30 なんとか誤魔化そう
確かに夜は悶々としたが、家にアスカという客人が来ているということもあって、妹達が期待しているような展開にはならなかった。
その客人のアスカといえば、この家を出した時はあからさまに警戒していたのに中を見たら子供のようにはしゃいでいた。
特に風呂を見た時など目が輝いて見えた。
「あ、あのクーヤさん! そ、そ、その、お風呂って私も使わせていただけるのですか?」
すごく期待した様子で聞いてくるので意地悪をしたくなってくる。
「え〜〜、入りたいの?」
俺がそういうとひどく落胆した様子になった。
「そう、ですよね、そうですよね。私客人じゃないですもんね。お父さんがよく沸かしてくれたお風呂……」
なんか罪悪感を刺激された。
「ごめん、冗談だから。好きに入ってくれていいから。そのかわりといってはなんだけど、メーヤへ魔法を教えてくれないかな?」
「そんなことでいいなら構いませんよ! メーヤさんは省略詠唱はできているので無詠唱もすぐにできるようになると思います」
ということでメーヤに魔法を教えてもらえることになった。
「それでこれからどうされるのですか?」
朝を迎え、みんなが集まった頃、アスカが少し不安そうに聞いてきた。
「まず王の前でも言ったが、俺たちは防衛戦に参加しない」
「な!? それでは襲われる民たちは見殺しですか!?」
酷く狼狽した様子だ。
「お兄ちゃんが助けないとみんなが死んでしまうというのがそもそもおかしいよ! 」
それは確かに。でも国防力を超えてくる理不尽な存在こそが龍だ。
「お兄様に助けられた私たちが言えたことではないですが、お兄様が助ける義理はないと思いますです」
それも確かに。それにミヤは俺が人間を助ける理由を知っている。
別に絶滅しなければ良いので、特別、王都を救う理由はないのだ。
「安心してくれアスカ。さすがにあいつらに防衛戦を頑張れと脅しておいて全く参加しないような不義理はしない。防衛戦には参加しないが、俺たちは指揮官を奇襲する」
「え!?」
「お兄ちゃん!?」
「お兄様!?」
みんなが驚いている。
「お兄ちゃん、それは危険すぎるよ!」
「お兄様なら可能かもしれませんです……でも考え直して欲しいです!」
「なるほど、私の能力ならあるいは……」
否定的な妹たちとは対照的に理解を示したアスカ。
「龍は基本的に群れを作らないが上には従う。だから指揮官を倒せば後の龍たちは好き勝手に行動する。そいつを倒した後なら各個撃破も可能だ。そうなれば離反者も出て、一気に戦闘は楽になるだろう」
ゲームのイベントでは、王都の騎士が龍たちを足止め、その間に本隊に突撃、敵を倒すという流れだった。
少し違うが、これで流れは同じになるはず。
「確かにそうだけど……」
と不満げなメーヤ。
「メーヤ、それに多分だが敵にヴィルフリートがいる」
「!?」
ゲームではセルファに倒された為にどの程度強いかがわからなかったが、上位龍であり、相当強いと思われる。そんな彼がこの時期に突然いなくなったのは偶然とは思えない。楽観的に行動するべきではないだろう。
「ということで指揮官を倒す理由も俺たちにはあるんだ」
「わかりましたです、お姉様のためなら頑張れますです」
「わかった、アイツの好きにはさせないよ!」
「では私は王都襲撃を防ぐまでこのパーティーに同行させていただいてもよろしいですか?」
「ああ、この作戦の要はアスカの能力だからな。その後のことはそのときになったら考えればいい」
そうしてある程度どうするかは決まった。
「王都襲撃に際してはこれで決まりましたが、これからはどうするのですか?」
それについても考えていた。
「アスカに質問がある。五番地最大の山の麓にある村、二番地と三番地の境界近くにある村には行ったか?」
アスカは少し考えるようなそぶりをしたが頭を横に振った。
「……いえ、どちらも行ってないと思います」
そうか、ならそれらのクエストをこなしたほうがいいな。
「五番地に住む龍たちは今回の王都襲撃には基本的に参加しない。だが、人間との関係が悪化した場合には参加することがある。もし五番地の龍が参加するようなら王都は瞬く間に陥落、俺たちの奇襲も失敗するだろう」
そういうとみんなが真剣な表情になった。
「まだ王都襲撃までに少し時間がある。そこで五番地に向かい、龍たちを参加させないようにする。無理なら……多少削って逃げる」
「どうして時間があると?」
ゲームで知っているからです。
「奴らにとって偵察龍が倒されるなんてのは想定外だ。その真偽の確認、そして警戒、準備、それらが必要となり時間がかかるからだ」
「なるほど、あれほど強い龍でしたからすぐには倒されたとは思われませんよね。それに移動速度も遅そうでしたし」
と勝手に納得してくれた。偵察龍は地上では限りなく遅いが、潜ってしまえばそれなりの移動速度がある、まあそのことは言わないが。
「お兄ちゃんがそう決めたならどこまでも付き合うよ!」
「私はお兄様とお姉様が一緒ならどこまでもです!」
この二人、やはりお互いに良い影響を与えていると思う。
俺と二人きりだった時のメーヤは、それこそ俺に追従している感じだった。それが守るべき妹ができてそれだけじゃなくなってきている。
俺に依存している感じは抜けていないが、成長している。俺が成長を妨げないかと少し不安だったが心配なさそうだ。
俺が心配することなんてなかったんだ、100年も生きていない若輩者がそんなことを語ることがおこがましく、そして妹たちを信じていなかったんだな。
……100年以下の若輩者って、俺の意識も龍に引っ張られだしたらしい。できる限り気をつけよう。
あのファイナルドラゴンにならないように!
「二番地と三番地の境界近くにある村の方はどうなんでしょうか?」
あ、そっちか。説明をどうしよう、本当のことを言ってもいいが、まだ村に変化はないだろうし……可能性の話だけしとくか。
「その村には、もしかしたら味方になってくれるかもしれない強い奴がいる。そいつに会いに行こうと思う」
「それなら最初に会いに行けばいいんじゃないの?」
まあそう思うよね、なんと誤魔化そうか。
「そいつは頑固だから説得できるかもわからない、できたとしても時間がかかる。先に五番地に行って憂いを無くし、説得ってのが良いと思う。その場所なら王都襲撃の際にもすぐに動けるし、そいつも実際に人が襲われているところを見たら味方してくれるかもしれない」
そういうとみんなが納得した感じだ。
とりあえず五番地まで行くことになるな。
「アスカ、高いの大丈夫?」
「え?」




