15 滅ぼしても……いいんだよな
移動大陸、それは星に、ある役割を与えられて世界中の海を移動している。
その地はたくさんの木々に覆われ、樹海を形成し、多くの動植物を有している。
そしてここには自分たちを人類の上位種と自称する、人類最初の裏切り者たちの子孫がいる。
移動大陸を見て俺は決意を固めた。
「メーヤ、もしかしたらパーティーメンバーが増えるかもしれない」
その俺の言葉にメーヤは驚いていたが、俺が硬い表情で告げたことに何かを悟ったのか、文句を言うことはなかった。
そして俺たちは移動大陸に飛んだ。
「ここからはかなり危険だ。特に下からの攻撃に注意してくれ」
そういって樹海上空から目的地への目印となる巨木を探す。
正直なところ、ここの敵は厄介なので本当は戦いたくない。
しかし、千載一遇のチャンスなのも間違いない。
いつ何処を移動するかわからない移動大陸、そのために諦めていた行動が実現可能なのだから。
俺にできる範囲で頑張ってみよう。
上空から探しているが、ここは木々が連なり、見えづらいので高度を上げ過ぎるわけにはいかない。
翼竜に見つかり、集られる可能性もあるがここでは飛ぶ。
そんな中、下の木々が動いた気がした!
「メーヤ! 上! 早く!」
メーヤを上に引っ張りながら促す。
━━ガチン!
「ふひぃ!」
さっきまで俺たちがいた場所を正確に噛み付いた木龍が落ちていくところだった。
「な、なななな!?」
危なかった! もう少しで食べられるところだった……
「い、今の何? 何?」
驚き、慌てているメーヤを落ち着かせるように語る。
「あれは木龍の一種。木龍はほとんどがあることに力を割いているから知能やらは退化しているが、機動力、擬態能力に長けた恐ろしい龍だよ。油断していると周りの木全てが実はこの龍で、囲まれていたりする」
「そんな龍が……」
木龍の奇襲が怖いので空を飛んで用心していた。翼竜なんかとは比べ物にならないくらい危険だからな。
それに木龍は主人公パーティーのあいつをも誤魔化せる程の擬態能力を持つ、用心に越したことはない。
ゲーム中でもいつの間にか囲まれていて、奇襲を受けてなぶり殺しにされる、なんてのはざらだった。
ここでは絶対にそんな目に遭いたくない……
空にいれば下からの攻撃だけに注意しておけばいい。
それでも十分に注意しなければメーヤと仲良く龍のお腹の中に収まってしまうだろう。
これでメーヤにも木龍の危険性を身を以って理解してもらえた。
俺も十分に気をつけるが、俺だけでは足りない。メーヤにもちゃんと警戒してもらおう。
そうして三度の奇襲を防ぎ、メーヤが帰ろうと泣き出した頃、目的の木を見つけた。
なんなら俺も泣きたいし、帰りたい……
下からの奇襲がこんなに恐ろしいなんて、それを警戒するのにこんなに気疲れするなんて。
でも誓ったばかりなんだよ……
目的の木に近づき、着陸時に気を抜いて奇襲を受けないように、特に気を張って静かに降り立った。
俺たちの姿を確認したのか、周囲がガサガサとしている。
「お兄ちゃん」
「わかってる、隠れてないで出てこい!」
少し待つと年老いて腰が曲がっているものの、若い頃はかなりの美男子だったであろうとわかる、長く尖った耳の人物が現れた。
「龍族の貴人とお見受けいたしまする。私は里長のネーメスと申します。このようなエルフの隠れ里に如何な御用でありましょう?」
都合良く龍と勘違いされたな。まあ背中から龍翼を生やした人間なんて普通いないからな、翼を広げて見せつけるようにした甲斐があった。
「え、メー……」
余計な事を言いそうだったメーヤの口を塞ぎ、表情に出さないように気をつけた。
「我ら幼龍ゆえ、移動大陸を見た事がなくてな。成龍に話だけ聞いて興味があった。それが、たまたま近くを通りかかったので見に来たのだ」
なるべく偉そうに、そして一方的に告げる。
「そうでありましたか。何もないところですが、どうぞ心ゆくまで滞在なさってください」
里長はさすがだが、他の奴らはまだまだだな。
こちらを忌々しそうに見ているよ、里長だって心の奥底では何を思っているのかわからないが、一切顔にも態度にも出していないというのに。
「ふむ、それでは案内してもらおう」
そうして里長の案内でエルフの隠れ里に入っていった。
エルフ、それは人類の裏切り者。
最初に人類を裏切り、龍に寝返った者たちの子孫。
高度な文明の力を捨て、自然と共に生活し、人類の悪行を伝えていく役割を与えられた者たち。伝える情報を劣化させないために長き寿命を有し、その代わり森で生き抜く知恵、能力、そして美貌を与えられた。
ドワーフとは特に仲が悪い。
人類の上位種と自称し、人間を蔑み、嫌い、差別している。
男女共に若い姿を長く保ち、線の細い美形になる傾向にある。
こいつらの見た目は美しい、が俺は知っている。その仮面の下に隠された自尊心の高さと罪悪感等、そしてそれに誘発された風習……
知性的な振る舞いなどその醜悪さを隠すための演技でしかないと。
そんな感情を表に出さないように気をつけて里の説明を聞いていく。
やはり里にいるのはエルフだけで皆、見目麗しい。
里は木への配慮が伺える素晴らしいものだった。
建物と言うべきものはなく、それらは木で代用されていた。
家と木が一体化したようなものが多く、その木も生命力に溢れているのを感じる。多分悪くなった部分を切り抜いたりしたか、そういう成長のさせ方をして、長い年月をかけて作り上げていったのだろう。
それだけに悲しい。
木には此処まで配慮できるのに……
一通り案内され終えた俺は、あえてエルフ達が案内しなかった場所に向かった。
「お、お待ちください! そちらには何も御座いませんよ!」
その動揺した挙動で何かあることを教えていた。
巨木を中心に北東の方角へ行こうとするのをこいつらはさりげなく邪魔しなかったが、南西に行こうとした時は邪魔した。
それだけでわかることがある、たぶん……間に合わなかった。
なんとか俺たちを止めようとするエルフ達を無理矢理退かし、そこにたどり着いた。
すでに糞尿の臭いがしている。
そこにはエルフの里にふさわしくない木でできたボロボロの犬小屋のように小さな建物があった。
もう既に頭が沸騰しそうなくらいの怒りを感じている。
「ヒィ!?」
俺を止めようとしていた周囲のエルフが突然怯え出した。
「お兄ちゃん、目が……」
め? 目か? それがどうした?
「あのときと同じ……」
なんのことかわからないが、邪魔もいなくなったことだ、早く助けよう。
扉を開くと先程までの臭いがもっときつくなった。
中には8歳ぐらいの女の子がボロボロの姿で首輪を嵌められ鎖で繋がれていた。眠っているのか、気絶しているのか、起き上がる様子はない。
「ひ、酷い……」
メーヤが呟くと同時に震えだした。
自分が虐待されていた時のことを思い出してしまったのかもしれない。
エスペランサで女の子を傷付けないように気をつけつつ鎖を断ち切った。
最初に切ったものがこの鎖とは、な。
希望の名にふさわしいのか、ふさわしくないのか……
「メーヤ! メーヤ! お前に頼みがある」
身体を揺すりつつ名前を呼ぶと俺の顔をじっと見て戻ってきた。
「お、お兄ちゃん、な、何?」
「この子を頼む」
周りを無視して里長の元に
「さすがだ、里の者たちに生じる不満を忌み児にぶつけさせる。自分たちより下がいるということを知ると多くの者の精神は安定するからな」
俺がそういうといやらしい笑顔を浮かべた。
「ええ、そうでありましょう。劣等の血を薄めつつ、不満も解消できる。劣等共も里の役に立てて本望でありましょう」
「その小賢しさ、人間と何も変わりない」
そう告げると里長の顔がわかりやすく歪んだ。それはそうだろう、自分たちが蔑み、嫌う人間と同格にされたのだから、だが次の俺の言葉に顔を青ざめさせる。
「人間と同じなら滅ぼしても……いいんだよな?」
「何卒! 何卒! お許しを!」
ガタガタ震えながら土下座をし、許しを請う。
「哀れなお前らに告げておく、次はないぞ! もしまた同じことを見つけたときがお前らの滅亡のときと知れ!」
「は、はい、わかりました!」
「あの子は俺が連れて行く。まさか文句などはあるまい?」
「はい」
「……忌々しいがひとつ言葉を残そう。今から約十年後にお前達に危機が訪れるだろう。それに用心して船を作っておくといい」
「船、それは、なぜ?」
「さあな、それとこれは人間達にも伝えておけ、ではな」
そういってメーヤの元に。
メーヤは女の子に治癒魔法をかけており、傷は治ったようだ。
「この子、怪我は治ったけどまだ意識が戻らない……。それにご飯も与えられていなかったみたい」
このままここにいたら全てを燃やし尽くしてしまいそうなのでとっととここを出ることにした。
いざというときの為に、女の子はメーヤに抱えてもらい、地龍一番地へと飛んだ。




