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受付を済ませて控え室近くから観戦しようと思ったのだが。
出来ませんでした。
すぐに出番が回ってきてしまったのだ。
職員さん、手回しが早いって!
対戦相手も対角線に揃っているようだ。
但し、5人しかいない。
前衛と思われる3名は全てドワーフだ。
恐らくはファイター。
盾と片手斧、盾と片手槌、両手に槍か。
いや、槍じゃないな。
十字槍のように何か付いている。
片方に鶴嘴、もう片方に斧状の突起がある。
ポールウェポンって奴だな。
後衛は2名。
弓持ちと杖持ち。
装備から見てハンターとソーサラーだろう。
試合開始までの短い合間に【識別】しておこう。
??? Lv.13
ファイター 待機中
??? Lv.13
ファイター 待機中
??? Lv.13
ファイター 待機中
??? Lv.13
ハンター 待機中
??? Lv.13
ソーサラー 待機中
わお。
強いのが揃っている、よね?
でも5名でチームを組んでいる。
その狙いは?
決まっている。
ハンターかソーサラーのどちらかがエルフって事なんだろうな。
ハンターは革兜を装備している。
ソーサラーはフードを目深にしていて顔も下半分しか見えない。
どんな戦闘を仕掛けるのかね?
興味深い。
まあそれはいいとして、だ。
オレはどうする?
前衛が全員、ファイター。
しかもドワーフ。
弱点は明らかだ。
機動力に難があるのは明らかだ。
こっちから突っ込んで迎撃されてしまうのは面白くない。
では呪文で強化しながらじっくり攻めるか?
それも面白くない。
呪文を行使できるメンバーはオレしかいないのだ。
相手チームはオレが呪文を1つ完成させる間に最悪5つの呪文を行使できるだろう。
【高速詠唱】があっても、その差を埋める事は出来ない。
どうする?
さあ、どうする。
戦う前から困難な状況に陥った、か。
だがそれもまた良し。
やれる事をするだけだ。
普通でいい。
普通で。
だが1つだけ、工夫はしてみようか。
ヴォルフだ。
その機動力を活かせないだろうか?
そしてジェリコ。
こいつが戦線に早めに加わってくれたら助かるんだよな。
開始10秒前。
ヴォルフへの指示は単純なものだ。
問題あるまい。
ジェリコへの指示も単純そのもの。
これも問題ないだろう。
オレも呵責の杖を手に持って前を向く。
深呼吸を、1つ。
開始3秒前。
互いに。
礼。
「始め!」
開始と同時に。
オレ達は駆け出していた。
「練気法!」「メディテート!」「ブレス!」
『スナイプ・シュート・バースト!』
矢が飛んできてオレの肩を直撃する。
だが前進を止めない。
呪文詠唱もキャンセルされなかった。
宜しい。
ヴォルフは一旦、右に大きく迂回しながら後衛を狙う素振りをさせている。
無論、隙があれば攻撃をさせる所だが。
目的は別にある。
前衛の牽制だ。
右端の盾と槌を持つドワーフがヴォルフの前に立ちはだかる。
「グラァァァ!」
威嚇をしながら一定の距離を保ちながら隙を窺う。
だがドワーフのガードは厳しそうであった。
戦鬼はオレに先行して突っ込ませている。
無論、リグも一緒にだ。
「フィジカルエンチャント・ウィンド!」
敏捷値を底上げするのはジェリコだ。
大した差はないかもしれない。
だがジェリコにも一工夫させてある。
いきなり液状化をさせて移動力を上げていたのだ。
『サモン・エレメンタル!』
やはり、な。
精霊がドワーフの戦列の前に顕現しようとしている。
その姿には見覚えがあるぞ?
サラマンダーだ。
相手チームの前衛も呪文詠唱が続いている。
もう少し進めば後衛にも届くと思ったんだが、さすがに間に合わなかったか。
「スペル・バイブレイト!」
前衛の呪文詠唱が全て潰れてくれたらいいんだが。
その結果は確認せずに呪文を選択して実行する。
『フィジカルエンチャント・ファイア!』
やはりレジストした奴がいたか。
だが構っている暇はない。
オレはサラマンダーに杖を叩き付けた。
戦鬼とリグが前衛に出来た穴を突く。
ヴォルフの牽制に動いていたドワーフは気が付いていたようだが、一瞬迷ってしまっていたのが分かる。
目の前にヴォルフがいたのだし仕方がないのだが。
明らかに、ミスだよな?
杖を更に振るってサラマンダーを攻撃し続ける。
呵責の杖を散々叩き付けられてサラマンダーのHPバーが減っていく。
近くに寄っているだけでも無茶苦茶熱い。
接近戦なのだし、触れるだけでダメージも喰らっているだろう。
間違いない。
「フラッシュ・フラッド!」
至近距離から水魔法の攻撃呪文をサラマンダーに浴びせかける。
同時にサラマンダーが火炎を吐く。
互いに直撃。
互いに大ダメージを喰らっていた。
だが結果の差は歴然だ。
オレはまだ十分にHPバーが残っている。
サラマンダーのHPバーは極僅か。
杖を叩き付けてサラマンダーを屠る。
これで数的優位は出来たか?
オレの目前に護鬼がいる。
その手には剣と斧。
完全に前衛となって、盾と斧持ちのドワーフに対抗していた。
オレがサラマンダーを仕留める時間を作ってくれたのだろう。
HPバーが3割ほども減っている。
結構、喰らっているな。
『シールド・ラッシュ・バースト!』
護鬼が吹っ飛ばされた。
入れ替わりにオレが前に出る。
ドワーフは盾を構えたまま突撃した横を向いた姿勢のままだ。
杖でドワーフの左膝の裏を突いて、そのまま背中に肩からタックルした。
転ばないってどういう事なの?
重い。
重心が低い。
それでいてパワーもある。
そういえばドワーフってそういうものでしたね。
だがそのドワーフに異変が起きた。
足元に忍び寄る存在が這い上がってくる。
ジェリコだ。
あっという間にドワーフを覆い隠してしまう。
まるでスライムのように。
徐々に硬く戻った時には後ろからドワーフを羽交い絞めにしていた。
足が宙に浮いてるし。
これ、詰んだな。
別のドワーフに正対する。
横合いから矢が飛んでくるが気にする暇などない。
ドワーフの持つポールウェポンの先端はオレに向けられている。
『二段突き!』
ギリギリで避けた、と思ったが、2撃目は喰らってしまった。
こいつめ。
やりおるわ。
姿勢を低く保って突進。
ドワーフは突きを放った姿勢のままだ。
半身の構え。
前に出ている右足が狙いだ。
タックル。
倒れない。
そのまま後ろに回り込んで背中を蹴った。
戦鬼とリグは?
ヴォルフは?
どうなってる?
数的優位はより確実なものになっているようであった。
ソーサラーとハンターは共に場外にいる。
戦鬼の仕業なのだろう。
外に放り投げられたに違いない。
無論、場外は即失格ではない。
入ってくればいいのだが、ヴォルフが2人が入るのを牽制している。
牙を剥き出しにして威嚇しまくり。
プレイヤー2人は試合場に入るのを躊躇している様子だ。
戦鬼とリグは?
戦鬼は盾と斧持ちのドワーフに馬乗りになっていた。
そのドワーフの口元にはリグが迫っている。
詰んだ。
これも詰んだな。
「グラビティ・バレット!」
ポールウェポンを振り上げているドワーフに呪文を放つ。
まともに命中するのだが、吹き飛んだりはしない。
いや、本当に頑丈だな!
HPバーの減りも大した事がないように見える。
だがちゃんと効いていたらしい。
動きが鈍っているのが分かる。
そこに護鬼の斧がフルスイングで直撃した。
しかも頭に。
地震が起きたかのような重低音が響く。
ドワーフのHPバーが消し飛んだ。
おい。
オレの獲物がなくなったぞ!
ヴォルフが威嚇するのを一旦止める。
オレの傍に呼んだ。
「ファイア・ヒール!」
護鬼を回復させておき、外にいる2名のプレイヤーが試合場に戻るのを待つ。
ドワーフは?
もう詰んでる。
徐々にHPバーが減っているのが分かっているから大丈夫。
さあ。
来い。
入って来なさい。
いや、入って来て。
入って来て、くれないかな?
ほら、やさしくするから。
ね?
頼むから!
《試合終了!戦闘を停止して下さい!》
願いは届きませんでした。
ギブアップしたみたいです。
《只今の戦闘勝利で【火魔法】がレベルアップしました!》
《【火魔法】呪文のエンチャンテッド・ファイアを取得しました!》
《【火魔法】呪文のエネミー・バーンを取得しました!》
まあ魔法技能のレベルアップは、いい。
呪文も増えたし、結果としては悪くない。
でもオレ自身は明らかに不完全燃焼のままだ。
うん。
納得できないな!
対角線に整列した対戦相手を見るオレの目にはどんな感情が浮かんでいるだろうか?
後悔?
失望?
未練?
どれにしたって碌なものじゃないな。
かろうじて礼だけはしっかりとしておいたが。
《予選第三回戦に進出しました!第三回戦は明日午前9時30分、新練兵場B面の予定となります》
思考を切り替えよう。
お楽しみは明日もある。
きっと、ある。
そうでなければならない。
うん。
そう、信じよう。
臨時試合場は新練兵上場よりも広い。
それだけに観客席にも余裕があるようだ。
召喚モンスターの陣容は変更しておいた。
ヘリックス、黒曜、ヘザー、ナインテイル。
そしてレーヴェを召喚しておいた。
観客席の特等席に陣取る。
当然だがレーヴェはオレの足元に伏せた状態で控えている訳だ。
NPCは当然だが、プレイヤーも寄って来ない。
狙ってやってる訳ではなかったんだけどね。
昼飯時まで試合観戦を楽しんだ。
そう。
単純に、楽しんだ。
情報収集?
解析?
いや、観客に徹しよう。
そんな中でも目を引くチームはいるものだ。
サモナー3名と召喚モンスター3匹のチーム。
あれ?
昨日見たチームだな?
サモナー繋がりで声援を送っていたんだが、残念な事に敗北である。
その戦いぶりはそんなに悪くなかったと思う。
相手チームが凄かったのだ。
全員、職業レベル7。
無論クラスチェンジはしていない。
だがそのコンビネーションは見ていて素晴らしいとしか言い様がなかった。
戦闘ログは記録していたのだが、動画に撮っていなかったのが惜しい。
うむ。
レベルが全てではないよな?
全ては相手があっての結果なのだと思う。
絶対的な強さはその実、存在していない。
相対的に比較は出来ても、一定の尺度を求める事に意味はないだろう。
ミスをしない事。
相手の動向を知り、その先を読む事。
虚を突く事。
優位を築く事。
個人戦とは違う要素がこれに絡んでくる。
チームであるが故に。
運営が何を企図して、闘技大会をイベントにしているのかね?
何か狙いがあるのか?
そう深読みしたくもなる。
だが面白い。
単純に、面白いな、これ。
戦うにしても工夫を加える余地はありそうだ。
オレの場合はパーティ内で連携プレーをするプレイヤーがいない。
それが不利とは思わない。
責任は自分だけが背負えばいいのだし、気楽とも言えるからだ。
その裏表でオレ次第、となる訳でして。
つまり有利に働くとも限らないんだよね。
うむ。
戦闘の幅を広げるにはどうしたらいい?
まあ真面目に考える事もないか。
楽しめたらいいのだし。
普通に観戦を楽しもう。
普通に、だ。
時刻は午前11時50分。
堅守型同士のジリジリとしたHPバーの削り合いを見終えた所で昼飯のために移動する。
アデルとイリーナと落ち合う約束だ。
メッセージを出すか、テレパスを使うか、迷っていたら先制されました。
『キースさん、時間ですよー』
『試合はどうでしたか?こっちは辛勝って所でした』
『こっちも勝ったよ』
不完全燃焼ですけどね!
『場所は屋台のある所で!』
『リック達が露店を出している筈だな』
『ではそこで待ち合わせしましょうか?』
『そうするか』
『ではこれで』
テレパスはそこで切れた。
ふむ。
腹ごしらえが終わったら再び観戦を楽しもうかね。
リックの露店の様子が変わっていた。
隣接して屋台もやっている。
料理人は優香だ。
見慣れないプレイヤーが手伝っているようだが。
「あら、キースさんこんにちは」
「ども。屋台も始めたんですか?」
「ええ。設備は借り物だけどね」
そう言うと隣の男性プレイヤーを見る。
ゲームを始めたばかりらしいな。
間違っていたのはオレの方だったようだ。
手伝っているのは飽くまでも優香の方って事か。
「アデルとイリーナもすぐ来ると思いますよ」
「じゃあお昼はここで?」
「勿論」
「じゃあ裏手で座って待っていて下さいな」
裏手には机と椅子が並んでいる。
屋台で料理を買い込んだ連中で半分ほど埋まっていた。
その一角を占有する。
ライオンのレーヴェがいるせいか、NPCは寄ってこない。
なんか申し訳ない気もするが。
「勝ってきたぞー!」
「おつかれさまです」
アデルとイリーナが戻ってきた。
そしてモフモフ軍団とトグロも。
周囲のNPCがより近寄らなくなってしまった。
「はい。これは差し入れ」
優香が昼飯を奢ってくれました。
有難い。
「リックは?」
「不動と一緒に観戦に行ってるわね」
「観戦、ね」
「ええ。私もマルグリッドさん達と観戦しに行く予定。リックと入れ替わりに、ね」
へえ。
それで待ち合わせついでに手伝いらしい。
アデル達と昼飯を片付けていたら本当に、来た。
マルグリッドさん、レイナ、ヘルガといった女性陣だ。
あ。
思い出した。
レーヴェの装備、頼んでおいた方が良くないか?
「おや、大会出場組じゃないの。おつかれさま」
「おっす!」
「こんにちわ。今日の所はなんとか勝ちました」
「キースさんは?」
「まあ、なんとか」
不完全燃焼なんですよ。
どうにかならないものですかねえ。
「じゃあ今日はもう試合はなし?」
「食事を終えたら観戦ですね」
「じゃあ少し待っててくれないかしら?一緒に観戦しない?」
「まあいいんじゃないかな?」
なんとなく。
そう、なんとなく同行が決まってしまいました。
オレ以外、全員女の子だというのに潤いがない。
愛でられるのはヘザーとナインテイルばかりだったりするしな。
「マルグリッドさん、こいつの首輪も頼めますか?」
「この子の?」
「ええ。新しく召喚したので」
「ライオン、ねえ」
マルグリッドさんが恐る恐るレーヴェを撫で始める。
撫でる。
撫でまくる。
止まらなくなった。
「かわいー」
おいおい。
サイズ測ってたんじゃなかったんですか?
「残念だけど、今って手持ちの素材がなくて」
「ダメですか」
「いや、これならあるんだけど」
オレに見せたのはアレだ。
獄卒の鼻輪。
しかも1つや2つといった数ではない。
どう見ても20個以上、あるな。
「使い道がなくて困ってるのよねえ」
これは。
ある予感がある。
召喚モンスターの首輪も呵責シリーズ化しかねないぞ?
リックと不動が来るまでの間、召喚モンスターのサイズ測定祭りでした。
祭り?
間違っていない。
アデルもイリーナも召喚モンスターの装備を欲しがっていたからだ。
おいおい。
呵責シリーズ装備した召喚モンスターが増えるのか?
恐るべき事態になりそうだな。
オレもヴォルフとティグリスの分も追加で頼んでおいた。
猛獣類は攻撃に特化させる方がいいかもな。
「あれ?」
「おや、皆さんお揃いで」
「じゃあ後は宜しく!」
リックと不動が観戦から戻ってきた。
レイナの号令で女性陣とオレは席を立ってその場を辞去した。
観戦に向かうのは臨時試合場だ。
観客席に余裕があるからな。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv17
職業 グランドサモナー(召喚魔法師)Lv3
ボーナスポイント残 24
セットスキル
杖Lv13 打撃Lv10 蹴りLv10 関節技Lv10 投げ技Lv10
回避Lv10 受けLv10 召喚魔法Lv17 時空魔法Lv9
光魔法Lv9 風魔法Lv10 土魔法Lv9 水魔法Lv10
火魔法Lv10(↑1)闇魔法Lv9 氷魔法Lv7 雷魔法Lv7
木魔法Lv7 塵魔法Lv7 溶魔法Lv7 灼魔法Lv7
錬金術Lv8 薬師Lv7 ガラス工Lv6 木工Lv6
連携Lv12 鑑定Lv12 識別Lv12 看破Lv4 耐寒Lv6
掴みLv10 馬術Lv10 精密操作Lv12 ロープワークLv1
跳躍Lv5 軽業Lv2 耐暑Lv7 登攀Lv6 平衡Lv1
二刀流Lv9 解体Lv7
身体強化Lv8 精神強化Lv9 高速詠唱Lv11
魔法効果拡大Lv8 魔法範囲拡大Lv8
装備 呵責の杖×1 呵責のトンファー×2
呵責の捕物棒×1 怒りのツルハシ+×2 白銀の首飾り+
雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2 雪豹のバグナグ×1
草原獅子のバグナグ×1 闘牛の革鎧+ほか
呵責の腕輪+×2 呵責の足輪+×2
暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の高弟 森守の紋章 中庸を知る者
呪文辞書 格闘師範
同行者 アデル&イリーナ他




