96.家庭教師
「弦司、家庭教師とうまくやっているか?」
「あー結構いいね」
日差しが熱を帯び始めた季節の帰り道。
最近は受験について情報交換するのがスタンダードな会話だ。
あまり色気は無い。
「受験に間に合いそうなのか?」
「そりゃープロに戦略立てて貰っているからな、間に合うさ。
……頑張れば」
そう頑張れは間に合うのである。
「今年は遊べねーな、あたしは部活選抜の結果次第だけど」
「ふーん、それって何月?」
「11月それから面接やらなにやらあって12月には分かるんじゃないかな」
「まじかー、結構近いじゃん」
「まーね」
「何か真清との人生にズレを感じるな。たった数ヶ月だけど」
「17年も一緒に居て初めての別離の危機かな」
真清は何故か嬉しそうに笑っている。
「なんで笑ってるん?」
真清は笑っている自分に気が付かなかったのか考え込んでいる。
「……あたし笑ってたか?」
「うん」
「……人生の初の別行動かも知れないな。
なんで笑っていたんだろ? よく分かんねーわ」
まあ俺にはよく分かる。一年の時のバイトもそうだった。
真清は痛みが伴う行動が好きなのだ。
安易な達成を良しとしない、痛みと感情が伴った過程が好きなのだ。
そしてそれを俺に求めている。
ドラマや映画の様な刺激を求めているのかも知れない。
ちょっとこえーな。
失敗した時の事を考えているのだろうか?
真清の『世界はあたしの為にある!!』
と言わんばかりの説得力のある筋肉質な背中。
この背中なら、失敗するビジョンなど思い浮かばないのかも知れない。
「弦司、なんでニヤニヤしてるんだ?」
「俺笑ってたか?」
「どうせエロい事でも考えてたんだろ」
男らしい背中を見てただけが、エロ……エロなのか?
「エロかどうかよく分かんねーわ」
そう言うと、真清は呆れた顔をして軽くため息をついた。




