13話
日にちをかけて、カリは闇の攻撃魔術の習得まで後一歩という段階まで進んだ。
闇の攻撃魔術さえ修めてしまえば、呪文が比較的優しい火の攻撃魔術を修めるだけで、戦士の仲間入りを果たすことができる。
いまのカリは小作人の子供という立場と、大人の手伝いという仕事から、満腹にならない程度の食料しか渡されない。
だが戦士になれたら、村を守る役目柄から、食料に関しては満足いく量を渡されることが決まっている。
父親が死んでから空腹を実感しない日がなかったカリにしてみれば、その戦士の境遇は夢のよう。
しかしあと少しで、その夢に手が届く。
カリは、神殿で練習できる時間が終わってしまったことに残念がりながら、夢の実現のために明日こそは闇の攻撃魔術を成功させると決意を新たにする。
そんなカリに、笑顔のベティが近寄ってきた。
ベティとかかわると、その取り巻きたちから反感を受ける。
そのことをカリは重々承知していたが、しかしベティ自身に問題があるわけじゃない。
ここでベティを無視するのは人の道理として違うなと、カリは応対することにした。
「……なにか用があるのかな?」
カリが質問を投げかけると、ベティはニッコリ笑顔を見せてきた。
「カリは知っているかしら。カリのお母さまについてのこと」
「僕の母さんのこと?」
なんの事だろうと、カリは首を傾げる。
カリの母親は、数日に一度程度の頻度しか畑仕事を手伝わない。それ以外の時間は、世を悲観した顔で家に閉じこもっている。
その暮らしぶりを考えると、ベティが話題にしようとしているのは、カリの母親が畑仕事をしない苦情だろうか。
カリがそう予想を立てたが、ベティの口から放たれる話は全く別のものだった。
「その様子じゃ、知らないようね。なら教えてあげるわ。カリのお母さまは、食べ物を得るかわりに、他の家のお父さまと仲良くしているのですって」
ベティの発言を、カリはすぐに理解できなかった。
カリは八歳。
カリは男女が仲良くして何が悪いのかという気持ち。
ベティは五歳。
ベティは真の意味を理解しながらの発言だったことが、屈託のない笑顔でいることからも分かる。
ではベティがどうしてそんな発言をしたかは、カリとベティの様子を遠巻きに見ている子供たちの姿を見れば予想がつく。
あの子供たちの誰かが、ベティに「こう言ってきてほしい」とカリへの伝言を頼んだのだ。
カリは、そういった背景を察知して、ある種被害者と言えるベティに礼をいうことにした。
「ありがとう。教えてくれて、助かったよ」
「感謝を受け取るわ。また明日、神殿で合いましょう、カリ」
ベティは満足といった顔のまま、取り巻きたちへと近寄り、彼ら彼女らと共に家路についた。
カリは、いまのは何だったんだと悩みつつ、母親が飢えない理由の一部を理解した。
「なるほどね。仲良くなった人から、食べ物を融通してもらっていたのか」
そういう理由があったからこそ、母親が畑の手伝いに出ないのに飢え死にしていないのだろう。
カリは納得すると同時に、腹立たしい気持ちが湧いた。
カリは今の今まで、母親が食料を得ていることを知らなかった。
つまり母親は、その仲良しな人から受け取った食料を、全て自分で食べてしまっている。
そこまで考えて、カリは自分の怒りが理不尽なことに気付く。
「僕だって、手伝いでもらった食べ物を、母さんに渡してなかったんだし」
手伝い先の村人に言われても、手に入れた食料を母親に渡していた場合だけ、怒る権利がある。
カリはそう自分を納得させて、母親に対する怒りを消した。
いい年をした男女が仲良くするとはどういう意味なのか。それをカリが本当に知るのは、まだ先だった。




