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1341 補足編10 終活

「そろそろかしら?」


 長く生きた、と思う。

 今や賢人会議の席も譲ってしまい、表立って動く事も無い。

 それでも私は旧管制ルームに籠もってやるべき事をやってきた。

 家族達は心配して一緒にいたがるけど、それを振り切っての事だった。

 そんな人生も終わるのだろう。

 終わりがもう見えていた。


 キースは今も傍にいる。

 でもそれはもうかつての彼ではない。

 彼の人格を元にした人工知能が存在しているだけだ。

 ウェーブ・エイリアスと共にこの旧管制ルームの管理をしている。

 今や本体と言える存在はもうこの世に存在していない。

 彼の居場所はアナザーリンク・サーガ・オンラインの中だけだ。


 いいえ、より正確に言えば数多ある平行世界の多くに彼は存在している。

 そして私もまた同様なのだ。



『フィーナ様、お迎えが来ていますよ?』


「ごめんね、ウェーブ。もう少しここにいさせて」


 この旧管制ルームはレガシーとしての意味を持っていた。

 しかし今や老朽化が進み、ナノマシンによる修復も限界が近い。

 そういうお題目でここ最近は一般人の出入りを禁じている。

 実際には新品同様、見えない所では機材のアップグレードもされている。

 しかしここではもう長く管理業務を行っていない。

 唯一の業務はサーバーのメンテナンス、それだけだ。

 誰も訪ねる理由は無かった。

 唯一の例外が私だ。


 もうすぐ、生身の人間が訪ねる事はなくなるだろう。

 私の寿命は尽きようとしている。

 医療用ナノマシンによる延命も限界が近かった。

 それでも死は怖くない。

 私は生き続ける。

 その形が変わるだけだ。



「フィーナ・エイリアスの起動準備は?」


『順調そのものです』


 既に私の人格を元にした人工知能も用意されている。

 それもまたこの旧管制ルームに居座り続ける事になっていた。

 これから世界を見守る役目を果たす事になるだろう。

 キースと同様に。



「キースを呼んで」


『了解。キース・エイリアスを呼び出しています』


 キースは去年、この世を去った。

 でもそれは生命体としての死でしかない。

 未だにその意思は存在している。

 しかもゲームの中で複数。

 その数も増える事はあっても減る見込みは無い。

 意図的に増やしているのだから当たり前だけど。



『お待たせしました』


「相変わらずね」


 旧管制ルームには直属のロボットは幾体も存在していた。

 目の前にいるのもその内の一体だ。

 操っているのはキース。

 いいえ、キース・エイリアスと呼ぶべきだろう。

 彼はロボットの体を使って雑務をこなすのが常態化している。

 遊び半分なのだろう。

 彼らしい行動を模倣していると言えばそれまで。

 でも私には一抹の不安がある。


 そのロボットを使って対戦とかしないで欲しい。

 ゲームの中から適当に誰か連れて来てやりかねない。

 そんな危うさがこの人工知能にはある。

 まあ戦闘用途のロボットなんて無いからいいけど。

 いいえ、大昔にキースが使っていた代物がまだあったわね?



「予定通りに?」


『ええ。モニターはしているでしょう?』


「まあそうだけど」


 私もキースも、本体とも言えるその意思はゲーム内に常駐していた。

 もう数年前の事になる。

 以来、ログインしなくなった。

 その必要も既に無い。

 お互いに黄金人形を得て平行世界に干渉する事も出来ていた。

 それでもまだまだ、先は長い。


 ゲーム内で私の本体がどんな活躍をしているのか?

 それは随時モニターが出来るようにしてあるけどもう心配していない。

 先は長いけど順調。

 そして時間ならあるのだ。



「多分、ここに来るのも今日が最後ね」


『起動を見届けたら?』


「家族の所に帰るわ。見送られながら逝きたいもの」


 その家族も一体どれだけいる事か!

 産めよ増やせよ、を実地で進めたのが私だ。

 玄孫辺りから名前はもう覚えきれない。

 いいえ、孫も途中から怪しいかしら?

 携帯端末で確認するのも大変な有様なのだ。



「だからもうさよならね」


『まあいつも一緒ですけどね』


 それもまた真理だ。

 彼との付き合いは長い。

 優に百年を超えている。

 今の関係は老夫婦のような有様だ。

 実態は戦友の方が近いけど。



『フィーナ・エイリアスの起動シークエンス開始します』


「空気を読まないのね」


『まあ、そうね。でも必要でしょ?』


「律儀なのね」


『嫌味? でもまあ、貴方らしいわね』


 ウェーブ・エイリアスとの付き合いも長い。

 まあこんな砕けた会話をし始めたのはそう長くないけど。

 彼女は人工知能だからなのか、極めて知的で議論するのは楽しい。

 でも今のように軽口を叩く様子はどこか皮肉めいて聞こえる。

 感情を模倣しているだけ、なのだとしても悪い気分はしない。



 突如、旧管制ルームの中央に人影が現れた。

 それは見慣れた姿、私だった。

 但しゲーム内のものだ。

 革鎧を装備していて片手には円形の盾を持っている。

 もう片手には大型の斧、両手で扱うような代物だ。



『起動チェック終了。はじめまして、フィーナ・オリジナル』


「はじめまして、フィーナ・エイリアス。気分はどう?」


『まあまあ、かしらね?』


 首を傾げる仕草は正に私だ。

 少しだけ奇妙な気分になるけど、こんな光景にも慣れた。

 平行世界に存在している私との邂逅も経験しているせいだ。



「後のことはお願いね」


『ええ。キースを抑えるのは任せて』


 思わずキース・エイリアスが操るロボットを見る。

 大げさに肩をすくめているけど果たしてどう思っているのやら。

 暴走しそうな予感がするのだけど!



『そんなに信用出来ませんかね?』


「私は信頼してるけど? ただ信用はしないだけ」


『その心は?』


「貴方はね、やり過ぎなのよ」


 ロボットだから表情は無い。

 それでも私には分かる。

 わざと傷ついた顔を作っているに違いない。



『この区画一帯の管理は三権分立で行いますね?』


『いや、面倒なのは任せたい』


『戦うしか能が無いのも困りものですね』


 しかしこれでいいのだろうか?

 人工知能同士、昼夜を問わず漫才を繰り広げてる気がする。


 私は思わず笑っていた。

 この世界線に限って言えば争い事は少なくなっている。

 仮初めの平和とも言えるけど、それでも遙かにマシになった。

 その手伝いが出来た事には満足している。

 後は次の世代が続けてくれる事を願いたい。


 それを見守るこの人工知能達。

 彼等が表に出る事は無いと思いたい。

 それはまた人類が窮地に陥っている事と同義でもあるからだ。



「本当に大丈夫でしょうね?」


『自分を信じて!』


『まあオレも慣れたものですから』


『適宜、修正が必要でしょうけどね』


 三者三様の答えに私は笑っていた。

 これから人類には多くの苦難が待っている事だろう。

 それでも乗り越えられる、そう思ったからだ。



「じゃあ頼んだわよ?」


 私は旧管制ルームを後にした。

 もう悩みは無い。

 私に残された役目は祈り、それだけになっていた。



2026年1月25日にサモナーさんが行ⅩⅡ巻(通算13冊目)が刊行予定です。

宜しくお願いします。

追加更新はこれでラスト、また機会があればやるかもしれません...

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― 新着の感想 ―
結局寿命を延ばし続けたフィーナさんは何歳まで生きられたんだろう? 数百年は時代をぶっ飛ばしたであろう技術なら死の直前まで外見は普通の老人だったのかな… にしてもキース・エイリアスは大丈夫なんか…退屈の…
昼夜問わず漫才を続けるMAGIシステム・・・いや、本家MAGIシステムだって会話が日本語で出力されていないだけで、漫才していなかったと断定できる訳では無いけれども(笑)
キース達の物語をまた読むことができて、本当に嬉しかったです! 彼らの物語はゲームや並行世界で無限に広がっていくけど、肉体が亡くなるという一つの終わりに、少しだけしんみりとしました。 やっぱり「サモナ…
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