3 ストレスを感じたので八つ当たり
そう思ったもののゲーム内ではクズな父親だったが、ここではまだ俺を監禁したのみ。
世界崩壊の原因を追及したりしてやりたかったのだが……これでは煽れないではないか!
ゲーム内で、子の言動を信じず、監禁し続け、ファイナルドラゴンが暴走する原因を作り、あまつさえ逃げた子の討伐を主人公たちに頼む、この父親に俺は大いにイラついていた。
直接文句を言える機会を得たというのに、これでは生殺しではないか!
ストレスが溜まっていくのを感じる。代わりに八つ当たりで地龍でも煽りに行こう。
半魔法体に近くなったということはある程度身体を作り変えることができるということだ。試しに左腕を元に戻るように念じてみた。
うーん、手首から先、龍の頭部になっていたのが、鋭い爪を持つ腕になった。相変わらず鱗も生えているし、凶悪な爪を持っているが、腕にはなったな。
では本番、これができるかが重要だ。
龍の翼が生えるように念じる。
肩甲骨のあたりから俺が飛べるほどの大きな翼を━━!
結果、右の肩甲骨からは翼が生えた。片っぽかよ!? うーん、飛べるかな?
試してみよう。
バサバサ、バンバン、ドン! ━━ズズズ……
……片翼じゃ無理だわな。
勢いが良すぎて浮いたと思ったら地面に激突、少しの間地面に擦り下ろされることになったわ!
なんか部屋の外が騒がしくなったな。監視役がいたのか、まあそうだよな。
子を監禁するような奴が監視役を付けない訳がないよな。
無視してどうするか悩む。
正直、空を飛びたい。
理由はあるが、飛んでみたいという純粋な欲求が強い。
左腕を見つめる。鳥の翼は腕が進化したものだったよな。
背中から翼が生える方が不自然、本来は腕なんだから。
左腕翼にならね? そう念じると翼へと変化した。
まあ自己暗示の意味合いもあったが、普通は肩甲骨に翼が生えるより腕が変化する方が自然だよな。
飛ぶこと、それは左右の翼の位置が違うので苦労するかと思われた。だけど意外と簡単だった。
よく考えればあんな巨体の龍が飛んでいるのだ、何かしらの魔法的補助があったに決まっている。
継承龍を食ったことでそれも引き継いだのだろう。
さて、これで準備は終わった。
ここを出て、地龍を煽ったら迷宮でレベル上げを行おう。
弱いままじゃ、主人公たちが五大龍を倒しだしたら力に飲まれてしまう。
強くなり、力に飲まれないように、もしくは五大龍にトドメを刺そうとする主人公の隙をついて俺がドラゴンイーターの能力で五大龍を食らう。
そうすることで自身の力を高め、継承龍の増幅した力に負けないようにする。
どちらになるかわからないが、どちらにしろレベル上げが必要になってくるだろう。
ドラゴンイーターで龍を食らうのが手っ取り早いのだが……ラスボスとして現れた時の姿になる恐れがあるんだよな……
あの四肢と胴、胸にそれぞれ龍の頭部を無理やりくっつけたようなおぞましい姿に……
まあそれぞれの頭部から一斉にドラゴンブレスを放ってくるのはかっこよかったし、機能的にはありなのかなと思わなくもないが、いかんせん気持ち悪すぎる。
そこまで人間辞めなくないし、ということでまずはレベル上げだ。
監禁部屋の扉に向かってドラゴンブレスを放つ。
左腕を龍の頭部に戻すと放つことができた。
他の形態の時はダメなようだ。
扉が吹き飛び、部屋を出る。
やはり継承龍は弱い。
龍種の必殺技であるはずのドラゴンブレスが頑丈そうだとはいえ扉しか破壊できないとは。
そんなことを考えていた俺に、重武装の巨人二人が襲いかかる!
巨人じゃなくて大人だったな、なんて思いながら片方の大剣を龍腕で掴み、もう片方は剣の腹に掌底を打ち込んだ。
掌底を打ち込んだ剣は、握っていた腕から離れ、龍腕で掴んだ剣はそのまま強引に振り回し、持ち主を振り払った。
これで二振りの剣を手に入れた。
父親を煽れなかったことは心残りだが、もうここに用はない。
一振りは龍口内にしまい、追いかけてくる大人たちを無視して外に出た。
空を飛ぶ。
文字にするとこれだけだが、これはすごい。
全く快適ではない。まあ普通に考えればわかることだが、まず何と言っても寒い。凍えるように寒い。
スピードを出すと空気の壁にぶつかる。痛い。
場所によっては虫が襲ってくる。うざい。
まあこれらは快適に飛べるようにする方法と継承龍に聞いたらなんか結界? フィールド? を発生させて防げるようになった。
まあそれからは飛ぶのって素晴らしいと思えた。
まあ俺、高所恐怖症で足震えるし、イマイチ楽しみきれないんだけどね。
今飛べているのもなんらかの理由で落ちても、ぶつかる寸前にドラゴンブレスを下に放てば、なんとか助かるだろうということがなんとなくわかっているからで、そうでなければ超低空飛行しかできなかったであろう。
これは要特訓だな。
まあ先ほどの戦闘も元の俺なら絶対に震えて怯えていただろうに、簡単にこなすことができた。
継承龍を食らったからだろう。精神的にも強化されている。
空を飛ぶことへの恐怖もそのうち薄れるであろう。
それにしても掌底とかズバッと決まってこっちが驚いた。
それというのも、どうも継承龍さん、龍種最弱であるということを気にしていたらしい。
そこで人の武術や剣術を盗み見て、自身を鍛えようとしていたようなのだ。
その涙ぐましい成果がなぜか俺に現れた。
なんちゃって武術、剣術だが、最弱とはいえ龍種、その力を食らった俺の身体能力と合わさり、ある程度のことはできるようになった。
戦える目処も付いたのでお待ちかね、地龍の元に行こう。
ここらで一番高い山に飛び、そこに建てられた豪邸が見えた。
どうせ人間にでも作らせたのだろう、こんな山奥では大変な作業だったろうな。
どうやら相手は俺に気がついているようですぐ近くに気配を感じる。
「地龍くーん! 遊びましょ!」
ふざけて叫んだが反応がない。少し寂しい。
「人間が我が屋敷に何用だ?」
そう言って美男子、人化した地龍が姿を現した。
こいつらの人化って絶対に美男美女になるから嫌いだ。
「小僧、龍の気配を漂わせているな。そ、その左腕にいらっしゃるのはまさか継承龍様か!?」
へぇー、食われた龍が継承龍だとわかるのか。
「あぁそうだ。そして継承龍を食らったことで俺は龍の知識を得た。この意味がわかるよな?」
「何! 継承龍様を食らっただけでなくその知識を使って我ら龍に仇なすだと!?」
いえ、そんなこと言ってません。
「いや、俺は五大龍と……「五大龍様方と戦えると思うてか! その傲慢、死して償え!」えぇー……」
そう言ってドラゴンブレスを放ってきた。とっさに飛んで避ける。
へぇー、人型だと手からドラゴンブレス放てるんだ。
俺なんて龍の頭部からしか放てないのに……ってそんなことを考えている場合ではなかった。
「話し合いにも応じないか、所詮は空も飛べぬ哀れなトカゲか。態度を取り繕おうとも、低脳さは隠しきれないもんなんだな」
よし、予定通り煽り成功。どうせ今のままでは勝ち目がないから逃げよう。
やはり地龍は飛べないことを気にしていたようで憤怒の表情を見せ、龍となった。
「━━ッガアアアア━━!」
先ほどとは比べ物にならない規模のドラゴンブレスが襲ってきた!
「ウヒィ!」
変な声を出しながら全力でなんとか避けた。さっきと威力が違いすぎるだろう!
「ガッ! ガッ! ガァァ!」
今度は高速で何かが飛来した! 近づいてきてわかったが石か! 野郎尻尾で石を飛ばしてやがる!
くそう! 空なら安全に煽れると思っていたのに! 煽って二度も殺されるわけにはいかないんだよ!
高速で飛んでくる石を必死に避けて、なんとか戦闘域から離脱できた。
まだ遠くから龍の雄叫びが聞こえる……
今度はちゃんと安全を確かめてから煽ろう。
俺は反省した。
さて、地龍一番地でレベル上げでも始めるか。




