28 忘れたことはなかった
……と説明をした。
「それではあなた方は龍ではなく……」
「ああ、俺はスキルでこうなっただけの人間で、メーヤは龍に反旗を翻した半龍だ」
左腕の龍口を見せながら語った。
俺の腕を見るアスカの視線は厳しいものだったが、なんとか納得してもらった。
とりあえず戦死者の遺体をこのままにはしておけないので弔うことになった。
ゲームではよく知っていた、気の良い兄貴分でもあったクーリオは遺体が残っていなかった。
レオーネは上下に別れていたもののちゃんと残っていた。
痛みゆえか見開いた瞳を閉じさせた。
その小さい身体と勝気な瞳を見ているとゲーム時代の、背伸びをした子供のような反応やデレ期を迎えた時の可愛さなどが思い出されて自然と涙が溢れた。
そして最後にアンジェ、彼女の遺体は偵察龍に齧られたこともあり、肉片と多少大きなパーツといった形で残っていた。
……あの顔はやはり糞女だったと思う。
忘れたことはなかった。
俺を殺し、多分俺が殺してしまった女。
噂で聞いた言語障害というのはあの、『ハァ?』の所為で噂されたのだと思う。
あの時、俺だけでなくあいつもこちらに転移? していたとは思わなかった。
色々と言いたいことはあったし、たぶん許すことはできなかっただろうけれども、一度話してみたかった気がする。
そんな彼女たちの遺体を穴に埋め、一息ついた。
「聞きたいことがある」
少し落ち着いた頃にアスカに問いかけた。
「なんでしょうか?」
「なぜアンジェはあんなに弱かったんだ?」
そう俺が疑問に思ったのはあのアンジェの弱さだ。
ゲームでの彼女の強さはそれはそれは凄まじいものだった。
だが、どうやら言い方を間違えてしまったらしい……
「な!? たしかにあなた方は強かった! でもそれに驕り死者を侮辱するのですか!!」
烈火の如く怒らせてしまった。
メーヤとミヤのアスカに向ける視線が険しくなる。だが、今回は俺が悪いので落ち着いてくれ。
「言い方が悪かった、申し訳ない。アンジェは本来俺と対になる存在なんだ。だからあの程度の擬態龍にやられるほど弱くはないはずなんだ」
「? どういうことでしょうか?」
ゲームのことを省いて説明しなければならなかったのが難しかったが、なんとか説明できた。
「では彼女本来の力はもっと強かったということですか……」
そういうこと、レベル上げをちゃんとしていたか疑わし……まさか! レベル上げをしていなかった……のか?
「王宮に行っていたはずだが、龍の眷属などと戦ったりはしたのか?」
俺がそういうとアスカは視線を逸らした。
「彼女は王宮での訓練も不真面目で……しかし、王もそれを認めていたので私にはどうしようも……」
言いにくそうに言ってくるがなるほど、さすが愚王だなぁ。
「それじゃあ殺されても仕方がないよね。あたしたちはお兄ちゃんのスパルタ修行を頑張ってきたんだし」
え!? そんなにスパルタだった?
「お兄様は私たちのことをちゃんと考えて鍛えてくださいましたです」
そうそう、そうだよ。
「でもたしかに大変で毎日クタクタでしたです」
アレェ?
アンジェが弱かった理由もなんとなくわかり、これからのことを考える。
「アスカはこれからどうする?」
少し考えるような仕草をして答えた。
「……当初の予定通り王宮に戻ろうと思います。今回のことも説明しなければなりませんし、あの龍の目的が偵察だというのなら龍による大規模な攻撃があるのではないですか?」
「ああ、龍に匹敵するような人間が産まれるようになったことを危惧して、人間を滅ぼそうと一月から二月後にはやってくるだろう」
その言葉を聞き、決意を固めたような視線を俺に向けてくる。
「どうか私と一緒に王都のために戦ってはいただけませんか、あ、えっと……」
「クーヤだ、だが救世主と噂されていたアンジェが死んだと報告して、王は戦おうとするだろうか?」
あの愚王のことだ、周りには何も言わず自分達だけで逃げるのではないか?
そう指摘するとアスカは表情を歪めた。
「それは……否定出来ません。ですがこのまま何もせずにいれば多くの人たちが龍に襲われてしまいます!」
「そこで一つ相談なんだが、こんな小細工はどうだ?」
そこで俺が今考えた小細工を話す。
「……無謀ではないですか? ですが、王にだけ話しておけば……」
あまり乗り気ではないみたいだが、他に方法も思いつかないしな。
「……わかりました。全て私が話します、よろしくお願いします」
うん、俺たちは話す気がないから頼んだ。
そうしてある程度のことが決まり、準備をして王都へと向かった。
「これは! アスカ様、大丈夫ですか? お怪我は?」
傷などは負っていなかったが服や装備が大いに傷ついており、王宮の門番に止められてしまった。ここまでは順調だったのに……
「それにそちらは救世主様ですか? そういえばクーリオの姿が見当たりませんが……」
「ハァ?」
「……クーリオさんは龍との戦いでお亡くなりになりました……彼は騎士らしく戦い、最後までそれを貫いて死んでいきました」
そういうと門番は悲しそうな表情となった。
「……そうでしたか、ではそちらのお嬢様は新しいパーティーメンバーですか?」
「いえ、候補の一人です。ですが3人よりはいてくださると心強いので同行をお願いしました」
「そうですか、あ、長々と申し訳ありません。どうぞお通り下さい」
門番に見送られて王宮へと入った。
その後は会う者たちに頭を下げられるだけで進むことができ、遂に王との対面を果たした。
王は見た目には彫りが深く、厳つい顔つきで為政者としての威厳を纏っているように見えた。これで目線がメーヤの胸に固定されていなければ騙されていたかもしれない。
「それでは何があったのかお話しください」
王の右にいる人物に促され、アスカが語り出した。
王都を出てから様々な人々の悩みを解決するために奔走したこと、王都に戻ろうとしたら強大な龍に待ち伏せされていたこと、クーリオが殺され、なんとか龍を倒したがそれは本隊の偵察役であったこと、早くて一月後には龍が攻めてくること、荷物運びとして雇って少女を今はパーティーメンバーに入れていることなどを話した。
「救世主様、これらのこと相違ありませんか?」
「ハァ?」
「そうですか、ありがとうございます」
そしてここで初めて王が口を開いた。
「救世主一行、大義であった。これからの働きにも期待しておる」
そう言うと、メーヤの方を見ながら左の人物にコソコソと話して去ろうとした。
「そちらの荷物運びの……」
「王よ、お待ちください! 貴様、何者だ!」
そう言って他の者より良い防具に身を包んだ騎士団長とみられる男に剣を向けられた。
「ッチェ! もう少しだったのに……はい、 はい」
剣で脅されヘルムを外した。横ではミヤが、装備していたレオーネの防具を外していく。
アスカは気付かれたことに青い顔をしている。
「な!?」
周りが驚いているが騎士団長風の男は警戒したままだ。
「どうしてわかった?」
「貴様、王に殺気を飛ばしたな、それでだ」
「なるほど、妹への視線があからさま過ぎて抑えきれなかったか」
「そういうことか、では全て話してもらうぞ!」
アスカに対して裏切り者! などの罵声が飛び交っているが、これは無視だな。
さて、どうしようかな?
『魔物使いのこれじゃない!?冒険譚』の方の連載を再開しました。もし読んでいただけたら喜びます。




