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「メディテート!」「ブレス!」
武技で保険をかけておき、続いて呪文を選択して実行しながら、魔物の様子を窺う。
こちらに向かってくる速度は?
遅い。
だがウッドゴーレムのジェリコよりは明らかに速い。
こっちの戦術方針をどうするか?
ジェリコと戦鬼、それに黒曜に片方のノッカーを任せておこう。
オレはもう片方を受け持つ。
どうにかして片方を早めに倒しておきたい所だ。
「フィジカルエンチャント・アース!」
ジェリコを強化しておく。
更に次の呪文を選択して実行しながらオレも魔物に向かって行く。
ロッドは手放した。
間合いがツルハシの間合いと噛み合うからだ。
トンファーを両手に持つ。
目論見通りに果たしていくかどうか。
いや、なんとか収支を合わせねばなるまい。
「フィジカルエンチャント・ファイア!」
オレ自身の筋力値を底上げしておいて魔物の懐に入る。
ノッカーはツルハシをフルスイングしようとしている所だった。
機先を制する事に成功。
この距離ではフルスイングしても当たりはしない。
トンファーの先端で胴体に数発、打撃を喰らわせて見る。
手ごたえはあるのだが、HPバーの減りはさほどではない。
だがそれも想定内。
意識を散らせる事が目的の牽制だし期待はしてない。
ツルハシを持つ魔物の肘をトンファーで回し打ちを当てる。
得物を落とそうとはしない。
もう一発は別角度から肘を痛打させる。
今度のはさすがに効いただろう。
それでも落とそうとしない。
肘関節をトンファーで押さえつけて下から膝蹴りを当ててやる。
変形の絶道。
その一撃でようやく片手をツルハシから離したようだ。
それでももう片方の腕だけでツルハシを振り回し始めた。
無論、当たればただでは済まない。
だがそのおかげで隙が生じていた。
モーションが大きくなっていたのだ。
「ディレイ!」
状態異常をもたらす氷魔法の呪文を当ててみる。
マーカーはどうだ?
どうやら効果があったようだ。
脇腹にトンファーの先端をエグい角度で撃ち込んだのだが怯む様子がまるでない。
いや。
本当に痛みがないような反応なのだ。
HPバーはちゃんと減ってはいるんだが。
ツルハシを片手で振り回した所で脇を抜け、ついでに膝裏を蹴っていく。
バランスを失った所で左足を引っ掛けて刈った。
腹ばいに転がっていく。
好機。
トンファーを手放すと首を絞めにいく。
いや、喉元をトンファーで絞めにいった。
膝で背中を押しながらトンファーを引っ張る。
ただ、それだけ。
やはり感触が妙であった。
呼吸をしているように見受けられないのだ。
HPバーは?
順調に減っているようだからこのままでいいか。
こいつは確かに力が強い。
絞めていても絞め切れていない気がする。
戦鬼を呼んだ。
オレが抑えている間に戦鬼に攻撃を任せてやれば効率はいい筈だ。
戦鬼が来た。
嬉しそうにしている。
ほぼ無抵抗のノッカーの胸板を思い切りたたき続けていた。
お陰でオレが絞めることで与えているダメージも大きくなってきつつある。
戦鬼の渾身の一撃でノッカーのHPバーがなくなったようだ。
どうにか仕留めきったか。
もう1匹、いや、もう1人はどうだ?
そのノッカーの手にツルハシはなかった。
ジェリコ相手に素手で渡り合っているようなのだ。
敵ながら天晴れである。
ジェリコもそれなりにダメージを喰らっているがまだ余裕はあるようだ。
黒曜は悠々と空中から牽制攻撃を続けている。
力押しで優勢のまま戦闘を続けていた。
どうやら任せて良さそうだな。
戦鬼を引き続きけしかけてやる。
これで優勢は揺るがないだろう。
最後は戦鬼が殴り倒して決着がついたようである。
ノッカー達を倒しきったらその死体が消えて行った。
ツルハシまでも消えて行く。
剥ぎ取りナイフを突き立てる楽しみがないではないか。
《只今の戦闘勝利で【氷魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『戦鬼』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
おお、さすがに戦鬼の成長が早い。
今までレベル1だったし当然か。
ステータス値で既に上昇しているのは敏捷値だった。
一番数値の高い所じゃないのか。
任意ステータスアップは器用値を指定する。
数字の見栄えもあるしな。
戦鬼 ビーストエイプLv1→Lv2(↑1)
器用値 10(↑1)
敏捷値 17(↑1)
知力値 4
筋力値 24
生命力 24
精神力 4
スキル
打撃 蹴り 投擲 受け 回避 登攀
戦鬼のステータス画面を閉じたらイベントの続きが始まったようだ。
《旅人よ》
《我らは道標》
《汝は我らの試練を勝ち抜いた》
《我らは旅人達の助けとなろう》
《恐れるなかれ》
《怯むなかれ》
《勇気ある者に祝福を》
《祝福を》
祭壇の上のあった人魂が建物の各所にも現れた。
どうやら照明の代わりになるらしい。
やや薄暗いものだが、かなりマシといった所だろう。
どういった仕組みなのか分からないが、新鮮な空気を感じる。
床は土が露出している場所と石が敷かれた部分があって荒れたままだ。
それでもここで一夜を過ごすのであれば、毛布1枚あったらなんとか出来そうである。
《N1W1のエリアポータルを開放しました!》
《ボーナスポイント3点が加算されます。合計で10ポイントになりました》
はい?
エリアポータルを開放?
先生、意味が分かりません!
《運営インフォメーションが2件あります。確認しますか?》
ここで運営インフォか。
周囲を見渡して建物の中に異常がなさそうなのを確認して件名を見ることにする。
《エリアポータル開放のお知らせ》
《エリアマップ実装のお知らせ》
うむむ。
なんか今のイベントクリアと関係がありそうだな。
これは今すぐ見ておいた方がいいか。
1件目を開けてみる。
《N1W1マップに設置したエリアポータルが開放されました。これと同時にエリアポータルのヘルプを追加致します》
なんなの?
続きを読んでみる。
《他マップにおいても封印されたエリアポータルが存在する可能性があります。是非探索してみて下さい!》
可能性、ですか。
この書き方を素直に読めば、ない可能性もある訳か。
エリアポータル、というのは聞いたことがある。
一定を区切った範囲でログイン・ログアウトが出来る地点のことだ。
オレが普段使っている師匠の家もエリアポータル扱いになるらしい。
レムトの町やレギアスの村も無論エリアポータルで、宿屋でログイン・ログアウトが可能になっている。
つまり、この建物の中でそれができるのか?
一応、可能なのかどうか、確認してみる。
仮想ウィンドウに《ログアウトしますか?》《Yes》《No》の文字が浮かんでいる。
出来ちゃいそうです。
でもまだ時刻は昼前だし、やや物足りないのですよ。
確かめるのはいつでも出来る。
ここはスルーで。
2件目を開けてみる。
《広域エリアマップを実装しました。詳しくはマップの使い方をヘルプに追加致しましたのでそちらをご参照下さい》
これだよ。
ヘルプを見ろ。
マニュアルを見ろ。
いや、いいんですけどね。
メッセージに貼ってあったリンクを辿ってマップの使い方を表示する。
広域エリアマップを仮想ウィンドウに表示してみた。
四角で表示された各エリアが繋がっているだけのものだ。
その四角それぞれに目を凝らせば別の仮想ウィンドウで徐々に詳細情報が表示されるようだ。
当然、踏破していないエリアは表示されない。
確認できていない場所も同様だ。
0エリアは常に赤い枠で表示されている。
目を凝らしてみるとレムトの町周辺の草原地帯であった。
そのすぐ下がS1エリア。
南側なのだろうな。
何も拠点らしきものが表示されない。
0エリアの右、E1エリアは2つの港町のあるエリア周辺。
0エリアの上、N1エリアは鉱山キャンプのある場所周辺だ。
0エリアの左、W1エリアがレギアスの村とその周辺の森だ。
師匠の家も表示されていた。
東西南北をEWSNで表示、基点のレムトの町周辺から離れるに従い、数字が大きくなる仕組みのようだ。
風景を見ただけの森の迷宮の西側のエリアはW2になっている。
拡大してみても何もない。
S1W1エリアも同様だ。
足を踏み入れていないエリアは目を凝らしても拡大できないようだ。
今いるN1W1マップはどうだろう。
この建物の場所だけが表示されていた。
名称が土霊の祠、となっている。
祠にしてはデカくね?
場所はマップの右下側である。
まだ探索していない場所はたっぷりありそうだ。
何しろ雪豹ともブリッツとも遭遇してないしな。
気になるのはマップの左側だ。
山岳地形にしか見えない。
うん、
そこは後回しだ。
決定。
HPバーが減っていたジェリコに回復呪文を使った。
戦鬼にはポーションと回復呪文。
黒曜はポーションだけで済んだ。
回復呪文は全てファイア・ヒールにしておいた。
火魔法を育てるためだが、レベルアップはしてくれない。
ここなら落ち着けるな。
少し早いが、朝のうちに確保しておいた食料を少し腹に入れておく。
食事半分といった所だが満腹になっていた。
その食事中に気がついた。
壁のあたりで何かが動いている。
あれ?
ノッカーじゃないのか?
【識別】してみたら確かにノッカーなのだが
ノッカー Lv.2
土精霊 作業中
討伐対象、じゃないだと?
いや、もっと小さいものが蠢いているようだが。
ノーム Lv.1
土精霊 作業中
なんでしょう。
何やら作業をしてるみたいなんですが。
ノームの姿は小さなドワーフと言った所か。
小人さんである。
ノッカーは2体、ノームはざっと見て20はいるだろう。
いずれのマーカーも赤くなく、NPCと同様に黄色である。
何やってんの?
2体のノッカーが地面の石版を剥がしている。
その剥がした石版で何やらやっているノームがいる。
露出した地面を掘っているノームがいる。
ノームが時折、呪文を使っているのが分かる。
まだセンス・マジックの効力が残っているせいか、非常に美しい光景になっていた。
黒光りを基調にして様々な色彩で輝いている。
荷物を少し整理している間にも彼らは作業の手を止めなかった。
こちらを気にする様子はない。
どうもこの建物の修復を進めているように見える。
いけません。
親切な小人さんは人知れず作業を済ませておくものじゃないでしょうかね?
そんな事を考えながら祭壇前を去り祠を出た。
さて、どうしようか。
この祠と同様にログイン・ログアウトが出来る拠点があるのならばプレイに幅が出来るだろう。
より遠くへ。
まだ見ない風景を見に行くのであれば、こういったエリアポータルは不可欠だ。
どうする?
決まっている、探しに行こう。
ここを中心に探索範囲を拡げるのも魅力があるが、拠点を確保するのも重要だ。
問題は西か、南か。
W2エリアか、S1W1か。
移動による探索範囲を広げるならば残月に騎乗するのが一番だ。
ジェリコと戦鬼を帰還させて残月とヘリックスを召喚した。
元の布陣に戻った訳だ。
そうだ。
西の先は一度行っているが、地形は平原のように見えた。
先に探索が楽に済みそうな西へ行ってみるか。
残月に騎乗して迷宮方面へ、南へと向かう。
自然とスピードがあがる。
風が気持ちいいのだ。
《これまでの行動経験で【馬術】がレベルアップしました!》
いい気持ちの所でいい感じでレベルアップもしてくれた。
暫くの時間が魔物との遭遇なしに過ぎて行く。
こんなのもたまにはいいな。
風景もいい。
気持ちよく元の経路を戻って行った。
山の尾根まではさすがに残月で登る訳に行かなくなった。
途中で残月を帰還させて護鬼を召喚する。
山道ならばこっちの方がいい。
そして分かれ道。
迷宮に戻るルートと恐らくは山頂へと続くルートに到達した。
オレ達を睥睨する奴がいた。
魔物だ。
ユキヒョウ Lv.5
魔物 討伐対象 パッシブ
【識別】してみてもやはり魔物だ。
毛並みが美しい猫科の猛獣であった。
戦うか?
いや、あまりに足場が悪い。
それに懸念もあった。
2匹いたのだ。
思わず足を止めたが、魔物達はこちらを襲う様子を見せなかった。
視線を、外せない。
護鬼が昂ぶっているのを必死で制した。
ユキヒョウ達は俺達に興味なさげにそのまま尾根を登っていった。
少し、緊張してしまった。
出来れば今は移動を優先したい。
それに分かった事もある。
ユキヒョウは標高の高い場所にいそうだ。
恐らくはブリッツもいるのではあるまいか。
ユキヒョウもブリッツも難敵ではあるが、得られるアイテムは魅力十分だ。
戦う環境さあればこっちから襲いたい所である。
だがあの尾根の先というのはどうなのか。
本格的登山の予感がする。
何かしら防寒具がないと厳しいか。
補助スキルに【耐寒】はあるのだが、そっちを育てるのもアリだろう。
それに登山用具、何かあった方がいいんじゃね?
ピッケル、アイゼン、ハーケン、カラビナ、ロープとか。
あるのか?
ロープはあるだろうけど、他は代用を考えないといけない。
まあ時間を見つけて一度様子を見に行ったらいいのか。
再び蔦だらけの森を下って行く。
気がつくこともある。
登って行くよりも下って行く方が大変だって事に、だ。
どうにも宜しくない。
護鬼はまるで苦にしない。
器用に四肢を駆使してスイスイと下って行く。
オレの倍以上、速いだろう。
空を飛べるヘリックスと黒曜は当然、移動が楽に済んでいる。
なんとなく悔しい。
いや、こんな時こそ工夫だ。
呪文を使え。
いや、それ以上に頭を使え。
知恵だ知恵。
オレが目を付けたのはレビテーションだ。
効果時間が10分程度、という制限はあるが、降りるのに使えないか?
やってみなくては分からない。
「レビテーション!」
空を飛ぶような感覚ではあるが、足元で僅かに浮いているだけの効果だ。
少しだけジャンプして試してみる。
少しだけ落下する感覚の後、軟着陸した。
そしてまた足元が僅かに浮く。
少しずつ、ジャンプする距離を大きくしてみる。
レビテーションの効果なのか、跳躍距離も助走なしでかなり長くなっているようだ。
それだけ下へと降りる速度は上がっていった。
これって楽だな。
そして護鬼がこのスピードに付いて来れるのが驚きでもあった。
魔物に暫く遭遇しなかった所に奇襲を受けた。
先行していた護鬼だ。
護鬼は間一髪、その攻撃を回避していた。
何だ?
ナメクジ?
カエル?
そのいずれでもなかったのだ。
ツリーバイパー Lv.2
魔物 討伐対象 アクティブ
ヘビでした。
ナメクジ、カエルと併せて三すくみ?
運営が洒落で設定してるようにしか見えない。
ヘビの長さは塊のように見えていて分からないが、イリーナの召喚モンスターのトグロと同程度と見た。
そしてこいつはどの程度、強いのか?
それもやってみるしかあるまい。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv8
職業 サモナー(召喚術師)Lv7
ボーナスポイント残10
セットスキル
杖Lv6 打撃Lv4 蹴りLv4 関節技Lv4 投げ技Lv4
回避Lv4 受けLv4 召喚魔法Lv8 時空魔法Lv1
光魔法Lv4 風魔法Lv4 土魔法Lv4 水魔法Lv4
火魔法Lv3 闇魔法Lv4 氷魔法Lv2(↑1)雷魔法Lv2
木魔法Lv2
錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv3
連携Lv6 鑑定Lv6 識別Lv6 看破Lv2 耐寒Lv3
掴みLv6 馬術Lv6(↑1)精密操作Lv6 跳躍Lv3
耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv3 精神強化Lv3
高速詠唱Lv2
装備 カヤのロッド×2 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv6
残月 ホースLv4
ヘリックス ホークLv4
黒曜 フクロウLv4
ジーン バットLv4
ジェリコ ウッドゴーレムLv3
護鬼 鬼Lv3
戦鬼 ビーストエイプLv1→Lv2(↑1)
器用値 10(↑1)
敏捷値 17(↑1)
知力値 4
筋力値 24
生命力 24
精神力 4
スキル
打撃 蹴り 投擲 受け 回避 登攀




