プロローグ
地平線から顔を出した太陽の光が、原生の平野が広がる土地を照らし始める。
そんな平野の中に、一つの開拓村があった。
村長の家を中心に、周囲に家屋が二十ほどが建っていて、その外側には畑や溜め池があり、最外周部には石を人の胸までの高さに積み上げた外壁がある。
そんな村の溜め池の一つに、とある子供の姿があった。
黒髪の純人種で、痩せた体躯に擦り切れる寸前の古着を身に着けている。
その子供は、両足を溜め池の中に入れながら、自身の前のある中空に目を向けている。
中空には、普通にある空気だけでなく、一抱えほどの大きさの水の球が浮かんでいた。
その水の球は、子供が右腕を持ち上げて少し動かすと、形が変化して四角い形へと変わった。
子供が手を振るたびに、四角から三角、三角から多数の球、多数の球がそれぞれ野鼠の形へと変わっていく。
子供が新たに左手を動かすと、水の野鼠の隣に、新たに一抱えほどの砂の集まりが出現した。
その砂も、子供が手を動かす度に形が変わっていき、最終的には岩に変わった。
黒髪の子供は、それらの変化を楽しみ終わったようで、左右の腕を外に広げるように振った。
次の瞬間、水と岩は空気に溶けるように消え去った。あたかも、初めから存在していなかったかのように。
そんな全ての変化を見終わり、黒髪の子供は笑い声をあげる。
「あはははっ。魔法使いだ、僕は魔法使いになったんだ! 貴族にしか魔法使いは生まれないっていう神官様の話は、嘘だったんだ!」
ケラケラと笑いながら、黒髪の子供――カリは顔を、自分の位置から一番近い外壁へ向けた。
魔法使いになったカリは、目では見えてはいないものの、村を囲む石積みの外壁に触れる生き物を感知していた。
カリは魔法使いになったばかりで感覚を掴み切れていないため、その生き物が何なのかはわからない。だが村の住民ではないことだけは分かる。
畑の作物の匂いに寄ってきた野生動物か、はたまた人を害するために淀んだ魔力から生まれる魔物か。
どちらにせよ、村にとっては害となる相手だ。
カリは右手を持ち上げ、その生き物の方へ掲げると、手を強く握り込んだ。
カリの手には腐りきった薪を掴んで潰してしまったような感覚が走り、耳には外壁に近寄っていた生き物の骨や肉が押しつぶされる音が聞こえた。
悲鳴が上がらないほどの、瞬殺だった。
「魔法使いはなんでもできる。なるほど、本当にその通りみたいだね」
カリは溜め池から足を引き上げると、立ち上がって伸びをした。
するとカリの瘦せ細った肉体が、みるみるうちに健康な肉付きへと変化していく。
「魔法使いは食べるものや飲むものも必要ないのか。ならどうして貴族は、民から税と取るんだろう?」
そんな疑問を口にしながら、カリは十歳である自分の生い立ちを回想し始める。魔法使いでなく、村人から虐げられる存在だった、そんな自分の人生を。




