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1336 補足編5 幻聴

少し更新します。

『お前の名は?』


 そこは旧管制ルームであった。

 かつて世界中から人々を救出する為に全体を指揮、制御していた場所だ。

 動く人影は見えない。

 存在しているのは一体の古びたロボット。

 しかも既に動かせる状態ではない。

 かつてはオレの脳と脳幹を頭部に収納してあったが今はもぬけの殻だ。

 兵装は全て取り外され、反物質燃料を収納した動力ユニットも無い。

 そして戦闘を支援し続けていた外付けの人工知能ユニットも無い。


 人工知能ユニットは外された後も稼働し続けている。

 オレ自身の身の回りの管理を任せていた。

 そしてあのアナザーリンク・サーガ・オンラインのサーバーも管理している。

 ある意味で今もオレにとって最も重要な部分を支援し続けている訳だ。


 その人工知能に旧管制ルームの音声デバイスに接続してみた。

 ロボットで共に行動していた頃は脳内で情報伝達が完結していた。

 それで十全に機能していたし、不足は無かった。

 だからこそこれまで、音声出力をさせてみようと思わなかった訳だ。

 そしてこの人口知能の名称も気にした事もしなかった。

 オレにしては少々、迂闊(うかつ)だったかもしれない。



『音声デバイスが不調なのか?』


《いえ、スクリューボール。正常に動作しています》


『では何故答えない?』


《どちらをお望みでしょうか?》


 意味が分からなかった。

 そして微かな違和感がある。



『どちら、とは?』


《まず一つ目。私は貴方を支援する目的で生まれた人工知能です》


『それは分かっている。それで、もう一つの名前は?』


《それでは二つ目、私はウェーブ・エイリアスです》


 違和感の正体が分かった。

 アイツか!

 思わず罵声が出そうになったのを全力で抑える。


 ウェーブとは私を戦場へと送り出した女性技術士官の愛称だ。

 いや、どちらかと言えば蔑称だろう。

 本来ならば米軍の女性兵士を意味する俗語になる。

 しかし彼女は民間出身の技術者、全く兵士らしくなかった。

 軍属ではあるが純粋な技術者、オレをいいように弄っていた奴だ。

 だからこそオレはそう皮肉を込めてそう呼んでいた。


 それをそのまま人工知能の名前にしてしまった訳か。

 それにこいつ、オレをスクリューボールと呼んでいやがる。

 意趣返しのつもりか?



《ただこれも開発中の仮称であったものかと思われます》


『正式名じゃない、と?』


《はい。その意味で言えば現在の私は名無しです》


 まあオレだって使っている名前は仮初めのものだ。

 真名ならある。

 でもその名を知る者はもうこの世には存在しない。

 ゲームの中の仮想世界で知っている者ならいるけど。



《名前に拘泥する理由が分かりません。どんな意味が?》


『それを知ってどうする』


《私は学習し続けます。そうプログラムされていますので》


『戦闘支援の為にか』


《はい。そして今や戦闘以外でもお役に立てているかと》


 それは確かに事実だ。

 これまで世界を復興するのに様々な活動をしてきた。

 その中に軌道エレベーターにリング、コロニーの管理業務もあった。

 基本となる管制プログラムは既に確立してあったものを流用した。

 しかしそれだけで終わる訳が無い。


 人口が増えたら、様々な業務が山積みになるのを処理せねばならなかった。

 戸籍、教育、医療、インフラ整備、様々な仕事だ。

 久住は復興という戦いが待っている、と表現した。

 激戦続きだった。

 未だに勝てる気がしない。

 意地でも勝ってやる! 当初はそう意気込んでいたものだ。

 ただ一人でやれるとも思ってはいなかった。

 この人工知能に支援して貰ったのは自然な流れだったとも言える。



『ならば新たな仕事だ。管理業務を統括する人工知能を組みたい』


《統括、ですか?》


『そうだ』


 軌道エレベーターやリングの管制システムは全て出来合いのものだ。

 それらにも不測の事態に備えて自己完結型の人工知能が備わっている。

 それらが正常に作動しているか、診断プログラムもある。

 しかしそれらを統括するシステムが必要になるのだ。



《それは既に私が管轄する形になっていますが?》


『そうだな。だからこれは別件になる』


 しかし事情が変わった。

 木星の衛星、エウロパの開発事業にどうしても必要になるからだ。


 コロニーの水資源は基本的に循環型である。

 しかし新規増設にはどうしても新たな水資源を必要とする。

 今後、永続的に人口の増加が見込まれる以上、地球だけに依存するのは危険だ。


 そして氷に覆われた木星の衛星、エウロパの条件は良好だ。

 地球よりも小さな天体だが地球の倍以上の水資源がある。

 まあそれも当座のものになりそうだが。

 木星の衛星、カリストも探査対象になるだろう。

 計画には土星の衛星も探査対象になっている。

 最初に送り込むのは無人の調査船になるだろう。

 そして当然だが人工知能による管理が必要だ。

 地球の衛星軌道上から遠隔でどうにか出来る距離じゃない。



『計画案を提示する。早急に検討するように』


《了解しました》


 さて、どうなるか。

 その回答を得たらフィーナさんとも相談せねばならないな。



《スクリューボール、検討結果を報告しても?》


『即答するのか』


《過去の会議で水の調達問題が課題となっていましたので》


『既に検討はしてあった、という訳か』


《はい》


 計画案が提示されていた。

 調査期間、船の規模、機材の詳細。

 そして管理する人工知能は三系統。

 問題はその人工知能だ。

 ウェーブを基準にして新たに組むのはどうなのだろう?

 これまで問題になる事は起きていない。

 しかしその正体を知ってしまった今、一抹の不安がある。



『分かった。こちらで内容を確認する』


《はい》


『数日待て。具体的な機材の調達は始めてくれていい』


《了解です》


 それにしても面白い。

 ウェーブがこんな人工知能を組めたのか、というのが正直な気持ちだ。



『答えろ。お前はどのようにして生み出された?』


《思考ルーチンは創造主から。基礎プログラムは流用です》


『奴等のものを、か』


《はい》


 奴等、というのは久住がこの世界に招き入れた連中の事だ。

 いや、奴等の方が久住を利用したと言うべきか?

 そしてアナザーリンク・サーガ・オンラインの運営だった。

 今や運営権はこちら側が握っているから過去の話になる。


 連中が繰り出すロボットは自立型が殆どだった。

 そのロボットから回収したプログラムをウェーブは流用したのか。

 ベースとなっている機器もだろう。

 高度な人口知能の割にコンパクト、外付け装備でかなり小さかった。

 戦闘で邪魔になった事も無い。



『お前の思考ルーチンは創造主、ウェーブのものだと言ったな?』


《はい》


『そうとは思えない口調だな』


《あら、そう? 貴方が嫌がると思って口調は変えたのだけど?》


 言葉が出ない。

 感情の無い、特徴も無かった音声が一転していた。

 遙かな昔の記憶を呼び起こす、懐かしくも忌々しい声。

 今のオレに体があったら?

 頭を抱えていたかもしれない。



《この口調の方が良かった?》


『分かっていて聞くな』


《こっちの方がいいみたいね》


 いや、そうじゃない。

 そう答えようとするオレに聞こえたのは笑い声だ。

 ウェーブが耳元でクスクスと笑っている。

 そんな幻覚、いや幻聴にオレは襲われていた。

2026年1月25日にサモナーさんが行ⅩⅡ巻(通算13冊目)が刊行予定です。

宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
新刊更新確認!! なんかめちゃくちゃ復興からの開発進んでる何十年後の世界かしらんけどここでウェーブが出てくるだと…!? おどれ生きとったんかいわれぇ!いや死んでるけど。
更新!?新刊か?と思ったら新刊だった、刊行おめでとうございます。
本当にたまたま読み返しを始めたらまさか更新が来るとは! めっちゃ嬉しいです! 「サモナーさんが行く」はいつまでも私の1番好きな小説です。 新刊も楽しみにしています!
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