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FD-煽りで始まる新世界  作者: Yuzi
一章
17/34

14 触れれば火傷するぜ

 無事、街に帰還し、ダークにお礼を言いつつ借りていた大剣を返した。

 あまりに傷が付いていない大剣に驚いたような表情をしていた。

 とりあえずドロップ品を全部渡して大剣を打ってもらうことに。

「……こういう大剣で、このギミックを……」

「……ここが弱くなる……」

「それは……で鉄鎧石を精製した……」

「……できるな、まかせろ……」

 ということで俺の希望通りの大剣を打ってもらえることになった。

 どうやらギミック部分の作成に時間がかかるようなのでメーヤと観光することに。


「お嬢ちゃん可愛いね! 俺たちとあそ、ぶへぇ!」

「お嬢ちゃ、ぶへぇ!」

「お、ぶへぇ!」

 とナンパ野郎を退治し続けていた。

 まさかこんなにナンパ野郎に遭遇するとは思っていなかった。

 メーヤなんて怯えて俺の背中に抱きついている。

「役得ぅ……」

 なんて言葉が聞こえた気がするが気のせいだろう。

 全く、最初は丁寧に対応していたのだが、いつまで経っても諦めないウザ男たちに我慢の限界を迎えてしまった。

 だが周りが何も言ってこないので間違った対応ではないのだろう。


 ゲーム時代でも見られなかった失われた街パール。

 ナンパ野郎に邪魔されたものの、それを見られたことに少し気分が良くなった。

 店などを見ると、第三の大陸なので、第一の大陸にあるものより良い品が多くあるかと思われたが、そうでもなかった。

 やはり敵の強さが上がり、それを使った防具だからそれまでの物より良い品になるのだろう。

 不思議なのはその強くなった敵の素材をどうやって集めているのか、ということだ。

 不思議だが、知ると怖そうなので調べるのはやめた。


 ダークの元に話を聞きに行くと、どうやらある程度目処が立ち、三日くらい必要ということで三日間、街でぶらぶらしながら過ごした。

 特に元の世界のような娯楽があるわけでは無いので退屈かと思っていたが、結構楽しめた。

 その間にメーヤはナンパ野郎吸引機として名を馳せ、俺はナンパ野郎撃退キングとして名を馳せた。

 俺たちが行く場所がデートコースのような場所だったのも原因の一つかもしれないが、メーヤに寄ってくるナンパ野郎共を千切っては投げ、千切っては投げて変なオブジェを作りあげてしまった。

 何だろう、ヤンでる雰囲気が惹き付けるのか? 確かにネットでもコアなファンが多かったらしいが……

 こちらでも変なファンができている。

「メーヤちゃん今日も可愛いね!」

「クーヤ君、また塔を建てたら教えてね!」

「メーヤちゃんは大人になったら相当の美人になりそうだな」

「何言ってんだよ? 今が一番……」

「クーヤ君は怖かっこ良く成長しそうよね!」

「触れれば火傷するぜ、みたいな感じよね!」

 なんて話しかけられることも増えた。

 怖かっこ良くってなんだろう? とりあえず褒められたと思って喜んでおこう。

 こうしてゆったり(?)とした時間を過ごし、その日を迎えた。


「……これで完成だ……」

 そこには一振りの大剣が、色は黒、全長2m、俺の2倍近い大きさのそれは持ってみるとしっくりときた。

 俺の為に作られた俺の為の大剣。

 柄の一番下には鎖が付いている。

 柄と鎖の接続部分は鉄鎧石を精製し、出てきた魔法鉄、魔法銀、魔法金などを合成して作られた魔法金属ミスリルを使用して脆くなりやすい部分をカバー。

 鎖が壊れたときに取り外し可能となるギミックも作成。ここは特に強度が必要なので本当に少量しか作れなかったアダマンチウムを使用。

 遠くから見ると剣のキーホルダーのようだ。


「……名前は?」

「……お前さんが決めな……」

 そうか、ならば

「エスペランサ、こいつの名前はエスペランサだ」

「エスペ、ランサ?」

「希望という意味の言葉だ。俺の希望を叶える為の剣、こいつ有る限り希望を持ち続けられる剣、そういう願いを込めた」

「……これも持ってけ……」

 換えの鎖をもらった。

 そうして目的を果たしたので帰ることにした。

 ここに残っても良いのだが、やはり敵が強くなり、経験値が増えた後に訪れたいと思った。

「メーヤちゃん! また来てね!」

「クーヤ君! またね!」

「お嬢さん、わた、ぶへぇ!」

「そう、そのパンチだ! 世界を狙えるぞ!」

 そんな感じで見送りを受け、後半は関係ない人たちだったかもだが、街を後にした。


 数日歩き、パールの街から大分離れた頃、突然地震に襲われた。

 それもかなり激しく揺れている!

「おぉにぃちゃ〜ん!」

 抱きついてきたメーヤと共に素早く飛んだ。

 そうして見えたのは、パールの街近くの火山が噴火して溶岩に街が飲み込まれる光景だった。

「……街が……」

 たぶん鉄鎧龍の大爆発が火山に影響し、噴火させてしまったのだろう。

 救おうとして、結果的に街が埋まるのを早めてしまったようだ……

 今から飛んで助けに行っても間に合わない。

 ゲームの知識を知っているからといって何もかもが上手くいくわけではない。

 そんなことも考えつかなかった。

 なんと哀れな頭なのだろう。

 少ない日数だったが街で出会った人々の顔が思い出される、ナンパ野郎がほとんどだが……

 その人達に黙祷を捧げた。

 不意にメーヤに強く抱きしめられた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんは頑張ったよ。今回は救えなかったけどお兄ちゃんはちゃんとメーヤを救ってくれたもん!」

 そういって少し成長した姿になり、俺の方が抱き抱えられてしまった。

 だが、そうだな。最初から救えないなんて思う必要もないけど、ダメなときはダメなのだ。

 諦めも肝心だ、あまり気負いすぎると俺が潰れてしまう。

「メーヤありがとう。もう大丈夫、ショックは受けたけど、俺は俺にできることしかできないんだから……」

 何と言っても俺はラスボス、主人公ではないのだ。

 そんな俺に何もかもができるわけがないのだ、世界を滅亡に追い込まないだけでも俺は頑張っているとも言える。

 まあこれはちょっと己を擁護し過ぎな気がするが、本当のことだしな。

「お兄ちゃんは一人じゃないんだよ、メーヤがいるから。だから、あたしにも頼ってね」

 そういって一層強く抱きしめられるが、そろそろ厳しいです。

「メーヤ、そろそろ苦しい! 離して!」

 メーヤが赤い顔をしながらも離してくれた。

 柔らかくて温かくいつまでも包まれていたい感覚もあったが、力も強いしさすがに限界だった。


 とりあえず今はこの光景を目に焼き付けた。皮肉なことに、溶岩に埋まる街の光景は美しかった。

 酷く悍ましい光景であるはずなのに……

 そんな光景をただただ眺めた。

 メーヤを助けられて調子に乗っていた、自分が主人公になったつもりでいた。

 ラスボスのくせに。

 そんな傲慢が一気に洗い流される光景だった。


 そんなこんながあった俺たちだが、火山大陸を出ようとしたところで、気がついてしまった。

 どうやらこの世界は、さらなる精神的ダメージを俺に畳み掛けたいらしい。

「お兄ちゃん、あれ!」

 メーヤの指差す先、そこには━━第四の大陸、移動大陸が流れ着いていた。

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