43話
カリとベティは歩き旅を再開し、日数をかけて次の村へとやってきた。
二人が住んでいた開拓村と違って、街道が三本も接続している、それなりに大きな村だ。
その村に早速入っていく――という真似は、カリは行わない。
カリは瞬間移動で、誰も居ない村の外壁の側に出現。その後で、自身の広い範囲を覆える魔央を使って、村の中の状況を確認していく。
「村人が何かを警戒している素振りはない。村の戦士っぽい人も普通に働いている感じだ。そしてなにより、魔法使いがいる感覚はない」
魔法使いは魔央を周囲に展開しているため、カリなら存在していればすぐに分かる。
その魔法使いがいる感覚はないため、カリはこの村は安全だと判断した。
しかしカリは、用心に用心を重ねることにした。
カリとベティが歩いてきた街道は、この村と開拓村を繋ぐ以外の役目はなかった。つまり、街道を使って村に接近すれば、カリたちが開拓村の出身だとバレる恐れがある。
そして開拓村は、徴税官とその配下の甲冑戦士たちが向かって、未だに帰ってきていない場所だ。
下手に開拓村出身だと知られると、その辺の事情を聞かれる恐れがある。
だからカリは、今まで歩いてきた街道とは別の街道を使って、この村に入ることにした。
ベティも、カリから理由を聞かされて、その案に乗った。
二人は瞬間移動でもって、今までとは別の街道へと移動すると、その新たな街道を歩いて村へと接近した。
「子供二人? いったい何用だ?」
村の戦士らしき人物に誰何されたので、カリは二つ持っている布袋を見せる。
「これを売って、金に換えて来いって言われたんだ」
「この村でか? この街道を反対方向に行けば、町があるのにか?」
新たな情報に、次はその町に行ってみようと、カリは企む。
町への行き方を考えるより先に、まずは戦士の疑いを晴らすべきだと考え直す。
「理由は知らないよ。換えてこいって言われただけなんだから」
子供のお使いらしい弁明をすると、戦士はそれもそうかと納得した顔になる。
「格好を見るに、坊主は戦士見習いってとこだろ。妹をちゃんと守ってやれよ」
「もちろんさ。ほら、行くよ、ベティ」
通してもらえることになり、カリはベティと共に村の中に入った。
この村の中は、見た目の大きさと同じように、開拓村とは違った部分が多くあった。
家屋がある区域は一ヶ所ではなく点在しているし、畑には作物だけでなく花を栽培している場所もあった。
なにより大きな違いは、村の中に市場があったこと。それも作物を売り買いするだけでなく、道具や衣服も豊富に売られていた。
そんな市場の一画へと、カリとベティは向かった。道行く親切な人たちが二人へ、持ってきた作物を売り払うならそこが良いと教えてくれた場所だった。
「いらっしゃい。お使いかな?」
広げた布を支柱で支える露店にいた、人の好さそうな店主が声をかけてきた。
カリとベティは持ってきた布袋を、その店主の前に下した。
「これ、買い取ってください」
「ちょっと中を拝見。ほうほう、新鮮な作物だね。中身は、どれもほぼ一緒だね」
店主はざっと中身を確認すると、身振りでいくらになるかを伝えてきた。
しかしカリは、その身振りの意味が分からない。どう返答するか困っていると、横合いからベティが口を挟んできた。
「もうちょっと色を付けてくれても、いいんじゃない。そうね、このくらい」
ベティは、なれていない手振りながらも、店主がしたような身動きをしてみせた。
店主は顔をほころばせると、新たな身振りを行う。
「流石にそこまでの値は付けられないよ。せいぜい、このぐらいさ」
「むむぅ。私たちのお駄賃で、このくらいオマケして?」
「ううん、困ったな。可愛らしい子供のお願いだから、その値段で取り引きしよう」
ベティと店主が握手し、売り払う値段が決まったようだ。
カリが呆然としている間に、店主は布袋を店の中に引き取ってからベティに硬貨を握らせた。
ベティは手にある硬貨を見て確認してから、ニッコリと店主に笑いかけた。
「いい取引ができたわ。ありがとう」
「はっはっはっ。こちらとしては、お嬢ちゃんが手強くて困ったよ。そっちのお兄ちゃんは、もうちょっと確りしないとだけどね」
「いいのよ、カリは。見ての通り、肉体労働向きだから」
別れの挨拶をしてから、ベティはカリの手をとって店主から離れた。
市場の中を歩き、人通りが少ない一画で、二人は足を止めた。
「まあまあの値段で売れたわ。ちょっと足元を見られた感じがあるけどね」
「よく商人と取り引きできたね。あの身振りの意味、どこで知ったわけ?」
「村に来る行商人とお父さまがやっているのを見たときに、興味を持ったから教えてもらったの。それでお父さま相手に、値段交渉のおままごとをやってたの。こんなところで役に立つとは思わなかったけどね」
流石は村長の娘だけあって、自分とは別の教養があるなと、カリは感心した。
「荷物を売って金も入ったし、これからどうする? 村を出ちゃう?」
「村の食堂で、ちゃんとした料理を食べましょうよ。そこのご飯が美味しかったら、宿で一泊するのもありね」
「素人料理に飽きたから食堂に行く、っては分かる。宿屋に泊まるって、どうして?」
「ベッドで寝たいって思うの、なにかおかしい?」
「ああ、なるほど。僕の生活でベッドで寝る機会はあまりなかったから、考えつかなかったよ」
カリは、父親が生きていたころはベッドに寝ていたが、小作人になってからは床に撒いた藁が寝床だったし、神殿の一画を借りて暮らしていた頃と倉庫に監禁されていたときは地面の上で寝てたし、戦士になった後は詰め所にある箱と板で作られた簡易ベッドで寝ていた。
つまるところカリは、真っ当なベッドで寝ていた経験の方が少なかった。
そんな事情を語って聞かされて、ベティは同情する目になる。
「それなら、カリこそベッドで寝てみるべきだわ。今までの寝床との違いに驚くこと間違いないんだから」
「そういうものかな?」
カリは半信半疑な心持ちだったが、ベティのやりたいようにやらせてみることにした。




