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1337 補足編6 故郷への凱旋

「懐かしいな、チーフ」


「ああ、そうだな」


 こうして故郷を訪れるのは何年振りだろうか?

 もう自らの年齢を数えるのも億劫になっている。


 かつてここで激戦があった。

 それは確かだ。

 それが何年前の出来事であったのか、遠い過去としか認識出来ない。



「俺達がこうしていられるのも叔父貴達のお陰だ」


「親父にこの光景を見せたかったなあ」


 従兄弟はもう老人の姿だ。

 その年齢はとっくに実の父親を超えて、百二十歳を超えている。

 そしてオレは百三十歳を超えた。

 多分、その筈だ。


 異様とも言えるオーバーテクノロジーは寿命を大幅に伸ばしていた。

 医療用ナノマシンの恩恵はまるで魔法のようだった。

 小さな怪我や骨折は勿論、難病すらも完治が可能だ。

 そして結果的には延命治療にも大きく貢献している。

 現時点で人間の長寿記録は百五十歳を超えている。

 そしてオレ達の外見は確かに老人ではある。

 但し若い頃の価値観で言えば七十歳程度にしか見えない。


 オレ達は元々、傭兵だった。

 家族を連れて故郷の廃鉱山の奥に避難してあの悪夢から逃れた。

 叔父達、傭兵仲間の老兵が逃してくれたのだ。

 あの忌々しいロボット達の攻勢はその大部分を叔父達が引き受けてくれた。

 奴等の残存兵力は廃鉱山の坑道にも侵入したが、地の利を活かして撃退した。

 いや、そうじゃないな。

 撃退し続けはしたものの侵入を全て食い止められなかった。

 全滅を覚悟した段階でロボット達が勝手に動きを止めたのだ。

 その理由は今も分からない。


 それから長い時間を世界各地での人捜しに費やす事になった。

 世界各地で隠れるように生き延びている人々の捜索、それが仕事になった。

 本当に色んな事があった。

 順調に救出が出来たケースは少なかった。

 地震災害のように崩れた瓦礫だらけの現場が多かったからだ。

 それに武装していてこちらを攻撃するような輩までいた。

 だからこちらも武装して救出に臨む必要があったのだ。

 勿論、野生の獣から身を守る意味もあったのだが。



「家があったのはあの辺りだよな?」


「ああ、その筈だ」


 草に覆われていても分かる。

 地面を大きく抉られた円形の凹みは正にクレーターだ。

 地下に仕掛けた大量の爆薬と共に叔父が自爆した場所になる。

 家があった事を示す目印は何も残っていない。


 そのクレーターの縁を玄孫達が眺めている。

 そしてその子供達も一緒だ。

 孫の名前までは一生懸命覚えたが玄孫に関してはかなり怪しい。

 更にその子供達ともなればもう無理だった。

 何しろ時代が時代だ、政府の産めよ増やせよの施策が全て悪い。


 今や人類全体の人口は三千万を超えた。

 寿命が大幅に伸びた事、出生率が極端に伸びた事が原因だ。

 喜ばしい話だが居住コロニーの増設が問題になっている。

 まあコロニーそのものはいいんだが、水の方が問題らしい。

 地球から延々と水資源を宇宙に持って行くのを制限したいらしい。



「昔の武器とか残ってねえかな?」


「あっても使えねえだろうが」


「でもよ、やっぱり懐かしいだろ?」


「まあな」


 世界中を巡っていた頃に与えられた装備は凄まじい能力を備えていた。

 あのロボット達が使っていた代物と同等だったのだから当然だ。

 傭兵時代に使っていた装備は全て使い物にならない骨董品になった。

 だからこそ愛着がある。

 叔父が生きていたら骨董趣味に目覚めたか、とからかわれそうだ。



「スキャンしてくれ。遺留物はあるか?」


『周囲百メートルの範囲に文明があった事を示すものは何もありません』


 オレ達の傍らにいるのは人型のロボットだ。

 滑らかな曲線を持つ外装、それは威圧感を与えないデザインになっている。

 人間を介助する為に生産された代物だ。

 地球はその存在そのものが巨大な自然公園に指定されていた。

 訪れる者、その全てにこういったロボット達が同行する規則になっている。

 その役割は野生生物からの護衛。

 そして人間達の要望に応えるのも任務の一つになる。

 傭兵だったオレ達から見たら護衛されている、というのは不思議な感覚だ。

 僅かに腹が立っていた。

 護衛されている、それ自体が気に入らない。

 確かに老いたがまだ戦えるだけの自信がある。



「脅威になるものはいるか?」


『周囲十キロメートルの範囲に存在しません』


「野生動物の生命反応はどうだ?」


『小動物を多数確認。脅威にはなり得ません』


 人型ロボットは十体、観測ドローンは二十機ほどがいる。

 それでも職業病なのか、周囲に警戒の目が向いてしまう。

 大勢の家族を連れているのだから尚更だった。



「なあチーフ、ヤギの放牧でもしたくなるよな?」


「ご先祖様みたいにか?」


「この歳になって分かるよ。ここじゃ他にやる事が無えよ」


「まあ、そうだな」


「里も稼ぎになる商売はもう無えよな」


「誰もいないんじゃどこもやる意味が無えからな」


 先祖代々、傭兵として国外に出稼ぎをする。

 オレ達を含めてこの辺りに住むのはそんな者ばかりだった。

 悲惨な運命を辿った者は大勢いる。

 まっとうな人生を過ごした者など極少数だろう。

 そんなクソみたいな人生を送る者はもうオレ達の世代が最後だ。

 何しろ戦う相手がもういない。


 かつて地上に存在した国家は全て滅亡した。

 それでもかろうじて人類は生き残った。

 そして民族も、宗教も生き残ったと言える。

 復興の途上でそれらは重要視されていなかった。

 それがここ最近、その主張が強くなっている。

 最も強硬なのは、生活する場を地上に求める声が大きい事だ。

 それが宗教的な主張と相まってややこしい事になっている。

 コロニー単位で宗教コミュニティを形成する、そんな動きすらあった。

 これを阻止する動きもあるが、情勢は流動的だ。

 争いの火種が(くすぶ)っているのが分かる。

 どうやら人類は争わねばならない運命にあるらしい。


 子孫がまた傭兵稼業に手を染める、そんな未来は願い下げだ。

 そうならないよう過去の歴史を後世に刻む。

 それはあの時代を生き残ったオレ達に残された使命だった。



「ん?」


 僅かな違和感。

 まるで戦場にいるかのような感覚は久々だった。

 森の方だ。

 何かがおかしい。



「どうした、チーフ?」


 ハンドサインで警告。

 従兄弟と背中合わせになって周囲を警戒。

 森を見るがやはりおかしい。

 一体、何だ?


 森の一角、その幹に何かが生えていた。

 遠目ではそれが何なのか、分からない。


 無言のままハンドサインで指示を出す。

 オレが先行、従兄弟は左右を警戒。

 武装してこそいないが昔と変わらない手順。

 違うのはその後ろをロボットが一体、付いて来る事だけだ。


 生えていたのは何か?

 軍用ナイフだ!



「再スキャンしろ!」


『周囲十キロメートルの範囲に脅威は存在しません』


「ならこれは何だ!」


『脅威になり得ません』


 ナイフを引き抜く。

 その表面に錆は浮いていない。

 柄もまるで新品だ。

 誰かがつい最近、ここに突き刺した。

 そうとしか思えない。



「チーフ、これって」


「言うな。言うなよ?」


 ある符号が脳裏に浮かぶ。

 遠い日の記憶、似たような光景をオレ達は見た事があるのだ。

 連想するのは奴だ。

 ネームレスと呼ばれた傭兵達、その中にいた一人の男。


 奴が生きているのか?

 いや、そうとは思えない。

 ではこれは一体、何だ?


 ハロー!

 森の奥、闇の中からそう呼び掛けられた気がしていた。



          ◆



「キース、どうしたの? 今日はご機嫌みたいだけど」


『ええ。久々に知人を見掛けたので』


 彼が笑っている。

 ゲームの中で戦闘中に聞こえる、あの笑い声とは違う。

 本当に楽しそうな声だ。



「貴方に友人がいたの? 招待すれば?」


『それには及びません。知人であっても友人ではないので』


「何かしたんでしょ」


『フィーナさんに隠し事は難しいですね。少々、挨拶をしまして』


 挨拶?

 この旧管制ルームから出ない貴方が?

 多分、遠隔で見掛けた程度なのだと思うけど。

 一体、どんな挨拶だったのやら。

 何かしら相手が驚くような事をしたに違いない。


 長い付き合いの中で彼の本質を理解してはいた。

 まるで悪戯好きな子供のよう。

 一方で戦っていないと気が休まらない戦闘狂だ。

 今はその両方が彼らしいと感じるようになった。



「洒落で済む範囲にしておきなさいね」


『勿論』


 それはどうだろうか?

 彼の基準は時に想像の斜め上を行く。

 しかもそれは時に目視で確認出来ない速度で飛び去ってしまうのだ。



「じゃあ本題。懸案を片付けましょうか」


『はい』


 現在、キースも私も政務の一線から身を引いた形だ。

 それでも現実には政務の方が自由にさせてくれない。

 新たな課題が浮き彫りになっている。

 政府に対する手助けはしていた。

 人工知能に頼り過ぎないその姿勢は評価したい。

 だからと言って私達に確認を求めるのは違うと思う。


 私もキースも、ゲームにログインしてやるべき事がある。

 優先順位は勿論、ゲームの方だ。

 打つべき布石は無数にあり、そのどれもが重要。

 手は抜けなかった。



「ちょっと、真面目にやってよね?」


『勿論ですよ』


 まだ旧管制ルームには微かな笑い声が響いている。

 彼の機嫌が良いのはいいけど本当に大丈夫なのだろうか?

 私は彼を叱るべきか、しばらく悩む事になった。

2026年1月25日にサモナーさんが行ⅩⅡ巻(通算13冊目)が刊行予定です。

宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
傭兵仲間の皆さん生存してたんかぁ… かつての仲間だったキースがまさか脳幹だけのモルモットから義体に乗り換え地球復興の切欠になって別な形で生きてるとか想像もつかんだろうなぁ。 この世界ではフィーナさんは…
サモナーさんが来た!
傭兵の人たち生きてたー! しぶとい いやいいことです 玄孫の子供は来孫というらしい そこまでいったら覚えるの無理ですよね キースの挨拶、それ「お前らを見てるしいつでもやれるぞ」的な脅しにしかとられない…
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