表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1238/1341

1238

 森の中でオレは少々、肩身の狭い思いをする事になっている。

 理由は単純。

 両隣にヘイムダルと思兼神。

 真正面にドゥルガー、そしてカーリーが向き合う形で座り込んでいた。

 結跏趺坐か。

 これで、辞去出来るか?

 オレにそんな度胸は無い。


 一応、パーティの方は見直しておいた。

 スコーチとジャンダルムは帰還させ、言祝と折威を召喚しておく。

 ヴォルフはレベルアップしていないし、警戒の要として残すべきだ。

 護鬼と戦鬼はレベルアップしているけど、残そう。

 やはり安心感が違うのです!



『マトリカスが森の外縁から包囲の輪を狭めて行く事になる。逃げ道は無い』


『どう動くか、予見出来るか?』


『相手もまた神、何らかの反応を示す事であろうな』


『抵抗するであろうか?』


『恐らくは。だがそれが狙いでもある。居場所を示す事になる』


 目の前のドゥルガーとカーリーも正しく女神様達だ。

 だが、その様相は随分と殺伐としている。

 戦いを前提とした女神。

 ドゥルガーはまだ優雅な様子を残しているが、カーリーは完全にダメだ。

 優美さとは迂遠で、殺戮を生業とするかのような姿になる。

 髑髏を数珠つなぎにした首飾りだけでもうお腹一杯です!

 だが、こうして瞑想している様子は静寂そのもの。

 センス・マジックで見ても魔力の欠片すら感じ取れない。


 それは他の神々も同様だ。

 何故か魔力が全く感じ取れない。

 現在、オレと配下の召喚モンスター達は円陣を組ませて警戒を続けさせている。

 その円陣を護るような形で巨木のように佇む巨人達。

 プロメテウスとエピメテウスだ。

 彼等もまた魔力を感じさせない。

 森を遙かに超える巨躯は遠くからでもいい的になるのは明らかだ。

 でもまるで気にする様子も無い。

 何か考えがあっての事なのだろう。

 きっと、オレの考えなど及ばない何かだ。

 それでも聞かずにいられません!



「一体、何を?」


『多重に結界を敷いているのだ』


『マトリカス達は我の分身も同様、個々で見ればその力に欠ける所は多い』


『だが互いの力を組み直す事で多様な力を発揮する』


『今は相克をも利用し結界と為している』


『見るがいい、その兆候は既に現れている』


 森の木々が風に揺れてザワザワと騒がしくなっていた。

 不気味な音が周囲から聞こえている。

 いや、本当に風だろうか?

 闇の中で木々の枝葉が揺らいでいる様子は無い。



『どうかな?』


『いる。もう少し、続けてくれ。場所を特定しよう』


『確実に、いる! ああ、我が夫にして主よ! 今、血を啜りに行きましょう!』


『不死なる身に幸いあれ。信仰を一身に受ける祝福を呪いとしましょう』


 急にドゥルガーとカーリーの様子が激変した!

 まるで酒に酔ったかのように恍惚の表情のドゥルガー。

 牙を剥き出しにして、凄まじい笑みを浮かべるカーリー。

 戦いを前に興奮しているんだろうか?

 正直、怖いです。

 そして心底思う。

 こんな風になりたくはないな!



「そもそも何故、貴方達のような神々が相争うのです?」


『意図して歪みを生じさせるか否か。争点はそこに集約されるであろうな』


『考えてもみよ。我等が如き者には各々、役目がある。それは世界の中で調和すべきなのだが』


『異なる世界同士が重なって存在する為にそもそも調和する事など有り得ない』


『どうしても歪みが生じるのだ! しかもそれは余りにも巨大で神ですら抑制するのは難しい』


『例えば太陽だ』


『その太陽を司る神々が集うとどうなると思う?』


「えっと」


 意味が、意味が理解出来ない!

 オレの頭が悪いからなのか?

 それとも神々が口下手であるからなのか?

 分からない。

 オレには全く、分からない!



「あの、ホルス神はどうされたので?」


『我等とは決別している』


『太陽を司る神の一翼が欠けたが故に』


『そして別の太陽神との間に新たな相克を生んでいる。その神の名を汝は知っているであろう?』


「え?」


『我を排除する事でこの世界を歪みから正そうとした女神。我にとっては主神でもある』


「あ!」


 思兼神にとっての主神、そして女神。

 天照大神か!



『構図は異なるが、相克を避ける事で歪みに一定の流れを作ろうとした者もいたな』


 頭上から声が降って来た!

 プロメテウスだ。

 何故だろう、その視線はオレに固定されていた。

 凄まじい圧力を感じる!

 魔力は皆無でも相手は巨人、いや、巨神だ!

 その拳の一撃でオレなど虫のように潰してしまう事だろう。



『見ているな? 太陽神アポロン!』


「え?」


『盗み聞きに覗きとはな。主神の悪しき面を継ぐつもりか!』


 プロメテウスにはオレを通して別の何かを見ていたのか?

 それに今の言葉が示唆する事は何か?

 アルゴスだ。

 称号の百眼巨神の瞳を得て以降、こっちの様子を見ている事は知っている。

 そのアルゴスが仕えているのがあのアポロン神だ!


 森の中に響く音がより大きくなって行く。

 その正体がオレの視界を覆うかのように迫っていた!

 様々な虫や蛇が集団となって、巨大な蛇のようになっている。

 一見するとまるで魔物のアガのようだが、規模が全く違う!

 プロメテウスやエピメテウスよりも巨大だからだ!

 オレにも【木魔法】の呪文にスウォームがあるが、こんな規模にするのは無理だろう。

 例え【呪文融合】とミラーリングがあってもです!



『弾劾でもするつもりかな?』


『それはアポロン、汝次第だ』


『弁解するつもりは無いけどね。私まで太陽神としての役目を担っていたらどうなってたと思う?』


『分かっている。汝の判断は正しかったであろう』


『でも別の神が新たな相克を生んでしまったか。新たな歪みも溢れ出してしまったみたいだねえ』


『思惑は外れたようだな』


『まあね。でもそう悪い結果でもないさ』


 プロメテウスはどうもアポロン神と会話しているらしい。

 オレにもアポロン神の声は聞こえている。

 でもその姿は見えない。

 まるでオレ自身がアポロン神であるかのように錯覚してしまいそうだ!



「あの、これって?」


『時空を超越して話をするのも味気ない。ここに来るがいい』


『嫌だなあ! 本気で弾劾する気でしょ?』


『それこそ汝次第だ。心配であれば護衛も連れて来るがいい』


『では、お言葉に甘えて』


 そう聞こえた、次の瞬間。

 オレの目の前に3つの人影がいきなり出現する!

 中央にいるのはアポロン神だろう。

 オレには背中しか見えない。

 その両脇にアルゴス、彼等も巨人のような体躯になれるが今は人間の体格になっている。

 全身にある目は全て閉じられていた。


 だが、それだけじゃないな?

 背後に巌が迫っているような感覚。

 振り返ってみると、やっぱりだ!

 プロメテウス、それにエピメテウスに匹敵するか、それ以上の巨躯。

 マーカーは見えていないけど見間違える筈もない。

 アンタイオスだ!



『汝の思惑は透けて見えている。どういうつもりだ?』


『分かっている癖に。貴方は先を見通し過ぎる。だから酷い目に遭うんだ!』


『主神の座を望むか』


『それそれ! 何で皆、そう疑うかな? 太陽神でも過分だってのに全能神なんて!』


『過分ではあるまい。能力ならば、ある。だがそれこそが罪と考えるであろうな』


『ご明察。だから距離を置くのは自然でしょ?』


『それはどうかな? 神殺しの存在をどう使うつもりであったか!』


『やっぱり弾劾するんじゃないか!』


『当たり前だ! 汝の意図する所は世界の破滅を望むのと同義なのだぞ!』


『それ、違うと思うけどなあ』


 ちょっとだけアポロン神を見直した。

 厳格なプロメテウスの前で茫洋としていられるなんて、オレだったら出来ない。

 土下座でもして許しを乞う事になっているかも?

 それ程にプロメテウスの態度は厳しく、その舌鋒は鋭い。



『破壊と創造は表裏一体。そうじゃないかな?』


『そして汝は新たな世界で主神として君臨するか』


『そんな面倒な役目を担ってどうするの? それに単に破壊するだけじゃ芸が無いでしょ?』


『汝の思惑は透けて見えると言わなかったか? 相克を断ってみた所で何も変わらん』


『変わるさ。それに世界を支える根源は主神の存在じゃない。知ってるでしょ?』


『大地母神か』


 いや、だからさ!

 オレにも分かるように話をしてくれませんかね?

 それに周囲の森が大変な様相になっているんですけど!

 巨大な音が響き渡っている。

 その音量は徐々に大きくなっていて、耳を打っているぞ!



『話はそこまでだ。いたぞ!』


『森を抜けようとしている。逃げるつもりか?』


『結界を破るつもりか? だが、逃がさん!』


 神々が動く!

 但しアポロン神はその場に佇んだままだ。

 護衛役のアルゴス達、それにアンタイオスもこの場に留まるようです。

 実に素早い!

 まるで目が追い付かなかったぞ?



『全く、騒々しいねえ』


『どうなさいますか? 我等も助勢する事は出来ますが』


『新たな相克を生むだけだって。それよりも後始末の方を心配すべきじゃないかな?』


『後始末ですか。我等だけで手が足りますかな?』


『それこそどうなるか、予測出来ないって。それに手段ならあるさ!』


『やはりご自分で面倒事はなさいませんか』


『神にだって向き不向きがある。彼女なら適任さ』


 アポロン神は意味ありげにオレを見ている。

 いや、ウィンクしなくていいから!

 それにだ、無駄に美男子なんだから挑発するな!

 顔を破壊したくなるじゃないか!



『心配しなくていい。君の森だけど、荒れたとしても元の姿に戻せるから』


『安請け合いするのは感心しないわね!』


 頭上から若い女性の声、だがアンタイオスじゃないよな?

 聞き覚えならある。

 アルテミス女神だ!


 召喚モンスター達が組む円陣にも変化があった。

 所々に狩人の姿、全員が女性だ!

 アルセイド達か。

 美人さんであるけど、大丈夫。

 オレに迫って来る事は無い筈だ。

 ありませんよね?


 どうやらまだ僅かに煩悩が残っていたようだ。

 どこかで期待しているオレがいる。

 おかしいよね?

 迫って来るのだとしたら、腰に佩いた短剣を引き抜いて殺しに来る展開だろう。

 だが、その方がまだ好ましい。

 オレにとっては、だけどね。

 駿河と野々村だったら別の答えになるだろう。



『でも、やるんでしょ?』


『やるわよ! やるけど、手伝いなさいよね?』


『話が分かるね!』


『でもいいのかしら? 本当なら彼等にこそ神殺しの力が要るんじゃない?』


『いいのさ。それにどうやら手遅れのようだし』


『良くないわ! 収拾するつもりはあるの?』


『なるようになるさ。介入してみても更に面倒な事になるだけだよ』


『嫌な預言ね』


『預言じゃなくて事実だよ』


『では相克を断つように扇動したのは何故?』


『なるようになるかな、と思ったんだけどなあ』


『適当過ぎよ!』


 アポロン神が怒られている。

 まあ、アレだ。

 怒られても仕方ない。

 それにしてもいいのかな?

 ゼウスを殺す事を示唆したのはその場の気分で言ったんだろうか?

 オレにはそうは思えないのだが。


 何か裏があるのかな?

 あのアテナ女神に言われた言葉を不意に思い出す。

 神もまた、それぞれの思惑で動いている。

 オレはただ、それに振り回されているだけなのかも?


 道具になったつもりは無い。

 当然だけど、皆無だ。

 でもね、ゼウスとはまともに戦っていない!

 殺せるかどうかなんてどうでもいいのです。

 単に戦ってみたい。

 その思いがあるだけなのでした!







『もう、何なの!』


『どう? やっぱり荒れてる?』


『酷いものだわ。結界を破るのに相克を利用したみたいね。無茶な事を!』


『歪みはどうだい?』


『放置してたら大変だわ。キース、だったわね? 邪結晶はあるかしら?』


「えっと、ありますが」


『1つあればいいわ。このまま森を修復するにしても歪みを放置したままじゃダメみたい』


 オレが《アイテム・ボックス》から適当に邪結晶を取り出す。

 だが、アルテミス女神が邪結晶に注ぐ視線は厳しい。

 何か汚い物を見るかのようだ!

 実際、オレの手から邪結晶は宙に浮く。

 テレキネシスかな?

 どうやら直接触れる事はしたくないようです。



『制御出来るかい?』


『やるしかないわ。代わってもいいのよ?』


『任せるよ。適任じゃないってのは自覚してる』


『では、始めるわ。貴女達は周囲をお願い』


 森の中には突如としてクレーターが出現していた。

 かなり大きい!

 これが神々同士による戦闘の爪痕なのか?

 規模が小さいと言うべきかもだが、そんな事よりもクレーターの周辺が問題だろう。

 木々が徐々に枯れている!

 召喚モンスター達も近寄ろうとしない。

 それだけ危険なのだ。

 オレの体も思うように動かせない。

 近寄り難い空気を前にどうしても一歩が踏み出せなかった。

 これは一体?


 アルセイド達はアルテミス女神の指示に従い、クレーターの周辺へと散って行く。

 オレとは違い、平気で動けるようだ。

 何をしようとしているのかは半ば理解している。

 森の修復だ。

 だが、その前にこの有様は何だ?



「これって一体?」 


『歪みの影響だよ。このまま放っておいたら森が死滅だねえ』


 アポロン神の口調は世間話でもしているかのようだ。

 大変じゃないですか!

 ここの森だけに留まる話でもあるまい。

 下手したら拠点の召魔の森が消滅するかどうかの瀬戸際じゃないの!



「どうにかなりそうですか?」


『任せなさい!』


「お、お願いします!」


 オレはもうアポロン神を見ていなかった。

 すがるような思いでアルテミス女神に懇願する。

 両者を見比べたら頼りになりそうなのは断然、女神様の方だ。

 美人ってだけじゃないぞ?

 むしろ凜々しいと表現すべきだろう。

 主神になってくれるとしたら、アポロン神よりもアルテミス女神を推します!

 いいじゃないの、一番偉い神様が女神様でも。

 日本神話という例もあるしな!



『我等も備えるとするか』


『ああ、そうだな』


 アルゴス達にも変化が起きた。

 巨人へとその姿を変える。

 体中にある目が半分程、開いていた。

 いや、全ての目が開く。

 それだけ、本気って事だよな?


 こうなると、この一行の中でアポロン神が最も頼りなく思えるのだが。

 オレの気のせいなんだろうか?





『あら?』


「な、何か問題でも?」


 アルテミス女神を掌の上で邪結晶が光り輝いていた。

 その淡い光は幻想的ではあるが、直視していると何故か胸騒ぎがする。

 不吉だ。

 女神様、大丈夫ですよね?



『歪みはいいんだけど。地脈はどう?』


『僅かに遮断されている場所があるようです!』


『精霊達はどうかしら?』


『騒いでおります。近寄る気配がありません!』


『困ったわね。精霊が宿らない森じゃ意味が無いわ』


 アルセイド達の報告は少々、不吉に聞こえる。

 見た目だけであれば、クレーターはあっという間に深い森へと変貌した。

 だが、アルテミス女神はお気に召さないらしい。

 精霊が近寄らない?

 ある意味、画竜点睛を欠くって事なのだろう。

 アルセイド達も大いに困惑気味だ。



『もしかして、失敗した?』


『ちょっと黙ってて。大事な所なんだし』


『いや、多分だけどこれは違うようだね』


『じゃあ何?』


『すぐに分かるよ』


 アポロン神が右手で森の奥を指し示している。

 その方向に何があるって言うんだ?



「何があるんです?」


『精霊達が騒ぐ理由さ。死霊が潜んでいるようだね』


「死霊?」


『死霊ですって?』


『感知出来なかったのも相応の理由がある。こんな形で相克を利用するなんてね』


 一体、何が来るんだ?

 死霊ってアンデッドの事だよな?

 いや、この場合は喜ぶべきだろう。

 これはきっと戦闘になる。

 参加するぞ!

 参加しますよ?

 この機会を失ってなるものか!



『キース、迎撃の用意を。どうやら思っていた以上に事態は深刻だ』


「え?」


『困った方だ。魔神とも手を組むか!』


 アポロン神が動く。

 まさに神速、放った矢は深い森の中へと吸い込まれてしまう!

 いや、そうじゃなくてだな。

 魔神?

 魔神だって?



『辺獄で何を得て、何を失って来た!』


 出現したのは全身を包帯でグルグル巻きになった者達。

 マミーですか?

 何故か【識別】が効かないけど、いい感じはしない。

 理由は?

 その中に見覚えのある神がいたからだ!



 オシリス ???

 ??? ??? ???

 ??? ???



『神殺しに加担するか、太陽神!』


『死者の王たる神よ、では問おうか。魔神などに加担する意味が分からないな』


『分からぬか? 我等は神の領域をも超越する存在となるのだ』


『そして滅んだ世界で君臨でもするのかな? しかも信仰する者もいない世界で!』


『さて、それはどうかの?』


 オシリスの周囲にいたマミー達から包帯が解けて落ちる。

 現れたのは?

 神々だ!

 シヴァ、須佐之男命、フレイ。

 そしてゼウス。

 そう、ゼウスがいる!



『ありゃ、いたんだ』


『いたとも』


『貴方の事だ。神殺しの前に出て来るとは思わなかったね!』


『我もまた、神の領域をも超越するのだ。即ち神殺しの力も及ばぬ事を意味する』


『神の尊厳を捨ててでも、かな?』


『預言の子よ。汝が企図する事もまた同義ではないかね?』


『何の事かな?』


『隠しても無駄だ。我が大地母神の資格を備えた女神達にどう振る舞ったのか、知っていように』


 アポロン神の表情が激変していた。

 明らかな怒りの表情。

 普段、どこか茫洋としているだけに不安だ。

 構えた弓矢はゼウスを狙っている。

 それでもゼウスは平静なままだ。

 シヴァ、須佐之男命、フレイも同様です。

 いや、違うな。

 須佐之男命の視線はオレに向けられている。

 これは堪らん!

 向けられている殺意は極上のものだ!



『ガイアの再来など、不要。如何なる大地母神も無用だ』


『そうやって全能神に固執する意味が分からないな』


『分からずとも良い。いや、我の立場にならねば分かるまいよ』


 ゼウスの視線は何故か、アポロン神から外れる。

 矢がいつ飛んで来てもおかしくないのに。

 何を見ているのか?

 恐らくだけど、アルテミス女神を見ているようなのだが。

 それが何を示唆するのか?

 オレにだって予想出来るぞ!

 


『この人間は我に任せよ! 手を出すなよ?』


『承知した』


『時間はあるようで無いぞ? 急いだ方がいい』


 どうやらオレの相手は須佐之男命になりそうだ。

 文句は無い。

 無いのだが、どうやら他にも格闘戦をしたくなるような相手がいる!

 須佐之男命が声を掛けていたのは両脇に佇む影に対してだ。

 片方はあのドワーフの魔神。

 もう片方が元法騎士ドラゴーネ、やはり魔神だ!



「神降魔闘法!」「金剛法!」「エンチャントブレーカー!」

「リミッターカット!」「ゴッズブレス!」


 武技を使いつつ、須佐之男命に向けて突っ込む!

 周囲に幾つもの影が蠢いている。

 それが漏れなくアンデッドだ!

 ああ、そうか。

 オシリス神ってアンデッドを量産する能力がありましたっけ。

 あの堕天使、ナヘモトの影も似たような能力がある。

 但し目の前に展開するアンデッドの群れの規模が凄い!

 森の中で視界が限られているのに、これだ。

 一体、素材をどこから調達したのか?

 決まっている。

 この森に棲む魔物を利用したに違いない!


 そうか。

 これが森にやたらとアンデッドが多かった理由か!

 犯人は分かった。

 残るはどう、償わせるかだよな?



(フィジカルエンチャント・ファイア!)

(フィジカルブースト・ファイア!)

(フィジカルエンチャント・アース!)

(フィジカルブースト・アース!)

(フィジカルエンチャント・ウィンド!)

(フィジカルブースト・ウィンド!)

(フィジカルエンチャント・アクア!)

(フィジカルブースト・アクア!)

(メンタルエンチャント・ライト!)

(メンタルブースト・ライト!)

(メンタルエンチャント・ダーク!)

(メンタルブースト・ダーク!)

(クロスドミナンス!)

(アクロバティック・フライト!)

(グラビティ・メイル!)

(サイコ・ポッド!)

(アクティベイション!)

(リジェネレート!)

(ボイド・スフィア!)

(ダーク・シールド!)

(ファイア・ヒール!)

(エンチャンテッド・アイス!)

(レジスト・ファイア!)

(十二神将封印!)

(ミラーリング!)


 呪文の強化を進めつつ樹木の陰へ。

 須佐之男命が手にした天羽々斬が凄まじい勢いで頭上を通過した!

 樹木が簡単に両断されているのは想定内。

 狙いは攻撃呪文を使う間を作りたかっただけだ!



(カタストロフィ!)


 問答無用でダメージを強いておこう。

 先制あるのみ!

 アポロン神達もいるけど、大丈夫だよね?

 余計な被害が及ばない事を祈ろう。



『カタストロフィ!』


 オシリス神の隣にあの老人姿の魔神だ!

 その口から聞こえる呪文名は恐るべき代物だった。

 周囲の光景が歪む。

 でも残念だったな!

 オレの繰り出したタイミングの方が先の筈。

 そうだよね?



(((サンシティフィ・アンデッド!)))

(((サンシャイン!)))

(((ホーリー・ライト!)))

(((プリズムライト!)))

((((六芒封印!))))

((((七星封印!))))

(((十王封印!)))

(((ホーリー・プリズン!)))

(((グラビティ・プリズン!)))

(((ミーティア・ストリーム!)))

(((ソーラー・ウィンド!)))

(((フォース・フィールド!)))

(十二神将封印!)

(ミラーリング!)


 召喚モンスター達もアンデッド達と戦い始めていた。

 支援は要る。

 どうしても要る!

 まだだ。

 須佐之男命と格闘戦を楽しむのは、まだだぞ!

 先に片付けておかないといけない事が多過ぎる!



(アイス・エイジ!)

(((((((アイス・フィールド!)))))))

(((((((ヘイルストーム!)))))))

(((((((ブリザード!)))))))

(((((((ペニテンテ!)))))))

(((((((ルミリンナ!)))))))

((スケーティング!))

(十二神将封印!)

(ミラーリング!)


 こっちには後衛もいるのだ。

 氷の城が森の中に出現、臨時の防御施設になってくれるだろう。

 神そのものに有効かどうかは分からない。

 だが、アンデッド達には有効の筈だ!



「ッ?」


 オレに迫っていた巨躯のゾンビが宙に浮く。

 ゾンビ化したクサリクキングかな?

 アンタイオスが片手で鷲掴みにして持ち上げているようだ。

 いや、どんなサイズ差なのよ?


 敵側の戦力には巨躯のアンデッドも多数いるのが見えていた。

 スケルトンヨトゥン、スケルトンムスペル。

 ヨトゥンゾンビ、ムスペルゾンビか!

 だが、アルゴス達もまた強烈だ!

 巨躯のアンデッドが奇妙な速度で崩壊している、そんな感じがするぞ?

 出来れば観戦したい所だが、こっちはこっちで余裕が無いようだ。



『グッ?』


『これは?』


『まさか、カタストロフィ!』


『一体、誰の仕業だ!』


 老人姿の魔神が繰り出したカタストロフィの呪文の効果は?

 今の所は無い。

 どうやら先制したのは正解であったらしい。

 こっちはアダムカドモンとの先制合戦を何度もやっているのだ。

 魔神にその機会は無かったものと見える。


 悪いね!

 オレがカタストロフィの呪文を使えるようになっていた事、知らなかったでしょ?

 僅かな事であるかもだが、その差は大きな意味を持つ。

 少なくとも、この戦いではそうだ!


 神々ですら動きが止まる。

 それは大きな隙を生む事でもあった。

 見逃してなるか!



「シャァァァァァァァァァァーーーーーーッ!」


『ッ?』


 棒立ちになった須佐之男命、その肩には矢が突き刺さっていた。

 ダメージは?

 HPバーは大きく削れている!

 ダーク・ヒール、使おうか?

 一瞬の逡巡もあったけど仕方ない。

 この状況ではゆっくり格闘戦を楽しめそうな気がしない!

 断念すべきだろうか?


 左脇腹に金剛杵の先端を当てる。

 そのまま刃を展開。

 金剛杵にセットしてあるのは風魔法、その切れ味は鋭い。

 だが、これで終わるとは思っていませんよ?



(((((((エナジードレイン!)))))))

(((((((アブソリュート・ゼロ!)))))))

(((((((フォースド・エバポレーション!)))))))

((((((サーマル・ニュートロン!))))))

((((((カーボニゼーション!))))))

((((((フォース・バスター!))))))

(ミラーリング!)


 接触型攻撃呪文の詰め合わせはどうだ?

 効いている。

 効いているけど、予想に違わずこれだけで沈まなかった。

 トールにもそんなに効果が無かったのだ。

 予想してあったけど、少しだけ凹む。

 でもこれはいい機会であるかもしれないぞ?



((((((グラビティ・プリズン!))))))

((((((ホーリー・プリズン!))))))

((((((レインボー・チェイン!))))))

((((((ブラックベルト・ラッピング!))))))

(((((((キャタラクト!)))))))

(((((((アイス・コフィン!)))))))

(ミラーリング!)


 時間稼ぎになるかな?

 氷の棺に閉じ込めつつ祈った。

 本気で、祈った!

 格闘戦の相手として最後まで、残っていて欲しい。

 僅かな希望であるのは分かっている。

 分かっているけど、祈らずにいられない!



『貴様の仕業か!』


『死ね!』


 横合いから狩人姿の魔神、そしてあのルーズリーフの魔神だ!

 やっぱりいたのね?

 その殺意は間違いなく本物、思わず笑い声が出そうになる!

 ご褒美ですか?

 ご褒美ですよね?


 だが。

 両名共にその姿がいきなり真横へと吹き飛んだ!

 一体、何だ?

 オレの楽しみを邪魔した奴は誰だ!

 アルゴスだとしても許しませんよ?



『妙な事になっているようだな』


「お前は!」


『久しいな。だが今は挨拶をしている暇は無い』


 オレの目の前にいたのは筋肉バカの魔神だった。

 相変わらずいい体格をしてやがる!

 その表情には不敵な笑みが浮かんでいた。

 楽しいか?

 多分、楽しいのだろう。

 その目にも明らかな喜びにお感情が宿っているようだ。


 だが、ダメだ。

 今、オレの目の前で獲物を横取りしたよな?

 理由が出来た。

 こいつとだけは決着を付けねばならない。

 勿論、オレの手でだ。

 オレだけで、という所が重要なのです。

 誰にも邪魔させないぞ!

 そうする権利がオレにはある筈だ!



「後で話がある」


『奇遇だな。我にも話があるのだが』


「拳で語らせて貰うぞ?」


『承知だ。だがキースよ、お前はこの場を戦い抜いて生き残れるか?』


「そっちこそ!」


 本当はもっと汚い言葉で罵ってやりたかったけどな!

 悠長に会話している場合じゃなかった。

 アンデッドが、来る!

 スペクター化したハヌマーンか?



(((((((ファイア・ホイール!)))))))

(((((((デトネーション!)))))))

(((((((ダークマター!)))))))

((((((ソーラー・ファーニィス!)))))

((((((ミーティア・ストリーム!))))))

((((((メテオ・クラッシュ!))))))

(ミラーリング!)


 邪魔するなよ!

 それに筋肉バカの魔神、お前もだ!

 オレを襲いに来ていたスケルトン化したギルタブルルキングを何で破壊してやがる?


 ああ、もう面倒な!

 これでは混戦必至、しかもバトルロイヤルみたいな状況になっているぞ?

 まあ最初からカオスな状況ではあったんだけどね!

 各神話の神々が混在して参戦している時点で世界観など崩壊しているも同然だ!


 森の一角が明るくなっている。

 何か、光り輝く存在が森を焼き払っていた!

 ブレス攻撃なのは分かる。

 だが現時点でオレのパーティにドラゴンはいない。

 召魔の森に配備しているポータルガードにもいない。

 では何が?


 まるで巨大な蝶のような姿のドラゴン、もう【識別】する必要すら無い。

 琥珀竜だ!

 やや遅れて雲母竜も森に降下しつつある。

 しかもブレスを吐きながらだ!

 森を燃やすな、このバカ共!

 アルテミス女神とアルセイド達が怒らないかな?

 いや、その前にオレが怒っていい。

 敢えて断言させて貰えるなら、この森の所有権はオレが主張したっていい筈だ!



『またお前か!』


『そうだ。そしてまた、辺獄に送り返してやろう』


 ルーズリーフの魔神は何やら悪態を吐きつつ森の中へと後退する。

 それを追う筋肉バカの魔神。

 壁となって立ち塞がるアンデッド達が一気に吹き飛ぶ様子はまるで悪夢だ!



『一体、何? 魔神同士でも争いがあるの?』


「ええ! 複雑な事情があるようで」


 アルテミス女神の問いに答えつつ、氷の城を指し示す。

 彼女の得物もまたアポロン神と同様、弓矢だ。

 後衛の位置にいて欲しいものです。



「あっちへ!」


『何よ! 暴れさせなさい!』


 ああ、この女神様もダメか!

 表情は紅潮していて興奮している様子はある意味で美しいと思う。

 普段、男装しているように見えるだけに女性を感じさせる。

 だが、目に宿る殺意はダメだ!

 戦いに酔っているのか?



「私の配下がいます! 護衛をしてくれませんか?」


『貴方がやりなさい!』


 アルテミス女神はそう応じつつ、矢を次々と放つ。

 凄技だな!

 但し追従するアルセイド達はどこか困った顔付きになっていた。

 前衛に出て欲しくないのだろう。

 同意します。

 後衛は後衛に相応しい位置にいて欲しいですよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ