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2-17決意

 一切躊躇のない兄の尋問。兄もまた、ブライアン様から秘密裏に情報を得ているのだろう。第二王子に関して。


 となれば、いきなり本題へ入っても問題はないはずだ。黒幕が動き出したとなれば、時間は惜しいと口を開く。いつもの調子で。


「暗殺者から狙われているのに気付いたから、『私を殺すのをやめて、手を組もう』って、説得していたんです。彼が第二王子から依頼を受けていたところまでは聞けたんだけど、まあ、ちょっとだけ話し合いがもつれてしまって」


 それを聞いた兄に白目をむかれ、ブライアン様はというと、よほどショックを受けたのか、今しがた拾った矢をバサバサッと畑に落とす。

 そして額に手を当てたブライアン様が動かなくなり、「殺すのをやめて手を組もうって」と、ブツブツ呟いている。

 まずい、伝える順番を何か間違ったろうかと思ったが開き直りも肝心。問題はないと続けた。

「ほら、こうして無事だったし。結果的には上手くいったでしょう」


「上手くいったって……。いやいやいや、何をやって――……。わっ、分かっている。アリアナを一人に放っておいた私が悪いのは承知している。だが、頼むから、あまり無茶をしないで欲しい」

「もちろんです。勝率を上げるため、準備は怠りませんでしたから。それにブライアン様も来てくれて、約束の弓馬も見れましたし、ふふっ」


「……笑っている場合じゃないだろう。私が間に合わなければ、どうなっていたか分からないじゃないか。あっ、そういうことか。私が来るのを予見していたのか。なるほどな」


 ブライアン様はふむふむと小さく頷き一人で納得している。


 ……いつも斜め上の解釈をするブライアン様が、またしても訳の分からない話を一人で納得し始めた。何故だ……。

 だが、油断してはいられない。この場に兄がいることを忘れてはならない。事態が混乱する前に、すかさず否定する。


「全く違います!」

「いや。もう、全て分かったから隠さなくてもいい。さっきの暗殺者の未来も何か見えていたのだろう。奴に叫んでいる言葉は、はっきり聞こえていた」


「それは……」

「アリアナが帝国の皇子のことを知っている時点であり得ない。この国で皇子の存在を知る者は公爵位以上の人間に限られているからね。……となればバーンズ侯爵家では知り得ない話で、予見しか説明がつかない」


 真面目な口調で言い切られたが、予見という大層なものではない。

 正直に言えば「前世のゲームの知識です。てへへっ」だ。

 だけど、とても言えない。この国に暮らす人々に失礼だし、自分でもおかしいと思う。

 そこを伏せるとすれば、「もう予見でいいや」と思えてくるから、突っ込むのをやめる。


 話を進めるためには証拠が必要だろうと、横に置いた鞄の中に手を入れ、ガサガサと探る。無造作に詰め込んだ荷物に埋もれるようにしてある、小さな缶に指が触れる。それを指でつまむようにして持てば、ブライアン様の掌に乗せた。


「その缶を昨日。アルバート殿下から押し付けられるように渡されたんです。何かを聞く前にサミュエル殿下がいらして話は終わってしまいましたが」


 しげしげと缶の外周を確認するブライアン様。その横から兄も、怖いくらい真剣な顔で覗き見る。だが、なんの発見もなかったのだろう。表情を変えることなく、パカッと音を立て蓋を開けた。

 その瞬間「バーベナ! これの聖女の呪文は?」と、目を見開く二人は、同時に大きな声を上げた。


「『しばしの眠りを』です。ほら、見てください、花がチカチカと光っているから間違いなくジェムガーデンの花なのに、呪文を伝えても花が光りませんでした」

 ブライアン様は、バーベナの見る角度を何度も変えながら、不思議そうな顔をする。


「あっ、呪文を唱えると、花が金色に光るんです」


「私には光っては見えないが……。だが、呪文を唱えると金色に光るのは、セドリック殿から聞いて理解しているつもりだ」

「は⁉ お兄様がどうして?」

 

 兄のことだ。建国記念の翌日。強い光が見えていたのに、知らん顔をしてもなんら不思議ではないと思えてきた。私を騙したのか。そう思いながらキィーッときつい視線を向ける。


「アリアナ、よく聞いてくれるかな。アリアナがカモミールを光らせたのは気付いていたけど、それを伝えて、アリアナが聖女になるのが怖かったんだよ」


「どういうことですか?」


「予見で知っているかもしれないけど、聖女の実を授ける者を陛下が探しているんだ。アリアナが聖女の魔法の鍵を開けられるとなれば、誇らし気に言いふらす姿が頭を過った」

 一撃で痛い所を衝かれる。兄の言ったとおり、呪文が分かり腹の中で歓喜した。

 それに気付いていたというのなら、私よりむしろ、的確に予見しているでしょうに。

 なにより、兄は、さもさも当然のように話し終えたが、こちらは聖女の実の存在など知らぬ。

 今日一番の素っ頓狂な声を上げる。


「えっ? 聖女の実は既にあるのですか!」

 兄は声を出さずに、大きく頷く。

 聖女の実があることにも驚きだが、そもそも実があるのなら、転生者の可能性がある第二王子。彼がとっくに手にしていてもおかしくないはずだ。


「陛下は授ける人物を探しているようですが、王子が力を得ればいいですよね?」


「それは私も陛下も既に試した。けどね……ジェムツリーに弾かれて、男だと木の枝に手を伸ばすことはできないんだ。名前のとおり、女性でなければ力を得られない。そのために、陛下は聖女を城に招く準備をしている」


 うん、それなら聖女の実は安全ってことだ。

 警戒すべき第二王子自らが、その実を手にできなのなら問題ない。そう判断できる。


 これで香澄から聞いた話が繋がった気がする。

 聖女の魔法を行使しても、ブライアン様の協力なくしては、彗星を上手く壊せないのだろう。多分……そう多分。


 そして、ブライアン様の攻略が難しいのは、第二王子をその座から退ける必要がある。だからだろう。


 それが分かった以上、私の決意に一点の曇りもない。それにブライアン様の顔を見ると、少しの迷いも起きない。

 相手が第二幕を攻略した猛者であろうと関係ない。卑怯な者の手に強大な力は渡さない。


 彼とならできる!

 勝算しかないない勝負。私がやらなければこの国の未来が危ない。

「ブライアン様。私少しおかしなことを言いますが、付き合っていただけますか?」

「ああ。アリアナとなら、地獄まで付き合うと誓う」

「二人で第二王子の悪事を暴いて、ちゃっちゃと聖女の実をいただきましょう。彗星なんて、私が砂のように散らせて見せますわ。流石に魔法なんて使ったことはないし、一発勝負で台風を掻き消す自信はないけど、失った自然は蘇らせることは出来る気がするもの」


「それでは、また二人でここに来よう」

「はい。そうしましょう」

「おや。二人というのは聞き捨てならないですね、公爵様。我が家の汚名になりかねませんから、大概になさってください。アリアナ、男性の誘いにホイホイと軽率な返事をしてはいけないよ」

「まあ、そうですけど……」


 兄の謎な主張。それを聞き慣れた様子のブライアン様は、動じることはない。相当失礼な気もするが、ブライアン様は怒りもしないのだから。

 知らないうちに兄とブライアン様は、やけに親しくなったようだ。


 一方の私は、王都への旅路。シスコンの兄対策に悩まされそうだ。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

次話は、時を戻して視点を変えます。

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よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[良い点] ブライアン様が助けに来てくれて良かったです。。(お兄様も) これからまたいろいろなことがあるのでしょうが、2人で幸せな未来を切り拓いていってほしいです! 応援しています!
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