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76.みつどもえ⑧

 ……これどこまで洗っていいんだろう?

 背中と二の腕は後ろから洗えるよな、お尻と体の前面はアウトゾーンだろ?

 首とか耳とかはグレーゾーンだろうか?


 そんな事を考えながらボディソープを泡立てネットを使い泡立てていた。

 真清(まきよ)の背中に触れる擦らない様に泡を滑らす。


 真清が驚きの声を上げた。


「ひゃうう!? 弦司(おし)素手で洗ってる? タオル使わないの?」

真風(まかぜ)がナイロンタオルを使うとシミになるから、素手で洗った方が良いって。

 調べたら病名も付いてるみたいだぞ」


「えー……マジかよ……普通にナイロンタオルで洗っていたわ……」

「まあ若いから取り返しがきくだろ」


「いい事聞いたわ、家族と風呂に入るのもたまにはいいな弦司」

「――うーん、そうだねぇ?」


 前に真風くんと風呂に入った時の事を思い出していた。

 なんかぬるぬるしてたような記憶が……

 封印された記憶がよみがえりそうだ。これは思い出さない方が良さそうだ。


 真清の耳の裏を洗って、二の腕に取り掛かった所でお隣さんが大声で騒ぎ始めた。


「止めてください!! ナイロンタオルは使わないで!!」

「暴れんな、洗いづらいだろ!!」


 真風くんと真雪(まゆき)さんが大声を上げて格闘していた。


「もー嫌です!! ママは触らないくださいッ!!」

「親子のスキンシップだろ! 洗わせろ!!」


 真風くん表情がみるみると変わり始める。

 緊張した空気がこちらまで伝わる。

 真風くんの髪の毛が逆立ち物凄い形相に変化する。


 凄い眼力……

 あの目は本気モード真風くんだ……


 天才の怒りは複雑かつ何処までも深い。

 様々な感情を飲み込んで発露(はつろ)されるその怒りは、

 歴戦のレディースである真雪さんをたじろがせる迫力と狂気を(はら)んでいた。


「ジャーマネ……」

「うっ、な、なんだよ(ふう)くん?」


「僕の身体は髪の毛一本、爪先一つに至るまで全身アイドルです……」

「う、うん」


 真風くんの、この世の物とは思えない程大きく、深い()()()を内包した瞳

 人外の美しさと凡人には理解できない狂気を(まと)っている。


「――僕の身体は皆のモノで、アイドルと言う商品です。

 その僕を傷付ける人は誰だろうと絶対に許しはしません……

 僕を怒らせないでください」


 静かだが強い怒気(どき)を孕んだ言葉。


「ご、ゴメン、あたしが悪かった!

 マネージャーとしてプロ意識が足りなかった!!」


 真雪さんが超ド級の危険を察知したのか両手を合わせて、真風くんに必死に謝っている。


 真風くんが急に立ち上がりポーズを付け俺を指差し、叫んだ。


「僕を傷付けていいのは弦司ただ一人です!!」


「――え? なんで?」


 真風くんはちょっと沈黙した後でこう答えた。


「……プレイとかで!!」


 いやそっちの理由じゃなくて……


 話の矛先をこっちに持ってこないで?

 真雪さんへの説教を続けて?

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