29 人の妹に色目を使うからだ、ボケ!
「静まれ!」
王の言葉でとたんに静まり返る。
「……聞きたいことは多いが、まずは救世主はどこだ?」
素直に答えたいんだが、ねぇ。
騎士団長が剣を突き刺すような仕草で早く言えと脅すようなそぶりを見せる。
やめて! メーヤとミヤがキレちゃうよ!?
「重要なこと故、人払いをお願いしたい。護衛も本当に信頼できる数名にしてほしい」
「貴様! ふざけているのか? 信用できない人物相手に護衛を減らすわけがないだろう!」
「申し訳ないが騎士団長の言う通りだ、今話せ」
うーん、アスカの方を見ても顔を真っ青にしていて役に立ちそうにない。
「それが国の存亡に関わっても?」
「くどい!」
吐き捨てるように言う王、しょうがないか。国が滅んでも俺には関係ないしな。
「救世主アンジェ、レオーネ、クーリオは偵察に来ていた龍に殺された。俺たちが助けられたのはそこにいるアスカだけだ」
そういうと一気に騒がしくなった。
「救世主様が死んだ? 嘘をつくな! 貴様、救世主様をどうした!!」
「だから死んだって、丸齧りされて死んだ。無事だったのはこのヘルムくらいで鎧も剣もボロボロだった」
さらに騒がしくなった。
「静まれ! 今の話が本当だとして、お前はなぜ救世主の振りをしてここに来たのだ?」
へぇー、ちゃんと対応してくれるんだな。
「これから龍の群れが襲ってくるのに救世主が死んだなんて噂が流れたら誰も戦わなくなる。そうなれば多くの市民が戦いに巻き込まれるだろう。だから救世主の振りをして帰還、王にこれからのことを相談するつもりだった」
でももうダメだな。
「これからのこととは?」
「俺たちの能力を証明して防衛戦の戦力として組み込んでもらうつもりだった」
「では救世主の死とはお前は関係ないのだな?」
「ああ、それに救世主を間接的に殺したのはお前だろうに」
「き、貴様! 王に対して無礼であろう!」
そういって向けていた剣で突き刺す動きを見せてきた。さっき敬語じゃなくなったときにはキレなかったのに……
「フッ!」
「ハ!」
ミヤが俺への一撃を鉄扇で止めて、メーヤがぶん殴った。
騎士団長は壁に激突して動かなくなった。
え? 弱!? クーリオやレオーネより階級が上の人だよね? ……コネか。
「ク、クーヤさん?」
アスカが青から白に近くなって問いかけるがまあ無視ですね。
「貴様、王宮でこんなことをしてただで済むと思っているのか!!」
そういって周りが騒ぎ立てるが、騎士団長が簡単にやられるくらいだから済むんじゃないかな?
「……はぁ。間接的に殺したのが余だと言ったな。どういうことだ?」
王もお疲れの様子だ、どうしたのかね。
「救世主をあえて強く育てなかっただろ」
「……」
俺たちの会話が気になったのかアスカが口を挟んだ。
「クーヤさん、どういうことですか?」
「王にとって救世主が強くなり過ぎると困るんだよ。理由としては強くなり王宮を出て行かれては自分の守りをしてもらえないこと、彼女の能力なら良いブレス避けになると思わないか? そして自分より民衆の心を掴み、支持される可能性がある。まあ今思いつく理由はそんなもんだが、どうだ間違っているか?」
「……」
表情を変えないようにしているが汗が出ているぞ。
「だんまりか、それが王の姿かねぇ。いっそ哀れだな」
さすがは無能ゆえに龍から王に任命された一族だ。このことも言いたいが言ってしまえば王が変わるかもしれない。
龍の襲来後ならそれで良いのだが、王の交代でバタバタしているところに襲来されたら利敵行為になってしまう。我慢だ。
「まあいいや、俺たちは帰るわ。騎士達も期待してたほど強くないみたいだし。あ、アスカはどうする?」
「貴様! このまま帰れると思っているのか!」
出口に騎士が集まって道を塞いでいる。
「……このままここにいると裏切者として処刑されそうなんで連れて行ってください……」
と何やら心底疲れた様子、ストレスは美容に悪いよ。
「男は殺して構わん! 女は捉えよ!」
……本当にエロジジイが!!
あ、良いこと思いついた!
「かかれ!」
その一言で騎士達が一斉に迫ってきた。
騎士達に対応しようとした俺たちの身体が光る。
アスカが無詠唱で補助魔法をかけていた。
これが終わったらメーヤに魔法を教えてくれるよう頼むことに決めた。
騎士達はやはり期待したほど強くなくすぐに呻くものしかいなくなった。
「ば、バカな! 我が軍が……」
そんな風にショックを受けているところ悪いがまだまだショックな出来事がお前達を襲うぞ。
「お兄ちゃんこの人たち弱いね、一応戦士なんだよね?」
「そうなんだけどなぁ」
「お姉様、お兄様を見ていたら仕方がないと思いますが、この人たちもそこそこ強いです」
え? そうなの?
「お兄様……」
あれ、なんか悲しそうな顔で見られたぞ。
「誰もがお兄様のように強いわけではないんです」
うーん、こっちの世界ではや10年、まだゲーム感覚が抜けてないのか?
「頑張ればみんなある程度強くなれる世界のはずなんだけどね」
でもよく考えるとそれにもスキル持ち以外は命懸けか。よく考えなくてもわかることだったな。
「おい、王よ、俺に剣を向けたお前達に呪いをかけよう」
「の、呪いだと!?」
また騒がしくなるお偉いさん達、逃走を図ろうとしている奴らもいるがもちろん逃がさない。
騒がしくなった間にミヤにこそっとお願いする。
「……を散布して」
「それだとお兄様も……」
「ミヤが解毒薬作れるよね、だからお願い」
そういうとやや納得がいっていないものの散布してくれた。
「それは……アレが勃たなくなる呪いだ!」
そう告げると一瞬シーンとなり、次には蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
逃げ出そうとするもの達はメーヤによって阻まれ、気絶させられ、積み上げられた。
「なぜそのような呪いを!?」
「人の妹に色目を使うからだ、ボケ!」
俺がそういうとメーヤもミヤも顔を赤く染め、嬉しそうにした。でもミヤがその後にハッと気づいてしまった。
「私、色目で見られていませんです……やっぱり胸の差です……」
落ち込んでしまった……
「あんなスケベそうな奴らの視線を集めちゃうんだから良いことないよ」
そんなことをいうメーヤだが、それは持てるものの傲慢だ。
「見られたくはないですが、全く見られないのもなんだがモヤモヤです」
なんとなくわかるぞ、だから強く生きてくれ!
「心配するな、ちゃんと防衛戦をすれば呪いを解いてやる。まあせいぜい頑張って戦うんだな」
その後も近寄ってくる騎士を殺さないように無力化して王宮を出た。
出たところで切羽詰まった形相のアスカに詰め寄られた。
「それで! これからどうするんですか!? 王に呪いまでかけてしまって!」
襟を持たれそうになったらメーヤとミヤが攻撃の構えになった! どちらも落ち着け!
「どうするかは一応腹案がある。あとさっきのは確かに効果はあるが、呪いではない」
「呪い、ではない?」
「ああ、エルフ達が住むところに生えている薬草に含まれる成分で、なぜか男にしか効かないが、性欲を衰えさせる毒だ。ミヤが薬効を高めてくれたけどもって半年かな」
とネタばらし。
「えっともしかしてクーヤさん?」
「うん、バッチリ食らってる!」
「自信満々に言わないでください!」
アスカに怒られ、メーヤはすごく不安そうな顔をしている。
「お兄ちゃん、半年も勃たないの?」
「いや、ミヤが解毒薬を作れる。だから大丈夫だ!」
そういうとミヤがニコニコして答えてくれる。
「少し副作用がありますが、ちゃんと解毒できますです」
あれ、副作用?
「ミヤ! どんな副作用なの?」
「お姉様、安心してくださいです、ただ服薬後1日ほど性欲が荒ぶるだけです」
……妹2人になんだか肉食系の猛獣のような目で見つめられております。
……誰か助けてぇ!




