23 クズでありがとう
偵察龍イベント、最大の大地で警戒せねばならないイベントの一つ。
まあこれは初見殺しの要素が強いので注告、もしくは助けに入らねばならないかもしれない。
注告の場合は、重大イベントの度に出てくる敵味方不詳の強キャラポジションがいいな。
助けに入る場合は、『お前を倒すのはこの俺だ』と言いながら助けるライバルポジションがいいな。
どちらになるかわからないが、偵察龍イベントまではまだ少し時間がある。
このままここにいる意味はないので修行か、やり残した事をするか、どちらかを選ばなければならないが……悩むな。
「メーヤ、ミヤ、少し悩んでいることがあるんだ」
そういうとすぐに近づいてくる二人。
「なあに、お兄ちゃん?」
「何をお悩みですか、お兄様?」
「実はこれからのことなんだが、迷宮の上級に行くか、人型になれる上位の龍と戦うか悩んでいるんだ」
大地龍が倒されたとき、少しでも発狂の確立を下げるためにレベル上げを行いたい、また上位の龍に今の自分たちは通用するのか確認したい、そういう気持ちがあった。
「その戦う上位の龍とはどんな龍なのですか?」
ミヤに聞かれ、俺はメーヤを見つめる。
「アイツ、なんだね?」
口に出した言葉は疑問系ではあったが、本人は確信しているようだ。
「そうだ! 上位の龍と戦う場合、メーヤの元父、ヴィルフリートに挑戦する!」
本来ならヴィルフリートは暴走したセルファを止めるために出てきて倒される。
ここにはイベントムービーが作られていて大迫力だった。
ブレスを放つもその痛みに全く怯まず、回復しながら突っ込んでくるセルファに最後は首を噛み砕かれて地に伏した。
その後ブレスで跡形も無く消え去る。
そういえばムービーでセルファは飛んでいなかったよな。
でもメーヤは飛んでいる。
ここら辺も謎だな、でも最初から飛べる種類で地龍の群れにいたから飛ぶなんて考えつかなかった、ってのが正解なのかも。
さっきからなぜ上級迷宮のことを考えていないかというと、二人の目を見ればどちらを選んだかわかったからだ。
俺たちの次の相手は上位の龍、ヴィルフリートだ。
そうと決まれば即行動ということで地龍四番地へと飛んだ。
……おかしい。全く龍がいないのだ。
幼龍がいないとかならまだわかる。
野良龍、野良リザードすらいないのだ。
「……お兄ちゃん」
その様変わりした様子に、前の風景を知っているメーヤが心配そうに呟いた。
だが俺も何が何だかわからない。
とりあえずヴィルフリートの住処に行ってみることにした。
「……誰もいない」
これはなんだか非常に良くないことが起こっている気がする。
「お兄様、近くに村がありますです。そちらで話を聞いてみてはどうですか?」
険しい顔をしていたのだろうか、俺を見てミヤが提案してくれる。
「近くの村……気は進まないが、仕方がないか」
あの村にはアイツらがいる、殺してしまわない自信がないんだが。
「ヘッヘッヘ、兄ちゃん可愛い子を連れてんじゃねぇか?」
「この村に入りたかったら、わかんだろ?」
「ぎゃーはっはっは!」
村に入ろうとした途端にこれだ。
俺は今、剣を向けられ脅されていた。
テンプレ的な悪役。本当にこいつら頭悪そうだな。
周りの住人も見て見ぬ振りをしている。
メーヤが今にも爆発しそうになっているな。
ミヤはメーヤを止めるかと思いきや、こっちもキレそうになっている。
普段なら止めるところかもだが、放置だ。今はこの幸運に感謝しよう。
「ありがとう、クズで、本当のクズでありがとう。これで心置きなくお前たちを殺すことができる」
「はぁ? 何言ってんの?」
「頭おかしいんじゃね?」
「ぎゃーはっはっは!」
騒がしいクズ共だ。
「とっとと金と、ッグギャ!」
「は?」
「え?」
先頭にいて俺に剣を向けていた男が飛んでいった。
「お兄ちゃんに剣を向けるとか万死に値するよ。お兄ちゃんの許可もあったから本気で殴っちゃった」
「あの方、たぶん死んでますです。お兄様よかったんですか?」
そういえば人間を手に掛けるのは初めてか。
「いいよ。こいつらは気に食わない存在だったけど、この世界ではメーヤに危害を加えてなかったから見逃してた。けどこうなったからには、ね」
俺がそういうとミヤが目を細め、冷たい視線を男たちに向けた。
「ああ、この人たちが……そうですか」
ミヤがそういった直後、男の一人に急速に近づき、頬を引っ掻いた。
「イテ! え、ウゴォ!」
━━バタン。
男は地に伏した。
「こ、今度はなんだよぉ!?」
残った男が慌てている。
「え? 毒を与えただけです。あと五分くらいで死んでしまうと思いますです」
ミヤの奴、わざと猶予のある毒にしたな。
しかも相手にそのリミットを聞かせる、か。
なかなかにエグい性格に成長してきちゃって誰に似たんだか。
少し周りが騒がしくなってきたか。
残った男に近づく。
「ひ、ヒィィ! 来るな! 来るな、来るな!」
尻餅をつきながらも手で後ろに下がろうと頑張っている。
「何言ってんの? 相手に剣を向けておいて殺される覚悟もなかったの?」
右手に魔力を纏わせて龍爪を生やした。
「まあ俺は殺される覚悟なんてないけど」
「……ゴブゥ……」
そのまま心臓に貫手突きを決めた。
口からも血を吹き出して死んだ。
初の殺人だが特に何も感じないな、やはり精神構造が龍に影響されているのは間違いないようだ。
「あ、あんたたち何てことをしてくれたんだ!」
髭で太ったおっさんが話しかけてきた。
俺たちが怖いのか震えているくせに話しかけてくるとか、死にたがり?
「こいつらは村長の孫なんだぞ!」
怒鳴ってくるが、馬鹿か?
「は? 剣を向けてきたんだ。殺されて当然だろ」
「お兄ちゃんに危害を加えようとしたんだから殺されても仕方がないよね」
「なんで村長の孫だとダメなんです?」
俺たちの言葉を聞いて唖然としている。本当によくわからない奴だ。
「それにお前ら見て見ぬ振りをしていただろ。それ、同罪だからな。正直この村を焼き払いたい気分だ」
まあ子供に罪はないし、そこまでのことはしない。
だが、責任は取らせないとダメだろうな、その村長とやらには。
おっさんが青い顔になり走って逃げたのと入れ替わりで武装した男たちが近づいてきた。
「お前たちか! わしの可愛い孫たちを殺したのは!」
「お前が村長か。こいつらが増長する原因を作った張本人。責任を取ってもらおうか」
そう俺が言うと村長は激怒したようで顔を真っ赤にさせた。
「責任! 責任じゃと!? ふざけるな! 孫たちを殺しておいて責任じゃと!」
「カースさん、こいつら殺っていい?」
「女は生かせよ、こんな上玉なかなかいないぜ」
「俺はあのチビがいい」
「お前は本当に……まあ俺は当然、あっちだ」
ゲスしかいないみたいだな。
メーヤとミヤの視線が汚物を見るようなものに変わっていく。
「女はお前たちの好きにせい! 男は生まれてきたことを後悔させるんじゃ!」
「お、ラッキー!」
「さすがカースさん!」
なんて盛り上がっている。
「メーヤ、ミヤ、こいつら不快だから苦しめて殺せ」




