40話
人気のなくなった開拓村で一晩を明かし、カリとベティは無事な空き家の中にある別々の部屋で起床した。
二人は魔法使いになったので、魔法で体に栄養を作ることができるため、食事は必須ではない。
しかしベティは、朝食を要求した。
「食べる必要がないからって食べないのはダメよ。食事がとれるのなら食べるべきだわ」
「僕は必要ないから、ベティが作ったら?」
「私、料理したことないの。だから食事を作れないわ。だからカリ、作ってちょうだい」
「……わかったよ。簡単なものなら作れるから」
カリは家屋の中を探して食料を集めた。
村長宅の倉庫にあった食料は全て荷馬車に引き上げられ、そしてそれは村を去った生き残りたちに渡してしまった。
とはいえ、各家庭が家の中に確保していた食料は、そのまま残っていた。
カリは残っていた食料を使い、魔法の火で食材を温めたりして、料理を作り上げた。
「ほいよ。黒パンと具がゴロゴロのスープ。パンは残っていた物で乾燥して固くなっているから、スープに浸して食べろよ」
「粗末な朝食だけど、贅沢はいわないでおく。いただくとするわ」
ベティはパンを一口大に千切り、それをスープに浸して口にする。
カリは先にスープの具材をスプーンで口に入れる。
このスープは、素のままでも保存のきく根野菜とカチカチな乾燥肉を水で煮込んでから、塩や野草のハーブなどで味を調えたもの。不味くはないが、美味いと褒められるような味でもない。
そんな風に大して美味い食事でなかったからか、二人はもくもくと手と口を動かして朝食を食べ進めていく。
そして二人は、ほぼ同時に食べ終えた。
「ふぅ。やっぱり、食べたものの重さがお腹にあると、落ち着くわ」
「僕はそんな気にはならないな。食べなくていいものを口にしたから、無駄に贅沢したような気にしかならない」
食事に困らない家庭で育ったベティと、常に食料に事欠く環境で育ったカリ。
食事一つの乾燥にしても、二人は全く違っていた。
ベティは、意見違いを残念がって肩をすくめると、指を振って魔法を発動した。二人が使用した食器が魔法の水で洗浄され、そして食器が元あった場所へと飛んで行って収まった。
「さて片付けが終わったところで、私はこれから村を出て、徴税官に命令した貴族に復讐に行くわ。カリはどうするの?」
「そうだね、どうしようかな」
カリは考える。
ベティの復讐を手伝ってもいいが、それは血塗られた道であることも予想がついてしまう。
徴税官に命令を出した貴族を殺せば、その貴族と関わりのある他の貴族に狙われることになる。
そうなったら後は、血で血を洗うような生活しかできなくなる。
ではベティとは一緒に行かない選択肢をとったとして、どんな生活をするのか。
この開拓村に居座ることはダメだ。徴税官が帰ってこないことを知って、件の貴族が新しい手勢を送ってくることは予想がつく。
それを殺し続ける生活は、ベティと同道したときと大した違いはないため、選ぶメリットがない。
国中を放浪するのはどうか。
カリは魔法で食事や水分を取る必要がない、荷物が限られる旅暮らしでは、これは大きなメリットになる。
予定のない旅路を行けば、貴族も追いかけ先に迷って、カリを狙うのを諦めるかもしれない。
そしてカリ自身、この開拓村以外の世界がどうなっているのかに興味が湧いた。
「僕は旅でもしようかな。放浪の戦士に扮してね」
「……村の人達を殺された復讐はしないっていうのね」
「復讐を志すほど、僕はこの村の人たちに思い入れがないからね。むしろ悪い扱いを受けて恨んでいたぐらいだ。ある程度の村人を神殿に入れて守ったのだって、村の戦士の役目だったからだ。徴税官を殺したのは、奴が僕を狙っていたからだしね」
カリが復讐する気がないと知って、今度はベティが考えに沈む番になる。
ベティからしてみると、カリは優秀な魔法使いである。
あの徴税官は、上役の貴族から開拓村に現れた魔法使いを殺せと命じられるぐらいには、魔法の腕前があるはず。つまりあの徴税官であれば、並みの野生の魔法使いなら問題なく殺せたはずなのだ。
それなのに、カリはそんな徴税官を倒してみせた。つまりそれは、カリが普通の野生の魔法使いを超える腕前であるという証明になる。
加えて昨日、カリは思い付いたという理由だけで、ベティが魔法を使えないようにしてきた。
その仕組みをベティは教えてもらったが、事前情報をそろえても、その発想に至れる自信がなかった。
そんな実力と発想がずば抜けている魔法使いと思われるカリを、ベティは貴族へ復讐する際に頼りたい。
でもカリには貴族に対する復讐心がないことも、ベティは理解していた。
ベティは色々と考えて、一端復讐を棚上げすることにした。
「そうね。ならその旅路に、私もつれていってくれないかしら」
「えっ。どんな風の吹き回しで、そんな結論に?」
カリが疑いの目を向けてきたので、ベティはそれらしい理由を口にすることにした。
「よく考えてみて、復讐を急ぐ必要はないなって思ったの。復讐する貴族がどこのだれか知らないし、私の魔法の腕前もまだまさだしね。なら、貴族の情報が集まって、私の魔法の腕前が貴族を超えられるまで、カリの旅についていってもいいかなって」
「なるほどね。復讐を止めるきはないんだ」
「勝手な言い分でお父さまを殺されたのよ。なら勝手な言い分で貴族を殺す権利が、私にはあるはずよ」
ベティの言葉を、カリは一先ず受け入れた。
「じゃあ二人旅なんだから、それなりの格好と準備をしないとね」
「周りの家の中を探して、旅人っぽく格好をそろえるってわけね」
「子供二人旅って部分が、ちょっと怖いけどね」
「魔法使い二人なんだから、危険はないはずよ?」
「実力は見た目からじゃ判断できないから、絡まれることはあるんじゃないかな」
二人はそんな話をしながら、空き家の中を探して、旅の準備を整えることにした。




