11 やはり攻撃は上から
今は一番地を目指して空を飛んでいる。
メーヤもここ数年で魔力操作を覚え、まだ龍化はできないものの翼を生やして空を飛べるようになった。飛べない地龍が父親なのに……
これには俺もメーヤも驚いた。
それでも自分で飛ぼうとしない為にここまでは右腕に抱いてきたが、一番地の端からは自力で飛んでもらわなければならない。
そう、そこから先は海を渡るのだ。
本来、大陸間の移動は転移門を通じて行われる。
地龍二番地にある王宮の地下、そこに封印された施設である転移門が存在する。転移門は五大龍を倒すごとに封印が解除され、他大陸に転移できるようになる。
この施設がなぜ存在するのか、これについてはあまり語られていない。
ゲームシステム的に大陸を移動する必要があったからなのか、人間を挑発する為だったのか、それとも……
まあどちらにしろ、転移門のおかげで大陸を渡ることができるのだが、空を飛べると第三の大陸、火山大陸に行くことができるのだ。
地図で見ると大地龍の治める大陸の一番地端と火山大陸はかなり近い。
目視できない距離ではあるが、マップをおぼろげながら覚えているし、継承龍の知識でもそうなっていた。継承龍は大陸に縛られない龍なので、世界中を旅している。
その分地理的な知識も豊富だ。
第三の大陸は本来ならもっと後半に訪れる地であり、そんな地をレベル30代で訪れて大丈夫なのかというと、特に問題はなかったりする。
今ならば他大陸の敵の強さはここと変わらないだろう。
だが、ゲームではもちろん他大陸へ渡ると敵の強さは段違いだ。
それにはちゃんとした理由がある。
他大陸に渡れるということは、五大龍を倒し、転移門の封印を解除したということだ。
五大龍が倒されるとその力は継承龍に受け継がれる。
本来は継承龍に全ての力が受け継がれるのだが、ドラゴンイーターの能力によって食われ、その継承能力が劣化してしまった為に、他の五大龍にもかなりの力がとられてしまう。
五大龍の力は起源が同じなのでその力は引かれ合う。結果として残りの五大龍と継承龍との力の取り合いになり、それぞれに配分され、その力を取り込む。
取り込んだ力は、配下の龍、眷属にも流れ込む。
この為、次の大陸に行くと敵が強くなっている。
この流れがゲームが進行すればするほど敵が強くなっていく理由である。
なのでまだ五大龍が誰も倒されていない今ならば特に問題なく動けるのだ。
ちなみに他大陸の龍が強くなって現地の人々がさらに苦しめられないかというと、こちらも特に問題はない。
最初から圧倒的に龍が強いのだ、鼠にとって猫に襲われるのもライオンに襲われるのもどちらも覆せない戦力差で、命の危機には違いない。それと同じで龍の力が増しても人間との関係は特に変わらない。
そう、変わるのは龍と同じくらいの力の持ち主くらいで、そんな人物は基本的に主人公たちくらいしかいない。
まあそんな訳で敵の強さが問題にならないので移動することにしたのだ。
一番地の端に着いたのでメーヤを下ろすと手を繋いで飛んだ。
「ふへへぇ〜〜」
「なんだかご機嫌だな」
「うん、お兄ちゃんと空を飛ぶの好きだから!」
メーヤの兄離れはまだまだ先のようだ。
まあそうなったらなったで泣くがな、俺が。
先ほどは強さが問題にならないと言ったが、他の問題がある。
「お兄ちゃん、何か飛んでるよ」
それは戦闘位置、問題の敵が見えてきたようだ。
「翼竜だ、気をつけろ! 奴らを上に行かせるな!」
どんな戦闘もやはり上をとった方が有利だ。
地龍とその眷族は飛ぶことができないので、俺たちが飛べば戦闘を有利に、自分のペースで進めることができた。
だが、ここから先は違う。
龍もその眷族も飛行能力を備えたものが多くなる。
その代表例がこの翼竜。
約3メートル近い大きさでプテラノドンのような姿をしている。
それが空を自在に飛んでいるのだ。
握っていたメーヤの手を離し右手で剣を構えた。
「お兄ちゃんに力を! メーヤたちに守りと速さを! 強化!」
メーヤが補助魔法を唱え、強化してくれる。
ゲーム内では呪文などはなかったが、対象と強化の内容を唱えると楽らしい。
もちろん上達してくると無詠唱での発動が可能となる。
呪文とは自転車の補助輪のようなもので初心者御用達のものらしい。
翼竜が俺たちの上に行かないようにブレスで牽制しつつ、上空から落下するように翼竜の身体に剣を突き立てる。
「グギャー!」
そんな痛そうに叫んでいるが、鱗に阻まれて突き刺さらなかった。
まあ十分に体重の乗った突きを食らったようなものだから痛いのは痛いだろう。
この攻撃の欠点は高度を下げないといけないことだろうか……
翼竜に囲まれました。
「お兄ちゃん!」
俺も考えなしだが、メーヤもか! 付いて来ちまって!
とりあえず俺を振り払おうと頑張っている下の翼竜にはゼロ距離でブレスを放ち、落ちてもらった。
「こっちに来い!」
「はーい!」
翼竜に囲まれてるのにうれしそうですね!
こちらを啄もうとしてくる翼竜の目にメーヤがホーリーショットを撃ち込んでいく。
威力がない分それを精度で補おうと練習した成果が出ていた。
その攻撃に驚いた翼竜の翼を切り裂いていく。
全ての翼竜の翼を切り裂き、飛行能力が落ちたのを見計らって逃げた。
「倒さなくてよかったの?」
「あの群れを倒すのは大変そうだしな、帰りにリベンジかな」
「わかった! お兄ちゃんを傷付けようとしたあいつらに復讐するのは帰りね!」
うーん、そこはかとなく香るヤンデレ臭。
果たしてパーティーメンバーの追加はできるのだろうか?
さらに翼竜の群れを二つほどやり過ごし、日が暮れる前には火山大陸に到着することができた。
目的地にはまだ距離があるし、もうすぐ夜になるのでここで泊まることにする。
魔法の家を設置するだけなので簡単だ。
夕食はメーヤが作ってくれている。
最初のうちは二人で四苦八苦しながら作っていたのだが、最近ではメーヤが一人で作ってくれている。というか追い出された。
それにだんだんと料理の味が俺好みに近づいてきている。
なぜか外堀が埋められていくという言葉が思い浮かんだ。
俺の風呂タイムは毎回メーヤの襲撃を受け続けている。風呂好きの俺としてはゆっくりとさせて欲しいのだが……
まあこれはもう諦めの境地に達した。
「お兄ちゃん起きて! ご飯だよ!」
「……おぅ……」
いつものようにメーヤに起こされた。いつも同じ時間に寝ているはずなのだがこの違いは……
生命の神秘に想いを馳せつつ、移動の準備を進める。
ここからは飛べば、翼竜に見つかり→集られ→火龍合流→全滅のコンボが成立してしまうので歩いての移動だ。
たしか、火山で埋もれた街はドワーフが住んでいたはず。
ドワーフ、会うのが楽しみだ。




