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ログインした時刻は午前5時半。
気持ち普段よりも早いかな?
だが師匠達はもっと朝が早いようだ。
文楽だけを召喚して作業場に降りると既に起きていた。
机上には回復丸が並んでいる。
これ、作っていたのか。
「おお、早いの」
「おっはよーさん」
「おはようございます」
師匠が合図したのか、メタルスキンが食事を机上に並べていく。
早いって。
文楽の活躍の場がなくなってしまいましたか。
「さて、今日から予選じゃが」
「はい」
「まあ気楽に、な」
「そのつもりです」
「楽しみー」
食事があっという間に摂り終えると早速移動となった。
早い。
早いって!
つか子供か!
どうせいい席は確保してあるのだろうに。
何を急いでいるんだか。
師匠はバトルホースを召喚する。
ジュナさんはスレイプニルだ。
文楽を帰還させる。
残月、ヘリックス、黒曜、ナインテイル、ヘザーを召喚した。
移動する事になったのですが。
本気で飛ばしすぎ!
街道に出たら急に速度を上げてくるんですもの。
フィジカルエンチャント・ウィンドで残月を強化して追いかける。
まあ、なんだ。
スレイプニルを近くで見てる訳ですが。
近くで見ると凄いですよ、こいつ。
筋肉。
パワー。
そんな言葉しか浮かばない駆けっぷりなのだ。
こいつに蹂躙されたら簡単に死ねそうです。
急ぐ師匠達には魔物も襲ってこない。
うん。
それが正解だろうね。
この人達に戦いを挑もうとか、無茶通り越して無謀です。
レムトの町に到着。
今までになく人が多い。
通行の邪魔になりそうだし残月はここで帰還させた。
師匠達も同様にバトルホースとスレイプニルを帰還させる。
「人が多いの」
「まあ当然ですね」
「うーん、この雰囲気はいいわー」
師匠を先導として新練兵場に向かう。
だがその前にインフォがあった。
《フレンド登録者からメッセージがあります》
うん?
おお、リックからだった。
『今レムトで露店やってます。本日の夕方までなら受け渡しが出来ます』
うん。
今、行きますって。
「では師匠、私はここで」
「うん?野暮用かの」
「まあそんな所ですかね」
「うむ、では試合場での活躍を楽しみにしておるからの」
「まったねー」
「はい」
師匠達に一礼して別れる。
普段、屋台が連なる場所に向かおう。
果たしてどんな武器になったんだろうか。
リックの露店はそこそこ賑わっているようだ。
明らかにプレイヤーが多い。
品揃えは革製の防具が充実しているようだ。
【鑑定】してみると闘牛シリーズ、茶色熊シリーズといった所だ。
「ども」
「ああ、キースさん。狭いですが裏へどうぞ」
店番をしている不動とヘルガとは目礼で済ませる。
リックに促されて露店裏に案内された。
何だ?
「物は預かってます。これですが」
渡されたのは槌、そして斧だ。
早速【鑑定】してみよう。
【武器アイテム:片手槌】轟音の槌 品質C+ レア度5
AP+14 破壊力3+ 重量1+ 耐久値160
鍛冶スキル補正効果[小]
雪獣人の骨に鍛鉄と鋳鉄のハンマーヘッドを括り付けた槌。
ハンマーヘッドの重さに対して柄は長くて軽く、使いこなすのは難しい。
叩くと骨の中で重低音が反響する。投擲には向かない。
【武器アイテム:手斧】轟音の鉈 品質B- レア度4
AP+17 破壊力3 重量1+ 耐久値180
攻撃命中率上昇[微]
切れ味よりも重量で叩き割る事に便利な武器。
柄に雪獣人の骨が使われている。
与えたダメージが大きいほど重低音が響く。
むむ?
かなり強化されてるよね?
「素材の入手先はまあ予想はつくんですが、現在この武器の情報は保留にしてあります」
「うん?」
「轟音の槌の方です。響音の槌が作られた最初の頃と同じ構図ですね」
あ。
鍛冶スキル補正効果[小]って所に目がいってなかったな。
「轟音の槌はもう1本、作らせてありますけどね」
「また揉めるって事ですか?」
「いや、今回はそこまでいかないでしょう。響音の槌が数多く出回っているって事もありますが」
「え?」
「いずれ、時間は掛かるでしょうが、この轟音の槌も出回るようになる。これは間違いないでしょうから」
ほう。
しかしすぐにとは行かないだろうな。
ウェンディゴの居場所は再度探索が必要だし、見つけたからと言って狩るのは大変だ。
それでもいずれは狩られるんだろうけどな。
「骨の入手先も概ね想像できますし、そう焦る事もないですけどね」
「そうなんですか?」
「まあ欲しい事には変わりはないですが。焦ってはいない、といった所ですかね」
ほう。
ならばウェンディゴが何処に行ったのか、調べに行くのも悪くない。
探索してない洞窟もあるし。
「でもまずは大会、ですよね?」
「まあそうですが」
「がんばって下さい」
「まあ微力を尽くしましょう」
そう、普段通りでいい。
普段通りで。
町の中はNPCも多いしプレイヤーも多いな。
観客入り口はかなり混んでいる、
新練兵場の受付前には出場するパーティが集まっていた。
が、混み合っている、という程ではない。
「おっはー!」
「おはようございます」
あれ?
そこにはアデルとイリーナがいました。
「ああ、おはようさん。早いんだな」
「昨日はここで泊まってましたー」
「ゲルタ師匠の所でお世話になってますので」
「大会期間が終わったら師匠のお手伝い決定!」
ほう。
ゲルタ婆様の所に世話になっているのか。
そっちも色々と大変そうだよな。
「受付時点で召喚モンスターは出場する布陣にしなきゃいけないみたいですよ?」
「ほう、そうか」
イリーナに指摘された事だし、布陣を変更しようか。
ヘリックス、黒曜、ナインテイル、ヘザーを帰還させる。
ヴォルフ、ジェリコ、戦鬼、護鬼、リグと召喚した。
護鬼には轟音の鉈を渡して響音の鉈は《アイテム・ボックス》に入れておく。
「この布陣だと後衛は護鬼だけなんでしょうか?」
「護鬼ちゃん、前衛も出来そうな装備なんだけど」
これこれ。
確かに後衛って何?な布陣なんだが。
それにオレが後衛から外れているぞ?
まあ後衛をするつもりはないんだが。
「で、2人が組んでその布陣か」
「ええ」
「当たって砕けろ!って感じです」
アデルの傍には虎のみーちゃん、狼のうーちゃん。
イリーナの傍には蛇のトグロ、虎の三毛。
モフモフ成分が多過ぎ!
「で、2人が後衛、召喚モンスターが前衛か」
「そうですね」
「速攻で行きます!」
ほう。
確かに、この布陣ならば狙いは明白だ。
3匹の猛獣を前面に立てて襲い掛かるって事になるだろう。
トグロに何をやらせるかは謎だが。
「試合は何時になってる?」
「9時40分開始、新練兵場C面ですね」
「私より先だな」
「キースさんは?」
「10時00分開始、新練兵場A面だな」
「じゃあ一緒に見物できるね!」
2人が何か含むような顔で互いを見る。
何を企んでいるのかね?
では先制攻撃するとしよう。
「サモナー同士で何かするとか言ってなかったか?」
「え?」
「う、うん、勿論!」
「策を弄さずとも顔は見せるから気にしなくていいぞ」
2人とも呆けたような顔をしているが。
攻撃成功?
「拉致ろうと思ってたのに!」
「それはいいから。時間は?」
「ゲーム時間で午後5時あたりからです。夕食も出しますので」
「ま、大丈夫だろう。それまではどうするんだ?」
「試合見物、ですね」
「私も同じだ。一緒に行動するか?」
顔を見合わせる2人。
そして同時に叫んだ。
「「勿論!」」
おお。
久々にハモってますな。
通された控え室は混みあっていた。
まあそりゃ当然か。
試合数に対して出場するプレイヤーの数は多い。
個人戦だった前回は寂しかった控え室が満杯になりそうだ。
早々に装備だけ確認する。
アデルとイリーナも息苦しそうであった。
「試合会場の方に出ているか」
「そうですね」
「汗の匂いがー!」
まあそうだよな。
ここは息苦しい。
試合会場では開会式が始まっていた。
ギルド長が雛壇で開会宣言を読み上げているようだ。
その隣にジュナさんがいる。
そしてゲルタ婆様に師匠もいるな。
だが気になるのは周囲の視線だ。
見られてる。
見られてる、よね?
開会宣言が終わると拍手が鳴り響いた。
時刻は午前8時30分。
早速、試合が開始となった。
控え室の傍で壁を背にしながら見物する。
ここからだと視線を転じたらA面とC面が同時に見る事が出来た。
いいポジションだよな。
オレの隣にはアデル、その向こうにイリーナ。
召喚モンスター達はオレ達の周りを囲んでいる。
誰も寄って来ない。
まあ戦鬼がいるしな。
虎2匹と狼2匹に囲まれてアデルはいい気分なのだろう。
危ない表情のままだ。
試合、ちゃんと見ろよ?
試合はどれも興味深い内容であった。
戦闘ログも傍目で見ているのだが、武技も呪文も乱れ飛んでいて把握するのも難儀だ。
1つの試合場で1チーム6名、2チームが戦っているのだから仕方がないよな。
それでも戦い方の傾向はハッキリと分かる。
注目すべき戦いも当然、ある。
速攻投射型。
距離があるうちに弓矢と呪文の攻撃で押し切る戦法だな。
後衛に弓矢持ちを揃えているパーティがやってました。
前衛は所々で壁呪文を行使しながら相手の接近を食い止め続ける訳だが。
これ、前衛の負担が凄いぞ?
まあ戦い方としては十分にアリだろうな。
堅守型。
試合場の陣地を確保しながら圧迫し続ける戦法だな。
後衛は前衛を呪文で支援、前衛は前進しながら迎撃中心に戦い続けていたが。
これはまた地味なスタイルだが、確実に勝ちを拾えそうだ。
隙を突かれないよう、色々と注意を要するような気もする。
機動包囲型。
見ていた中で一番気に入ったのはこれだ。
試合開始と同時に2名が左右に展開、相手を半包囲する戦法だ。
個々の能力に依存するが、効果は大きいように見える。
だがリスクも大きいな。
壁役の枚数が極端に少ないから後衛の守りは当然薄い。
危うく後衛が潰されそうになっていたぞ?
まあこれも工夫次第、だよなあ。
攻撃特化型。
これも考え方はシンプルだ。
まっすぐに、ただ、まっすぐに相手に向かい、力で突破する戦法だ。
これをやってたパーティなんだが、前衛が全員、ドワーフでした。
メンバーの特性を活かせたら、効果は高いな。
バランス型。
これが一番、多いようだな。
まあ当たり前なんだが。
多様な状況に対応できるように組まれたメンバーで構成している。
それ故に穴が少ないのは、まあ分かる。
どうも戦い方が上手くいってない所が多い。
反対に指揮系統がしっかりしているチームだと、かなり強いな。
相手の弱点を突く手段を何かの形で見出せるからだろう。
侮れない。
で、オレはどのタイプになりそうなのか?
攻撃特化型。
それに少しだけ機動包囲型を組み合わせた形になるだろうか?
また武技も呪文もより上位のものが普通に使われている。
特に全体攻撃呪文は逆転の一手になるパターンもあった。
それにレベル10呪文も効果が大きい。
武技も連続で放たれたら面倒極まる存在だ。
まあ、あれだ。
戦う前から色々と心配してみた所で仕方ないんだよな。
普段通り。
普段通りで行こう。
「アデルちゃん、そろそろ私達の出番みたいよ?」
「おっしゃー!行ってみようか!」
時間の経過が早いな。
もう2人の出番とは。
職員さんが2人を呼んでいました。
いや、試合進行が早くて前倒しで試合を進めているらしい。
時刻は午前9時20分か。
確かに、試合の決着が早めに付いているんだよな。
無論、アデルとイリーナの試合の様子は戦闘ログでも見るのだが。
生で戦いを見る方がずっといいだろう。
だが戦闘ログでしか分からない事もある。
互いの戦力比較、その概要だ。
まあ大した事は分からないんだけどね。
例えば、アデルとイリーナの場合、こうなる。
??? Lv.9
サモナー 待機中
フォレストタイガー/??? Lv.1
召喚モンスター 待機中
ウルフ/??? Lv.6
召喚モンスター 待機中
??? Lv.9
サモナー 待機中
ヴェノムパイソン/??? Lv.1
召喚モンスター 待機中
タイガー/??? Lv.6
召喚モンスター 待機中
まあ分かると言ってもこれだけだ。
プレイヤーの名前は分からない仕様は変わらない。
では対戦相手はどうか?
??? Lv.11
ファイター 待機中
??? Lv.10
ファイター 待機中
??? Lv.9
ファイター 待機中
??? Lv.10
ハンター 待機中
??? Lv.11
ソーサラー 待機中
??? Lv.12
トレジャーハンター 待機中
やはり分かる範囲はこれだけだ。
だがこれに装備を見比べたらいくつか分かってくる事もある。
誰がキーマンであるのか、だ。
前衛のファイターはそれぞれ種族は人間。
装備は重装備ではない。
そして後衛は3名全員が弓持ち。
恐らく、戦闘スタイルは速攻メイン。
前衛もそこそこの機動力を活かす、といった所か。
後方から戦況を見て指示を出す奴が、いる。
多分だがトレジャーハンターだろうな。
後衛で並んだ真ん中にいるし。
おっと。
そろそろ試合開始のようだな。
試合開始。
同時に、皆が動いた。
いや、イリーナだけが動かない。
矢を番えたまま時間差で動き出す。
アデルは?
右へと移動しながら前衛に牽制で矢を放っている。
だが本命の戦力は召喚モンスター達だ。
狼のうーちゃんが先導する。
その後方から虎の三毛とみーちゃんが続く。
あれ?トグロは?
いた。
みーちゃんの向こう側にいるようだ。
相手からは矢が次々と放たれてくる。
半分の矢は喰らっている筈だ。
だがそれを無視して、進む。
『ガァ!』
『グラゥ!』
『ガァァァ!』
3匹が足を止めて同時に吠える。
そしてトグロが前衛に突っ込んでいった。
いや、前衛をすり抜けていた。
勝負はそこで決まっていたのかも知れない。
後衛陣が目に見えて混乱した。
トグロがソーサラーに巻き付いて首元を噛んだ。
そしてソーサラーに巻きついたまま、周囲を睥睨する。
焦った。
丸呑みにするのかと思ったよ。
前衛も後衛が混乱しているのに気が付いていたのだろう。
後ろを、気にしてしまった。
『グラベル・ブラスト!』
『ファイア・ストーム!』
前衛の3名に全体攻撃呪文が襲い掛かる。
そしてその3名に猛獣が襲い掛かっていった。
その後は蹂躙されるがままになった。
相手は武技も呪文もまともに使うことができず、最後はギブアップで終了である。
試合時間は3分となかった。
完勝、と言っていい内容だろう。




