29話
徴税官へ向けた手紙は、一朝一夕で届くようなものではない。
そして手紙を受けた徴税官も、一昼夜で村に訪れることはしないはず。
つまるところ、徴税官がカリのことを調べに来るのに、まだ何日かの猶予があった。
この猶予の間に、カリは村長と共に色々な村での通達を済ませることにした。
「カリが許したことをもって、諸君らの罪は軽減された。ゆえに諸君らは小作人落ちを免れることになった。しかし罰はある。これから先、カリとその家族が生存している限り、諸君らは毎年作物の一部を賠償として払わないといけないという罰を負う。それを忘れぬように」
村長が判決の弁を述べ終わった。
その判決に、カリに放火犯の濡れ衣を着せようとしたアフと仲間の子たち、そして彼らの家族は一様に安堵した顔になる。
しかしアフと仲間の子たちは、表面上は許されたことに安心した様子をしているが、心の中で舌を出している。
そのことをカリは、魔法使い特有の周囲に散った魔央から伝わる超感覚で理解していた。
(なんだかんだと濡れ衣を許したから、僕を侮ってそうな気配があるな)
そうアフが考えるように上手くいくかなと、カリは心の中でほくそ笑む。
村長が判決を終えた口で、別のことを喋りだす。
「今日、このカリが攻撃魔術を修め終え、戦士の仲間入りを果たしたことを、村長として皆に伝える。それと同時に、カリとその母親との親子関係の解消を、村長の名の下で命じた。これは村人全員の心配を勘案しての措置である。このことに対して異論がある者は、いまこの場で名乗り出よ!」
村長の発言を受けて、村人たちはお互いに顔を見合わせて困惑した表情になる。
カリが戦士階級になることは、カリが村の外で魔術練習をやり始めた頃から、いつかそうなると半ば予想できていたことだ。
そう予想ができたからこそ、あんな母親の子供は村を守る戦士に相応しくないという義憤でもって、多くの村人はカリに冷たく接することを決めたという過去がある。
そんな嫌がらせをした相手が、苦境を撥ね退けて魔術の腕を磨き、村長が戦士として認めた。
もしかしたら、戦士になったカリが報復してくるかもしれないと、村人たちは恐れを抱く。
そんな村人の恐怖を、村長はしっかりと把握していた。
「諸君ら、安心したまえ。カリは、諸君らが酷いことをした理由は、カリの母親が理由であると理解している。だからこそ、カリと母親の親子関係を切り離すことで、諸君らがこれ以上カリを虐げる必要をなくすのだ」
村長の発言を受けて、村人たちはこう理解した。
カリが村人に恨みを持っていたが、村長が手打ちにする段取りを付けたのだと。カリを十歳で戦士にすることと引き換えに、村人への恨みを捨てることを条件にしたのだと。
その上で、これから先の未来で母親が新たな所業を起こし、それでカリが被害を被らないよう、二人の親子関係を切り離す措置をとることにしたのだと。
村人たちは小声で話し合って、そうに違いないと理解した。そしてそういうことならと、カリが戦士になることも、カリとその母親とが親子でなくなることも賛成することにした。
しかしここで、カリの母親が待ったをかけた。
「カリは私の子よ! どうして引き離そうとするの!」
事情を分かっていない様子で喚く姿に、村長は蔑みの目を向ける。
「どうしてかは、自分自身に聞けば分かるのではないか?」
「分かりません! どうして!」
「カリへの賠償を勝手に受け取って、楽して暮らそうと考えているのだろう。加えて、その腹の中にいる子の父親とその家族に、賠償分を君を通して取り戻そうと考えているのだったかな」
村長に企みを言い当てられて、カリの母親だけでなく、彼女と関係を持った人の家族も顔を強張らせる。
「そんな不埒な真似を許すと思ったか。賠償は、お前たちが負った罪に対する罰だと言ったはずだ。罰を逃れようとするのは、罪を償う気がないということだぞ。心得違いをしているとしたら、村にとどめておくわけにはいかなくなるぞ?」
村長の最終警告とも言える言葉を受けて、罪を逃れようとした一同は罪を受け入れるしかなくなった。
こうしてカリと母親の親子関係は解消されて、カリは名実ともに独り立ちとなった。




