこまで頑張りたくないという表情。生活用の弱い魔術すら発動できていない子たちは、神官に褒められたカリを憎々しげに睨む。

 そんな色々な視線を向けられている自覚を得ながらも、カリは魔力の回復に努める。魔力が回復したら、また攻撃魔術の連取に戻るためにだ。

 そう集中しているカリに、更に神官から指摘がやってきた。


「魔力をめいっぱいに回復したら、そこで止めることは忘れずに。魔央に収められる量を超えて入れようとすると、体に痛みが走るようになります。それでも更に入れようとすると、体に激痛が走ったうえで魔央が壊れます。魔央が壊れると、体に溜めていた魔力が一気に体外に出ようとして体が破裂するか、体の破裂に至らなくても魔央を失って二度と魔術が使えなくなります」

「ちょっとでも体に痛みが感じたら、そこで魔力の吸収を止めるのがコツなんですよね」

「その通りです。さあ、魔力と魔術に関する復習は終わりです。魔術の練習に戻ってください」


 神官が離れていき、他の子供たちの練習に付き合い始める。

 カリは、その痛みを感じられるようになるまで魔力を体に溜めることを意識しながら、深呼吸を繰り返し、体に浴びている日の光を意識し続けた。


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― 新着の感想 ―
こんな状況で唯一まともに接してくれる人がいたらそこで出来ることを頑張ろうと努力しますよねえ カリ頑張るなあ
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