21話
村の外の平原が燃え、危うく村も焼けるところだった。
普段火の気が起きない場所で火事が起こった原因はなにかを、村長と神官に戦士の代表、そして大人の村人たちで話し合うことになった。
村人の一人が真っ先に口を開いた。
「今日、あの子供が火の攻撃魔術を成功させたんだろ! なら、あの子供の所為に違いない!」
「村長も、そう思っているから、あのガキを倉庫に閉じ込めたんだろ!」
「そうだそうだ! あいつが犯人に違いない!」
憤る村人たちを見て、村長は難しい顔になる。
村長は公明正大さを旨としてはいるものの、村の平穏を守るためになら無実な子供を生贄に捧げることも厭わない決意を持っている。
会議に参加している村人のほぼすべての意見が、カリを犯人だと一致している。
事態の早期決着を考えるのなら、村長は真実を求めるのではなく、カリを犯人として認める方が手っ取り早い。
きっと村長は普段なら――それこそ、カリ以外にカリの無実を訴える者が居なかったら、すぐにそうしていただろう。
しかしこの場には、カリが無実だと口にしなければならない人物がいた。
カリが火の攻撃魔術を行使する現場を見ていた、神官だ。
「カリ君は確かに火の攻撃用魔術を成功させました。しかし、誤って火が草原に移らないよう、あらかじめ水の魔術で周囲を濡らしておりました。なので燃え広がるはずがないのです」
「そんなの、あの子供が手を抜いて、地面を濡らしていなかったかもしれないだろ!」
「いいえ。魔術で濡らした人物はカリ君ではなく、この私ですよ」
この神官の表明に対し、村人たちは舌鋒を鈍らせる。
意地を通すべくカリを犯人にしようと弁舌を重ねれば重ねるほど、それはカリの魔術行使を見守っていた神官を『平原に着いた火を見逃した無能』だと中傷することになってしまうからだ。
そして神官は、この村における村長とは別軸の権力者であり、戦士以上に魔術に長けた人物でもある。
村人が村長の威を借りて恫喝したり、力づくで押さえつけたりして、自分たちの言うことを聞かせるなんて真似は通用しない。
村人たちは、どう意見を口にするかを迷う素振りを続ける。
すると神官が、自分の名誉を守るための弁明を始めた。
「そも、草に火がついた下手人がカリ君であるという主張に疑問があります。カリ君が魔術の練習をしていたのは、村の出入口を守る戦士の視界の内にある場所です。もしもその場所に火が起こったのなら、戦士がすぐに消すはずです。戦士たちは、先ほどの消火活動からわかるように、全員が水の攻撃用魔術を使えるのですから」
神官が言いながら顔を向けるのは、戦士たちの中で纏め役を担っている人物。
その戦士は、問われたからには答えるという態度で、口を開く。
「火が出た場所は、少なくとも、あの少年が練習をしていた場所ではない。その場所からはるか奥から、出入口へと向って燃え広がってきたのだ」
「で、でも! ほら、魔術の火の粉が飛んで引火した可能性だって!」
「ないとは言い切れない。だが可能性を論じるのなら、村人の誰かが火をつけて、あの少年に罪を擦り付ける気だったという意見だって出せる」
「我々の誰かが、火をつけただって! そんな言いがかりだ!」
「明確な証拠もなしに、あの少年を犯人と叫ぶのは言いがかりではないとでも?」
両者の言い合いを見て、村長は青い顔になる。
現在、この場所における対立状態は、神官と戦士対村人の構図になっている。
ここで村長が、カリが犯人という説を推せば、神官と戦士から不評を買う。逆にカリは犯人でないとかばえば、村人たちからの失望を受ける。
どちらの道を選んだところで、村長にとって頭の痛い問題になってしまう。
村長は、両陣営が納得できる落としどころが見つかるまで、カリの処遇を決定することはできないと判断した。
「このまま話し合っても平行線だな。神官さまと戦士の代表は、カリが犯人でないという明確な証言をした。逆に他の皆は、カリが犯人だと主張するばかりで、証言の信ぴょう性が薄い」
「それじゃあ、村長はあの子供を無罪だっていうのか!」
「違う。証拠を探して来いと言いたいのだ。事実、平原が燃えた。つまり火付けの下手人は、確実に存在する。ならば、ここに居ない村人たちに聞き込みし、他の村人の誰もが下手人でないとわかれば、疑わしい犯人はカリだけということになる」
「確かにそうだ! よし、手分けして、あの時間に何をしていたのか聞いて回るぞ!」
村人たちが村長宅を去っていき、方々へと聞き込みに走っていく。
その姿を見送ってから、村長は一先ず結論を先延ばしにできたと安堵した。
だから村長は見逃してしまった。
神官と戦士の代表が、お互いに目配せして、何かを示し合わせている姿を。




