2-19聖女の式典② ※シャロン視点
「兄とは会ったばかりと言っていたけど、シャロンは兄と随分親しかったんだね。僕とシャロンの話をすれば、取り乱していたよ」
「あたし、王太子殿下に一目ぼれをされたのよ。無理だと伝えても少しも聞き入れていただけなかったから。どういうわけかその日、道も塞がっていて、色々断れなくて。しばらくお話をしただけよ」
「誤魔化さなくてもいいいさ。兄が直ぐに寝所に誘わない方がおかしい。いつものことだし、別にいいけど」
「バーベナは上手くいったんでしょう?」
「ああ、ワインをいいだけ煽っていたから、僕が勧めたお茶を疑問も持たず素直に飲み干してくれたけど……」
「それなら王太子殿下を気にする必要はないじゃない。正妻の部屋に移してよ。ここは何だか肩身が狭いわ」
「言っておくけど、シャロンの価値は下がったから。セドリックが本当に聖女の呪文を読み解いたようだ」
「嘘でしょう。セドリックが読めるはずがない」
「いいや、バーベナの魔法が中和された。兄はただ寝過ごしたと思っているが、眠りの魔法から目が覚めた。ってことは、シャロンがいなくても、聖女の実は手に入るということだ。眠り続けると思っていたから、兄にシャロンとの婚約の話をしてしまったんだよ。この先、シャロンにこだわる兄に邪魔されると困るから、聖女披露の式典は、ぎりぎりまで公表しない」
「目が覚めたって……何が起きたんだろう」
あっ。一人いた。アリアナだ。
もしかして、アリアナも聖女の実を狙っているのか?
うわぁ~、本当に馬鹿ねあの女。最後のイベントを知らないのであれば、碌な結果にならないのに。うふふっ、それも見ものだけど。
でも、あたしの聖女の実はあげない。
だ〜って。決して成功しない最後のイベントは、手を出さなければ問題はない。
攻略対象がブライアンじゃなければ、彗星なんて、黙ってこの国に落とせばいいのよ。落ちるべき土地へ。ブライアンの仕返しに丁度いいもの。
「あたし、以前アリアナから聞いたことがあるわ。クロフォード公爵様を誘惑して、王家の実を奪うと言っていたはずよ。セドリック様が読み解いた呪文を使って、あの三人が、あなたから聖女の実を奪うつもりでいるのよ」
「ブライアンが? チッ。また関わりたくない男を巻き込んでくれたな」
「でも、そのために禁断の花の封印を解いたんでしょう」
「まあね。持っているのに越したことはないだろう」
ブライアン相手に敵襲をかけても惨敗するのは、火を見るよりも明らか。
「聖女にしか中和できない魔法でも、アリアナに聖女の実を奪われたら、その意味がないわよ」
「いつも兄の近くにいるだけでも煩わしいのに、ブライアンを相手にするって、思いやられるな……」
幼さの残った顔貌のサミューが、苦々しい顔を見せる。
所詮、浅知恵しか働かないから直ぐに王籍を剥奪される。だが、彼がいないとあたしの立場も揺らぐ運命共同体。ここは一つあたしの出番だ。
「あたしにいい考えがあるわ。彼相手に真っ向から勝負をかけても無駄よ。彼に敵う暗殺者なんて、誰もいないでしょう。あたしが準備をしてあげるから、視察から戻ってきたらサミューは最後の仕上げをしてちょうだい」
「頼もしいなシャロンは」
そう言ってサミューは、あたしの髪を指に絡めて楽しむ。結局、あたしに魅了されているんだもの。
そうよ。ルーカスだって途中何度かあたしに不満を漏らしていたけど、なんだかんだと、あたしからは逃げられなかった。陛下さえも、あたしを庇護してくれる。
やはり持つべきものはヒロインの力。
ブライアンだって王族には盾突けない。
アリアナが何を企もうと、勝てる訳ない。
キャラの力、権力、知識。あたしの方が全部勝っているんだもの。
このあたしを侮辱したあの二人には、目に物見せてやる。
花の祭典の仕返しはさせてもらうから。あたしに泣きっ面を見せてもらうわよアリアナ。
あたしを侮辱したブライアンは、消えてしまえばいいのよ。絶対に許さないから。
ゲームの展開も碌に知らないくせに調子に乗って、あたしの聖女の実を奪うつもりでしょうが、そうはさせない。
「もし、アリアナが聖女の式典に言い掛かりを付けてきたら、あたしと一緒に参加させてあげましょう」
「どうして? そんなことをすれば、向こうは侯爵家だ。それもブライアンが味方にいるのであれば、シャロンは不利だろう」
「サミューは素直ね。普通に考えて陛下が用意した花が偽物なわけないでしょう。偽物だと言えば、大衆の前で言いがかりもいいとこよ。花が光らなければ、アリアナが悪いのよ。得意気に呪文を口にして、何も起きなければ侯爵家の令嬢よりあたしの方が勝っていると知らしめられるもの。その方が、この先、誰からも文句はないでしょう」
「ああ、確かにそのとおりだね。言い掛かりを付けた者として、いくらでも処分できるし、都合がいい」
楽しげな笑い声が、仮住まいの部屋に響く。
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