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2-32奮闘した悪役令嬢の集大成⑤

 売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。慎重に返答すべきだったと、今更ながらに後悔する。


 昨日、一日中ブライアン様が私の元を訪ねてくるのを待っていた。それなのに……結局来なかった。


 私になつくザカリーが、ブライアン様に問題があって報告しないわけがない。 

 どうやっても、ブライアン様が私との約束を反故にする理由が分からない。兄だってそう。


 父の書斎にあると思しき王城からの手紙。ザカリーの手腕をもって、部屋を漁ってもらったのだが、どこを探しても見つからなかった。

 ということはだ。

 ……兄は何かを知って、私へ情報を渡さない手段に出たのだろう。昨日はずっと帰ってこなかった。


 今朝、王城から使いの者が、白い衣装を持って馬車で迎えにきた。

 少し光沢のある白い生地で仕立てられたドレスは、余計な装飾は一切ない。足首まである清楚なものだ。

 デザインはシンプルだが、最高品質の生地で作られ、既製品には見えないオーダーメイド。

 急に降ってわいた私のために、これを準備されていた奇妙さを払拭できない。

 ……けれど、王城の招きを不意にできず、一人で手配された馬車に乗った。


 事情が分からないエリーは、ブライアン様の遣いだと勘違いしたのだろう。疑う素振りもなくドレスを受け取り、私に着せたのだから。

 昨日、彼女に変な話を聞かせたせいで、鼻歌交じりに「デートですね」と浮かれていた。


 大聖堂の付近で馬車が止まれば、私を出迎える中年の男が待ち構えている。

 仕立てのいいタキシードを纏う眼鏡の男を見て、全身が凍るように冷えた。


「バーンズ侯爵令嬢。陛下の指示で、本日儂が誘導を担当する」

「どうぞよろしくお願いいたします。コーネル公爵様」

「大聖堂前広場は、既に参集した貴族たちがひしめいているからな。裏門から案内する」

「はい」と静かに、この国の宰相へ返す。

 彼に聞こえないくらい小さく、はぁっと息を吐く。


 重鎮までお出ましとなれば、モブの罠やシャロンの姑息な仕業の域を超えた話だ。


 事情も知らない式典の主催者は、陛下なのか……。サミュエル殿下ではなく。

 この国の最高権力者の式典となれば、もう「冗談でした」で済まされなくなった。


 バーンズ侯爵令嬢が正式な式典にケチをつけたと。お父様に監護責任を問える事態だろう。


「聖女候補に異議を唱えた者は、バーンズ侯爵令嬢だけだったな。自分の登場まで名前を明かさないように伝えたのは、自信の表れなのか?」

「そのように伝わっているのですか……まあ、自信はありますが」


 ……どうやら完全に嵌められたな。衣装まで準備する用意周到さ。私を初めからこの式典の駒の一つにする気だったのだろう。


 正門と反対にある、裏門から大聖堂に入る。

 そして、大聖堂の外の回廊を、宰相に伴われゆっくりと歩く。

 その途中、ちらりと見えた大勢の参集者の姿。

 そして最後はどこから入ったか分からないが、大聖堂の中を突き抜けるように進む。

 いよいよ正面入り口が見えてくると、薄暗い中に、もう一人の女性の姿がある。


 例の式典は、屋外でするのだろう。目前に迫った重厚な扉を開けば、演劇場のステージくらいの石畳が広がるはずだ。

 そう。いつもは、観衆の一人として見上げる舞台が。

 

 その、聖域となる石畳から、十段くらいの階段を降りれば、大聖堂前広場と呼ばれる鑑賞スペースがある。

 まあ、貴族たちが、こぞって参集する式典と言えば。大きいところで戴冠式。日ごろよくあるのは、各王族の誕生日のお披露目だろう。


 今日に限っては、かつて耳にした事もない式典である。

 参集者の放つ空気は、何が始まるかのと期待で落ち着かないようだ。ざわざわと外が賑やかしい。


 私と同じ服装で佇むシャロン。振り向いてこちらを見る姿は、獲物を待っていたと言わんばかりに、にやりとした。


 そして宰相は、脇から外に出て姿を消した。

 そうかと思えば扉が開き、陛下の声が聞こえる。


「五百年ぶりに聖女が誕生する。今日はその人物の選定を執り行う。ここに集まった者たちは、聖女として相応しい人物に惜しみない声援で賛意を表明して欲しい。聖女候補が決まり次第、王子の婚約発表をこの場で合わせて行う」


 この国で有名な聖女伝説。絵空事ではなかったのが嬉しいのだろう、陛下の挨拶の直後に「わぁーっ」と、大歓声が起こる。


 ステージの右横には陛下、王太子、第二王子の順で並ぶ。王妃を連れていないのは、聖女候補以外の女性をこのステージに乗せないためなのか。

 王族の後ろにブライアン様の姿がある。式典用の華美な装飾が付いた騎士服を纏い、スッと伸びた美しい姿勢で警護にあたる。

 扉のすぐ左側には、七色の光を放つ実をつけた木があり、少し離れた隅に兄の姿が見える。


 ブライアン様と兄。その二人が真っ青な顔で見つめ合っているのだから、私の与かり知らぬところで何かの計画が進行していたのだろう。


 思慮は浅いが、悪役令嬢の観察力を舐めてもらっては困る。表情を見れば分かる。彼らの計画をご破算にした事くらい。


 ……でも、ブライアン様が何か違うように見える。「何が?」と言われてもすぐにピンとこないが。


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