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FD-煽りで始まる新世界  作者: Yuzi
一章
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17 言い出せない……

 心の傷、それはミヤだけでなく、メーヤにも存在した。

 二人とも症状もよく似ていた。

 まず闇を怖がる。

 暗くなると怖がり、離れたがらなくなる。

 そしてちょっとしたことに過剰に反応する。

 軽く手を動かす行動が、どうやら殴られると勘違いしビクッと身体を動かすなど、よくあった。

 一番酷いのはパニックを起こす。

 何が引き金になるかわからないが、突然過去のことを思い出し、暴れる。

 寝ている最中にも暴れることがあった。

 そのため、ミヤも俺たちと同じ大部屋で眠ることになった。俺、メーヤ、ミヤの順に川の字だ。

 これらはメーヤも時間と共に落ち着いてきたので、ミヤにもそうなってほしいと思う。


 そんな状態ではあるし、ミヤは筋力もかなり低下していた。リハビリも兼ねて時間を取ることにした。

 メーヤが一生懸命に世話をしていた。

 その甲斐もあってか、かなりメーヤに懐いている。

 それにしてもおかしい。

 メーヤがミヤの教育もやると言うので任せているのだが、日に日にミヤの俺を見る目が変化していっているのだ。

 なんというか、どんどんと尊敬されているというか、キラキラとした目で見られているのだ。

 メーヤ、お前、俺についてどんな説明をしたんだ?


 しばらく経ち、リハビリが終わった頃、ミヤに護身術としてある程度戦闘経験を積ませようと思う。

「ミヤ、スキルと呼ばれるものを知ってる?」

「はいです、お兄様。お姉様にお聞きしました、です」

 口調は少しずつだが改善されてきている。

「そうか。そのスキルなんだが、ミヤも一つは持っているはずなんだ。自分でわかる?」

 そういうと途端に不安そうな顔になった。

「私なんかが、そのようなものを持っていると思えないのです……」

 ミヤがそういうとメーヤは怒った。

「私なんか、なんて言わないの! あたし達の妹なんだから持ってたっておかしくないし、お兄ちゃんが持ってるって言ったら持ってるんだよ!」

 うーん、その理屈はおかしい気がするが、持ってるのは間違いない。

「ごめんなさいです! お姉様! お兄様! お兄様を疑うなんて間違ってました、です」

 いや、本当にどんな教育を……


 そうしてミヤは目を閉じ、しばらく経った。

 ━━グワッ。

 ミヤは、そんな音が聞こえてきそうなほど目を見開いた。

「ありました、です。スキルは毒薬再現? です」

 詳しく聞いてみるとなんでも体内に侵入したことのある毒薬を指などから出すことができるスキルのようだ。

 ……これは、エルフの能力なんだろうか……

 でも戦闘用のスキルがあってよかった。

「もう一つ、スキルがあるはず、ミヤが今まで住んでいた場所がどっちにあるかわかる?」

 そういうと、ミヤは目を閉じ、火山大陸の方を指差した。

「こっちにあると感じます、です」

 ミヤの頭を撫でながら褒める。

「そう、それはエルフのスキル、帰巣本能。よくやった!」

「あうう……」

 照れるミヤを微笑ましく見ながら考える。

 指から毒薬を出せるなら短剣、もしくは暗器みたいなものが良いのか? 暗器といえば……

「……お兄ちゃん、あたしも」

 そう言ってくるメーヤの頭も撫でてリリース。


 まだ俺のことはミヤに告ていないので隠れながら武器を取り出した。

 その武器は鉄扇、その名は双葬扇(そうそうせん)、一組の対をなす鉄扇で刃もつけられているし、手元から毒液を流しこめるようになっている。

 攻撃力は低いものの、状態異常を引き起こす確率を上げる効果もあり、さらに二刀流によって攻撃回数も増えている。これによりさらなる状態異常確率を上げ、その名の通り、相手を葬る双扇なのだ。

 鉄扇は扱いが難しく、ゲームでも買うことはなかったのだが、ランダム屋で出てしまったのだ。

 武器系は出現率がかなり低く、かなり尖った性能をしている。

 しかも鉄扇、懐にしまっておくにもちょうど良い品ということで、買ったのだ。

 もちろん試してみたが、漫画やゲームの主人公のように扱いきれる訳もなく、アイテムボックスに眠っていたのだ。

「ミヤ、これからお前を鍛えようと思う。力があれば、理不尽に抗えることもあると思うから。とりあえず、これを使ってみてくれ、相性は良いはずだから」

 エルフは基本的に木のあるところで狩りをする。そのため、俊敏値や器用さに恵まれている。

 さらにスキルの効果から双葬扇はかなり相性が良いと思われる。

「お兄様から武器を……ありがとうございます、です! 使いこなせるように一生懸命頑張ります、です!」

 え、あの、別にダメだったら他のを試してくれて良いんだけど……

 持っていた武器だから物は試しで渡してみただけなんだけど、でもなんというか言い出せない雰囲気……

「ミヤ、頑張ろうね!」

「はいです、お姉様! こんなに良い武器を私なんかに託してくださったんです、お兄様の期待に応えなくてはです!」

「そうだね、でも私なんかって言うのはやめようね」

 言い出せない……

 双葬扇を押し頂き、大切に抱えているのも微笑ましいし。

 そうしてミヤは鉄扇の使い方を覚えていくことになった。


 それにしても予定からは大幅な遅れだ。

 鉄鎧龍を倒せたら、チャイルドイーターやらマーダーマザーやら呼ばれていたあの胸糞悪い地龍を倒しておこうと思ったのだが。

 とりあえず、今手を出せて、倒しておきたい敵の残りはこいつだけだ。

 ミヤが自分の身を守れる程度に強くなったらそいつを倒しに行く。

 そうと決まればまた初級迷宮でレベル上げかな。

 そしてそいつを倒し終わったら、本格的な修行に入ることにしよう。

 龍との命懸けの戦いを経験したミヤが、どんな選択をするのかは、わからない。

 俺たちと一緒に戦っていく決意をしてパーティーメンバー入りを決めるのか、戦うことを諦めるのか。

 どちらを選んだとしてもその決定を肯定しようと思う。

 たとえその結果、別れることになっても。

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