24 世界は終わってた
「そ、そんな馬鹿な!?」
カースは驚いて腰を抜かしているが、あんなのが鍛えた俺たちに敵うわけがない。
それにしてもカース、いやカスでいいか、このカス、ゲス共を私兵として雇い好き放題していたようだ。
私兵を惨たらしく殺したというのに村人達の俺たちを見る視線は好意的なものがやたらと多い。
「こんなことがあるわけが……」
現実逃避しているカスの足を鎖でぶっ叩いた。
「ギャーーー!!」
あ、足が折れたかも。まあいいか。
「おい、カス。この女に見覚えはないか?」
そういってメーヤを前に出す。
「う、うぅ、そ、その女がなんなんじゃ!」
メーヤも不思議そうな顔をして俺を見ている。
どうやら、勘違いだったらしい。
掲示板などで聖女(メーヤの母)の出自はこの村ではないかと言われていた。
地龍四番地にありながら、龍に襲われず存続している理由が聖女を生贄に捧げたから、と今思えば邪推になるが、そう思われていた。
よかった、そこまでこの世界は終わってはいなかった。
そんなことを考えていたら老婆がよたよたと近づいてきた。
「ま、まさか、聖女様ですか? いやそんなはずは、あれは50年も昔の話で……」
……この世界は終わっていたらしい。
カスの足を鎖でぶっ叩きまくった。
何やら叫んでいるが聞く気はない。
それよりも━━
「50年も前ってメーヤ、何歳?」
「……てへ」
ここにきてメーヤ年上疑惑。
まあ龍と人間では精神的に成長速度は違うだろうし、うん、そう思おう。
それに俺も精神年齢は実年齢+17歳だ。
……あれ、微妙なラインだな。まあこの話は誰も幸せにならないので置いといて。
老婆の話ではやはりメーヤの母はこの村の為に生贄としてヴィルフリートの元に、ということだった。
カスは当時、生贄賛成派として色々やっていたそうだが、50年という月日がそれすら忘れさせたようだ。
いや、不都合だから忘れた? それともこいつにとっては覚えておく価値もないことだった?
とにかくこいつは楽に殺してはいけないな。そんな気はないけど。
メーヤ、ミヤと相談してカスはグズグズの足のまま放置で、家から金と食料を全て奪った。
これらは慰謝料とかそんな感じ。
カスの息子が現れ、妨害しようとしたが無視。
今まで私兵を使って好き放題してきたこいつらを村人たちがどうするのか気になるところだが、俺たちは村を去ることにした。
村長は一思いに殺すよりも良い結果になると信じている。
ミヤの毒で苦しめる案もあったのだが、それよりは村の判断に任せる形にした。
「お兄様、あんな軽い罰でよかったのですか?」
そうは言うがこれはそこまで軽い罰ではない。
金と私兵で支配していた地で金と私兵を奪われ、逃げる足すら失っているのだ。どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
そうして村人たちは暴力の支配から、暴力で逃れた。
次の村長はどう決まるだろうか。
話し合いで決まるかもしれない、暴力で決まるかもしれない。
最悪━━
「次に村を訪れたときには誰もいなくなっているかもな」
その言葉を聞いてミヤが驚いている。
いや、もしかしたらの話だよ。
平和に存続しているかもしれないし。
ただ、メーヤの母を生贄にしておいて忘れている奴が、のうのうと生きている村人が気に食わなくて少し悪意の芽を植えといただけだ。
そう、あそこの村の連中が善良な奴らなら特に問題にもならないような。
「お母さんは望んでなかったかもしれないけど、私はすっきりした。だからありがとうね、お兄ちゃん!」
「メーヤがすっきりしたのならいいことだが、あれは俺が気に食わない、哀れな存在にムカついてやっただけだ。お礼を言われるようなことじゃない」
「そっか、でもあたしがお礼を言いたくなったんだからそれでもいいよね」
「……まあな」
そうして地龍四番地を去った。
ゲームでも攻略本にも説明されてない謎がわかり、メーヤの母に対してのモヤモヤもある程度消え去ったが、他に得るものはなかった。
いなくなった龍、そちらの謎は解明されていないし、嫌な予感がする。




