11話
カリは八歳になった。
先日、ようやく光の攻撃魔術を成功させることができ、闇の攻撃魔術の練習に移ることができた。
成功できたときは、関門の一つをようやく抜けられた実感から、カリの心には安堵が広がったものだった。
しかし安堵できたのは、そのときだけ。
それ以外の日々は、常に悩みがあった。
何に悩んでいるのかというと、カリがベティを褒めきれなかった日の翌日から、子供たちから嫌がらせを受けるようになったからだ。
その嫌がらせは、一つ一つは大したことのないものばかり。
例えば、すれ違うときに小突かれたり体をぶつけられたり、呪文の詠唱をしていると前に立たれて邪魔されたり、最も酷いものでも生活魔術で水をかけられて服を軽く濡らされたりするぐらい。
そんな風に一つ一つは小さい事象ではあっても、一日に何人もやられれば、精神的には大きな負担になる。
カリは止めさせようと努力はしたが、『みんながやっているから』という免罪符で、誰も止めようとはしてくれない。
神官に仲裁を頼んでも――
「カリ君が上手く魔術を使えるからこそ、そういう嫉妬からの行動を受けてしまうものなのです。その人の心を止めることは、とても難しいのです」
――という説法で、対処が済んだ扱いになってしまった。
カリは、誰の助けも得られないと悟り、戦士になるための攻撃魔術の練習に一層の力を入れることに決めた。
そんな日常を送ってきて、カリが新たに気付いたことが二つあった。
一つは、どうして子供たちがカリの邪魔をするのか。
もう一つは、神官が子供たちの問題に積極的にはかかわろうとしないのか。
子供たちが嫌がらせをしてくる理由は、とても単純で、ベティのためだった。
ベティは、上手く褒めてくれなかったカリのことを快く思わなかった。
そんなベティの心情を取り巻きたちが察知し、ベティが嫌なものをやっつけるという理屈で、カリに嫌がらせを実行する。
ベティ自身は、この嫌がらせをどう思っているかは、実行者たちを褒めることをしていないことから分かるように、嬉しく思っているというわけではない。
そもそも、子供たちがカリに嫌がらせをしているのは、ベティは自分と関係ないと考えている。ベティが嫌がらせをしろと、そう命じたことは一度としてないからだ。
それでもカリが対処に困っていることは、ベティも分かっている。
だからカリが嫌がらせに耐える姿を見せた際には、ベティは『そちらがお願いするのなら、助けてあげる』といった態度を取る。村長の娘であり子供たち皆を率いている自分こそが、諍いの仲裁者に相応しいと考えてだ。
そんな様子を見せるベティに対し、カリは意固地になって頼ることを選ばなかった。ベティを頼るということは、ベティ本人に自覚がないにしても、災いの元凶に膝を屈するようで口惜しかったからだ。
頼ろうとしないカリの姿に、ベティは不満を更に募らせる。ベティにとってみたら、助けの手を伸ばしているのに、それを拒否したように見えたからだ。
この二人の気持ちの擦れ違いがおこると、またベティを不愉快にさせなたと、カリへの嫌がらせの頻度が上がる結果に繋がった。
そういった事態の流れがあり、闇の攻撃魔術を学び始めた今の現状はというと、すっかりカリへの嫌がらせが常態化している状態になっていた。
毎日のように続けてきたこともあり、子供たちのカリへの嫌がらせは巧みになり、さらには遊び心も加わっている。
神官の目に映らない場所から、よりカリが嫌がるように、そして嫌がらせを無視できないような被害を与えるように、子供たちは工夫するようになったのだ。
いまもまた、子供の一人が神官の目を盗んでカリに近寄り、呪文を呟いている口へ目掛けて砂を投げつけてきた。
「うえっ、ぺっぺ」
口に入った砂をカリが唾と共に吐き出すと、砂を投げた子供は忍び笑いをしながら仲間の元へと戻っていった。
カリは下手人を一睨みしてから、気分を落ち着けて闇の攻撃魔術の練習に戻った。
一通りの攻撃魔術を修めて戦士になりさせすれば、こんな嫌がらせは終わると、そう考えて。




