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88.第二部完結編:雨

 急いで靴を履き玄関を開けると、玄関の風除室(ふうじょしつ)真風(まかぜ)くんが立っていた。


 外は土砂降りの雨が降り、時折雷が鳴っていた。

 うつむいていた真風くんはゆっくりとこちらを見て、重い口を開いた。


「……雨が……髪が痛みますし……。

 体を冷やすと……活動に支障が……」


「ああ、分かっているよ、真風は髪の毛一本にわたるまでアイドルなんだろ?」


 理性を捨てきれない真風くんを見て俺は少し悲しくなった。

 真風くんは、両手で顔を(こす)り始め、やがて大声で泣き出した。

 俺は風除室に移動して玄関を閉めた。


「う、うわぁああああああああ!!?」


 俺は大声で泣き喚く真風くんをそっと抱きしめた。


「や、優しくしないください!!?」


 そう言って俺を突き放そうとする腕には、俺を突き放すだけの力は(こも)ってなかった。


 真風くんは泣いた、たっぷりと泣き喚いた。

 やがて泣き疲れたのか、泣き止み俺の身体に身を預けて来た。


 真風くんは涙でぐしゃぐしゃになった顔を俺の服で拭き、鼻をかんだ。

 その後真っ赤な目と涙でぐしゃぐしゃになった顔を真っ直ぐに俺に向けた。


 可愛さと、強さと、気高さが混在したそんな顔。

 しゃくりあげる真風がゆっくりと落ち着きを取り戻す。


 真風くんがガラガラになった声の調子を『あ゛ーあ゛ー』と言って整えた。


弦司(おし)……」

「なんだ真風?」 


「弦司は、僕が女の子だったら抱いてくれましたか……?」


 恐怖など微塵も感じさせない真っ直ぐな真風くんの眼差し。

 気高く荘厳な美しさがあった。


「――俺は童貞だから……どうだろう?」


 真風くんはきょとんとした顔をしたあと、飽きれたような顔をし、その後静かに笑い始めた。


「あは、あはは……弦司には今度、女の子を教えて上げますね」


 ――俺はまだ子供だし、真風くんだって子供だ。

 童貞だから女の子の扱い何て分からないし、何度も間違うだろう。

 

 でもそれでいいだろ? 駄目か?



 玄関を開けると真風くんがポツリと呟いた。


「――僕ちゃんと弦司の中身も好きですよ? 弦司を好きで良かった……」


「お姫様に愛されて光栄です」


 真風くんはうつむいてちょっと困ったような、悲しむような、そんな顔をした。


「アイドルと幼馴染を敵に回して、童貞を守れるなんて弦司だけでしょうから」



 そう言うと真風くんは『にひひ』と少年の様な顔をして笑った。

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