21 はや5、6年
あの後、眠ってしまったメーヤと飛べないミヤをどうするか悩んでしまった。
どちらかを抱きしめ、もう一人は背中に乗せるとかも考えたが面倒だったので村から少し離れたところで魔法の家を設置した。
メーヤはそのまま寝かせると、ミヤと俺だけという今までにあまりなかった組み合わせに少し戸惑った。
ミヤはいつもメーヤの後ろについていたし、メーヤは俺の後ろについてきていたからだ。
まあそれでもややぎこちないものの穏やかな時間を過ごした。
次の日。
「おぉにいぢゃぁん!!」
そんな泣き声で起こされることになった。
目を覚ましたメーヤは肉体の酷使で酷い筋肉痛に襲われていた。
「だずげでぇ!!」
それにしても酷い絵面だ。涙でぐしゃぐしゃだし、鼻水も垂れている。
しかもそれを拭うこともできないから……ちょっと女の子が、というか男でも、他人に見せちゃいけない顔になっている。
「やっぱり反動がきたか。でもまだその程度で済んでよかったな。長時間あの状態が続けば本当に死んでいたんだから」
「十分ぐるじぃよぉ〜〜〜!」
「お兄様、なんとかならないのですか?」
ミヤがメーヤを心配そうに見て、聞いてきた。
「ん? 回復魔法使ったら?」
筋肉痛くらい回復魔法で治ると思うんだが。
「それだ!」
メーヤが自分に回復魔法をかけようとして白く薄く光ったがすぐに消えた。
……回復魔法は失敗したようだ。
「魔法に集中できないし、なぜか発動しないよぉ!!」
あ、あ〜、暴走で魔法に関する器官? 回路? がダメージを受けて一時的に魔法が発動しなくなったのかもしれない。
「どぉしたらいいのぉ!?」
「……ミヤ、ちょっと強い麻痺毒を投与してあげてくれ」
「わかりましたです!」
「え、それはちょっと怖い、きゃー!」
痛みも痺れて苦しくないだろう。まぁ動けなくなるだろうけど。
メーヤは今日、使い物にならないだろうし、ミヤと修行を始めるとしよう。
まあその前にミヤに俺のことを話しておくべきだろう。
「ミヤ、大事な話がある」
俺がそういうとミヤは真剣な表情となった。
メーヤはすぐに信じてくれたが、ミヤはどうかわからない。
ミヤの目を見つめて、話しだした。
「実は俺は……」
「……それで結末、だったんですね。私はそのげーむ? ですか、ではどういう立ち位置だったのですか?」
やはりそこは気になるか。
「……主人公が移動大陸に辿り着いた時には、もういなかった。死んでしまったのか、隠されたのかはわからないが、居た形跡だけしか見つからなかった……」
嘘をつくことも考えたが、そのまま伝えた。
「……そう、ですか」
ショックを受けてしまうかもと思ったが、事実をそのまま受け止めたようだ。
「お兄様にはもっともっと感謝しなければ、です」
「いや、ミヤを助けられたのは偶然だよ。まさかあのタイミングで移動大陸が近づいてくるのはわからなかったし」
「そうだったんですか。なら、お兄様に会えたのは運命です!」
運命、か。あの糞女に突き落とされ、この世界に来たが、運命なんてものがあれば俺に何を求めているんだろうか?
「あの、お姉様はどうだったのですか?」
あれ? メーヤに聞いていないのか?
「メーヤの時は……」
「お姉様には、そんな結末が……」
ミヤの場合も相当だと思うが、メーヤの話を聞き、引いていた。
「これからの戦いでメーヤがあの暴走状態にならないとも限らない。俺たちが傷つくのを恐れ、なるかもしれない。そのときは頼む」
「わかりましたです、お兄様。私がお姉様を死なせませんです!」
やっぱりチャイルドイーター戦からミヤの中で何かが変わったようだ。
そうして、ミヤを本格的にパーティーメンバーに入れ、修行を始めてはや5、6年が過ぎた。
俺は元の身長に近づいてきた。
転生? 憑依? して、目線の高さがいきなり変わるというのは酷く違和感があったが、今は懐かしさを感じている。
多分170㎝はあるんじゃないかな? だが、まだエスペランサに負けている。
相棒くらいの身長は欲しいものだ。
メーヤは156㎝だったかな? の身長にFカップ? 公式設定ではたしか、まで成長した。
白い髪の毛を毎日いじり、俺の趣味を探っていたようで現在の髪型はポニーテールとなった。
くそ! 正直どストライクです。
すましていると美人系の顔なのに、笑うと凄く可愛いとかも卑怯だと思う。
目がぱっちりしているし、まつ毛も長い。
ゲーム内でヤンでいるときでも人気がでていたのだから、そりゃそうかとも思うが、そこでは見られなかった満面の笑みとかは破壊力が凄まじい。
あの壊れたような笑顔しか見ていなかったからか? こういうのも一種のギャップ萌えと言うのだろうか?
ミヤは成長期に栄養が摂れなかった影響か、130㎝代で身長の伸びが止まった。
胸も……多分B、いやA? 正直よくわからない。
そのアルファベットの定義もわからないし、というかそれを完全にわかっている男子学生っていたら、かなり危ない奴だよな。
まあ背も胸も小さいということだ。
たしか、エルフの子供は人間と同じように成長し、成人になるとそこで老化が一旦止まる。
寿命が近くなると老けるようになるはずだったのでもう……ミヤは……
髪はメーヤとは違い、綺麗な金髪をお姫様カットにしている。
なんというか、和と洋の融合? 小さい身体とエルフの美貌が相まって人形のような、触れたら壊れそうな、そんな静謐な雰囲気を生み出している。
個人的には巫女服を着せてみたい。
少し切れ長の目が冷たくも見えるかもしれないが、それが特徴となり余計に美形に見える。
そんな美形なのに愛嬌もある。
メーヤに影響されてか、重たいセリフも言っていたが、チャイルドイーター討伐後の会話からそんな言動は無くなっていった。
ゲームでみんなが期待していたエルフの姿がそこにはあった。
ミヤの左手薬指には、メーヤと同じ血でできた指輪のようなものが形成されていた。
結果から言えば血の儀式は複数人と行うことができた。
あの日から何度か血の儀式を強請られたが、メーヤの時とは違い、ミヤにはその身を案じてくれる姉がいる。
だから俺は判断を保留した。
長い寿命なのだから、一生ものの血の儀式を行って良いのか、そう考えてしまった。
でもそれが5年、多感な時期に5年、ずっと俺を想い続けてくれたし、そろそろなんというか、プレッシャーが恐ろしいことになってきた。
決して、決して怖さから折れたわけじゃないが、この世界では15歳で成人扱いされるということでその日まで待ってもらい血の儀式を行った。
メーヤの許しもあったし……さすがにもうメーヤと血の儀式をしてしまっているので、許可がなければ、いやあっても不誠実なんだが……
俺は成長していたし、ミヤは小さいままだったので、なんというかメーヤの時より背徳感があり、淫靡な行為に思えてしまった。
そんな妹たちとの生活だが、この歳になると色々と問題があった。
まず、忘れもしないあの日。
あれから3年経って俺が13歳の頃、風呂に入っていたらメーヤに襲われかけたのだ!
あれはミヤに血の儀式をしてと、一人だけ仲間外れは嫌だと、強請られた日の夜。
俺は風呂に入りながら悩んでいた。
そうしたら風呂場に突然全裸のメーヤが突撃してきたのだ!
「お兄ちゃん! ミヤと血の儀式をするのは許すからあたしと最初に……」
「助けてぇーーー!」
まさか俺が、『助けてぇー!』なんて叫ぶ日が来るとは思わなかった。
でも目が血走ってて怖かったんだよ……
その後、ミヤが風呂場に助けに来てくれて、修羅場と化した。
仲の良い姉妹だったのに……始めて姉妹喧嘩を見た。
俺は難聴系鈍感主人公になりたいと思ったが、それはそれで大変そうなので現実逃避をやめた。
でも、ぶっちゃけ二人とも恋とかより、依存だと思うんだよな。
それに半魔法体に近くなってから性欲がかなり少なくなっていた事もあって手を出していない。
もう昔だが、学生だった頃ならやばかったな。
今でも同じベッドで寝ているので、抱きつかれて少しドキドキしたり、朝は気まずかったりするが、まあ仲良くやっている。
相手からの強烈な願いの為に、必要に迫られた為に、したことであっても、血の儀式をした責任を取るつもりはある。
せっかく辛いことから解放されたというのに、俺についてくるということは、戦い続きかもしれない。
そんな戦いに巻き込んでしまったのは俺だが、幸せになってほしいと心から思っている。
いつかメーヤやミヤとそういう関係になるのかもしれないが、それは今ではない。
小説や漫画で主人公に手折ってっていうヒロインに手を出さない展開にやきもきしていたが、まさか自分がその立場になるとは……
でもよくわかった。
性欲が少ないからメーヤやミヤのことをちゃんと考えられる。
主人公たちは女の子にモテるからガツガツしていない。
これらから、例え迫られても本当にそれでいいのか悩む余裕があるのだ。
モテ男は余裕があるからさらにモテて、それ以外はガツガツしているから近づかれない。
なんというか、格差社会の現実を理解することになった……
まあ男女関係も問題ではあるのだが、さらに問題があった。
そろそろゲームで言えば本編が始まるだろう頃合いなのだが、主人公たちが王宮から出てこないのだ……




