12 ロリコンじゃありません
ドワーフ、それは人類の裏切り者。
2番目に人類を裏切り、龍に寝返った者たちの子孫。
高度な文明の力を捨て、過去の技術を継承していくことを条件に手先の器用さと少し長い寿命を与えられた。
一番最初に裏切った者たちと仲が悪い。
人類の上位種と語ることはなく、人間とも普通に接する。
男は髭が濃く、背は低いが筋肉質になる傾向にある。
女は髪が多く、幼い容姿を長く保つ傾向にある。
龍もそうだが、現実にはいなかった存在に会えるのだ、少しワクワクしている。
「なんだか楽しそうだね」
メーヤにもそう言われてしまった。傍目からわかるほどウキウキしていたらしい。
「ドワーフを初めて見られるからね」
そう言ってドワーフの説明をした。
「……お兄ちゃん、やっぱりロリコ……」
「ロリコンじゃありません!」
そんな会話をしつつ歩いて移動していく。
昔の旅人は1日30kmは歩いたそうだけどすごいことだよな。
2年くらい前に2日で100kmを歩く、柔道系か空手系の企画に友達に無理矢理参加させられたことがあったが、その時に思い知らされた。
他にも意外と路上でも眠れること、寝ると筋肉が固まり、歩けなくなること、歩けなくなったら走るか後ろ歩きするとまだ進めることなどを知った。
次の日はもちろん筋肉痛で泣きそうになりながら学校へ行った。
だが、今の俺たちは警戒しながらもそれ以上の速さで、疲れもあまりなく、筋肉痛も少しで歩けている。
戦いとかではなく、こういうところで人間ではなくなったんだなぁと感じることがある。
「こんにちは、パールの街にようこそ!」
街に入ると幼女が挨拶をしてくれた。
こ、これがドワーフか!? と思ったら本当の幼女だったらしい。
ッチ、紛らわしい奴め! お仕事ご苦労様です!
街の入り口で来訪者に挨拶をするという過酷な仕事に就いている幼女を労った。
街を歩いてみると確かにドワーフだと思われる人々がいた。
ドワーフのおばあちゃんなども見かけた。
幼女かおばあちゃんしか女のドワーフはいないとか、本当に不思議だ。
そしてなんだがメーヤが凄く警戒している気がする、俺に近づく女の人、特に女のドワーフを、本当に不思議だ。
それにしても街の名前がパールか。
忘れていたが、思い出してしまった。
ゲーム内では、火山大陸の大きな街は5つあり、それぞれ誕生石の名前が付けられていた。
そしてここが6月の誕生石のパールから名付けられている。
この世界に暦の月は5つしかない。
土の月、水の月、火の月、木の月、風の月の5つだ。
つまり六つ目の月は存在しない。
存在しない月の誕生石から名付けられた失われた街、なかなかに皮肉が効いていると思った。
そんなことよりここに来た目的を果たすとしよう。
ここには幼女に発情する人間がたくさんいるはずなのでメーヤの手を握り、離さないようにした。
その状態で街の人に話を聞いて目的の店にたどり着いた。
鍛冶屋ダーク、火山大陸で一の名匠と呼ばれることになるタークスの師匠であるダークの店、この時点ではダークの方が鍛冶の腕は上だ。
ゲーム内でタークスがそう言っていたからそうなんだろう。
店に入ると筋肉がムッキムキで浅黒く、髭もじゃのドワーフがいた。
「ひぅ〜!?」
メーヤが驚いている。
確かに鋭過ぎる眼光で怖い。
「……らっしゃい……」
ぶっきらぼうだが、ドワーフの職人には多いらしい。
「大剣を打って欲しい」
「……無理だ……」
「金ならちゃんとあるぞ」
「……そうじゃない……」
? 口数が少ないので時間がかかったがなんとか聞き出せた。
最近、鍛冶に必要な、火石、炎石、溶岩石といったアイテムが採れないのだそうだ。
原因は鉄鎧龍がそういった石を独占しているからなのだと。
この龍は鉱物系を食べる龍だ。また食べた物を纏い、その量によっては空を飛ぶことができなくなる。
今回俺が倒そうと思っていた龍だ。
この龍が倒せるか倒せないかが重要な試金石となるだろう。
鉄鎧龍を倒すことを条件に大剣を打ってくれることに。
最初から倒すつもりだったので快諾、坑道に向かうことにした。
「……これ持ってけ……」
大剣を軽々と投げられ、慌てて掴んだ。
「あぶな! これは?」
「……代用品……」
代用品と言われたが結構良い品、少なくとも今使っている品より良い。
「ありがとうおっちゃん!」
「……気ぃつけてな……」
「怖かったけど良い人だったね〜」
「そうだな、口数は少ないが良い人だな」
そんな話をしながら火山近くの坑道へ向かった。
リザード(火)のような色違いのグラフィック節約敵キャラとの戦闘もあったが、俺は物理攻撃主体だし、メーヤは補助魔法主体なので、敵の弱点属性や攻撃属性が変わっても特に関係ないのでズバズバと倒していった。
これ、ゲームだと弱点属性攻めや耐性装備でガチガチに防御を固めないと大変なのに……
迷宮でのレベリングがうまく進んだということなんだろうけど、ゲーム時代のあれこれを考えるとなんか納得いかない……
そんな不満を抱えつつ、進んでいくと明らかに今までの道と大きさが変わった。
どうやら坑道を掘っていたら鉄鎧龍の掘った穴と合流してしまったようだ。
どちらが悪いとかは言えない気がするが、鉄鎧龍はこの後火山で暴れて噴火させ、街を埋めてしまう。
まあ火山の噴火で人間を苦しめようとしていたが、最初の犠牲は自分というなんとも自業自得な結果を生んだ。
そんな哀れな龍なので討伐しても構わないだろう。
じわっと暑くなってきた頃、その巨体が目に入った。
身体中に鉄を纏わせ、所々赤くなっているのは火石系の鉱石か。
鉄鎧龍ってのは4mクラスだと聞いていたが明らかに5mを超えている、どれだけの鉱石を食べたのやら。
面倒な戦いになりそうだ。
メーヤの目を見る。
怯えも感じられるが、俺と一緒に戦うという強い意志が感じられた。
さあ俺たち最初の激戦が今、始まる。




