12話
神殿で子供たちから受ける嫌がらせ。
カリがそれに耐えながらも無視できているのは、村人の仕事を手伝えば食べ物という報酬が貰えるという心の支えがあるからだった。
カリは八歳ながら、生活魔術は全般に、攻撃魔術も幾つか使える使い手だ。
生活魔術が必要な場面では重宝されるし、水の攻撃魔術で溜め池に貯水する役目を優先的に回されるし、戦士の予備として村の出入口を守る役目もやらせてもらえる。
それらの仕事を手伝えば、その分だけ食料を渡してくれる。カリの母親が畑仕事の手伝いを疎かにするため、渡されたその場で食べることが必須条件ではあってもだ。
そうした村人たちの役に立っているという自負と、飢えずに日常を過ごせる満足感が、カリの心を平常に保つことに繋がっていた。
しかし、この村人の手伝いを積極的にやっていることが、子供たちからの嫌がらせが多くなる理由の一つであることを、カリは後に知ることになる。
その切っ掛けは、アフが嫌がらせをしてきた際に放った言葉からだった。
「いい加減にしろよ! 小作人の子供が!」
アフが握り込んだ拳を放ち、カリは肩に食らった。
地味に痛い打撃に、カリは殴られた場所を押さえながら非難を口にする。
「意味の分からない理由で殴ってくるなんて、なに考えてんの?」
カリが睨みながら問うと、アフはその態度が気に食わないと喚く。
「殴ったのは、お前のせいだ!」
「意味わからない。僕はアフに何かしたことはないけど?」
だから何時ものようにベティを理由にした嫌がらせだろうと、カリは考えていた。
しかし今日のアフの理由は別だった。
「しらばっくれんな! お前、昨日、父ちゃんの仕事を手伝っただろ!」
「手伝ったけど、それがどうかした?」
アフの父親は、アフがそうであるように、気難しい人物だ。しかし仕事を真面目すれば、理不尽なことを言ってくるような人物ではない。
昨日アフの父親に求められて畑仕事を手伝った際も、カリは褒められこそしなかったが、仕事内容で責められたりもしなかった。
もしカリの手伝いに落ち度があったとして、今日になってアフを通して文句を言ってくるのは、そんなアフの父親の気性に合わない。
だからこそ、カリは本当にアフの言い分が理解できずにいた。
しかし、次のアフの言葉が、文句を言っている理由を語ってくれた。
「父ちゃんが言ったぞ! お前は真面目に働く! 見習えって!」
カリは一瞬、言葉の理解が追いつかなかった。
だってアフの言葉は、アフの父親がカリを褒めていたという内容だ。
それがどうして、父親が褒めた相手を殴るという結果に繋がるのかが繋がらなかったのだ。
けれどアフの表情に悔しさがあるのを見て、ようやくカリは事情を理解することができた。
「僕がカリの父親に褒められたのが、面白くないってこと?」
カリは把握した事情を口にして、なんだそれはと呆れた。
父親からの誉め言葉が欲しいのなら、アフが今一番やらなければならないことは、真面目に父親の仕事を手伝って見せることだ。
神殿での魔術練習中にカリを殴りつけたところで、カリの父親が褒めてくれるはずがない。
そういった道理を語ろうかと考えて、カリは止めた。
(助言してやるほど、僕はアフと仲良くないし)
カリはそう判断すると、殴られて痛む肩をもう一度撫でさすってから、アフを無視して攻撃魔術の練習に戻ることにした。
その態度が気に入らなかったようで、アフがもう一度殴りかかってきた。
カリは殴られる衝撃に耐えようと身を強張らせたが、アフの手が身体に届くことはなかった。
いつの間にか近づいてきていた神官が、アフの握り拳を掴んで止めたからだ。
「こら、アフ君。魔術の練習をしないで、なにをしているんですか」
「魔術の練習なんかより、大事な話があるんだ!」
「いいえ。この時間の中で、魔術の練習より大事なものは存在しません。ほら、付きっ切りで見てあげますから、今日こそ生活用の魔術を一つだけでも、出来るようになりましょう」
神官の手によってずるずると引きずられ、アフはカリの近くから離されていった。
カリは安堵の息を漏らしてから、不穏な視線を感じて周囲に目を向ける。
カリの目に入ったのは、アフの行動が止められたことに対して、残念に感じてそうにしている子供が何人かいた。
どうして、あの子供たちにまで睨まれているんだろうと、カリは疑問に感じた。
しかし、その子供たちの顔を確認して、あることに気づく。
カリが最近手伝いに行った人の子供ばかりだったからだ。
(もしかして、アフと同じように、親が僕を褒めたからか?)
そう気付いたからと、カリは村人を手伝うことを止めることはできない。
母親がまともに働いてくれないため、カリが手伝いを止めてしまえば自分が飢える結果が待っている。
カリは食料を優先に考え、その結果子供たちから更なる嫌がらせを受けても仕方がないという決意を固めた。




