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1339 補足編8 雌伏2

「何?」


 まさか。

 今の一撃を、弾いた?

 受けたのではない。

 偶然で弾けたのでもない。

 狙って弾いたのだ。

 横に薙いで刀身に当てた、のとも違う。

 手にした包丁で刀の(しのぎ)に沿って振り下ろし、その軌道を逸らせた。

 偶然では済ませられぬ!

 切り落としに近い技、意図してやったならば達人の領域だ。

 手にしていたのが包丁でなかったら?

 それを思うと戦慄するしかない。



「老いとはどうにもなりませんわね」


 冷え切った声を放ったのは孫娘だった。

 その筈だ。


 双子の孫、姉と弟のどちらを鍛えるのか?

 答えは明白だった。

 姉の方は両親共々、斬り捨てても良かったがそのまま引き取った。

 成長させて家の中の雑事を任せる。

 それもあった。

 しかし別の目的もあったからだ。


 孫に狂気を宿らせるにはどうしたら良いか?

 その為だけに生かしていたのだ。

 姉を目の前で殺された弟はどうなるか?

 より強大な狂気を生む、そんな期待があったのだ。

 最初からその為だけに生かしていた筈だった。


 今や弟の方は十分な技を身に着けた。

 体格も体力も儂をも超えた。

 残るは狂気が宿るかどうか。

 そこだけは確信が持てなかった。

 何しろ親が親だ。

 鍛錬から逃げ出した我が息子に未練は無かった。

 ただ孫を遺した事だけは僥倖であっただろう。


 この御山で生き続けた我が一族。

 その技を、業を継ぐのに相応しく孫を育て上げる。

 儂が苦心して育て上げた孫の、最後の仕上げだ。

 そうなる筈だった。

 だが、これは何だ?



「死んで頂きますわね、お祖父様」


 正面から孫娘の顔を見据える。

 いつも表情が乏しい、味気ない小娘だった。

 だが今はどうだ?

 笑っている。

 否、儂を嘲笑しているのか?


 目の前で手にしていた包丁を放り出した。

 そしてどこにあったのか、短刀を手にしている。

 構えは自然体のままだ。

 それに自然体でありながら理想的な脱力。

 この儂に正対していながら淀みない気配。

 つい先刻までと同じ小娘であったのかと疑いたくもなる。



「シッ!」


 刀を斜め上に、そして横へと薙いだ。

 間合いを外されるが追撃、しかし放った突きは躱された。

 速い!

 いや、動きを読まれておるのか?



「姉さん!」


「動かないで」


 弟を制するその声に儂の体が震えていた。

 小娘の声には怒気が、そして明らかな狂気が宿っている。

 そしていつの間にか、右手に短刀が握られていた。


 儂は何を見ている?

 体の震えが止まらない。

 これが恐怖なのか?

 否、歓喜であるのか?

 どちらであるのか、儂にはもう分からない。

 ただ確かな事がある。

 この小娘の殺意はこの儂に向けられている。

 それだけで何を為すべきなのか、それだけが分かっていた。




「え?」


 姉さんが放つ気配がまるで違う。

 それはまるで獣のよう。

 そう、お祖父様と同じだ。

 それでいてどこか違うようにも感じる。


 刃と刃が互いに弾け合う音が何度か生じて小屋の扉が斬り飛ばされた。

 もう姉さんもお祖父様の姿も小屋の中に無い。



「シャァァァァァァッ!」


 空気が震える程のお祖父様の裂帛、これは本気だ!

 でも何故だろう、違和感がある。

 焦りだろうか?

 それとも恐怖?

 いつもと違って聞こえる。


 小屋の外に出る。

 森の中はいつも通り、所々から朝の光が差し込んでいた。

 でも空気が違う。

 全身をねっとりと殺意が絡み付いている!

 野犬の群れに囲まれた時をも上回っていた。

 恐怖を感じずにいられない!



「ッ?」


 お祖父様の動きが止まった。

 殺意が、狂気が凪いだ。

 姉さんの気配は?

 何も感じ取れない。



「なっ?」


 木陰から姉さんの姿が見えた!

 次の瞬間、お祖父様の姿と交錯する。

 目に映ったのは空を舞った何か。

 それはお祖父様の体に絡み付く!


 縄?

 いつの間に?



「シッ!」


 お祖父様の裂帛一閃、縄が断たれて地面に落ちる。

 でもそれで終わらない。

 次の縄が宙を飛んでいる!

 それは地面に積もった落ち葉の中から現れていた。

 罠が仕掛けてあった?



「小癪な!」


 次々と縄を切り飛ばしつつお祖父様が怒りの声を放っている。

 でも姉さんはその声に応えない。

 気配も無い。

 確かに小屋の中では姉さんは殺気を放っていた。

 それが今はまるで感じ取れない。

 移動する音もまるで聞こえていなかった。



「見ておきなさい」


「えっ?」


 背後から姉さんの声。

 いつの間に?

 しかも手にしているのは薙刀だ!


 姉さんは僕を追い越してお祖父様に迫る。

 何かを投じたのが分かる。

 それは短刀だった。

 その後を追うように姉さんの姿が加速する!


 一瞬、殺意が爆発した。

 お祖父様が反応、鋭く袈裟斬りで応じる。

 でも空中で弾いたのは短刀だ。

 そして次の瞬間、姉さんはお祖父様の脇をすり抜けていた。

 薙刀の軌道はかろうじて分かった。

 斜め上へと跳ね上がる斬撃だった。




「何?」


 小娘の姿を捉えた!

 殺意に応じてその一撃を撃ち落とした次の瞬間。

 小娘の姿が、消えた。


 何が起きた?

 これは、斬られた?

 脇から胸の奥へ、刃が叩き込まれ通り抜けたのだと分かる。

 だが何故だ?

 これ程の力量、尋常ではない。

 そう、これもまた剣の達人であるかのような技。

 理解出来ない!



「お祖父様は弱くありませんわ」


 耳元で小娘が囁いている。

 殺意は感じ取れない。

 意識が徐々に遠のく。



「私はもっと強い方々に鍛えられていましたので」


 何じゃと?

 それは誰だ!

 そう叫んだつもりだった。

 声にならない。

 視界が一気に暗くなる。

 もう何も、考えられない。



「さようなら、お祖父様」


 その声が聞こえた次の瞬間。

 儂は意識を手放していた。





       ◆





「どうしたの?」


「いや、何でもないよ姉さん」


 昔あった事を今も昨日の事のように思い出す。

 お祖父様は確かに弱くなかった。

 姉さんはより強い方々に鍛えられていた、と言ったのも納得だ。

 ここには恐ろしい力量を持つ者がゾロゾロといる。

 現実でなくゲームの中ではあるけど。


 先ず瞠目すべきなのは剣豪召喚で現れる英霊の面々だ。

 その誰もがお祖父様を彷彿とさせる強さ、僕ではまるで歯が立たない。


 そんな中でも突出しているのは天狗の面でその表情を見せない英霊だ。

 護法魔王尊。

 体格は小さく、その得物も短刀でしかない。

 なのにその動きは流れる水のようで捉えるのは至難だ。

 捉えた、と思ったら消えてしまうか、巨大な岩のように跳ね返される。


 それに僕と同じく、キースの名を持つ者達。

 まあ僕もプレイヤー名がキースだけど。

 力量的に劣っているとも思えないけど、何故か勝てない。

 彼等はある意味、姉さんの魂の兄弟とも言える存在だという。

 姉さんは女性でプレイヤー名はキーシャだから兄妹なんだろうか?

 まあ、どうでもいいけど。


 それにしても納得出来ない。

 姉さんの方が彼等に対抗出来ているからだ。

 僕も姉さんと同程度の技量があるという自負がある。

 なのに彼等がギリギリの所で手加減しているのが分かる。

 それが悔しい。

 彼等は何故か面白がって僕の相手になってくれている。

 有難い一方でこれじゃまるで僕はオモチャだよ!


 そして極めつけは魔神ハヤト。

 親父殿、とも言う。

 主に組み手で相手になって貰っているけど、これまた強い。

 いや、強過ぎる!

 どうにもならない。

 何でこんなのがいるんだ、と思う。



「じゃあいつものメニューでやるわよ」


「またなの?」


 でも一番理不尽な相手は我が姉だと思う

 僕を鍛える、その為ならどんな手段も選ばないからだ。

 それでいて自分も鍛える事に余念が無いのも腹立たしい。

 そんな姉さんの相手はジュナさん。

 キース達が母さん、いやママと呼ばないと静かに怒られる。

 僕は本気で対戦をした事が無い。

 キース達も同様だ。

 ジュナさんの相手はいつも姉さんがやっている。

 そしてあの姉さんがまるで子供扱い、一体どれ程の技量なのやら。

 それにもめげずに挑む姉さんを僕は正直尊敬している。


 こんなだから僕は姉に逆らえない。

 僕にはそんな自分が一番、腹立たしかった。


2026年1月25日にサモナーさんが行ⅩⅡ巻(通算13冊目)が刊行予定です。

宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
地獄の修行を経て狂気を宿して完成したキースの記憶を持ってる違いはでかいねぇ。 強さの源泉がそこにあるんだからしゃーなしだけど孫が2人になっちゃった故に片方が貧乏くじ引く事になったのは可哀想だわ… それ…
今後、ジュナさんの過去編が来ることに期待。 ママが爺さんを返り討ちにしたレア中のレアパターンが、どのようにして成立したのでしょうか?
そう言えば姉弟がいましたっけ
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