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キリのいい所まで投稿しようとしたら

増量になっていたでござる

 前衛でフィーナさん達がブランチゴーレム4匹と戦い始めた。

 呪文詠唱が重なって聞こえてきている。

 そして派手な攻撃呪文が連続で放たれている所が見えていた。


 だがこっちはこっちで魔物を相手にしていたりする。

 ラッシュファンガスが2匹、後ろから襲ってきていたのだ。

 

 戦鬼が先行して襲おうとするのを留めてオレが先行する。

 もう1匹は投げ飛ばして転がしておき、ジェリコの足元で押さえておいて貰っている。

 お手本を見せよう。


 まず無意味に卑猥な傘の部分ですが、縁に手をかけて胴体から剥がします。

 次に頭部の適当な所に手刀で突き刺します。

 中にまで手がちゃんと入ってますか?

 突き入れた箇所に両手を差し込んで左右に開くように裂いていきます。

 さほど力は必要ありませんが、裂け難い時は足も利用すると良いでしょう。

 裂かれてしまえば完全に無力化できます。


 こんな所だ。

 戦鬼の目の前で実践して見せた。

 レッツ、トライ。

 ジェリコの足元のラッシュファンガスでやってみましょう。


 おお!

 最初から豪快に裂けましたね。

 覚えましたか?



 会話が出来ていたらこんな感じであっただろう。

 言葉は分からなくとも意思は通じている。

 そう思いたいものだ。




 魔物が出現しない広間に到達した。

 オレ達とは別のパーティがいたが、入れ替わりで広間を出て行くようである。

 『ウィスパー』で密談をする事もできるが、やはり違和感がある。

 普通に会話する方がずっといい。


「どう?」


「拾ったわ!」


「私はダメでした」


「こっちもダメだね」


「拾えてませんでした」


 結果はサキさんだけのようだ。


「木魔法が取得可能になってるわ。必要ボーナスポイントは5」


「少し重たいみたいね」


「光魔法と闇魔法と一緒みたいね」


「取得する?」


「でもキースが取得していて呪文も分かってるし」


「考えがあるのよ。原木栽培」


「あ!」


「キノコにも効くのかしらね?」


「いいえ、効かなくてもファーマーの支援が出来るなら意味があるって!取得するわ!」


 フィーナさんとサキさんの2人のマシンガントークは一気に始まって一気に解決したようだ。

 そういえばオレはまだ使ってないけど植物を強制的に成長させる呪文があった。

 確かに生産者、いやファーマーには垂涎の呪文だろう。



「話を戻しましょう」


「なぜ私だけが拾えたのか」


「サキが満たしていて他の3人が満たしていない条件がある筈よね」


 そこからフィーナさん達の議論が始まった。

 だが結論が出そうにない。

 条件が見つからないみたいなのだ。


 魔法に関わるステータスとして注目していた知力値と精神力を見比べた結果、かなり怪しいようである。

 4人の中でサキさんは低い方らしい。

 マナーとしてパーティ外のオレは数値そのものを把握していないが、どうやら一番高いのはヘルガのようだ。

 最も有力と思われた項目が否定されてしまった。


 では他の条件とは何か。

 呪文の使用回数?

 そこまで手の込んだ事はしないと思うが。

 様々な意見も出たが、結論が出そうもない。


「このままじゃ停滞するだけだわ。もう一度トライしてみましょう」


 結局、そこに落ち着いたようだ。

 もう一度やってみたら拾うことが出来るかもしれない。

 誰もがそんな希望を抱えていたようだ。

 そうやって先に進むことに決まった。



 次に現れたブランチゴーレム3匹はアデルとイリーナのパーティで難なく突破。

 その次のファンガスは7匹と多かったが、オレのパーティが問題なく全滅させている。

 フィーナさん達は明らかに引いていた気がする。

 ジェリコはともかく、オレ、戦鬼、それに護鬼までもがキノコ共を縦に裂いていったせいかもしれない。

 アデルとイリーナは平気なものだ。


 次のブランチゴーレム4匹にはフィーナさん達のパーティが挑む。

 無論、呪文を連続使用している。

 問題なく全滅はさせたものの、結果は思わしくないようだ。

 表情を見たら分かる。


 再び魔物が出ない広間に到達した。


「ダメだったわね」


「これ!という項目が何なのか分からないのがもどかしいわ」


「判断材料が少ないんだし仕方がないって」


 フィーナさん、サキさん、フェイの嘆きも分かる。

 どうする?

 ここは色々と世話になっている身だ。

 協力しておこう。


「私のステータスとスキル一覧のデータも見比べてみませんか?」

 

「え?」


「いいの?」


 パーティメンバー同士でも飛び入りだとステータスやスキル構成を教えないのが常識。

 また馴染みのパーティメンバーであってもステータスやスキル構成を知りたがるのもマナー違反。

 このゲームはそういうゲームになっている。

 なにしろ運営がプレイヤー・キラーを認めているようなゲームなのだ。

 余計なトラブルを抱えない為、結果的に身を守るための一線になる。


 これらは雑談を通じて知った事である。

 オレの立場からするともうソロプレイなのだし、リスクを負うにしてもオレだけで済む。

 気楽なものだ。


「それだと公正じゃないわ」


「こっちのステータスも交換で教えるとか?」


「いや、お気持ちは有難いですがそれは結構です」


 フィーナさんもサキさんも口を閉ざす。

 余計な詮索が入る可能性を知っている訳だ。


 そう、世の中は知らない事、知らせない事の方が身の安全を保証する場合があったりする。


「どうせ数日前のステータスですから大丈夫ですよ」


 そう告げておくと以前記録したデータを引っ張り出した。

 まずは氷魔法を取得した後のものからだ



 主人公 キース

 種族 人間 男 種族Lv7

 職業 サモナー(召喚術師)Lv6

 ボーナスポイント残8


 ステータス

 器用値 15

 敏捷値 15

 知力値 20

 筋力値 15

 生命力 15

 精神力 20


 セットスキル

 杖Lv6 打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv4 投げ技Lv3

 回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv7

 光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv4

 火魔法Lv3 闇魔法Lv3 氷魔法Lv1

 錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv2

 連携Lv6 鑑定Lv5 識別Lv6 看破Lv1 耐寒Lv3

 掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv5 跳躍Lv1

 耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv2 精神強化Lv1


 称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者



 そして雷魔法、木魔法、高速詠唱を取得した段階だ。



 主人公 キース

 種族 人間 男 種族Lv7

 職業 サモナー(召喚術師)Lv6

 ボーナスポイント残3


 ステータス

 器用値 15

 敏捷値 15

 知力値 20

 筋力値 15

 生命力 15

 精神力 20


 セットスキル

 杖Lv6 打撃Lv4 蹴りLv4 関節技Lv4 投げ技Lv3

 回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv7

 光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv4 水魔法Lv4

 火魔法Lv3 闇魔法Lv3 氷魔法Lv1 雷魔法Lv1

 木魔法Lv1

 錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv3

 連携Lv6 鑑定Lv5 識別Lv6 看破Lv1 耐寒Lv3

 掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv6 跳躍Lv1

 耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv2 精神強化Lv2

 高速詠唱Lv1


 称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者

    呪文目録



 フィーナさんにメッセージで送る。

 確実に言える。

 少しでもデータは多いほうがいい。



 暫く、会話が途絶えた。

 パーティメンバー同士では仮想ウィンドウを共有できる。

 各々、自分なりに解析をしている事だろう。



 笑い声が聞こえていた。

 フェイだ。


「ここまで徹底してるともう笑うしかないね」


「スキル、取り過ぎ!」


「半分ほど生産職になりかけてるし」


「それに【高速詠唱】、称号の呪文目録。どうなってるんだ?」


「それもあるけど今は新呪文取得条件の解明が先だよ!」


 レイナの叫び声がその場の意見を代表しているようであった。



「何が起きてるか分かる気がします」


「魔法技能、取れるものは全部取ってるってオチ?」


 イリーナにアデルだった。

 そういえば彼女達はオレが呪文を使っている所は実際に見てるからな。

 例えオレのステータスとスキル一覧を見たとしても驚くには値しないだろう。


「見る?」


「興味はあるけど?」


「やめておきます」


 イリーナに同意を求めたアデルだが一蹴された。

 何やら不満気な表情のアデルだが、少しは表情を取り繕う事を覚えなさい。



 フィーナさん達は必死の形相で数値を見比べているようだ。


「ステータスで共通する項目がないわ」


「本当に、ない」


「スキルはどう?」


 またも沈黙が続く。



 サキさんがオレに何気なく質問をしてきた。


「キース、貴方も【二刀流】持ちなのね?」 


「ええ。いつの間にか取得できるようになってましたね」


「生産系スキルも多いみたいだけど【連携】は最初から?」


「確か最初からあったと思います」


 サキさんが考え込んでしまった。

 いや。

 何かを凝視している。


「仮説が一つあるわ」


「何?」


「ステータスで判定してる項目は知力値でも精神力でもない。器用値だと思う」


「え?」


「サキもキースも低いわよ?フェイ、ヘルガ、篠原の方が上だわ」


「補正があると思う。【連携】だと思うけど」


「え?」


「ヒントはキースも私も【二刀流】が取得可能になっている事」


「え?え?」


「前から器用値が判定基準になってるんじゃないかって話はあったのよね」


 フィーナさんも何やら考え込んでいる様子だ。


「続けて」


「取得できるプレイヤーには生産職の器用値極振りに多いな、とは思ってたけど私は器用値極振りじゃない」


「でも取得できたのは補助スキルの後押しがあったって事?」


「そう」


「フェイ、ヘルガ、篠原の3人とも今から【連携】を取得しないと新しい魔法は取得出来ないって事?」


「それ、違うと思うわ」


「どうして?」


「キースのステータス。それに【連携】のレベル」


「え?」


「これは完全に予想。例えば木魔法の場合、水魔法Lv4、土魔法Lv4、それに器用値と連携Lvの合計値が20」


「なんで器用値?」


「2つの系統の魔法を器用に使い分けるだけじゃなく、相互に融合させるって事かしら?」


 一行の中で声が途絶えた。

 どうやら条件的に矛盾がないようだ。


「さっきサキが言っていた条件にプラス呪文2属性の連続使用ね。確かに矛盾はしないわ」


「じゃあ【連携】がないプレイヤーはこれから種族レベルアップして器用値を20までしなきゃダメって事?」


「ちょっといいですか」


 オレが意見を言ってもいいだろう。

 もしかするといけるかもしれないのだ。

 フェイの方に顔を向ける。


「フェイ。可能な限り品質の高いガラス瓶を作る時、君ならどの呪文を使ってるかな?」


「そりゃあレジスト・ファイアとフィジカルエンチャント・アクアだけど」


 そこで声が詰まった。


「フィジカルエンチャント・アクアか!一時的に器用値を高めた状態でも取得できる可能性がある?」


「フェイ、フィジカルエンチャント・アクアで器用値20を超える事はできるか?」


「大丈夫だ!たった1だけ足りないだけだ!」


 フィーナさんがヘルガ、篠原へと目を向ける。


「私はちょっと足りないかも知れません」


「僕はいけます」


 皆の視線が絡み合う。

 やってみる価値は十分にあるのだ。


 ならば試してみるまでだ。



 次に出現したのはブランチゴーレムが3匹だ。

 フェイ、ヘルガ、篠原にフィジカルエンチャント・アクアを掛けてから戦いを挑む。

 戦闘は前衛がダメージを喰らってはいたが、倒しきっていた。

 どうだ?


「ビンゴ!」


「雷魔法が取得可能になりました!」


「僕もです!氷魔法が取得可能になりました!呪文補正で器用度20ギリギリでいけます!」


「ついでと言ってはなんだが【二刀流】まで取得可能になったよ」


「僕も弓使いなのに取得可能になりました」


「私もです」


 ほう。

 3人とも取得可能になったようだ。


 ヘルガが拾ったのは雷魔法、篠原は氷魔法。

 フェイは火魔法と水魔法との間から派生する魔法体系だから完全に未知の領分だ。


「フェイ、何が取得可能になった?」


「灼魔法、となってる」


「取得できる?」


「なんとか。取得して有効化するから少し待って」


 おお。

 新たな魔法体系とその呪文が初お目見えか。


「これだな」


「キースとアデルとイリーナには私から送っておくわ」


「任せた」


 フィーナさんから早速メッセージでデータが来た。

 どんな呪文があるのか?



 スチーム・ミスト(灼魔法) 蒸気で一定範囲を視認し難くする。 

 アシッド・タッチ(灼魔法) 手でかざすか触れた物を酸化反応させる。ダメージ判定有り。 

 リダクション・タッチ(灼魔法) 手でかざすか触れた物を還元反応させる。ダメージ判定有り。 



 おおう。

 どう解釈したものか。

 熱量を持った液体、または化学反応をもたらす液体を利用した魔法、といった理解でいいのかね?


「酸化反応はいいね。色ガラス作成に役立つかもしれない」


 フェイの様子は嬉しそうである。

 新しい呪文はテンションが上がるよね。


「確定かしらね」


「それはそうと魔物が来てるわ」


 視線の先に魔物が現れていた。

 立ち止まって話をしていい場所じゃなかった。


「ここは私が行きますよ」


 これでここに来た大きな目的が達成されたのだ。

 あとは狩りの時間だ。



《これまでの行動経験で【闇魔法】がレベルアップしました!》



 キノコ共を裂いている最中にノクトビジョンの効果が切れてしまっていた。

 掛けなおしながら戦闘をしていたら闇魔法がレベルアップしていたようだ。

 そういえば長らくレベル3のままだったからな。


 そのまま戦闘を続けながら先を進む。

 この迷宮のクリア条件となるルートを進んで来ているのだ。

 せっかくなのだから先を進んでおくに越したことはない。

 それにここの魔物は戦うのに都合がいい。

 強いことは強いのだが、基本的にパワーファイターが多いので対処がし易いのだ。

 ボスにもその傾向がある。



 次の魔物が出ない広間で小休止となった。

 ようやく腰を据えて掲示板にも書き込みができるようになった。

 まあオレは参加せずにフィーナさん達にお任せだったんだが。


「ところでキースさん。ステ振りしてなかったりします?」


 フィーナさん達が書き込んでいる時間でイリーナからステータス振りなるものを教わった。

 ちゃんとマニュアルにあるのだが読んでいないという、いつものパターンである。


 つまり、ボーナスポイントを注ぎ込んでステータスを上昇できる、というだけの話だ。

 例を挙げると、器用値が15あったとする。

 ボーナスポイントを15注ぎ込めば16に上昇できる。

 重たいって?

 基礎ステータスの上昇にはそれだけの価値がある。

 但し、2回目にステータス上昇をする場合、より多くのボーナスポイントを要する事になる。

 先般の例で言えば、器用値が16の場合、ボーナスポイントを16と2回目の加算8で24ポイントが必要となる。

 ではその次は?

 器用値が17になっているので、17ポイントのちょうど倍、34ポイントが必要となってくる。

 50%ずつ上乗せで加算され続けていくらしい。



 ドーピングするのも大変だ。

 以上、全てがイリーナから教わった内容でした。


「まあキースさんですから」


 とはイリーナの慰めの言葉であった。

 いや。

 よく考えると慰めになってない気がする。


「まあキースだものねえ」


 これはフィーナさんの感想である。

 だから慰めになっていないって。


「さすがキースさん!やらかす事が徹底してます!」


 アデルの評に安心するのは何故だ。


 解せぬ。




 書き込みと小休止が済むと更に先へと進む。

 フィーナさんからは「火魔法をなるべく使って」と頼まれている。

 理由は簡単。

 オレの火魔法がレベルアップすれば残り2つの魔法系統が明らかになるからだ。


 それ故にオレが先頭を受け持つ頻度を半分ほどに上げて進んでいる。

 悪いことばかりではない。

 なかなかいい稽古になっていた。

 ブランチゴーレム相手には火魔法のパイロキネシスで出来るだけ燃やす事にしている。

 だがなかなか火魔法のレベルアップは期待通りに訪れてきてくれないのであった。



 時刻は8時20分といった所か。

 クリアルートの終点が近くなってきていた。

 このまま進めばボス戦闘になるだろう。

 

「このままボス戦、行きますか?」


「折角だしね。もうここまで来たら死に戻り覚悟ね」


「では中央の広間の手前で準備しておきましょう」


「え?」


「ボス戦におけるアドバイス位なら私にもできそうですから」


 臨時のレクチャーをする事となった。


 ボスはプラントゴーレム。

 その表皮には地上に落ちると魔物のファンガスと化すキノコ。

 これに対応するにはエンチャンテッド・ウェポンで強化した武器で破壊するのが一番簡単である。

 一気に排除するならディスペル・マジックだが接触できる距離で使う必要がある。

 攻撃呪文は試していないが、木製だけに火魔法は有効の可能性がある。

 ともかく前衛は防御強化とHPバー回復を忘れない事。

 そんな所だ。


 あとは回復丸だ。

 手持ちで8個あるので4個ずつを各パーティに渡しておいた。


「これ、私達も持ってないのに!」


「さすがに受け取れないわ!」


「こういう相手じゃないと使い道がないですよ?」


「でも」


「多分、必要ですよ」


 強引に持たせる事に成功する。

 あの硬い相手なのだ。

 回復手段は多いほどいい。



 『ユニオン』を解除しないまま広間を進んでいく。

 想定通りであればオレだけがユニオンを強制解除される筈だ。

 進んでいく。

 次の刹那、オレ達のパーティ以外のメンバーの姿が消えた。

 イベントが進んだのだろう。

 この場所で暫く待とうか。




 フィーナさん達の姿が消えて2分ほど経過しただろうか。

 フラッシュ・ライトの効力が切れたので、フラッシュ・ライトの呪文を掛けておいた。



《これまでの行動経験で【光魔法】がレベルアップしました!》



 皮肉なものである。

 火魔法のレベルアップを望んでいるのに光魔法の方が先にレベルアップしていた。

 思うように行かないものだ。



 うん?



 えっと。



 光魔法がレベル4、になったんだよな?

 そして闇魔法は既にレベル4、になっている。


 火・風・水・土の4つの属性間で新たな魔法系統があるのだとしたら。


 光と闇の間には何があるのか?

 ちょっと気になってしまった。



 中央広間に通じる8つの通路近辺で待機する。

 魔物よ、襲って来い。

 いや、もう待ちきれずにコール・モンスターを選択して実行していた。

 ブランチゴーレムを3体呼び出す。


 もしかして。

 もしかするかも。

 不思議な高揚感があった。



 ジェリコに1匹、戦鬼と護鬼に1匹を任せてブランチゴーレムと対峙する。

 無論、確実に光魔法と闇魔法を連続で使う為だ。

 呪文を選択して実行する。

 同時にブランチゴーレムの懐に飛び込んで裏投げで倒してやる。


「コンフューズ・ブラスト!」


 回避できない距離で呪文を叩き込む。

 無論、状態異常は起きないが、これは検証の為だ。

 HPバーが7割程度になっていることを確かめておく。

 次だ。

 既に選択して実行しておいた呪文の詠唱が完成する。


「ダークネス・ステア!」


 立ち上がった所を至近距離から呪文を撃ち込んだ。

 これで条件が満たされた、かも知れない。

 後は倒しきるだけだ。


 そこから投げ2発でブランチゴーレムは沈んだ。

 他の2匹は既にオレよりも早く破壊されていた。

 仕事が速すぎです。



《技能リンクが確立しました!取得が可能な魔法スキルに【時空魔法】が追加されます》



 あった。

 期待はしてはいたが、あったらあったで驚きがある。

 時空魔法?

 どんな呪文があるのだろうか。

 取得に必要なボーナスポイントは4である。

 どうするかって?

 取得して有効化するに決まっている。



 呪文の確認をしておこう。

 時空?

 何があるというのか。


 時空魔法の呪文リストを仮想ウィンドウで表示させる。



 レビテーション(時空魔法)

 テレパス(時空魔法)

 リターン・ホーム(時空魔法)



 呪文は属性魔法と同様に3種だ。

 攻撃系の呪文がない。

 珍しいな。


 レビテーションは空中に浮く事が可能となる呪文だ。

 空を飛ぶような便利なものではなく、フワフワと浮く程度であり、落下を緩和する程度のようだ。


 次にテレパス。

 遠隔地にいるフレンド登録者とウィスパー機能が使えるようになる呪文だ。


 最後にリターン・ホーム。

 パーティ単位で転移が可能となる呪文だ。

 転移先は呪文を行使するプレイヤーがログインした地点付近のフィールドになるようだ。



 これは便利。

 最後のリターン・ホームが特に魅力がある。

 便利すぎる。



《運営インフォメーションがあります。確認しますか?》



 そんなタイミングで運営インフォが来ていた。

 件名を見る。



《ベストバウト投票結果のお知らせ:闘技大会本選のベストバウト投票結果発表!》



 投票ですか。

 雑談の中でそういう話もありましたっけ。

 本選参加者には投票権がないからスルーしてましたけど。

 中を見てみよう。



 得票数第1位 第二回戦  ○サモナー vs ●ソーサラー

 得票数第2位 第三回戦  ○ランバージャック vs ●サモナー

 得票数第3位 優勝決定戦 ○ランバージャック vs ●ファイター

 得票数第4位 第二回戦  ○フィッシャーマン vs ●バード

 得票数第5位 第二回戦  ○ファイター vs ●トレジャーハンター


 尚、得票数第1位の試合動画を全編公開する予定としておりましたが、良識を鑑みて中止とさせて戴きます。

 代わりに得票数第2位の試合動画を全編公開とさせて戴きます。



 良識?

 あの試合終了までの顛末はさすがに運営も躊躇したって事か。

 オレのせいなの?

 それに普通は優勝決定戦あたりが第1位になるものなんじゃないの?


 解せぬ。



 ボス戦は長引いているようだ。

 死に戻ったらメッセージが来る筈なのだし、まだ善戦しているのだ、と思いたい。

 待っている間、ラッシュファンガスが2匹、襲ってくるのが見えたが、戦鬼と護鬼に任せておいた。



 広間の中央にフィーナさん達のパーティが現れた。

 アデルとイリーナも一緒だ。

 結構、いや、かなりボロボロな気がする。


「なんとか全員死なずに勝ったはいいけど状態異常が3名出たわ!」


 レイナの顔も蒼白だ。

 状態異常になるまでHPバーを一気に削られたのはフィーナさん、フェイ、それにアデルのようである。


「とりあえず魔物が出ない広間へ移動しましょう。先導します」


「お願いね」


 フィーナさんの声も弱々しい。

 オレにも覚えがある。

 スノーエイプに大ダメージを喰らった時の事だ。

 思うように体が動かせない。

 あの重度の倦怠感があるようでは戦闘は無理だろう。

 アデルに至っては虎のみーちゃんに運ばれているような状況だった。



 通路1本分の移動は妙に長く感じたが、ブランチゴーレム5匹だけで済んだのは僥倖と言えよう。

 どうにか広間に辿り着くと、続々と座り込んでしまっていた。

 自然、小休止になった。


 互いに時間経過した所でポーションを用いて回復しながら、ボス戦の様子を聞いた。

 ボスは2体、出たのだという。

 2つのパーティがユニオンを組んでいたから、という推測が容易に成り立つだろう。


 その2体が奇妙に連携してきたのだとか。

 1体が前衛で体を張っているうちに後方でファンガスが何匹か出現してしまったらしい。

 それは厳しいな。


 どうにか1体を倒した時にはかなり消耗していたようだ。

 結局、接近してディスペル・マジックを使う隙は見つけられなかったそうだから、かなりの損耗だったろう。

 ウッドゴーレムがいなかったら。

 事前に回復丸が渡されていなかったら。

 エンチャンテッド・ウェポンを早めに使っていなかったら。

 ここにこうしていられんかっただろう、というのが総合的な感想であった。


 こっちにも伝えるべき事がある。

 時空魔法だ。

 話を聞いた皆が目を剥くような反応を示したのが興味深い。


「リターン・ホームって。転移できるとなると攻略の形が変わるわ!」


「ある意味、チート」


「光魔法に闇魔法、ね。両方を取得してるプレイヤーって相当少ないんじゃないの?」


「欲しい!でも育てるのが大変よね」


 大ダメージによる状態異常を喰らっているメンバーもいるのだが、議論は熱を帯びる一方だった。


「サキ、それにキース。掲示板に書き込みをお願いできる?」


「やっとく。フィーナは少し休んでおいて。キース?」


「はい」


 少し離れてサキさんと相談しながら掲示板に書き込んだ。

 良く分からないのだが、掲示板は前に書き込んだ内容でかなりの盛り上がりを見せていたようだ。

 サキさんの様子でそう見て取れた。


「ねえ、キース」


「はい。なんでしょうサキさん」


「ある意味、これは爆弾みたいなもの。貴方も悪目立ちしちゃうけどいいの?」


「悪目立ちですか。もう目立ってしまってるみたいですし今更ですかね」


「暢気ねえ、ちょっと貴方がうらやましくなることがあるわ」


 オレが書き込んで、サキさんのほうで補足のフォローをする。

 ほんの数行だけの内容だが、これがどういった反響を呼ぶのだろうか。


 まあオレは碌に掲示板も見ていないし、スルーしておけばいいだろう。



 時刻は午後9時を少し過ぎていた。

 小休止も10分を過ぎて、状態異常を貰っていた3人も移動ができる程度に復帰しているようだ。

 もう遅い時間である。

 この森の迷宮を出て、早めにレギアスの村に戻りたい所だ。


「先導はずっと私がやります」


「申し訳ないけどお願いするわ」


 オレの方から先導を申し出て先行した。

 出入り口までは通路1本と魔物が出る広間が1つだけだが油断はできない。

 実際、広間ではブランチゴーレムが7匹も出てきている。

 まあ全部投げ続けてどうにか倒した訳だが。


 森の迷宮を出て西の森の中に出た。

 ジェリコは帰還させてジーンを召喚する。

 念のため、戦鬼も帰還させてヴォルフも召喚しておいた。

 レギアスの村まで約30分ほどだが、その行程の奇襲に警戒するためだ。

 イリーナも移動速度を確保するためにウッドゴーレムのゴリアテを帰還させた。

 だが新たにモンスターを召喚するだけのMPはないようだ。

 激闘の後だ、仕方ないよな。



 こういう時に限って、ハンターバットやパラレルラクーンの奇襲があったりする。

 弱り目に祟り目か。

 だがそうも言っていられない。

 奇襲をなんとか凌ぎながらレギアスの村に辿り着いたのは午後10時を過ぎていた。

 皆、心身ともに疲れきっているように見える。

 色んな事があったし仕方がない。


「今日は皆さんお疲れ様でした」


 フィーナさんのその声に応える声は力のないものばかりだった。

 いや、本当にお疲れ様だ。


「これから反省会、と行きたい所だけど今日はもう無理。明日の朝、都合がつく人は屋台裏に来て欲しいわ」


「朝食は勿論サービスする予定」


「キースも出来たら顔を見せてね」


「はい」


「では解散!」


 それぞれが常宿へと戻っていった。

 さて。

 オレには最後に確かめたい事がある。


 リターン・ホームの呪文である。


 早速、呪文を選択して実行する。

 呪文の詠唱が終了。


「リターン・ホーム!」


 だがその効果はなかった。

 あれえ?



《村の結界の中です。転移するには結界外にて呪文を使用して下さい》



 インフォの形で失敗が告げられてしまった。

 そうですか。

 この呪文もどこまでも便利という訳ではなさそうだ。


 レギアスの村を出て再度リターン・ホームの呪文を使ってみる。


「リターン・ホーム!」


 すると周囲の景色が一瞬で消える。

 見えるのはオレの召喚モンスター達だけだ。

 僅かな時間が経過すると、オレの目の前には師匠の家があった。


 ふむ。

 便利だ。

 当たり前だがMPバーは少し減ってはいるものの、大きく減っているように見えない。

 レベル3の攻撃呪文で消費する量と同じかやや多い、といった所だ。


 転移呪文の確認もとれた。

 この呪文があれば、冒険するにしても思い切って先に進む事ができるだろう。


 その意味は大きい。

 オレでも分かる。


 召喚モンスター達を帰還させて家に入る。

 装備を外すとそのままベッドに潜り込んだ。

 荷物の整理は明日にしよう。

 そんな事を考えながらログアウトしていた。

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv8

職業 サモナー(召喚術師)Lv7

ボーナスポイント残7


セットスキル

杖Lv6 打撃Lv4 蹴りLv4 関節技Lv4 投げ技Lv4

回避Lv4 受けLv4 召喚魔法Lv8 時空魔法Lv1(New!)

光魔法Lv4(↑1)風魔法Lv4 土魔法Lv4 水魔法Lv4

火魔法Lv3 闇魔法Lv4(↑1)氷魔法Lv1 雷魔法Lv1

木魔法Lv2

錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv3

連携Lv6 鑑定Lv6 識別Lv6 看破Lv2 耐寒Lv3

掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv6 跳躍Lv2

耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv3 精神強化Lv3

高速詠唱Lv2


装備 カヤのロッド×2 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3 

   野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+

   雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式


称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者

   呪文目録


召喚モンスター

ヴォルフ ウルフLv6 お休み

残月 ホースLv4 お休み

ヘリックス ホークLv4 お休み

黒曜 フクロウLv4 お休み

ジーン バットLv4 お休み

ジェリコ ウッドゴーレムLv3

護鬼 鬼Lv2

戦鬼 ビーストエイプLv1

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