22話
村長宅から出ていった村人たちは、先ずは自分の家族に、そして近くの別の家庭へと聞き込みを行った。
その際、聞き込みの心得がある者だったら、火事が起こった時間に何をしていたかと質問するだろう。
しかし質問する村人たちは素人なので、お前はあの火事を起こした人物じゃないよな、火事を起こした人物が誰か知っていないか、と聞いてしまった。
質問された側は、火付けの犯人じゃないし、火事を起こした人物はカリじゃないのかと意見を返す。
質問する側は次にカリが火を付けた場面を見たのかと問い、された側はそれは見ていないと答える。
そういう質疑応答が繰り返されていった結果、村人たちはカリが放火犯という認識に不安を持つようになった。
質問者の言葉を真っ直ぐに受け取ると、カリ以外の犯人を探しているように聞こえてしまうからだ。
その不安感から、様々な噂が村に蔓延することに繋がった。
カリが犯人じゃないのなら、誰が犯人なのか。あの人物は、火事が起こる現場の壁を隔てて村の中側にいた。カリを強く嫌っていた、あの人じゃないか。カリの母親と良い関係にある人物が、カリを邪魔に思って陥れようとしているんじゃないか。カリが犯人だと今でも主張する人物が一番怪しいんじゃないか。
そんな噂と共に村人たちは総出で、何日もかけて犯人捜しを行った。
だが、見つからない。
あまりの見つからなさに、これだけ探しても犯人が分からないなら、カリ以外に犯人は考えられないんじゃないか。
村人たちの意見がそう収束しかけたとき、あらたな噂が二つ流れた。
一つは、カリが犯人でないと証明するため、あの日の魔術練習を再現した実況見分を行うというもの。
もう一つは、その実況見分のために、神官と戦士でカリを倉庫から連れ出すというもの。
その噂が流れてすぐに、村長宅から神官と戦士に挟まれる形で、子供が一人村の外へと歩く姿が現れた。
周りの人の目から姿を隠すためか、子供は頭から布を被せられ俯きながら歩いている。
その姿を見た村人がヤジを飛ばそうとするが、子供の傍らにいる戦士に強く睨まれ、言葉を出せなくなる。
神官と戦士、それに子供は村の外へ出ると、カリが練習に使っていた場所に立った。
その後、神官が水の攻撃魔術で周囲を濡らし、火の攻撃魔術を使う準備が整った。
「さあ、火の魔術を使ってみてください」
子供は株された布の隙間から腕を伸ばし、魔術を使う様子を見せる。
しかし何時まで経っても、火の魔術がその手から放たれることがない。
その姿を見て、神官が戦士に顔を向ける。
「悪意を持った見学者が多くて委縮しているようです。追い散らしていただけませんか」
「うむっ。承った」
戦士が村の出入口から顔を出している村人たちへ近づき、村の中へと追い散らした。それだけでなく、他の戦士の手も借りて、この場所の近くに誰も近づけさせないようにした。
そうやって村人が追い払われ、戦士が出入口の向こうへと消えてから少しして、村の出入口付近で火が上がった。
すぐに火は消えたものの、それは火の攻撃魔術が行使されたと分かるものだった。
そしてすぐに、神官と戦士が朗らかな顔をしながら、布を被った子供を間に挟みながら村の中に戻ってきた。
「これでしばらくしても平原に火の手が上がらなかったら、カリ君の容疑は晴れますね」
「そうだな。全く同じ場所で、同じ魔術を使ったのだ。これで火事が起きなかったら、あの日の出来事はカリの所為ではないということになるな」
周りの村人に聞こえるように語る、神官と戦士。
しかし二人の言葉は、すぐに止まることになる。
どこからともなく、大声が響いてきたからだ。
「火が出たぞ!」
誰の言葉だと、声を耳にした全員が周囲を見回す。
しかしその目はすぐに、外壁際から上へと昇る黒煙を見つける。
「火の手がでた! やっぱり火の魔術が原因で、カリが犯人だったんだ!」
村人の誰かが歓声を上げるような声で、そんなことを口走った。
それは、その村人だけでなく、他の村人たちの心を代弁したものだった。
しかし、神官と戦士は笑顔になると、二人の間に挟んでいた子供から被っていた布を取り払った。
布の内側にいたのは、カリではなかった。その子供の正体は、傍らに立つ戦士の息子だった。
「その主張は、おかしいですね。今日はカリ君を連れてきていないのですが」
「火の攻撃魔術を使ったのは、オレだ。そして俺の火の攻撃魔術で草が燃えていないことは、事前に村の外に出していた他の戦士たちが確認されている」
カリでない子供と、神官と戦士の発言。
それらを見て聞いて、村人たちは気付いた。
カリを陥れようとする人物がいるのなら、この実況見分中にカリが犯人だと印象付けようと、再び平原に火を放つに違いないと考えての、噂も含めての罠なのだと。
でも、この場に集まっていた村人たちは、互いを見て安心した。
今まで村人同士で疑心暗鬼になっていたが、ここで顔を確認できる人は犯人ではないと証明されたからだ。
では犯人は一体誰なのか。
立ち上っていた黒煙が消化されて消え、外壁の壁際にいたらしき一人の人物が戦士に拘束されてやってきた。
その人物を見て、村人の一人が指を向ける。
「お前、アフだろ! お前が放火犯だなんて、なんてことを!」
村人が思わず上げた声に、アフが大声で噛み付いた。
「皆、カリが邪魔者だって言ってただろ! だからカリが村に居られなくしてやろうとしたんだ!」
アフの主張に、村人たちの顔が青くなる。
村人たちにとってカリへの迫害は、不義を働いたカリの母親の罪の連座という建前があった。そして村長から罪に問われない、ギリギリの暴力を見極めることもできた。
しかしアフは、村人のその姿を見て、カリを迫害しても良いのだと判断し、放火という罪を犯した。
「なんてバカなことを――いや待て。たしかアフは最近、生活用の魔術を一つできたばかりだって聞いたことがある。なら、短時間であんな黒煙が上るほどの火は出せないはず」
信じられないという気持ちから、また別の村人がアフを擁護するようなことを口走る。
それは的を得ているように聞こえる内容で、もしかしたら戦士が冤罪をアフに着せようとしているのではないかという疑いが持ち上がる。
しかしそうではないことは、また別の戦士がアフとは違う子供を三人連れて戻ってきたのを見て、理解できた。
そう、アフ一人の火の生活魔術で火力が足りないのなら、他の子供の手を借りて火の生活魔術の数を増やせば、平原に大きな火をつけることができる。
その新たに連れて来られた三人の子供を見て、村人の一人が青白い顔色で座り込む。子供のうち一人が、その村人の家族だったからだ。
こうして、平原で起きた火事の騒動は、犯人が判明した。




