20 哀れなトカゲ
「お兄ちゃんの仇!」
いや、だからそれだと俺が殺されたみたいだろ!
妹と同じようなことを叫び突っ込んでいくメーヤを驚きながら見送ってしまった……
いや、いかんだろ!
「メーヤ、回復役が前に出るな!」
言いながら走って追いかける。
ミヤを助けに行こうとしていたのに、二人してチャイルドイーターに突っ込むという意味不明な展開。
もう少しで俺が追いつく、というところでメーヤの身体が光に包まれた。
……ヤバい!?
一瞬この光景がなんなのかわからず戸惑ったが、見たことがあった。
ゲーム内でだが、セルファが補助魔法を暴走させた時のエフェクトだ!
「お姉様!」
ミヤも近づくメーヤに気がつき、なんとかメーヤの通り道で気体となっている毒薬を双葬扇で吹き飛ばした。
ナイス判断! だけど俺的には眠り薬かなんかで動きを止めて欲しかった!
今のメーヤを止めるのはチャイルドイーターの襲撃を受けやすくなるからやめた方がいい。
しょうがない、早めに戦闘を終わらせてミヤの毒薬で動きを止めるか。
その方針を固め、ミヤに指示をだした。
「メーヤがアタッカー、俺がサポートするからミヤはメーヤがつけた傷口に毒薬を塗り込んでやれ!」
「は、はいです、お兄様!」
メーヤを先頭とした陣形でチャイルドイーターに突っ込んだ。
「あ、あなたはまさかヴィルフリート様の!」
メーヤの姿を見てチャイルドイーターは何かに気がついたようだ。
━━ビクン!
ヴィルフリートの名前を聞いた瞬間メーヤが反応した、今だ!
「メーヤ! 落ち着け!」
「!? お兄ちゃん?」
お! 返事を返してきた、なんとか戻ってきたか。
「メーヤその光抑えられるか?」
「え、え? えぇぇ〜!? お兄ちゃん! あたし光ってる!?」
いや知ってる!
「お兄様!」
ミヤが警告してくれる。
「あなただけは絶対に殺すわ! ワタクシが産むはずだったヴィルフリート様の子供!」
いや、産めないから! それにしても空気の読めない奴だ!
あ、ヤバッ! チャイルドイーターの魔力が高まっていくのを感じる!
「メーヤ! 俺をあいつに向けて投げろ!」
「え? 光? 投げ?」
「早く!」
「は、はい、お兄ちゃん!」
━━うぉ!
暴走状態のメーヤの筋力舐めてた、凄まじい速度でチャイルドイーターに向かっていく俺!
なんとか大剣を突き出し、翼で微調整してチャイルドイーターの下顎から突き刺さり、上顎まで貫いた!
「グブゥ!」
なんかくぐもった声が聞こえた気がするが、大剣で口を塞がれた形になっているので気のせいだろう。
素早く口に鎖を巻きつけ、開かないようにした。
これに焦ったのはチャイルドイーターだ。
ブレスを放とうとしていたので魔力を高めていた。
このままでは暴発してしまう。
なんとか魔力を抑えようと必死になっている。
手は鎖を外そうと頑張っているが、届いていない。
そんなに太るから……
その隙にミヤがこっそり近づき、大剣周辺に毒薬を垂れ流していた。
メーヤは現状をよくわかっていないみたいだが、強化された腕力、脚力で殴る蹴るを繰り返していた。
「メーヤ、それくらいにしておけ。動きすぎると後で後悔するぞ」
「? はーい」
そんなミヤとメーヤの妨害にあったチャイルドイーターだが、なんとか魔力を散らすことに成功したが、明らかに体力やら諸々を消耗したようだ。
もうブレスの心配はないようなので左手で鎖を引っ張り大剣を引き寄せた。
「ギャーーーー!!」
なんかブチブチと肉が千切れるような鈍い音が聞こえたな。
「ワ、ワタ、ワタクシが何をしたっていうのよ! この星に蔓延る寄生虫を排除しただけじゃない! ワタクシは悪くないわよ!」
あんな惨状をいくつも生み出しておいて悪くないだと!?
「やはり理解できないか、哀れなトカゲが! メーヤ!」
「ハァ!」
メーヤがチャイルドイーターの頭部をぶん殴りフラフラだったチャイルドイーターが倒れた。
「……やめ、助け……」
「その言葉、お前は何度言われたんだろう、な!」
ズタボロの口内に向かって大剣を突き立て、力の限り突き刺した。
ビクンビクンとしているうちに食らった。
━━スキル『ドラゴンイーター』が発動しました。
対象が死んでいても発動するかわからないから、ギリギリのところで発動させた。
今回のことで防御力に不安が残る結果になったので使っておいた。
防御力と魔力、その辺が少し上がった気がする。
死んでいた幼龍に使ってみたが、やはり発動しなかった。
生きているときだけ発動可能なのだろう、危なかった。
「お兄ちゃん、お疲れ様!」
「お疲れ様です、お兄様、お姉様。それでお姉様はいつまで光っておられるのですか?」
「え?」
「メーヤ、そろそろ止めないとお前死ぬぞ」
「え? え? お兄ちゃん、どうしよう! 止まらないよ!?」
「はぁ……ミヤ、メーヤにとびっきり強い睡眠薬を投与してやってくれ。それでなんとかなるだろ」
「わ、わかりましたです!」
ということでメーヤは戦力外となった。
「お兄様はいつもこのような戦闘をしておられるのですか?」
「いつもじゃない。気に食わない相手のとき、気に食わない結末のときだけだ」
「結末? 人間を救う為ではないんですか?」
人間を救う為? 考えたこともなかった。
だけど人間が滅んだら、それは……
「人間が滅んだらつまらない世界になりそうだな。俺たちの寿命は長い。それで人間が滅んだ世界だったらすぐに飽きてしまいそうだな。そう考えると絶滅は免れるようにしたいな」
そんな俺の言葉を聞いてミヤはポカンとしていた。
いやだって俺も半魔法体に近くなったし、これからも強化されていくので、この星と同じくらいの寿命になるだろう。メーヤも半龍で俺と同じ、ミヤはエルフだから、千年くらいは生きるんじゃなかったかな?
「あは、あはは、あはははは……」
「うぉ! なんだよ、突然笑い出して」
そういうと笑うのをやめた。
「いえ、お姉様がお兄様は凄く崇高で、神にも等しいお方だと仰っていたのです」
あいつは何を言っているんだか……
「そのようなお考えでしたらこんな私でもお兄様についていけそうです。本当にお姉様の言う通りのお方でしたら恐れ多くて近づけないです」
「そうか、まあメーヤの言う俺関係の言葉はあまり信じなくていい」
そういうとまた笑い出した。
「でも私を助けてくださりました、です」
まあそれは本当。
「本当にありがとうございました、です!」
「あれはエルフたちが気に食わなかったからだ」
「お兄様はそう言って多くの人々を救う、そんなお方になると思います、です」
ミヤまで何を言っているのか。俺はラスボス、世界を滅ぼす方だ。
お前らはラスボスに何を期待しているんだか。
「お兄様、私も連れて行ってください、です」
もしかしてこれはミヤの選択を尊重しようとしていたのがバレてた?
「血の儀式もお姉様だけずるいです! 私にもお願いします、です」
いや、本当にできるかわからないんです。
そんなミヤの突然の攻勢にたじたじになりながら考える。
これでとりあえずの敵は倒した。
あとは主人公たちと龍たちの動き次第だ。
龍が人間を滅ぼそうとしなければ俺の出番もないんだろうが……それは無理、なんだろうな。




