48話
カリとベティは、あの徴税官と関係がありそうな貴族がいると予想した、件の町の近くまでやってきた。
そこでカリは、自身の範囲が広い魔央でもって、町の中の様子を探ることにした。
外壁の材料と組み方、家屋の建築様式、敷かれた道路、それぞれが高度な職人技で出来ていることが分かった。
カリは魔央を通して感じる、町と村の違いに目を丸くしながらも、自分たち以外の魔法使いが居るかを探ってく。
「……居るね、何人も。でも町の一画に集まっている」
カリは、拾った枝を使って、地面に町の概略図を描いていく。
大きな丸を描いてから、小さな丸を上辺にくっ付けるように描く。そして小さな丸から放射状に五本の線を引いて、それらの線を大きな円まで伸ばした。
「この小さな丸の中に、体の外に展開する魔央を持つ人が何人もいる。魔央が重なっている部分があるから、正確な人数はわからないけど、最大で十人だろうね」
「多くても十人なら、家族かしら?」
「この町を治める町長が貴族ってことかもね」
そう返答しながら、カリは目でベティに問いかける。
町に入って、そのまま魔法使いへ突撃する気なのかと。
町の貴族一家が徴税官と同程度の魔法の実力なら、魔王の圧縮訓練を熟したベティなら一対一でなら勝てる。
しかし町を治める貴族だからこそ、徴税官よりも強い可能性は大いにある。
どちらにせよ、相手は十人ばかしいるのだから、ベティが一人で挑んでも勝ち目は薄い。
そしてカリは、ベティとは違って貴族に復讐心を抱いていないので、わざわざ戦いを挑むことに消極的だ。
そんなカリの問いかけと心情を分かったうえで、ベティは言葉を口にする。
「まずは町に入るわ。それで、町にいる貴族について話を聞いて回るわ」
「町で聞き回れば、貴族に話が行くだろうし、目を付けられると思うけど?」
「向こうから近づいてくるのなら、手間がなくていいわ。怪しい人を調べるために、貴族一家が全員で来るってことはないだろうし」
「一度に十人相手するぐらいなら、先に何人か間引いておきたいってことね。でもまず接触してくるのは、貴族の使用人とかだろうけどね」
とりあえずの方針が固まったところで、カリとベティは魔央の展開範囲を圧縮してから、町の出入口へ向かうことにした。
町の出入口では、他の村でもそうだったように、戦士が出入りする人を呼び止めて用向きを質問している光景があった。
カリとベティは列に並んで、そして順番がやってきた。
「子供二人か。この町に、なんの用だ?」
「僕は村で戦士として認められたので独り立ちを。この町には、働き口がないかを探しに。こっちのベティは、村を離れる僕についてきたんだ」
「ふむ。見た目は幼くとも、それなりの威圧感はある。戦士であることは確かなようだ」
その威圧感は、カリが自身の魔央を圧縮していることで発生しているものだが、普通の人間である町の戦士には気付けないのだろう。
そしてベティも、カリほどではないものの、魔央を圧縮しているため似たような圧迫感が発生している。
「そちらの嬢ちゃんも、独り立ちに付いてくるぐらいには肝が据わっているようだな。問題なさそうだ。町の中に入って良いぞ」
戦士から許しを得たので、二人は町に入ろうとする。
しかしその直前で、許しを出したはずの戦士の手で止められた。
「少し待て。調査隊が出発する時間だったようだ」
戦士が身振りして、街道にいる全員に道の端に寄れと指示してきた。
カリとベティを含めた人達が道の脇に退避すると、町の中から馬と馬車に乗った人達が外に出てきて、そのまま街道を走り去っていった。
カリは、その調査隊とやらが向かう方向に目を向けてから、戦士へと顔を戻した。
「あの調査隊って、なにを調べに、どこに行ったんです?」
「この町を発った徴税官が、何時まで経っても戻ってこないんだ。安否確認をしに、徴税に向った場所を調べに行くんだ」
「徴税官様を調べるってことは、あの部隊の中に魔法使いがいるとか?」
「いいや。今回、同道しないと聞いている」
戦士の言葉に、カリはそうだろうなと納得した。
なにせ、先ほどすれ違った調査隊の面々は、魔央が体内にある普通の人ばかりだったからだ。
「教えてくれて、ありがとうございます。それじゃあ、中に入りますね」
「故郷を離れての独り立ち、応援している」
カリはベティと共に戦士に一礼してから、町の中へ踏み入った。
しばらく道を進んでから、周囲の喧噪にまぎれるぐらいの小さな声量で、二人は会話する。
「調査隊が派遣されたってことは、二日三日で、この町の貴族に情報が伝わるだろうね」
「徴税官も、その手下の戦士たちも、カリが全員殺しちゃったのに情報が伝わるの?」
「魔法使いが出た開拓村はもぬけの殻。その上で徴税官の姿もないんだ。それだけの情報があれば、開拓村の魔法使いが生きていて、どこかへ移動していると気付くことはできるよ」
「故郷を襲われた魔法使いが、復讐で町を襲うなんて予想もするかもしれないわね」
「そんな予想を立ててほしくはないけど、ともあれ、この二日のうちがベティにとって勝負だろうね」
「私の勝負って?」
「今日から二日の内であれば、町にいる貴族の情報を安全に収集するのも、町から安全に逃げるのも、どちらでもできるってことだよ」
カリは暗に町を離れるべきだと口にしたものの、ベティの復讐心で燃える目の内を見て、肩をすくめるしかなかった。




