7 早まった……か?
血の儀式。それは互いの魔力、血を交換し合い、共有する儀式。
これにより、互いの居場所がわかるようになるし、経験値も共有される。
簡易的な儀式として紙に互いの名前と血を混ぜた血印を押すことで経験値の共有が可能となる。
紙が失われると効力がなくなり、主にパーティーメンバーなどにこちらが使われる。
血の儀式の方は主に夫婦間など強い繋がりを欲するときに使われる。
拝啓 お父様、お母様。
私は死にましたが、いかがお過ごしでしょうか?
あまり私のことは気にせず、生きてくれていたら嬉しく思います。
私は今、そんな血の儀式を幼女から迫られてしまいました。
どうしたら良いのでしょうか? 何かアドバイスを頂けたら嬉しく思います。
……そんな想いはもちろん通じない。
「血の儀式は結婚のときにしたりするんだよ、そんな簡単にすることじゃない」
諭すように告げるが逆効果だったようだ。
「簡単に言ったりしてないもん! もう会えないかもしれない仲間なんだよ! それにお母さんももし仲間に会えたら絶対に離しちゃダメって言ってたもん!」
なんというか、見た目幼女の割にはしっかりしているよな。
こんな聡明な子の目を曇らせるほどの日々、やはり救ってあげたくはある。
「もう一人は嫌なの! 仲間といたいの! 優しくして欲しいの! 痛いのは嫌なの!」
魂からの叫びが俺を震わせる。
俺はこの子を守ってあげたい。そう思った。
「わかった、血の儀式をしよう。俺は君を家族として守ることにする。でも後で後悔しても知らないよ?」
「ありがとう、クーヤお兄さん。うん、決めた! あたしはセルファっていう名前を捨てる! お兄さん、あたしに名前を付けて! そしてお兄さんの家族にして!」
え、名前ですか? うちの家族なら名前の最後が夜だな。うーん……
「俺の家族はみんな夜がつく。うん、君の名前は明夜だ。夜にだって、白く輝く、君にぴったりの名前だと思うんだけど、どうかな?」
「……メーヤ、メーヤ! うん、ありがとう!」
俺の名前もそうだけど発音が難しいのかな? まあいいか、クーヤ、そしてメーヤ、これからはそうしよう。
「じゃあ始めようか」
歯で親指を切り、血を十分に口内に馴染ませる。鉄の味がする。
唾を飲み込まないようにして、メーヤを見る。
メーヤも準備は終わったようだ。
メーヤに近づき、キスをする。
相手の口内の血を全て拭うように。
メーヤの舌もおっかなびっくり俺の口内を拭っていく。
最後に舌と舌が絡み合った。
なんというか、すごく気持ちいいがすごく背徳感があります。キスの相手幼女だし……
そうして互いの血を十分に混ぜて飲み込む。
口を離したら、メーヤの魔力を体内に感じた。
それが左手の薬指に集まっていく。
そうして薬指に俺とメーヤの血でできたと思われる、赤い指輪のようなものが形成された。
メーヤを見ると頬を染めテレていたものの、無事成功したようだ。
「これで俺とメーヤは血の繋がった家族だ。そう、メーヤは俺の妹だ!」
「わかったです。メーヤは妹として、いついかなる場合にもお兄ちゃんから離れません!」
これは……早まった……か?
メーヤはヤンでいるキャラとして有名だったが、いや、そんなはずは……
メーヤを改めて見る。キラキラとした腰まである長い白髪にクリクリとした可愛らしい目。痩せこけてはいるが、これからはちゃんと食べさせてあげよう。
俺が見ているのに気が付いたのかニコニコ微笑んでくれる。
こんなメーヤを傷付けた父龍、こいつは絶対に許さない。が、今の俺では勝負にならない。父龍どころか、幼龍ですら無理かもしれない。
継承龍さんぇ……
とにかくここを早く離れなくては。
メーヤを右腕で抱えて一番地目指して飛んだ。
一番地での生活はなかなかに大変だった。
迷宮でのレベル上げはさらに楽になった。
メーヤの補助魔法、回復魔法は強力で俺は安心して戦えた。
リザード、リザードマンソルジャー、アーチャー、メイジ、ナイト、千切っては投げ、千切っては投げの大殺戮だ。
そこに問題はない。
そう、問題なのは日常生活だ。
メーヤは本当に俺についてきた。
それはもうカルガモの子供の如く。
宿でも外でもトイレでさえも……一緒にトイレに入ろうとした時はさすがに追い返した。
それで怒ろうとすると目に涙が溜まっていくのは本当に卑怯だと思う。
敵の中、一人でいた反動だとわかっている。だから強く言えない……
偶に隙をついて出かけようとしても探知されてすぐについてくる。
サプライズのプレゼントなんかも買うことができない。
それについては困っている。
戦闘について問題はないと言ったが、現状では、だ。
そろそろ新しい武器、防具などが欲しくなってきている。
特に剣、どうやら龍腕は力が強すぎるようで剣を傷付けている。
もっと良い武器と俺の技術向上、どちらも必要だろう。
今は曲がって、修理するより買ったほうが安いと言われてしまった剣に鎖を巻いて素振り用に、それで戦闘訓練もしている。
「お兄ちゃん頑張って!」
「おう!」
訓練は面倒だが、いつもついてくるメーヤだから、手を抜いたり、すぐに止めたりするとわかってしまう。
兄は妹に無様な姿を見せられんのだ!
ある意味監視役みたいで、三日坊主にならず、そういう意味ではありがたい。
それに妹の声援というのは力になる。それを実感しております。
メーヤという守るべきものができたことで、もう少しリスクを減らしたいと考えている。
目標としてはメーヤだけでも戦えるほどに強くする。
今は魔力を使った結界を二人で練習している。
互いに膨大な魔力を持つので、これが極まったとき、生半可な攻撃では傷一つ付けることができなくなるだろう。
だが、それもかなり時間をかけないとダメだろう。それまでは防具が必要となってくるが、良い防具はもちろん高い。
今は飛べるのでもっと後に訪れる街に飛んで行き、良い物を買うことはできる……お金さえあれば。
メーヤをじっと見る。
「何、お兄ちゃん?」
そう言って笑いかけてくれる妹の顔を曇らせるのは忍びないがやはり失わないためにも必要なことだ。
「メーヤ、かなり怖い思いをすると思うが、俺についてきてくれないか?」
「お兄ちゃんとならどこまでも!」
こんないい子を……やはり早まった……かもしれない。




