24話
カリは、豊かに育った作物の根元に隠れて、夜を待った。
いまカリは、抑えきれない怒りに突き動かされて、自分を殺す気でいる。
年若さゆえの正義感と潔癖さから、あの邪悪な精神を持つ母親は許せず、その腹から生まれた自分も滅するべきだと信じ切っているからだ。
その怒りを抱えたまま夜になり、カリは畑から抜け出すと、人目に入らないよう気を付けながら、溜め池のほとりにやってきた。
この開拓村の中で、楽に死ねる方法は少ない。
家の屋根から飛び降りて頭から墜落すれば簡単に死ぬだろうが、屋根に上るまでに人に見つかる可能性があるため、人目を忍んでいるカリには使えない手段だ。
紐を首にかけて吊る方法は、紐を引っかける場所が必要で、家にも神殿にも帰れないカリには出来ない方法である。
だからこそカリは、溜め池に入水することで溺死しようと考えた。
しかし溜め池にやってきて、濁りが強い水に足を浸した際、前に自分が水の攻撃魔術で水を溜めたことを思い返す。
そして、連想してあることを思い出した。
「神官さまが、魔力を身体に溜めすぎると、魔力溜まりである魔央が破裂して死ぬって注意してたっけ」
神官が度々注意するのと、魔力を体に溜めすぎると痛みが発生することもあってか、この村で魔央が破裂して死んだ人がでたことがない。
カリは、どうせ死ぬのなら村の誰もが見たことのない方法で死んでみようと考え、魔央破裂に自殺に挑戦してみることにした。
水に足を入れた状態のまま、溜め池の縁の地面に寝転がる。
その後で、カリは全身を使って、体内に魔力を集めようと意識する。
呼吸で空気から、星と月の光から、背中をつけている土から、足にある水から。
攻撃魔術の練習で、カリは身体に魔力を取り込む方法には慣れている。だから難なく、それぞれから魔力を受け取って体に溜めることができた。
そうしてカリの身体に魔力が充満したところで、カリの体内から猛烈な痛みが発生した。
「ぐぎッ!?」
身体の内側から押し広げようとする圧力と、溜めきれない魔力が脱出場所を探して体内を傷つけ暴れているような感覚。
あまりの激痛に、カリは思わず根を上げそうになる。
それでも若さゆえの意固地な面がでて、死ぬと決めたからにはやり遂げると逆に奮起した。
身体の周りにある全てから魔力を吸収し、無理矢理体に詰め込んでいく。
体内から生じる圧力と暴れ回る感触は、魔力を詰め込み続けるに従って、より強くなっていく。
さらに魔力を集め続けると、体内に生じる感覚が変化し、体内の全てを刃物で斬りつけられているような激痛という表現すら生易しい痛みになる。
「いぐぎぎぎぎ! おえっ!」
あまりの痛さに、カリの胃が引きつけを起こし、その中にあった物を吐き出してしまう。それだけでなく、涙はボロボロと目から勝手に零れ、噛みしめた口の端に泡立った涎が浮かび、毛穴という毛穴から脂汗があふれ出す。そんな風に痛みで全身の筋肉が硬直しているような有様だからこそ、大便の穴が閉じていて漏らさずに済んでいる。
そんな醜態を晒しながら、カリが考えているのは一つだけ。
(まだなのか。まだ破裂しないのか!?)
カリは痛みで気絶しそうになる意識を、やると決めたからにはという意地だけで繋ぎ止め、魔力を身体に淹れ続ける。
やがて身体の内側からの感覚が変化し、斬りつけられるような痛みから、身体の何かがボロボロと崩れて粉になっていくような感覚へ。
体内の何かが粉になる度に、今までで最大の痛みが発生するが、カリにとってみたらもう痛みの大小なんて感じていられない。
「こんなに魔央を破裂させるのが大変なら、注意する必要ないよね!」
神官への恨み言を口にしてから、カリはもうひと頑張りだと魔力を体に集めに集めていく。
そして、とうとう、カリの頑張りが通じて、魔央が破裂した。
その感覚は、とても不思議なものだった。
先ほどまで感じていた痛みが一瞬にして消え去り、そして体内にあった何か――恐らくは破裂して粉々になった魔央と呼ばれるものの破片が対外へと放出される感覚。
見開いているカリの肉眼で、その粉になって散った魔央が見えたわけじゃない。
ただ感覚では、カリの魔央が周囲に散って、空気や水や土や風に同化していくように感じられたのだ。
(魔央が破裂した。これで僕は死ぬんだな)
激痛を超えて得た平静な気分で、カリは自分の死を受け入れる。
しかし、何時までたっても意識を失わないことに、カリは事態が予定と違っていることを悟った。
そこでカリは、破裂したはずの胴体に手を当ててみた。すると、魔央が破裂した感触はあったのに、胴体は何時もの通りのまま、そこにあった。
「そんなまさか?!」
起き上がり、服をめくって視認しても、そこには痩せ細った胴体があった。魔央の破裂に巻き込まれて、肉と内臓が吹き飛んで骨だけになっている、なんて現実はなかった。
「えっ。魔央が破裂すると死ぬんじゃないの??」
ペタペタと身体を触って回っても、どこかが傷ついているがない。
「どういうこと?」
訳が分からないと頭を抱えながら、自分の挑戦は無駄に終わったのだと、カリは思った。
「はぁ、どうしよう。死ぬ気だったんだけどなぁ」
魔央が破裂するまで頑張っるのに、カリの内側にあった怒りや意地は使い切ってしまった。
いまさら池で入水自殺を実行するほどの意欲はない。
そうしてやる気を失ってボーっとしていると、ふと今までに感じたことのない感覚があることに気づいた。
それは、周囲に粉となって散った魔央を通して、世界を観測しているような感覚。それは手が届かないほど遠くの場所を、まるで指で触れているように存在を感じられた。
「……なんだか、動かせそうな気がする」
カリは感覚に従って、遠くにある石積みの外壁の石を取ってみようと試みた。
すると、外壁の一番上にあった石が持ち上がった。
カリは驚きながら、その石を手元に引き寄せようとする。石はカリがやろうとしたとおりに、空中を飛んで目前までやってきた。
この一つの成功体験を切っ掛けに、カリの頭に自分が新しくできるようになったことが後から後から湧いてでてくる。
カリは、頭に浮かぶことが本当にできるのかと、試さずにはいられなかった。
夜が過ぎて朝近くの時間まで、カリは飽きることなく試し続けた。
明日からは一日一話の更新になります。
更新時間は18時を予定しております。
よろしくお願いいたします。




