15話
カリは九歳になってからも、村の外で火の攻撃魔術の習得に励み続けた。
一日に何度も村の外と神殿とを往復するのは、時間の浪費だ。
カリはそう考えて、早朝に神殿にやってくると神官から火の攻撃魔術の正しい文言と発音を数度聞かせて貰い、それを覚えてから村の外に出る。そして覚えた文言と発音を意識しながら、火の攻撃魔術の練習を行うようにした。
これで時間が許す限り、カリは魔術の練習が行える。そして何度も練習できるのだから、火の攻撃魔術を習得できるのも早まる。
そう考えての方策だったが、それはカリの思い違いだったことが後に分かった。
カリが練習を繰り返して覚えた、攻撃魔術の文言と発音。
魔術が発動しなかったので、その翌日に神官に何処が間違っているかを質問した。
すると神官が指摘した場所は、カリが正しいと確信を持っていた場所だった。
「えっ、でも神官様は、そう言ってましたよね!?」
「いいえ。もう一度よく聞いてください。『火の神よ』『その御手に』『灯る火を』、そして『お貸しください』。ここまでは、生活用の魔術の文言と同じなので、間違っていません。ですが、この後『その御心に悪を許さぬ気持ちを』の部分を間違えてします。カリ君の呪文は『その心に悪を許さぬ気分を』になっていましたよ」
「間違っていた!? なら、もう一度聞かせてください」
「逸る気持ちはわかりますが、お待ちなさい。ちゃんと私の呪文で火の攻撃用魔術が発動できることを証明します。魔術を教える時間を終えた後でです」
神官から待機を言い渡されて、カリは納得しきれない気分で神殿の隅で待つことにした。
カリは時間つぶしで、神殿に集まった子供たちがどの程度の魔術を使えるようになっているかを確認することにした。
カリと同年代から上の子供たちは、生活魔術を幾つか発動させると、これで今日は終わりとばかりにお喋りを始めた。
カリより年下の子供たちのうち、魔術を発動させた子たちは遊び始め、魔術に失敗した子たちは不満げに練習に戻る。
今年神殿にやってくるようになった子たちは、当たり前のように魔術が使えていない。
そんな初心者の子たちに、神官とベティが魔術の手ほどきをしている。
そう意外なことに、ベティが神官の助手をやっていたのだ。
カリが村の外で練習を始める前、ベティは攻撃魔術を一つ成功させていた。だから今も攻撃魔術を練習していると思っていた。
その予想と現実が違ったことに、カリは何故かベティに対して裏切られた気分になった。
「いや。ベティは村長の子だ。僕みたいに、戦士になろうだなんて考えるはずがないじゃないか」
自分が抱いた気持ちが自分勝手なものだったと反省し、カリは裏切られた気分は偽りだったと解消するよう心掛けた。
そんな魔術練習の風景が流れた後、練習時間が終わりとなり子供たちは神殿から解散となった。
その後、カリは神官と共に村の外に出て、魔術の実演を行う運びになった。
まずカリが水の攻撃魔術を発動して周囲を濡らしてから、神官が火の攻撃魔術を発動した。
「では行きますよ。ちゃんと聞いてくださいね。『火の神よ。その御手に灯る火をお貸しください。その御心に悪を許さぬ気持ちを生じさせてください。その義憤でもって彼の敵を焼き払い給え』」
するすると流れるように滑らかで、危機惚れるほど綺麗な発音での呪文。
そんな呪文が完成した直後、まるで先ほどカリが撒いた魔術の水が油だったかのように、眼前一面が火の海になった。
しかしその火の海は直ぐに消え去り、半焦げになった雑草と半乾きになった地面が残った。
ちゃんと神官の攻撃魔術が発動したことを見届け、そしてカリは自分が記憶していた呪文が間違っていたことを受け入れた。




