表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/1335

91

 翌朝、ログインすると外が随分と暗かった。

 星空は見えない。

 時刻は午前5時である。

 曇っているだけなら良かったのだが。

 どうやら小雨が降っているようだ。

 陰鬱な雰囲気が漂っている。

 雨はちょっと苦手です。



 今日から何やらイベントらしきものが始まるらしいが、参加するかどうかは決めていない。

 依頼優先だな。


 装備を身に着けると家の外に出てモンスターを召喚していく。

 ヴォルフ、残月、ヘリックス、黒曜といった陣容だ。

 レギアスの村周辺はPK職が多い、と聞いている。

 移動優先で陣容を組んでいるのだが、索敵でもかなり有利になるだろう。

 マジ便利です。

 そして何気にビビりなオレ。

 返り討ちにするにしても認識できなきゃ意味がありませんから!

 一方的に奇襲を受けるのは避けておきたいのですよ。



 雨よけにコートを着込んで残月に騎乗する。

 土魔法の呪文、ダウジングで黒曜石を探しながらゆっくりと移動した。

 街道に出るまでに黒曜石は2個を拾っている。

 地味だ。

 地味だけど重要な事なのです。

 矢尻素材以外にも使い道はありそうだしな。



 街道に出るとプレイヤーの姿もみかけるようになる。

 移動するパーティは勿論多い。

 はぐれ馬を包囲して狩りの真っ最中のパーティにも遭遇した。

 明らかにゲームを始めたばかりのパーティもいる。

 こうしてみると、このゲームにも徐々に多様性が見られるようになったな。

 結構なことだ。

 いつも同じ風景というのもつまらないしな。



《フレンド登録者からメッセージがあります》



 レギアスの村に入った所でメッセージが来ていた。

 ラムダくんからだ。



『現在PK職のパーティを追跡中です。少し遅れるかも知れません。終わったらまた連絡します』



 ほう。

 朝からマメだな。

 まあ獲物がいるというのは結構な事である。

 気にせずじっくりと狩りをしていていいよ、と返信だけはしておいた。

 オレの場合、時間はそんなに気にしなくていいからなあ。



 小雨のせいか、屋台は普段よりも少ないように見える。

 露店は普段通りだ。

 雨が降っているのを見越してコートの類を目立つようにしている所が多い。

 まるでビニール傘みたいだ。


 リックが商売をしている露店も同様であった。

 コートをサイズ毎に展示している。

 商売人の考える事は似てくるものなのだろう。

 そんな中でいかに差別化できるかが勝負だ。

 リックの店の場合、マネキンのような物に装備一揃いを着せて展示してあった。

 実に目立つ。

 分かり易いアピールになっている。



 優香の屋台で朝食を買い込んだ。

 ついでに昼食と夕食の分も買い込んでおく。

 やっぱりここの食事の方が美味いんだよな。


「おはようございます」


 屋台裏の机にマルグリッドさんとレン=レンがいた。

 そう。

 2人にはそれぞれに作成依頼をしてある。

 進捗状況を聞けるかも知れない。


「あらキース、おはよう」


「おはようございます、キースさん」


 オレの顔を見てリックも机に来る。

 とは言え売れる品物は少ない。 

 細々とした物を除くと極彩色の翼、アイオライトくらいしかないのですよ。

 重晶石とかもあるが大した金額にはなるまい。

 おっと。

 アイオライトで更に強化できるのか、マルグリッドさんに聞いておこうか。


「アイオライトでこれ以上の強化はできそうですか?」


「多分無理ね」


 そうなのか。

 残念。

 だが朗報もあるようだ。

 オレの目の前にツァボライトとブルースピネルがあった。

 銀の台座に嵌め込んである。

 【鑑定】してみよう。



【素材アイテム】ツァボライト+ 品質C+ レア度3 重量0+

 緑色のガーネット。赤色系のガーネットよりも希少価値がやや高い。

 透明度の高いものは魔法発動用に人気があり高額になり易い。

 楕円状多角形に整形し研磨され、銀の台座に嵌め込まれている。

 [カスタム]

 台座に呪符紋様『菱』が刻まれている。



【素材アイテム】ブルースピネル+ 品質C レア度3 重量0+

 八面体の結晶を為す半透明鉱物。

 正八面体に整形し研磨され、銀の台座に嵌め込まれている。

 [カスタム]

 台座に呪符紋様『格子』が刻まれている。



 ほう。

 違う紋様には意味があるのだろうか?


「台座の加工だけど、今の私に出来る最高レベルが菱型なの。どんな効果になるかは不明なんだけど」


「これ、首飾りに付けてみていいんですか?」


「勿論。そのつもりで持ってきているんだし」


 オレは革鎧を脱ぐと白銀の首飾りを外した。

 机の上に置いたらあっという間にマルグリッドさんが台座を外していく。

 そしてツァボライトを中心に配置。

 その両脇にブルースピネル。


「明日の朝にはアイオライトが2つ追加できるわ。どうなるのかしらね?」


 オレに手渡された白銀の首飾りは以前とはまた違う輝きを放っているように見えた。

 【鑑定】してみる。



【装飾アイテム:首飾り】白銀の首飾り+ 品質C+ レア度3

 M・AP+10 重量1 耐久値120

 銀の玉鎖で作られた首飾り。銀製の鎖としてはかなり丈夫。

 魔法発動用に強化されている。

 [カスタム]

 ツァボライトを嵌め込んだ台座を連結して強化してある。

 ブルースピネルを嵌め込んだ台座を連結して強化してある。

 ※呪文のMP消費が微減、状態異常抵抗の判定が小上昇



《これまでの行動経験で【鑑定】がレベルアップしました!》



 おお!

 MP消費が減るのは地味に有難い。

 無論、M・APの上昇もかなりいい感じなのだが。

 そして【鑑定】も併せてレベルアップか。

 地味であるが有難い。


「防寒着は今日の昼までには出来上がるけど?受け取りは明日の朝でいいのかな?」


「その方が有難いですね」


「じゃあ明日の朝にお披露目ね。楽しみにしてて!」


「はい」


 なんだろう。

 期待していていいんだろうか?



「じゃあこっちは買取りでいいのかな?」


 リックが机上のアイテムに目を通していく。

 脳内では既に計算をしているのだろう。


「あ、アイオライトは2つとも私が引き取りたいけどいい?」


「そう言うと思ってました」


 リックがマルグリッドにアイオライトを渡す。

 まあ順当なんだろうな。

 オレの実入りには大きく影響はしないだろうけどさ。


 結局、売るものが少なかったものの、収入は結構な額になった。

 高額アイテム万歳。

 でも今日は別のマップに行く予定だ。



 屋台裏を辞去するとレギアスの村の出入り口で暫し迷う。

 まだラムダくんはPK職を追っているんだろうか。

 待つのは性に合わない。

 森の中で狩りをしながら時間を潰そうか。




 森の迷宮方面に向かう。

 他のパーティの往来もそこそこにある。

 この状況ではPK職も狙ってこないかもな。

 見られたら困るような稼業だし。


 最短経路からかなり外れた場所をうろうろしながら適当に暴れギンケイ(メス)を狩っていく。

 周囲に他のプレイヤーの気配はない。

 ないのだけれど。


 ヴォルフが足を止めて周囲を気にし始めていた。

 木々の間を飛んでいる黒曜も何かを感じ取っているようだ。

 オレの左肩に止まっているヘリックスは悠然としている。

 だがその目が一点を凝視していた。


 方向はオレから見て左前方。

 樹木の影に人の気配があるようだ。

 その手前に人がどうにか通れる幅で獣道があるようだが。

 黒曜が羽音を立てずに様子を見に行った。

 明らかに何者かが潜んでいる。


 だがヴォルフは他の方向にも注意を払っているようだ。

 気にしているのは匂い?

 どうやら相手は1人ではないらしい。


 いや。

 半ば包囲されてるのか?

 人数がやたら多そうだ。



 オレの周囲で争う気配が同時に起きていた。

 3箇所だ。

 ヴォルフが動きたがっていたようだが控えさせる。

 何が起きている?


 黒曜の位置からはその全てが見渡せていたようだ。

 プレイヤー同士が争っている。

 黒曜の目を通してでは【識別】が効かない。

 確認するには接近するしかないか。



 オレの右方向で1対1で争っていた連中だが、片方が死体となって地面に転がったようだ。

 倒したプレイヤーは他の場所に移動していく。

 黒曜マジ便利。


 死体に近寄って【識別】してみるとPK職だった。



 久留間 Lv.8

 シーフ 死体 反撃許可あり



 【識別】はギリギリ間に合ったようだ。

 徐々にだがオレの目の前で死体が消えていく。

 その顔は当然ながら見覚えがない。


 いくつか争う気配が生じては消えていく。

 まさに暗闘。

 黒曜の目を通じていくつかの死体が転がっていくのが分かった。


 程なく戦いの気配が消えた。

 オレの目の前に6名のプレイヤーが次々と現れていた。

 全員、お揃いの革兜を装備していて表情は良く分からない。

 いや。

 1人が兜を外してその顔を見せる。


 おお。


 美人さんだな。

 いや、そうじゃなくて。



 轟 Lv.8

 バウンティハンター 待機中



 バウンティハンター?

 賞金稼ぎの事かな?

 どこまでが本当で、どこからが【偽装】なのか分からない。

 オレの【看破】が効いているのかも不分明だし。


 少なくとも、討伐許可は出ていない。

 ここは事を荒立てる行動は慎むべきだ。


「お騒がせしました」


 それだけを告げると美人さんが一礼する。

 オレも思わず返礼した。

 それにこのパーティ、1人として無傷のメンバーがいない。

 中にはHPバーがなくなりそうな人もいる。

 暗闘の結果がこれか。


 ゆっくりと、それでいて音もなく、6名の姿が目の前から消えていく。

 ラムダくん以外にもPKK職がいたのか。

 まあいるよね。

 


 ヴォルフが警戒を解かずに先行して進む。

 恐らくはPK職のプレイヤーが潜んでいたであろう樹木の影を調べてみる。

 不自然な位置にロープがあった。

 どうやら何かの罠だな。


 ロープを辿って行くと、4つの樹木の枝に仕掛けがあった。

 網だ。

 地面に半ば埋まるかのように網が張られている。

 範囲は5m四方といった所だろう。


 網の範囲を確認し、ロープを鉈で切ってみる。

 地面の網が上に跳ね上がっていった。

 単純な罠だな。


 先刻のオレの位置から見ると、PK職プレイヤーが潜んでいたこの樹木の根元は罠の延長線上にある。

 気配を悟らせたのは誘導の意味があったのかもしれない。


 それにしても害獣駆除じゃないんだからさ。

 こんな仕掛けが必要なのかね?


 ロープ類とネットは何かに使えそうな気がする。

 これ、どういった扱いになるんだろうか?

 拾得物になるんだろうが、元々がPK職が仕掛けた物なんだし。

 返却?

 死に戻ったPK職にそこまでする義理もない。

 有難く頂いておこう。



《フレンド登録者からメッセージがあります》



 おや。

 ラムダくんの方もPK狩りが終わったのかな?



『こっちの始末はつきました。今からレギアスの村に戻ります』


 ふむ。

 行き違いになると困るよな。

 リアルタイムで確認しておこう。

 テレパスを使えば簡単だ。



『聞こえるかな?キースだよ』


『え?』


『こっちはもうレギアスの村を出た。今どこかな?』


『え?あ、ここは森の迷宮の中です。中央の部屋にいますが』


『そうか。じゃあそこに留まってレベル上げでもしててくれ。私のほうからそこに行く』


 伝えるべき事を話し終えるとテレパスを切った。

 ここからだとそう時間はかからないだろう。

 残月に騎乗しフォレスト・ウォークも駆使して先を急いだ。



 森の迷宮の中。

 中央の広間でラムダくんはブランチゴーレムを相手に戦っている所だった。

 翻弄しまくり。

 スピードファイターなのだからそれで正しいのだが。

 さすがに時間がかかるんじゃないかな?


「お待たせしました」


 今日も爽やかな好青年だな。

 革兜を装備していても分かる。


「今のブランチゴーレム、結構時間がかかったのかな?」


「そこそこです」


 ブランチゴーレムはタフだし練習相手にするにはいい感じなんだが。

 裸絞めの練習には向かない。

 呼吸してないからな。


「で、肝心のPK狩りの方は?」


「この森の迷宮にいた連中なら全滅させました。裸絞めでも2人ほど仕留めてます」


 ほう。

 なかなかの戦績と言っていいだろう。


「それに直接の復讐相手の情報もいくつか入手できました。裸絞めは便利ですね」


 そっちの方が重要だな。

 情報を得るのは大事です。

 あとラムダくん曰く、【拷問】スキルも結構効いているとのことだ。

 痛覚100%に固定している場合、痛みはそれ以上にはならない。

 でも【拷問】スキルが付いてからは、痛みの持続時間が延びているらしい。


 やったのか。

 実験、したんだよね?

 やるじゃん。

 ちゃんと検証するとか、オレみたいにサボッていないあたり真面目だ。



 ついでに今日の予定も話しておく。

 行き先はN1W1マップだ。

 そこで昨日の続きである。

 スノーエイプには申し訳ないけどな。


 これに加えて、森の中でPKKパーティに出会った事も話しておく。

 少し考え込む風だが。

 いや、何やら情報収集をしていたようだ。


「バウンティハンターを中心にしたPK職を狩るチームは現在6チーム展開中らしいですね」


 ラムダくん情報によれば、レギアス周辺に2チームが活動中らしい。

 つかどこの情報だよ!


 聞いてみたらPKK職専門の掲示板があるそうな。

 なにそれ。

 そうなるとPK職専門の掲示板もありそうだ。



 森の迷宮を北へと抜けた。

 目の前には蔦で埋め尽くされている崖がある。


「ここ、通れるんですか?」


「勿論」


 残月を帰還させてリグを召喚する。

 この選択にはある思惑があった。

 うまく機能したらいいんだが。




《これまでの行動経験で【登攀】がレベルアップしました!》


 蔦を登っていくうちに【登攀】がレベルアップしていた。

 そう。

 オレには【登攀】スキルがある。

 そのオレよりもラムダくんは速く登って行く。

 ヴォルフも結構器用に登っていたりする。

 そしてリグまでもがオレよりも速いのだ。

 蔦の隙間に潜り込んで、その状態のまま上に移動していくのだ。

 確かに蔦の隙間に潜り込むヘビに対抗する事を想定してはいたけどさ。

 移動でも地の利を得ているようだ。


「登攀、取ろうかな」


「いいんじゃないかな?」


「ですよね。取ります!」


 ラムダくんが【登攀】を取得したようだ。

 森の中で樹上から待ち伏せとか、使い道は他にもある。

 PK職を追跡するのにも便利になるかもしれない。


 蔦を登りきるまでの間、ヘビやカエル、それにナメクジの相手は召喚モンスター達に任せきっていた。

 戦果は上々だ。

 但しナメクジ相手の場合、リグが体内に吸収しきってしまうためか、アイテムが剥げなかった。

 カエルはリグを相手にしてもまるで揺るがなかったが、ヘリックスと黒曜には相性が悪すぎたようだ。



 山へのルートと高原に向かうルートの分かれ道に到着した。

 ここまで来るとさすがに寒い。


「寒さは平気かな?」


「ちょっとキツいかもです」


「【耐寒】はまだないのかな?」


「はい」


 まあ焦る事もないだろう。

 高原でもかなり寒い。

 寒さに耐え続けていくうちに【耐寒】スキルはいずれ取得可能になる筈だ。


 まずはこのマップのエリアポータルを目指そう。

 一旦、腰を落ち着かせてから昨日の続きをやっておきたい。

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv10

職業 サモナー(召喚術師)Lv10

ボーナスポイント残8


セットスキル

杖Lv8 打撃Lv5 蹴りLv6 関節技Lv5 投げ技Lv5

回避Lv6 受けLv5 召喚魔法Lv10 時空魔法Lv3

光魔法Lv5 風魔法Lv6 土魔法Lv5 水魔法Lv5

火魔法Lv5 闇魔法Lv5 氷魔法Lv3 雷魔法Lv3

木魔法Lv3 塵魔法Lv3 溶魔法Lv3 灼魔法Lv3

錬金術Lv5 薬師Lv5 ガラス工Lv3 木工Lv4

連携Lv8 鑑定Lv7(↑1)識別Lv7 看破Lv3 耐寒Lv3

掴みLv6 馬術Lv6 精密操作Lv8 跳躍Lv3

耐暑Lv4 登攀Lv4(↑1)二刀流Lv5 解体Lv3

身体強化Lv3 精神強化Lv4 高速詠唱Lv5


装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 怒りのツルハシ+×2

   白銀の首飾り+ 雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2 

   野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+

   雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式


称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者

   呪文目録


召喚モンスター

ヴォルフ グレイウルフLv1

残月 ホースLv5

ヘリックス ホークLv5

黒曜 フクロウLv5

ジーン バットLv5

ジェリコ ウッドゴーレムLv4

護鬼 鬼Lv4

戦鬼 ビーストエイプLv5

リグ スライムLv4

文楽 ウッドパペットLv3


同行者 ラムダ(本名オメガ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ